転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
南米アマゾンの密林。
その地下深くに築かれた巨大要塞――連邦軍総司令部ジャブロー。
緑に覆われた外界からは想像もできぬほどの規模で地下施設は広がり、地球連邦の軍政と戦略の中枢として機能していた。
だが、そのさらに深層。
限られた者しか立ち入れぬ閉鎖区画にて、ひとつの部門が静かに、しかし虎視眈々と牙を研いでいた。
光源はモニターの冷たい輝きだけ。
闇に沈んだ室内で、一人の男が椅子に身を預け、無数の映像データを睨みながら不気味に笑った。
「……ふっ、ふふ。ついに人類の進化が始まる。ニュータイプだと? 笑わせる。あれはただの偶然、自然淘汰の産物にすぎん。人類の未来は、人類自らの手で肉体と精神を強化することによってのみ開かれるのだ」
吐き捨てるように放たれた言葉には、抑えきれぬ野望と狂気が滲んでいた。
そこへ、鋼鉄の扉が音もなく開き、白衣の部下が一人、姿を現した。
「博士。被験体7号の定期観察の時間ですが……」
男――“博士”と呼ばれたその人物は、唇を吊り上げて椅子から立ち上がる。
「……そうだな。そろそろ“目覚め”を促してやる頃合いか。研究の成果を、この目で確かめよう」
博士が歩みを進めた先は、無機質な白で塗り固められた病室のような施設。
中央のベッドには無数の管やケーブルに繋がれた男が横たわり、その周囲には数名の研究員が控えていた。
モニターを見つめ、資料を走査し、時折震える手でメモを取る――いずれも緊張に満ちている。
博士が苛立ちを隠さず問う。
「……まだ目覚めんのか?」
部下の一人が声を絞り出す。
「は、はい。前回は無理やり覚醒させた結果、被験体はパニックを起こし、そのまま自壊しました。今回は自然な目覚めを待ったほうが……」
「愚か者め」
博士は切り捨てた。
「その失敗を繰り返さぬために、どれほどの投薬と精神操作を施してきたと思っている。いいから起こせ。今すぐだ」
命令に逆らえぬ研究員たちは顔を見合わせ、汗をにじませながらも注射器を準備する。
「わ、わかりました……」
薬剤が注入される。
次の瞬間、ベッドの上の男――“被験体7号”の身体が激しくのけぞった。
「ぐぅぅ……あぁぁぁぁぁ!!!」
全身を引き裂かれるような苦痛に耐えきれず、のたうち回り、シーツを握りしめる。
筋肉が軋む音が聞こえるほどだった。
冷徹に見下ろす博士の声。
「何をしている、投薬を続けろ。このままでは使い物にならん」
「だ、だから申し上げたのです!」
一人の研究員が叫ぶ。
「無理やり目覚めさせれば、また――」
その言葉を遮るように、被験体が突如として研究員の首を掴み上げた。
「なっ……!? ぐ、が……!」
苦しむ悲鳴。
大の男が片腕で宙に吊り上げられる。
「やめろ!」
仲間の研究員たちが銃を抜きかける。
だが博士が叫ぶ。
「撃つな! 撃つんじゃない!!」
「しかし、このままでは――!」
博士の声は鋭かった。
「いいから見ろ! 今までの被験体とは違う……あの目を見ろ。冷静に周囲を観察している」
実際、苦悶の叫びを上げていたはずの被験体の瞳は、冷たく澄み切り、周囲を計測するかのように動いていた。
博士が静かに歩み寄る。
「……よく目覚めたな、被験体7号。ここがどこか分かるか?」
返ってきたのは掠れた低い声だった。
「……狼……どこだ……」
「狼?」
博士が眉をひそめる。
「狼とは何だ?」
答えの代わりに、被験体は掴んでいた研究員の首を容赦なくへし折った。鈍い音とともに床に投げ捨てる。
「ジオンの……狼どもは……どこだッ?!」
怒号とともに、今度は博士の首を締め上げた。
「ぐ……! 狼……君の部隊を…壊滅させた…ジオン兵のことか……?」
