転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
中東の焼けつくような陽光が、前線基地のコンクリートを容赦なく照りつけていた。
乾いた風が吹きすさび、まばらな砂埃がタープの布を揺らす。
だがその暑さも、今は誰の意識にも上らなかった。
前線基地に設置された無骨なスピーカーから、荘厳な声が流れ始めた瞬間、すべての喧騒が止まり、人々は耳を傾ける。
「我々は一人の英雄を失った。しかしこれは敗北を意味するのか?否!始まりなのだ!」
ギレン・ザビ――その冷徹さで知られる総帥の、鋼のような声がスピーカーを震わせる。
基地内の兵士たちは、その言葉を黙って聴いていた。
整備兵、警備兵、通信兵、皆が機械のように動きを止め、その場に立ち尽くす。そして、その中には、シーウルフ隊の面々もいた。
基地内の全兵士たちは、整然と並びながらも、どこか沈痛な面持ちを隠しきれずにいた。
特に古参の者たちは、ガルマ・ザビの死を受け止めきれずにいた。
彼らの一部は、黙って敬礼し、涙を隠すように帽子のつばを深くかぶった。
ギレンの声は続く。
「我らジオン国国民こそ選ばれた民であることを忘れないで欲しいのだ! 優良種たる我らこそ人類を救い得るのである! ジーク・ジオン!!」
最後の叫びは雷鳴のごとく響き渡り、あちこちで拳を上げる者たちの声が重なって、基地全体が震えるような錯覚を覚えた。
だが、シーウルフ隊の誰も拳を上げはしなかった。
ただ、静かに、その言葉の意味を反芻し、これからの戦いの厳しさを思い知らされたように、表情を引き締めていた。
ギレンの声がフェードアウトし、スピーカーが沈黙に戻ると、クラウスが静かに口を開く。
「よし、全員。一度集合だ」
号令の声に、シーウルフ隊の面々が動き出す。
しかし彼らが集まったのは、冷房の効いたブリーフィングルームではなかった。
砂に囲まれた基地の裏手。
以前、彼らが任務の合間に焚き火を囲んで、酒を酌み交わした思い出の場所だった。
タープの影がわずかな日陰をつくり、その下に、クラウスが待っていた。
「なんだ?どうしてここなんだよ……」
とグスタフ・ヴァール曹長が苦笑交じりに汗をぬぐう。
「ふ、たまには息抜きも兼ねて、外でブリーフィングをしようかと思ってな」
そう言って、クラウスはクーラーボックスから瓶のコーラを取り出し、一本ずつ隊員に手渡していった。
「まだ昼だからな、酒は無しだ」
笑みを浮かべながら、クラウスがそう言うと、隊員たちも肩をすくめながら笑った。
「なんだよ、酒が無いなら意味ねえじゃねぇか」
「ま、コーラもうまいけどよ」
と口々にぼやきながらも、誰も不満はなかった。
クラウスはコーラの瓶を開け、一口飲むと満足そうに口元を緩める。
「うめーな。やっぱりこんな暑い時は冷えたコーラだ」
一斉に、瓶が開く音が重なり、乾いた喉に冷たい炭酸が流れ込む。
弾ける泡とともに、隊員たちの顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「うめーな……」
「汗だくだけど、これで生き返った感じだ」
その笑顔を見て、クラウスは一瞬、穏やかな視線を投げる。
だが、次の瞬間には、隊長の顔へと戻っていた。
「お前ら……もうわかってると思うが、本国の連中が描いていた筋書きから、この戦争は大きく外れた。これからは、更なる地獄が待ってる。気合いを入れろ」
ざわめきが一瞬で止まり、全員の表情が戦士のものに変わっていく。
「おそらく、連邦は本格的に反撃に出るはずだ。シーウルフ隊は、苛烈な作戦に身を投じることになる。だが、俺についてこい。全部うまくいく」
その声に、隊員たちは一斉に声を上げた。
「了解!」
「ついていくぜ、隊長!!」
「次の作戦が出るまではここで待機だが、出番は近いぞ。それまではしっかり英気を養っておけ。以上」
クラウスの言葉に、全員が敬礼を返す。
その様はまさに、鋼鉄の結束を誇る戦士たちそのものであった。
