転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第77話 遅滞戦闘

かつて豊かな緑に覆われ、野鳥のさえずりや獣の声が響き渡っていたオデッサ北西部。

その山脈と丘陵に抱かれた大地は、いまや鋼鉄と火薬に蹂躙されていた。

空気を震わせるのは風でも鳥でもなく、モビルスーツの推進音と砲火の咆哮だった。

穏やかさは跡形もなく消え去り、代わりに轟音と死の匂いが大地を覆っていた。

 

「急げ! 敵の追撃だ! 陣形を崩すな! 突出してきた奴らから叩け!」

 

漆黒のグフ・カスタムを操るクラウスの声が、戦場の喧噪を貫いて響いた。

その黒き巨躯は、まるで戦場を駆ける影のように前線を指揮する。

 

「隊長!! こりゃやべえぞ! 奴ら、奇襲されたことに相当カンカンだ!!」

 

グスタフのザクが肩越しにバズーカを撃ち放ち、爆煙が丘陵に広がった。

 

「ああ……だからこそ奴らは俺たちを追いかけて行軍が鈍る。これで仲間たちの時間が稼げるんだ」

 

クラウスは鋭く返す。

その声音には焦りはなく、落ち着きが漂っていた。

 

彼らシーウルフ隊は、オデッサ攻略に向け進撃していた連邦軍の行軍を奇襲し、一撃を与えた後に即座に撤退。

その背後を執拗に追撃してくる連邦軍を、遅滞戦闘で削ぎ落としていた。

 

『ジオンの狼どもめ! ここで死ねぇ!!』

『さっきはよくもやりやがったな!!』

『逃げれると思うんじゃねぇぞ!!』

 

怒号と共に迫るのは、陸戦型ジムを中心とした部隊。

無数のマシンガンによる弾が雨のように降り注ぎ、大地を削り岩を砕いた。

 

「ったく、奴らメチャクチャに撃ちやがって……!」

 

ハンスのザクが傾斜に身を潜めながら唸る。

 

「奴らも必死だな。あんな攻撃、まともに当たりはしない……が、弾幕が厚い。こちらも無闇に飛び出せないな」

 

冷静に分析するのはエーリッヒ。だがその声音には重圧を滲ませていた。

 

「そりゃそうさ。あっちさんも一大作戦の出鼻を挫かれたからねぇ。汚名挽回に必死ってわけさね」

 

シーマの声が割って入る。

彼女の小隊を含む各部隊は、互いに背を預けながら集中砲火に耐えていた。

 

そこへ、更に地を這うような砲声。戦車部隊が加わったのだ。

 

「うへぇ、こりゃまずい。攻撃がさらに厚くなってきやがった」

 

とハンスが呻く。

 

「……おいおい、“アイツら”はまだか? このままじゃシールドがもたねぇぞ」

 

エーリッヒはため息混じりに呟いた。

 

シーマはしばし無言で前を睨んでいたが、やがて薄く笑みを浮かべる。

 

「……ふん。やっと来たようだね。遅いんだよ、“アイツは”」

 

その口元に浮かぶ笑みには、信頼と、それを超える複雑な感情が滲んでいた。

 

『隠れてねぇで出てこいよ!』

『弾ならまだまだあるぞ!』

『見たところ部隊単独みたいだからな! 嬲り殺しだ!』

 

勝利を確信したかのように嘲笑を浮かべる連邦軍の声。

その瞬間――戦場に異変が走った。

 

視界を覆うように、白い煙が一帯を覆い始めたのだ。

 

『あん?……誰だ、間違えてスモークを焚いたやつは?! 見えねえだろうが!!』

『へ?俺たちはスモーク弾なんて装備してませんよ、少尉』

『じゃあ誰が……』

 

その言葉が終わる前に、煙の帳の中、鋭いモノアイの赤が閃いた。

 

次の瞬間、爆発音と銃撃音が立て続けに響き渡る。

悲鳴が上がり、通信が途切れ、煙の中に敵機が次々と飲み込まれていった。

 

静寂。

煙を突き破って姿を現したのは――二機のザクを従える灰色のイフリートだった。

 

「……遅くなりすみません。迂回するのに手間取りました」

 

イオリの声が落ち着いて響く。

 

「おせぇよ! 待ちくたびれたぞ!」

 

ハンスが豪快に笑い返す。

 

「この作戦は面白いな。太古の日本にも似た戦法があったはずだ……“キツツキ戦法”だったか?」

 