「どこだ!!!」
会話は成り立たない。
ただ殺意と復讐心だけが剥き出しにされていた。
博士は苦しげに言葉を絞り出す。
「……お前の……復讐に……力を貸そう……」
その瞬間、力が抜け、博士は床に崩れ落ちた。
「ゲホッ……ハァ……!」
むせながら見上げた博士の目に映ったのは、獣のように荒い息を吐き、血走った目で睨みつける被験体の姿。
「……早く……狼どもを……殺させろ!!」
叫びを残すと、再び糸が切れたようにベッドへと倒れ込み、眠りについた。
ーーーーーー
観察室に移った博士と研究員たち。
厚い強化ガラス越しに被験体を見つめる。
「博士、どうなさいますか。今回の被験体も、完全とは……」
「いや」
博士は笑う。
「今までの廃棄物とは違う。最低限の意思疎通が可能だ。出番までは薬で眠らせ、戦闘訓練データを脳に直接インプットしておけ」
「はっ。承知しました、“ムラサメ博士”」
やがて研究員たちが散り、残された博士は独り言のように呟く。
「期待しているぞ……“ライリー中佐”。お前の憎悪が、我々の研究を次の段階へと導くのだ……」
ーーーーーー
夜が明ける。
アマゾンの密林の向こう、赤い太陽がゆっくりと姿を現す頃。
一方その頃――シーウルフ隊は、連邦の大規模な追撃を受けることなく行軍を続けていた。
「……妙だな」
岩陰を進む隊列の中で、グスタフが呟く。
「連邦の奴ら、ここまで深追いしてこねぇとは」
クラウスが応じる。
「あそこまでの大部隊だ。行軍にしろ部隊編成にしろ、時間はかかる。こちらにしては好都合だ。……もうすぐ前哨基地だ。補給を済ませ、ヘルヴォルが待つ湾岸都市へ直行する」
その時、先行させていた第5小隊から、緊迫した声が無線に割り込んだ。
『隊長、ハンスだ。……ちょっと来てくれ、マズいことになった』
途端に空気が張り詰める。
全員の脳裏に、嫌な予感が走る。
ーーーーーー
岩陰に潜んでいたハンスのザクが、僅かにモノアイを煌めかせた。
黒いグフ・カスタムが近寄ると、無言のまま一瞬だけモノアイを返し、すぐに前方へと視線を戻す。
「ハンス、どうした?」
クラウスの低い声が通信に響く。
間を置いて、ハンスが硬い声で答えた。
「隊長……まずいぞ。あれを見てくれ」
促されるまま、クラウスは視線を前方へと移した。
その瞬間、彼の眼差しが険しくなる。
岩場の先、彼らが進行予定としていたジオン軍の前哨基地が視界に収まっていた。
だが、そこに広がっていた光景は、想定していたものとはあまりにも違っていた。
ジオンの拠点であるはずの基地は、すでに連邦軍の手に落ちていた。
複数のモビルスーツが残骸を踏みしめ、戦車部隊が巡回し、歩兵たちが戦闘後の処理に追われている。
さらに――基地内の広場には捕虜となったジオン兵たちが一列に並ばされ、監視兵に銃口を突きつけられていた。
クラウスは舌打ちをし、モニター越しにその光景を睨む。
「……クソッ。もうここまで進軍していたのか」
その声には怒りと悔恨が滲んでいた。
「ハンス。部下に監視を続けさせろ。お前は戻って来い。……作戦会議だ」
「了解。おい、俺に代わって監視しろ」
短い命令を部下へ飛ばすと、ハンスのザクは旋回し、クラウスと共に岩陰を後にした。
ーーーーーー
やがて、本隊の潜む場所に小隊長たちが集合した。
グスタフが機体から降り立ち、険しい表情で吐き捨てる。
「はぁ?! 前哨基地が占領されてるだと?」
その声はあまりに大きく、周囲の空気を震わせるほどだった。
クラウスは静かに頷き、状況を説明する。
「あぁ。恐らく別働の連邦軍が進軍していたのだろう。基地防衛部隊は全滅。捕虜が何名か確認できたが、正確な数は分からん」
グスタフは苛立ちを隠さず唸る。
「ったく! 俺たちがあんだけ遅延戦闘で粘ったってのに、結果がこれかよ!」