少しして、イオリとシーマは並んで腰を下ろし、それぞれ瓶のコーラを手にしていた。
暑さに負けたように、シーマは額の汗をぬぐいながら不満げに呟く。
「クラウスの奴……何も、こんな暑いところでやらなくたっていいじゃないのさ…!」
その声にイオリは、ふと視線を横に流す。
汗で張りついたうなじの髪が、陽に透けてきらめいていた。
「そんな汗だくなシーマ中尉を見るのは、初めてですね」
からかうように笑うイオリに、シーマは「うるさいね」と笑い返す。
「女は好き好んで汗をかきたくないもんなんだよ」
互いの笑い声がかすかに重なる。
そのとき、鋭くも涼しげな声が彼らの背後から響いた。
「クローネ少尉ですか?」
イオリが振り返ると、そこに立っていたのは、一人の女性士官だった。
肩までの黒髪を後ろに流し、切れ長の目を持つその女性は、シーマにどこか似た雰囲気を持っていた。
シャツの前を少し開け、汗を光らせながらも、毅然とした立ち姿は美しかった。
「自分がイオリ・クローネ少尉ですが、貴官は?」
「私は、ザク小隊の小隊長を勤めているトップ少尉です。先日は、危ないところを助けていただいたので、その感謝を伝えに参りました」
「獅子奮迅の如き、活躍でした。気づいたら見惚れてました」
快活で真っ直ぐな声。
だが、その熱気の中にあっても、不思議と暑苦しさを感じさせなかった。
「い、いえ。こちらこそ、応援が間に合ってよかった。トップ少尉の情報がなければ、こちらも大損害でした」
少し頬を染めながら応じるイオリ。
「いえ、あのシーウルフ隊が遅れを取るなど、あるはずがありません」
冗談交じりに言いながら、トップ少尉は再び敬礼をする。
「もっと長く話したいのですが、我が隊はこれよりオデッサ基地へ移動します。また戦場でお会いしましょう」
「えぇ。お気をつけて」
一礼し、背を向けて歩き出す彼女。だが、ふと振り返り、笑顔で言い添える。
「ああ、言い忘れました。今度お会いしたら、二人で軽く飲みましょう。お礼も兼ねて」
それは確かな、女の表情だった。
イオリが呆けてその姿を見送っていると、いきなり耳を引っ張られる。
「イタタタ!! な、何するんです?! 中尉?!?」
「うるさいね! アンタみたいな浮気症の男にはこれくらいやらないと治らないだろ?!」
「俺は何も言ってないでしょう!?!」
「そんなことはどうだっていいんだよ!!」
乾いた空の下で、コーラ瓶の炭酸が弾ける音と共に、二人の声が、灼熱の風に溶けていった――。
ーーーーーー
冷たい石造りの壁と鋼鉄の梁がむき出しの天井。
その部屋は、戦争という現実をそのまま形にしたような無機質な空間だった。
鉄の匂い、油の匂い、そして、硝煙がわずかに混じる空気の中、男は無造作に椅子を後ろへ倒し、足を机に乗せていた。
ライリー・トレド中佐。
その姿は、軍服を纏ってはいても、規律などは微塵も感じさせない。
帽子を目深にかぶり、半ば眠るように体を預けているその男の目元には、戦いの疲労がにじんでいた。
だが、その脱力の中には、深い倦怠と同時に、猛獣のような底知れぬ気配が宿っている。
それは、数え切れないほどの修羅場を潜り抜けてきた者だけが放つ、鋭い匂いだった。
扉が音もなく開く。
「ライリー中佐、またこんなところで寝てるんですか? ほら、起きてください」
現れたのは副官、ジョゼフ・モーガン大尉。
生真面目なその男は、書類を脇に抱えながら、眉をひそめている。
ライリーは帽子をずらしながら、深く溜息を吐いた。
目を閉じたまま、重く口を開く。
「なんだよ、大尉。少しは寝かせてくれ。……ただでさえ、最近はあちこちの戦場に出撃させられてるんだ。疲れも溜まる」
言葉の端に、若干の苛立ちが混じっていた。彼の部隊──《シルバーバレット隊》は、シーウルフ隊との交戦以降、その機動力と戦闘能力を買われ、前線を渡り歩いていた。
東欧の森林地帯、アルプスの雪原、都市廃墟の迷宮、そして高原の空。
彼らは地形を選ばず、無数の戦闘に投入され、無慈悲な勝利を重ねていた。
だがその代償は、確実に蓄積していた。