エーリッヒが唸るように言うと、エリックが苦笑しながら口を挟む。

 

「史実じゃ失敗してますよ、その作戦は」

 

「キツツキ戦法って、なんすか?」

 

とカールが首を傾げるが、誰も答えず戦場の空気が続く。

 

「お待たせしました、シーマ中尉。ご無事で何よりです」

 

イオリの声に、シーマは鼻で笑う。

 

「はん! あんな攻撃でやられるタマじゃないよ」

 

そしてその時――。

漆黒のグフ・カスタムがブーストを吹かし、着地する。

 

「よし! 連邦軍の先発隊は引いたようだな。俺たちはここから更に下がる! 敵の規模は暗号通信でオデッサに届いてるはずだ!」

 

クラウスの声は力強く、全員の心を引き締める。

 

「了解!」

 

全員が即座に答え、後退の動きへ移る。

 

ただひとり――。

 

「ねぇ?! キツツキ戦法って結局なんなんすか?!」

 

カールだけが別のことを叫んでいた。

 

戦場の喧噪の中、その声に笑いが混じり、しかし誰も答える余裕はなかった。

 

ーーーーーー

 

シーウルフ隊は遅滞戦闘を続けながら、湾岸都市に停泊する旗艦「ヘルヴォル」へと歩を進めていた。

背後にはなお連邦軍の影が迫っているが、奇襲の混乱と強烈な抵抗によって、敵の追撃は緩慢となっていた。

 

「各隊、進みながらで構わん。損耗状況を報告しろ」

 

クラウスの低い声が無線に流れた。声に焦りはなく、しかし確実に部下たちを律する響きがあった。

 

「第2小隊。アタシらは全員マシンガン持ちだから、まだ多少は余裕があるよ。……でも、あと二度戦えば弾は尽きるね。機体の損傷は軽微だ」

 

シーマの声音は冷静だったが、無線の向こうに滲む疲労を隠しきれてはいなかった。

 

「続いて第3小隊。近接戦メインでやってきたんで、まだ十分戦えます。ただ……俺のイフリートはスモークが少ない。先ほどの煙幕戦法は次の決定的な場面に温存すべきでしょう。機体損傷は軽微です」

 

イオリの報告は落ち着いていたが、どこか慎重さが強まっているように聞こえた。

 

「第4小隊。弾薬が乏しい。あとで弾を分けてもらう必要があるな。機体は三番機が腕をやられたが、戦闘続行は可能。その他は損傷なし」

 

エーリッヒが渋い声で告げる。

 

「5小隊は弾薬十分。ただし二番機がマシンガンを故障で投棄した。予備があれば使わせたい。機体損傷はゼロだ」

 

ハンスの報告は淡々としていたが、口調にはまだ戦闘の興奮がわずかに残っていた。

 

各小隊の報告を聞き終え、クラウスは短く息を吐いた。

 

「よし。各隊で武器と弾薬を分け合え。均等にな。……次にどれだけ戦闘を強いられるか分からん」

 

「なぁ隊長、このまま後退続けるのか? それとも途中で休むか?」

 

グスタフが問いかける。

 

クラウスはしばし沈黙し、やがて決断を告げた。

 

「……今日はもう日が落ちる。衛星写真では、この先に岩肌に囲まれた窪地がある。そこを拠点に休息を取るぞ」

 

「了解」

 

各員が即答した。

 

誰も言葉には出さなかったが、度重なる戦闘と撤退の連続で、疲労は極限に達していた。

機体の中は汗と油の匂いが充満し、心身ともに消耗が漂っていた。

 

やがて彼らは窪地へ到達する。

 

「よし、機体にはカモフラージュを施せ。交代で見張りを立てる。出発は深夜だ」

 

クラウスの指示が飛ぶと、各小隊は無言で動き始めた。

 

静寂が訪れる。

戦場から切り離されたかのような一時の安らぎ。

しかしその中に漂うのは、嵐の前の静けさであることを、誰もが理解していた。

 

ーーーーーー

 

イオリはイフリートのコックピットで簡素な携帯食を口にし、飲料パックを飲み干す。

背もたれに身を沈め、緊張を解こうと目を閉じた、その時だった。

 

――ガシャン、と搭乗用ワイヤーが動く音。

 

「……?」

 

不審に思い、ハッチに視線をやると、そこに現れたのはシーマだった。

 

「シーマさん? 何してるんです?」

 

慌てるイオリに、シーマはにやりと笑みを浮かべ、ハッチに手をかけて覗き込んだ。

 