沈黙を破ったのはエーリッヒだった。
「隊長、どうする? 捕虜を救いたいのは山々だが……俺たちには歩兵部隊がいない。基地内の制圧なんざ、今の戦力じゃ不可能だ」
すぐにシーマが口を開く。
「かといって見捨てるのは後味が悪いねぇ。……それに、補給がなきゃ今後の戦闘も持たない。いっそ二個小隊ほど地上部隊役に回して、取りに行くかい?」
クラウスは深く息を吐き、険しい顔で首を横に振った。
「いや、ここで時間を食えば後を追ってきている部隊に挟撃されるのがオチだ。前哨基地を迂回し、湾岸都市へ直行する。……それがベストだ」
そう言いながらも、その顔には明らかな苦渋が浮かんでいた。
仲間を見捨てるという決断は、クラウスという男の信条に最も反するものだからだ。
沈黙の中、一人イオリだけが考え込んでいた。
彼の様子に気づいたシーマが問いかける。
「イオリ? どうしたんだい。ずっと黙り込んで……何か考えでもあるのかい?」
イオリはハッとし、逡巡を滲ませながら口を開く。
「いえ……成功する保証はありませんし、危険も伴います。だから……」
クラウスがその言葉を遮る。
「いや、今はどんな案でも構わん。言ってみろ」
イオリは小さく息を整え、静かに口を開いた。
「以前のアルプス基地攻略……覚えておられますか?」
グスタフがすぐに応じる。
「あぁ、第3小隊がおとりになって敵の目を引き、その隙に本隊が突入した作戦か。お前ら、ズタボロになってたな」
皮肉を込めた笑みに、イオリも苦笑で返す。
「えぇ。同じ手を、今回も使えないかと思いまして」
「だがな……」エーリッヒが腕を組み、首を振る。
「今回は相手がピリピリしてるし、何よりお前の切り札の煙幕はもう残り少ないんだろ? 少量じゃ隠れるどころか、逆に狙い撃ちにされるだけだ」
それに対し、イオリは静かに首を振った。
「……はい。だからこそ、今回は隠れません」
場の視線が一斉に彼へと注がれる。
「堂々と行きます」
クラウスが低く問う。
「どうやる?」
イオリは一瞬笑みを浮かべ、力強く言い放った。
「――単騎駆けによる、強行突破です」
その言葉に、場は一瞬凍りついた。
小隊長たちも古参も、誰もが目を見開き、思わず息を呑んでいた。
若き少尉の瞳には、迷いも恐れもなかった。
ただ、仲間を救いたいという強い意志と、己がその先頭に立つという決意だけが、静かに燃えていた。
ーーーーーー
「……フー……」
イオリはイフリートのコックピットに腰を沈め、背もたれに頭を預けながら何度も深く息を吐いた。
閉じ込められた狭い空間に、彼の吐息が白く曇っては消えていく。
心臓の鼓動が耳に響くほどに高鳴っている。
落ち着け、落ち着けと念じても、胸の奥のざわめきは止まらない。
何度も深呼吸を繰り返しながら、彼は数十分前のやり取りを思い返していた。
『俺は反対だ!そんなの自殺行為じゃねーか!』
グスタフの怒声が、あの場に集まった全員の胸を突き破った。
普段は不器用に笑い飛ばして場を和ませることの多い彼が、怒りと悲しみをないまぜにして声を荒げる姿に、イオリも思わず息を呑んだ。
『俺も反対だ。こっちは全員揃ってるんだ。そんな危険なマネしなくても、十分基地を奪還する戦力はある』
エーリッヒが珍しく冷静さを失い、怒気を帯びた声音で言い放つ。
彼の眼差しには、戦術の正否ではなく、仲間を危険にさらすことへの純粋な拒絶が宿っていた。
『もしどうしてもやるなら、今度は俺がやる。新人ばっかり危険な目に合わせらんねぇ』
続いたのはハンスだった。
いつもは軽口を叩き、茶化してばかりの彼が、その時ばかりは真剣な顔で言った。
仲間を庇おうとする強い意志が、場の空気をさらに重くする。
三人の古参兵が揃ってイオリを庇うように声を張り上げる。