隊にも、そして、ライリー自身にも。
机の上の手帳を軽く指で弾き、彼は再び体を沈めようとする。
だが、ジョゼフの一言が、その動きを止めた。
「中佐、仕事です。奴らが…狼部隊が、最近また吠え始めました」
ピクリと、ライリーの指先が止まる。
しばしの静寂の後、帽子を指で持ち上げ、その眼光が鋭く輝いた。
「……ほう? 群れのボス級一匹を始末されて、大人しくなってたのに、今更動き始めたか」
それは、単なる興味ではなかった。
確かに、かつての交戦で《ヘルウルフ》──シーウルフ隊の若き小隊長を戦場に沈めたはずだった。
だが、それでもなお、奴らは動き出した。
「どちらかと言えば我々の被害の方が甚大でしたがね……」
ジョゼフは言う。
言葉の奥ににじむ、悔しさと苛立ち。
そして、情報士官としての確信があった。
「そして、その始末したはずの”ヘルウルフ”ですが、どうやら生きてます」
一瞬、ライリーの瞳が細まった。
帽子を指先で放り、ゆっくりと椅子から身を起こす。
そして、口の端を、まるで猛禽のようにゆがめた。
「……あの野郎、まだ生きてたか」
言葉は低く、だが抑えきれぬ興奮がその奥にある。
あの交戦。
あの牙を持った若い狼。
奴が死んでいなかったなら、それはもはや「再戦」ではない。
確実に「決着」を意味する。
ジョゼフが手に持っていた報告書を机の上に置く。
「確認されたのは中東戦線です。こちらの試作型ガンタンク小隊が──1機の灰色の機体に一方的にやられたそうです。しかも、すべて近接戦闘で」
ライリーの目が、赤く鈍く燃えた。
「ガンタンクの砲火を掻い潜り、接近、そして、撃破か……奴だな……」
もはや確信に変わった。
中佐は立ち上がると、部屋の奥に立てかけてあったジャケットを羽織りながら、短く命令を発した。
「大尉、隊を集めろ。もう一度、狼狩りに出るぞ。それと、整備班に機体の迷彩を砂漠仕様に変更しろと伝えておけ」
その声は、鋼鉄のように冷たく、揺るぎない。
ジョゼフは静かに笑い、敬礼しながら応じた。
「了解、中佐」
彼が部屋を去ると、再び静寂が訪れる。
だがその沈黙の中、ライリーの胸の奥には、確かな熱が渦巻いていた。
机に残された一枚の写真ーー煙の中の残像の様な灰色の影。
それを見つめながら、ライリーは唇をゆがめる。
「……待ってろよ、クソ狼共。今度こそ、息の根を止めてやるよ」
それは、再び始まる殺し合いへの宣誓だった。
再戦ではない。
狩りの再開だ。
獲物は、前よりも牙を研ぎ、飢えた状態でーー待っている。
そして彼自身もまた、長い眠りから、目覚めたのだった。
ーーーーーー
砂と熱風にすべてを焼き尽くされた不毛の大地。
見渡す限りの赤茶けた荒野に、かつての人の営みの名残をとどめる廃れた農村がぽつりと立つ。
屋根は崩れ、壁は風化し、瓦礫と化した建物が、かろうじて「ここに暮らしがあった」と訴えているかのようだった。
だが今、その静寂を打ち破るように、地鳴りと爆音が響き渡っていた。
連邦軍の機甲部隊が、砂塵を巻き上げながら突撃していた。
戦車のキャタピラが砂を掘り、地対空砲が吠え、上空では戦闘機が機銃をばら撒きながら旋回している。
そこには、巨大なシルエットーーまるで戦車をモビルスーツサイズにした様な兵器ーーモビルタンクも混じっていた。
連邦軍の前方には、その攻撃を防ぐようにシーウルフ隊はいた。
「シーマ!左から回り込め!!」
怒号が戦場に響く。
クラウス少佐。
漆黒のグフカスタムが、砲撃の雨を切り裂きながら前線を駆ける。
「あいよ!!まかせな!」
応じるは、シーマ中尉。
黄土色と紫に塗装されたザクⅡが、砂を蹴立てて旋回し、鋭い軌道で敵部隊の側面に躍り出る。
その操縦はまさに舞踏のような華麗さで、砲火の中を縫うようにして移動していく。
「エリック!カール!このまま、突撃するぞ!」
イオリの声が、通信回線越しに響き渡る。灰色に塗装されたイフリートが、ショットガンを構え、まっすぐに前方の連邦軍に突貫していく。
「了解です、少尉!」
「ついていくっすよ!」
