転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第74話 狼達の休息

オデッサ前線基地に停泊しているシーウルフ隊旗艦「ヘルヴォル」内のブリーフィングルーム。

室内は、薄く白熱灯の光が灯り、天井に設置された換気扇の唸りが微かに響いていた。

 

シーウルフ隊の面々はすでに席に着き、長方形のテーブルを囲んで静かにクラウスの言葉を待っていた。

壁に設置された作戦スクリーンには、オデッサ南部の地形データと、推定される連邦軍の進軍経路が赤くマークされていた。

 

「――作戦の要点は単純だ。俺たちは先行して敵部隊を奇襲する。目的は二つ。味方の迎撃態勢が整うまでの時間を稼ぐこと、そして敵戦力の探査――威力偵察だ」

 

クラウス・シュレンケ少佐の落ち着いた声がブリーフィングルームに響く。

その一言に、場の空気がわずかにざわついた。

 

「……クラウス、その作戦。編成はどうなってる? 他の部隊の合流は?」

 

グスタフ曹長が低く問いかける。

太い腕を組み、鋭い視線をクラウスへ向けていた。

 

クラウスは一拍置いてから、静かに首を振った。

 

「――俺たちだけだ。増援はない。奇襲はシーウルフ隊単独で行う」

 

ブリーフィングルーム内に緊張が走る。

目を伏せた者、眉を顰めた者、押し黙った者……その中で、ハンス軍曹が唸るように口を開いた。

 

「……いくらなんでも無茶ってもんじゃないですかい。奇襲が成功したとしても、連邦が反撃してくるのは火を見るより明らかだ。俺たちだけだと撤退すら困難になる」

 

その言葉に、他の隊員たちも小さく頷いた。

焦燥と懸念が一斉に広がる中で、クラウスは目を細めながら言葉を継ぐ。

 

「分かっている。だからこそ、この作戦は精密でなくてはならない。俺たちは敵の進行ルートを読んで、真横の小高い森林地帯に潜伏する。通過を確認したら一斉に叩き、損害を与え、敵戦力の概要を掴んだら即座に離脱する」

 

クラウスの視線が一人一人に向けられる。その瞳には迷いがなかった。

 

「目標は全滅じゃない。敵の前進を遅らせ、後続部隊の配備時間を稼ぐ。俺たちは”時間”を稼ぐのが役目だ」

 

エーリッヒ軍曹が手を挙げ、口を開く。

 

「その後は? オデッサの防衛に加わるのか?」

 

「いや」

クラウスは即答した。

 

「俺たちは奇襲後、後退戦を展開する。その行き先は、黒海沿岸の湾岸都市だ。そこに展開し、そこを最終防衛ラインとする。都市にはHLV発射場が建設さており。失えば月への脱出は絶望的になる」

 

そこまで聞いて、イオリが黙っていられなかった。

 

「……では、ヘルヴォルは? 長距離行動には補給が必要です」

 

クラウスは小さく頷き、イオリへ視線を移した。

 

「ヘルヴォルは湾岸都市に停泊し、俺たちの帰還を待つ。万が一都市が陥落の危機に瀕した場合には、艦に乗って撤退する」

 

その瞬間、室内に張りつめた空気が重く沈む。

 

孤立無援。後退戦。補給の危うい状況での防衛線――

それが意味するのは、文字通り「死地に赴く」ことだった。

 

クラウスは一つ深く息を吸い、そして告げた。

 

「……他に質問は?」

 

沈黙が続く。

誰もが言葉を飲み込み、覚悟と恐怖の狭間で何かを見極めようとしていた。

誰も手を挙げないのを確認すると、クラウスは静かに言葉を続けた。

 

「よし。いいか、これはこれまで以上に過酷な作戦になる。武器も弾薬も限られ、増援も支援もない。頼れるのは、目の前の仲間だけだ。戦場で互いを信じるしかない」

 

彼は椅子から立ち上がり、全員を見回す。

 

「出撃の時間は追って連絡する。それまで各自、身体を休めておけ。街に出ても構わん。……以上、解散だ」

 

クラウスの号令に、椅子の音が重なり合って響く。

誰からともなく、小さく息をついたような安堵と、わずかな緊張のほぐれが広がっていく。

 

「なぁ、どうだ?」

 

と、ハンスが立ち上がりながら口を開いた。

 

「こういう時は、酒でも飲みに行くってのが流儀だろ? 全員でさ」

 

「いいね、それ」

エーリッヒが同意し、グスタフも笑って加わる。

 

「俺も行くぜ。ついでに飲み屋の姉ちゃんでも口説いてみるかな。クラウス、お前も来るか?」

 

クラウスは薄く笑みを浮かべて答えた。

 

「すまん、これから艦長と少し話がある。その後で合流するさ」

 

「おお、そいつは楽しみにしてる」

 

カールが手を挙げて声を張る。

 

「俺たちも行きますよ! 戦う前に、気合い入れとかなきゃっす!」

 

エリックがイオリに顔を向ける。

 

「小隊長はどうされます?」

 

イオリは少し照れたように笑って、

 