その姿を思い出したイオリは、思わず小さく笑ってしまう。
「はは……いつもふざけてる先輩方のあんな姿、初めて見たな……」
しかし、その笑みはすぐに消えた。
彼の脳裏には、黙り込み、深く思案していたクラウスとシーマの姿がよみがえる。
『作戦は?』
静かながらも鋭いクラウスの声。
その一言が、場を一層張り詰めさせた。
『?!おい!クラウス!』
グスタフが責め立てるように叫ぶ。
しかしクラウスは片手を上げて制し、イオリをまっすぐに見据えた。
『こいつがこんなこと言う時は考えがあるんだ。まずはそれを聞いてから判断したい』
その言葉に、イオリは強く頷いた。
『はい。……まず、この隊の中で俺のイフリートが一番高速で動けますし、スモークも俺1機なら煙で姿を隠す分はあります。俺が煙幕を張りながら敵基地に突貫し、風穴を開けます。その隙を攻撃してください』
クラウスは眉を寄せ、問いを重ねる。
『基地内の制圧は?歩兵がいないと始まらんぞ』
『捕虜になっている連中に協力してもらいます。彼らは軍人です、やるべきことは分かってるはずです。ですので、まず最初に彼らを助けることが先決です』
さらにクラウスが静かに問う。
『もし仮に、強行突破に失敗した場合は?』
その問いに、イオリは一切の迷いを断ち切るように答えた。
『その時は俺が全力で時間を稼ぎます。その隙に撤退し、湾岸都市へ向かってください。俺が責任を取ります』
その瞬間、シーマが堪えきれずに口を挟んだ。
『その時は私も残るに決まってるじゃないか』
低く、しかし震えるような声。
そこにはイオリへの深い親愛と、置き去りにしたくないという激しい感情が混じっていた。
『ダメです。もしもの時は、みんなと一緒に撤退してください』
イオリの反対に、シーマは怒りを含んで睨みつける。
『ふざけんじゃないよ。上官に向かって反対するなんて、いい度胸じゃないか……もう前みたいなことは嫌なんだよ』
言葉の最後は、目を伏せるようにして絞り出された。
イオリはその表情を見て、何も言い返せなくなった。
そんな二人のやり取りを見ていたクラウスは、不意に笑みを浮かべた。
『ふ……決まったな。イオリの作戦でいこう』
『はい!』
力強く返事をするイオリに、クラウスは一転して厳しい声音を向ける。
『しかし!もし失敗した時は、力づくでもお前の首根っこを噛んで撤退するからな。俺たちは全員揃ってシーウルフだ』
その言葉に、先ほどまで反対していた三人も静かに頷いた。
イオリを絶対に見捨てない。
その意思が隊全体に共有された瞬間だった。
『よし。準備が出来次第作戦決行だ。時間はあまりないぞ、追ってきている連中は待ってくれない』
その言葉に、全員が揃って声を張り上げた。
『了解!』
記憶から現実に戻ったイオリは、狭いコックピットで拳を握りしめる。
「失敗できない……必ず成功させる」
その呟きは、自分に言い聞かせるようであり、仲間への誓いのようでもあった。
その時、無線にクラウスの低い声が響いた。
『イオリ、準備できたか?』
イオリは迷いなく応える。
「準備万端。いつでも」
短い沈黙の後、クラウスが静かに命令を下す。
『よし。……作戦開始だ』
空気を切り裂くように、狼たちの咆哮が始まろうとしていた。
後ちょっとで地球から出ます笑
長くなってすみません汗
もしもシリーズのカール
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なし!
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続編希望
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他のもしもシリーズ希望