若い声が続いた。
エリック伍長とカール二等兵。
その二人のザクⅡが、イオリの背後に続き、共に突撃の陣形を取る。
その戦線の一角では、ベテラン兵グスタフ・ヴァールのザクⅡが、腰だめに構えたバズーカを連射しながら、怒鳴り声を上げていた。
「おい!隊長!どうなってんだこりゃ!連邦の奴ら、張り切りすぎじゃねーか?!」
連邦軍の攻勢は、明らかに尋常ではなかった。
数、火力、そして勢い──まるで戦場全体が圧迫されていくかのような重圧。
「確かに、この数は普通じゃないな」
と、エーリッヒ軍曹が、冷静にマシンガンを連射しながら答える。
「しかも、ちらほらタンクもどきも混じってるぞ」
続くハンス・グリューネル軍曹の声は、警戒と苛立ちが混じっていた。
彼らの言う“タンクもどき”──モビルタンクは、連邦軍が投入した新たな試作兵器であり、砲撃と装甲を兼ね備えたその存在は、従来の戦車とは一線を画していた。
ガルマ・ザビの戦死以降、連邦軍は一気に勢いを取り戻し、各地で反攻作戦を開始していた。
この戦場も、その一環に過ぎなかった。
「無駄口はそこまでだ! 今は戦闘に集中しろ!」
クラウスのグフカスタムが、ガトリングシールドを唸らせながら戦車の群れを薙ぎ払っていく。
その隣に、灰色のイフリートが急制動をかけて滑り込み、ショットガンの連射で援護する。
「隊長、少し変です。アイツら攻め方が単調です。攻めてきたと思ったら、こっちが反撃すると後ろに下がる。妙ですよ」
イオリの報告に、クラウスは眉をひそめる。
彼もまた、既にその異常に気付いていた。
「チッ、あぁ。わかってる。これは明らかな遅滞戦闘だ。だからと言ってこちらが引けば、そこをついてくる。……嫌な戦い方、だ!」
鋭い声とともに、クラウスのヒートソードが戦車の砲塔を真っ二つに断ち切る。
黒煙が上がる中、彼は冷静さを保ったまま状況を分析していた。
敵は前進する。
だが、深追いしない。
連邦軍の攻撃は、まるで時間を稼ぐかのように、押しては引く、押しては引く──一定の距離を保ちながら、前線の足止めを図っていた。
それでも、シーウルフ隊は退かない。
精鋭部隊として、彼らには後退という選択肢はなかった。
砂煙の中、MSと戦車、航空機が入り乱れ、視界は混濁し、判断を鈍らせる。
だが、その戦場の中で、彼らは寸分たがわぬ連携を保ち、猛攻を受けながらも持ちこたえた。
──だが。
戦局は、いつまで経っても動かなかった。
互いに決定打を出せぬまま、時間が過ぎていく。
攻めても退かれ、引けば追われる。
終わりの見えぬ消耗戦。
まるで戦場そのものが、意思を持ち、彼らの気力を削るかのようにさえ思えた。
やがて、日が傾き、連邦軍の部隊が一斉に後退を始める。
まるで最初から計算されていたかのように、完璧な隊列で戦線を離脱していく。
それを追撃するかどうか、クラウスは迷いもなく命じた。
「追うな! ここは一旦引くぞ!」
彼の声が戦場全体に響き渡る。
その言葉に従い、シーウルフ隊は慎重に戦線を維持したまま、敵の撤退を見送った。
静寂が戻ったとき、荒野は再び不毛の大地に戻っていた。
破壊された戦車、焼け焦げたMSの部品、そして、数えきれぬほどの爆撃痕だけが、ここに戦いがあったことを物語っていた。
──そして。
この無意味とも思える戦闘が、連邦軍の“ある大きな作戦”の布石であることを、彼らが知るのは、まだ先のことであった。
主人公とシーマのイチャラブの度合い
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もっといれろ!
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大人な描写がもっと欲しい
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こんなもん
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いらん!