「へぇ……イフリートの中ってこうなってんだね。ザクより狭くないかい?」

 

「慣れれば、落ち着きますよ」

 

イオリは苦笑しながら返す。

 

「ふーん、そんなもんかね。……じゃ、ちょっと失礼するよ」

 

そう言うや、シーマはためらいなくコックピットに身を滑り込ませ、イオリの足の上に腰を下ろした。

そして背中を彼に預ける。

 

「し、シーマさん……?」

 

イオリは思わず声を上げたが、シーマは深く息を吐きながら言った。

 

「落ち着くね、ここ。……機体の油臭さと、アンタの匂いが混ざってさ」

 

振り返った横顔からは、戦場の緊張を抜いた柔らかさが漂う。

その髪からは汗の匂いと、ほのかに甘い香りが混じっていた。

 

「いい匂いではないでしょう?……シーマさんのほうが、いい匂いですよ」

 

イオリは照れ隠しのように呟き、自然に腕を伸ばし、シーマの腹部を抱き寄せる。

 

シーマはふっと笑い、囁く。

 

「なんだか……ちょっと恥ずかしいね」

 

「そうですね。でも……心地いいです」

 

イオリは穏やかに答えた。

 

二人はしばし、言葉を交わさずに窓の外の闇を眺めた。

至る所で戦火が広がっている大地の中で、彼らがいる場所は戦火とは無縁のように、その雄大さを静かに月明かりが照らしていた。

 

やがてシーマが身を起こす。

 

「……さて、そろそろ戻るとするよ」

 

「え、もうですか?」

 

思わず口に出したイオリの表情には、寂しさと照れが入り混じっていた。

 

シーマは一瞬きょとんとした後、柔らかな笑みを浮かべる。

 

「今は作戦中だよ。……ちょっと顔を見に来ただけ。それに、あんまり長く機体を離れるわけにもいかないからね」

 

そう言ってハッチに手をかけた瞬間、イオリが彼女の腕を掴み、抱き寄せた。

 

「ちょ、ちょっと?! アンタね……!」

 

戸惑う声を上げるシーマに、イオリは低く呟いた。

 

「すみません。……もう少し、このままで」

 

シーマは反発せず、ただ黙って身を預けた。

その数瞬の沈黙は、互いにとって戦場では得がたい安らぎだった。

 

やがてイオリは彼女を放し、苦笑を浮かべる。

 

「ありがとうございます。……もう落ち着きました」

 

シーマは見下ろすように彼を見て、小さく吹き出した。

 

「ふっ、なにさ……まるで捨てられた犬みたいな顔して」

 

そう言って顔を寄せ、イオリの唇に短く触れる。

一瞬の口づけ。

 

「今はこれで我慢しな。続きは、無事に帰還してからだ」

 

イオリは驚きつつも笑みを返す。

 

「……分かりました。楽しみにしておきます」

 

その答えにシーマは満足げに頷き、今度こそコックピットを降りていった。

 

残されたイオリは、まだ温もりの残る腕を胸に感じながら、深く息を吐いた。

戦火のただ中にあっても、確かに心を支えてくれるものがある――そう実感していた。

 

ーーーーーー

 

窪地に夜が深く落ち、星々の光が冷たく岩肌を照らしていた。

焚火ひとつ許されぬ戦場の夜――炎の明かりは敵を誘い、死を呼び寄せるらだ。

代わりに響くのは、風が岩壁を撫でる音と、金属の軋む冷却音、そして遠くで野生の獣が吠える声だけが、やけに大きく聞こえる。

その静寂は不気味なほどに重く、すべての者に

 

「次の戦いが近い」

 

と告げているかのようであった。

 

交代の時間を知らせる無線が定期的に入り、隊員たちは順に見張りと休息を切り替えていた。

機体から降り、冷たい地面に背を預ける者。

シートに沈み込み、浅い眠りに身を委ねる者。

だが――誰ひとり、安らぎを得てはいなかった。

胸の奥では皆わかっていたのだ。

再び訪れる戦闘は、決して遠くはなく、その度に仲間の命が削られていくことを。

 

クラウスの漆黒のグフカスタムは、窪地の奥で沈黙していた。

モノアイは落とされ、岩陰に潜むその姿はまるで獣が身を潜める影のようだった。

だが、全員が知っている。

あの機体の中で、群れの長は片時も前線から眼を逸らしてはいないことを。

彼の背に群れの生死が懸かっている――シーウルフ隊の誰もが、その重みを理解していた。

 