「ああ、行くよ。こういう時くらい、みんなと一緒がいい」

 

と答える。

 

すると隣にいたシーマが、くすっと笑って小声で言った。

 

「私も行くよ。酔っ払ったアンタを放っておくわけにもいかないしね?アンタは酔っ払ったらすぐに人を襲うからね」

 

「……何言ってるんですか!?誰も襲いませんよ!俺は!」

 

と、焦るイオリ。

その様子に、ハンス、エーリッヒ、グスタフが一斉に冷やかしの笑いを上げる。

 

「おいおい、小隊長~、中尉の前じゃしっかりしねえとな!」

 

「ほら見ろ、顔赤いぞ~」

 

「若いってのはいいねぇ……」

 

和やかな笑い声が、ブリーフィングルームに広がっていく。

死地を目前にした彼らが、最後の束の間の時間を共にするために、夜の街へと足を向ける準備を始めたのだった。

 

――オデッサの夜は、まだ静かだった。

だが、東の空に垂れ込めた鈍い雲の奥では、雷のような遠い轟きが、確実に戦の足音を運んでいた。

 

ーーーーーー

 

艦長室には、静かに流れる時間があった。

薄暗い照明の中、窓の外には沈みゆくオデッサの夕陽が、戦火に焦がされた大地を赤銅色に染めている。

部屋の奥では、銀髪交じりの男が厳めしい面持ちで椅子に腰掛けていた。ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク大佐。

 

対面に座るのは、部隊全体を率いる男、クラウス・シュレンケ。

二人の間には煙が漂っていた。

葉巻でもなければ、香り高いキューバ産のシガーでもない。

戦場の兵士たちが常用する安物のタバコが、部屋の空気を濁していた。

 

しかし、その場には不思議と威厳があった。

テーブルには琥珀色の液体が満たされたグラスが二つ。

氷がわずかに音を立て、静寂に沈んだ緊張を、かすかに和らげていた。

 

ゲルハルトが低く唸るように口を開いた。

 

「……すまんな、少佐。今回の作戦は……今まで以上に、無茶をさせることになる」

 

クラウスは苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

 

「仕方ありませんよ、大佐。キシリア閣下の直々のご指名だと聞きました」

 

「そうだ。だが、あの女の指名というより、正確には“マ・クベの推薦”だ。あの男が我々を推したらしい……この無謀としか言いようのない作戦に、だ。どうやら私は、彼の機嫌を損ねるような真似でもしたらしい」

 

ゲルハルトはグラスを持ち上げ、無言で一口、苦味と共に喉を潤す。

 

「……我々が戦場でどれだけ命を削っていようと、あの連中にとっては、戦力の駒のひとつに過ぎん。味方ですら、だ」

 

クラウスは微かに頷きながら、その言葉を噛み締める。

 

「艦長、私たちはあなたの命令であれば、どこへでも出撃します。それがどれほど無茶であっても……。それに、あの作戦……我々でなければ、おそらく誰にも遂行できないでしょう」

 

その言葉に、ゲルハルトの目がわずかに細められた。

 

「……クラウス。お前は本当に変わったな。かつては酒と女とギャンブルばかりだったお前が、こうも軍人然とするとは」

 

クラウスは苦笑する。

 

「まさか。部下がしっかりしてきたんですよ。俺がふらついていたら、部隊の連中に足元を掬われますからね」

 

グラスを煽り、氷が音を立てる。

 

そのとき、クラウスの表情から笑みが消える。声の調子がわずかに硬くなった。

 

「艦長。実は……今回の作戦について、ひとつお願いがあります」

 

ゲルハルトは眉をひそめる。

 

「……願いだと? どういう内容だ」

 

クラウスはグラスをそっと置き、まっすぐにゲルハルトの目を見据えた。

 

「願いというのは………」

 

その願いを聞いたゲルハルトは目を見開くのだった。

 

ーーーーーー

 

街の片隅にある、ジオン兵士御用達の古びた酒場。

天井の照明は薄暗く、壁のポスターも色褪せていた。

酔客たちの笑い声と、古いジュークボックスが奏でるジャズが、戦場の記憶を一時だけ曖昧にしてくれていた。

 

クラウスが店の扉を開くと、酒場の喧騒が一瞬静まり、そしてすぐに歓声が巻き起こる。

 

「おおーい! 隊長、遅いぞ!」

 

真っ先に声を上げたのは、豪放磊落な巨漢、グスタフだった。

分厚い腕を振り上げながら、大ジョッキ片手にクラウスへ手を振っている。

 

「ったく、隊長がいねーと始まんねぇってのに!」

 

ハンスも笑いながら杯を掲げ、同調する。

 

「こちらです、隊長」

 

落ち着いた声で呼びかけたのは、冷静沈着なエーリッヒ。

すでに空けたグラスの数は並々ならぬものがあったが、その口調だけはいつもと変わらなかった。

 

イオリがグラスを手に、少し緊張しながら尋ねる。

 

「隊長、ビールでいいですか?」

 

すると、横から声が飛ぶ。

 