別の岩陰では、エーリッヒとハンスが薄い酒の小瓶を回していた。

 

「ったくよぉ……水みてぇに薄い。こんなんじゃ酔えやしねぇ。どうせ戦場でくたばるなら、もうちっと濃いのが飲みてぇもんだ」

 

「贅沢言うな、ハンス」

 

エーリッヒは肩をすくめ、かすかに笑った。

 

「あるだけでマシだろう」

 

その苦笑には張り詰めた空気が隠せない。

疲労と恐怖がじわじわと全身を蝕んでいることを、二人は感じていた。

 

「……なぁ、俺たち、いつまでこんな風に戦い続けるんだろうな」

 

吐き捨てるように呟いたエーリッヒの言葉に、一瞬だけ沈黙が落ちた。

だが、ハンスはすぐに瓶を煽り、乾いた声で笑う。

 

「馬鹿言え。狼は牙を抜かれるまで吠え続けるんだよ」

 

そして、やや声を落としながら続けた。

 

「……それにな。仲間が戦ってるんだ。なら、戦うしかねぇだろ」

 

その言葉には荒くれ者らしい豪胆さがあったが、それ以上に仲間を思う温かさがにじんでいた。

エーリッヒは目を細め、瓶を受け取って一口含む。

 

「ふ……そうだな。吠え続けるしかねぇ」

 

酔いを求めた酒はほとんど効かない。

だが、不思議と胸の不安は、さっきよりも小さくなっていた。

 

一方その頃、別の岩影では、グスタフとエリック、カールが黙々と弾薬の再点検をしていた。

各小隊の残弾薬を数え、配分を整える。

無駄な配分することなく、均等に分けていく。

 

「残弾……きっちり配分できたな。これで最低限の戦闘は維持できる」

 

エリックが小さく息を吐いた時、隣でカールが声を震わせる。

 

「でも……敵の物量は圧倒的っすよ。このままじゃ……」

 

若さゆえの正直な不安。その言葉に、エリックも視線を落とした。

 

「……怖いのは俺も同じだ」

苦い声で答えるしかなかった。

 

するとグスタフが、黙り込む二人の背中に分厚い掌を置いた。

ごつごつしたその手から伝わるのは、荒んだ戦場の冷たさではなく、仲間を支える温もりだった。

 

「若造」

 

短く呼びかける。だがその声音は鋼のように強く、そして揺るぎなかった。

 

「俺たちに出来るのは、仲間を死なせねぇように戦うことだけだ」

 

「……」

 

「お前たちは、隊長とお前らの小隊長を信じてついて行けばいい。大丈夫だ。何かあれば、俺がケツを持ってやるよ」

 

その暖かな言葉に、エリックとカールは頷く。

恐怖は消えないが、胸に灯るものは確かにあった。

 

ーーーーーー

 

深夜。

窪地を震わせる低い声が無線に響いた。

 

「全機、起動準備……行くぞ。狼はまだ走れるだろ?」

 

クラウスの指令だ。

次の瞬間、沈黙していた機体たちが一斉に目を覚ます。

モノアイが次々と点り、暗闇に光が走る。

岩陰に潜んでいた鋼の獣たちが牙を剥き、再び群れを成す。

 

シーマはザクⅡMのコックピットに身を収めると、隣に並ぶ灰色の影へと視線を送った。

その異形のシルエット――イオリのイフリートが、重々しい駆動音とともに立ち上がる。

モノアイが灯り、岩陰を切り裂くように赤光が走る。

 

「こちら第3小隊、準備完了」

 

イオリの声が無線に乗り、落ち着いた響きで広がった。

 

「第2小隊も問題なし」

 

シーマも即座に答える。その声には、先ほどイオリに向けた柔らかさは微塵もない。

そこにあるのは、冷徹な戦場の女指揮官の声。だが――その裏に隠された思いを、イオリだけは感じ取っていた。

 

「……行くぞ」

 

クラウスの命令と共に、黒きグフカスタムが先頭を切って走り出す。

重力に沈む大地を踏みしめ、鋼鉄の獣たちは次々とそれに続く。

 

闇夜を切り裂く群れ――ジオンの狼。

その咆哮はまだ止むことなく、再び死と隣り合わせの戦場へと突き進んでいくのだった。

 

主人公の宇宙機体

  • イフリート宇宙仕様。できんの?笑
  • ゲルググ高機動型
  • ゲルググM
  • ゲルググJ
  • ザクⅡ改
  • リックドム
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