「違うよ、イオリ。クラウスはウイスキーのロックが好きなんだよ」

 

茶目っ気を含んだその声は、シーマのものだった。

当然のようにイオリの横に控えていた彼女は、笑みを浮かべながらクラウスを見ると、口を開く。

 

「ようやくご登場かい、隊長。全員、首を長くして待ってたよ」

 

クラウスは、笑った。

その声には、確かな誇りと絆が滲んでいた。

狼たちは、群れのボスが来るのを今か今かと待っていたのだ。

戦場では命を預け合う仲間たち。

そこには上官も部下もなく、ただ“群れ”としての絆が存在していた。

 

「フッ……待たせたな。今夜ぐらいは、肩の荷を下ろすか」

 

クラウスが輪の中に加わると、一斉にグラスが高く掲げられる。

 

「乾杯だ!」

 

その夜、“狼たち”の吠え声が、酒場の夜を震わせた。

誰もが知っていた。

明日からまた、血と硝煙の戦場に戻らねばならない。

それでも、今夜だけは――

 

確かに、生きていると実感できる夜だった。

 

ーーーーーー

 

薄明の光が、艦内の窓からわずかに差し込んでいた。

モニターの灯す光もまだ点されぬ静けさの中、イオリはゆっくりとまぶたを開けた。

かすかに軋むベッドの感触、機械の低い唸りが遠くから微かに響いてくる。

ここは「ヘルヴォル」の乗員区画、彼自身の小さな部屋。

 

昨日の余韻が微かに体に残っていた。

呼吸を整え、イオリはそっとベッドから身を起こした。

足元には折りたたまれた制服があり、手慣れた動作でそれに袖を通していく。

無言で立ち上がるその背中に、柔らかな気配が近づいた。

 

ベッドのシーツを身にまとったシーマが、寝台の上から身を起こし、静かにイオリの背後へと腕を伸ばした。

白い肌とシーツのコントラストが、薄明の中に浮かび上がる。

 

「今日はずいぶん早いじゃないか。いつもなら、起こしても起きてこないくせにね?」

 

囁くような声に、イオリはくすりと笑う。

抱きつく彼女の手に、自らの手を重ねてそっと握る。

 

「おはようございます、シーマさん。……なぜか今日は早く目が覚めてしまって。目覚めついでに、機体の様子でも見に行こうかと」

 

シーマは彼の手を名残惜しげに離すと、再びベッドに身体を沈めた。

ふわりとした髪が枕に広がる。

 

「ふぅん……せっかくなら、私が起きるまで一緒にいてくれてもよかったんじゃないのかい?」

 

拗ねたような声音に、イオリは優しく微笑みながら彼女の方へと歩を進める。

ベッドに手をつき、身を屈めて彼女の顔を覗き込むようにして両腕をついた。

 

目と目が合う。

シーマは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに緩やかに笑みを浮かべる。

 

「よく寝ていたから、起こすのは気の毒だと思ったんです」

 

静かに、しかし確かな想いが宿った声だった。

 

「……そうかい」

 

彼女は目を細めながら、そっと手を伸ばす。

イオリの制服の上から、その胸元あたりをなぞるように撫でた。

そこには、戦場で刻まれた痛ましい傷痕が隠れている。

生々しさこそ薄れたものの、肌の奥にはなお、記憶のように痛みが残っているだろう。

 

シーマの手は、それをいたわるように優しく動いた。

愛おしさと、憐れみと、そしてどこか苦しさを秘めた眼差しで。

 

「……あまり、無茶はダメだよ。あんた、無理してる顔してるときがある」

 

その言葉に、イオリはわずかに目を伏せた後、静かに頷いた。

 

「ええ、無茶はしません。もう――シーマさんを、悲しませたくないですから」

 

彼はそっと彼女の額に口付ける。

わずかに体を寄せ、温もりだけを残して離れていく。

 

その動作の一つ一つに、シーマは言葉を返さずに目を細めた。

やがて、頬を少しだけ染めながら、柔らかく笑う。

 

「……行ってらっしゃい」

 

小さく、しかし確かに届く声だった。

 

イオリは最後にもう一度微笑み、静かに部屋を後にする。

自動扉が閉まると、再び室内には静けさが満ちた。

シーマはその静寂の中、まだ残るぬくもりの中でシーツを引き寄せながら、天井を見つめた。

 

ひとときの安らぎ。

その儚さを知っている彼女だからこそ、今この瞬間を抱きしめるように、そっと目を閉じた。

 

 

 




あれ?
この物語ホンマに終わるのか?
と震えている作者です笑
アンケートの状況ですが、ゲルググ高機動型多いですねー
あれってそんなに人気なんですか?
詳しくない作者からしたら、ゲルググにバックパック付けただけ(有識者の皆さんに怒られそうな発言笑)に見えるですけどねー笑

主人公の宇宙機体

  • イフリート宇宙仕様。できんの?笑
  • ゲルググ高機動型
  • ゲルググM
  • ゲルググJ
  • ザクⅡ改
  • リックドム
  • ビグロ…笑
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