転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
「おら!早くそこに座れ!!」
「動くんじゃねーぞ!」
怒号と共に突き付けられた銃口が、捕虜となったジオン兵士たちの顔を照らす。
前哨基地の広場は今や完全に連邦の支配下にあり、無残に散らばった残骸や焦げた匂いが漂っていた。
瓦礫の隙間から立ち昇る煙は、敗北の象徴そのものだった。
連邦軍の兵士たちは、基地奥にあった酒保を漁り、手に入れた酒瓶や缶詰を誇らしげに掲げながら、下卑た笑い声をあげていた。
「見ろよ、このブランデー!ジオンの連中もいいもん隠してやがったぜ!」
「こいつで今夜は宴だな。前線送りになる前に少しぐらい楽しませてもらわねぇと」
敗者の眼前で繰り広げられる卑劣な勝者の饗宴。
その光景は、捕虜となった兵士たちの胸に深い無力感を刻み込んでいた。
「くそっ、アイツら好き勝手にしやがって……」
1人の若いジオン兵が唇を噛みしめ、声を漏らした。
「お、おい、やめておけ。殺されるぞ」
隣の兵士が慌てて小声で制止する。
だが若者は抑え切れなかった。
「お前は悔しくないのか?!俺たちの基地がめちゃくちゃにされたんだぞ!基地を守るために戦った仲間の仇を討ちたくないのか!」
その叫びは、まるで広場に渦巻く空気を切り裂いたように響き渡った。
「……何だと?」
捕虜を監視していた連邦兵が振り向き、目を細めて若者を睨みつける。
「おい貴様!何を抜かしている!生きているだけありがたいと思え、この宇宙人どもが!」
怒声と共に銃口が向けられた。
「うるさい!貴様らこそ、人間の中の畜生共だろうが!!」
若者は怒りを抑えきれず叫び返す。
その瞬間、硬質な音が響き、激しい衝撃が頭蓋を揺さぶった。
銃床で殴られたのだ。
「ぐ……ッ」
血が滴り、視界が揺らぐ。
それでも、彼は倒れまいと踏ん張り、なおも連邦兵を睨み続けた。
「ふん、態度だけは一人前か。だがな、その態度が己を殺すんだ」
連邦兵は吐き捨てると、若者を乱暴に引きずり上げて歩き出した。
「おい!どこへ連れて行くんだ!」
「そいつはまだ若いんだ!殺すなら俺をやれ!」
後ろから仲間の叫びが飛ぶ。
だがそれも銃床で次々と殴り伏せられ、声は掻き消されていった。
壁際に引きずり出された若者は、意識を朦朧とさせながらも、必死に睨み返す。
その横顔に、連邦兵は冷たい笑みを浮かべ、低く呟いた。
「俺はな……お前個人を恨んでるわけじゃねぇ。ただジオンが許せないだけだ」
その声は独白のように淡々としていた。
「……コロニー落とし。あの地獄の作戦で、俺の妻と子供は跡形もなく消えたんだ。何も残らなかった。ただ瓦礫と灰しかな」
瞳に怒りとも悲しみともつかぬ光を宿し、兵士は続けた。
「お前に分かるか? 最愛の妻と、まだ幼かった娘が……文字通り“消える”んだぞ。跡形もなくな。俺が派兵先から帰った時には、影ひとつ残っていなかった」
その声には、憎しみを超えた虚無が滲んでいた。
「だから俺は、ジオン兵を殺すのに躊躇しない。害虫を踏み潰すのと同じだ。清々する……それだけなんだよ」
連邦兵は銃を構え、壁際に若者を座らせた。
銃口が、確実に引き金を絞られる位置に固定される。
「……さっき俺を“畜生”と呼んだな? 本当の畜生は、あんな作戦をやり遂げたジオンそのものだ」
兵士は冷酷に笑った。
「恨むなら、ジオンなんかに生まれた自分を恨め。言い残すことがあるなら聞いてやるよ」
冷笑を浮かべる兵士に対し、若者は中指を突き出し、血に濡れた唇を震わせて言い返す。
「ジーク……ジオン、だ。この野郎……」
「チッ、負け犬が」
引き金にかかった指がわずかに動いた、その時――
基地全体にけたたましいサイレンが鳴り響き渡る。
「な、なんだ?!」
サイレンに続いて、轟音が地響きのように響き渡る。
爆発音、機関砲の連射音――。
「敵襲だ! 早く来い!」
近くに止まった装甲車両から連邦兵が叫ぶ。
「敵襲だと?! ジオンの奴らは撤退したんじゃなかったのか?! 規模は!?」
「わからん! だが防衛部隊のジムが迎撃しているが……まだ撃破できてない! 捕虜なんか放っとけ! 援護に行くぞ!」
「ちっ……わかった!」
銃を構えていた兵士も舌打ちし、捕虜を放り捨てると装甲車へと駆け込む。
唸りを上げて走り去る装甲車両。
若きジオン兵は壁に凭れかかり、呼吸を整え、走り去る装甲車両を眺める。
だがその耳に届く爆音が――突然、途絶えた。
「……?」
不自然な沈黙が訪れる。
次の瞬間――
眺めていた、走り去っていく装甲車両が、眩い火柱とともに吹き飛んだ。
爆風が地を揺るがし、金属片が雨のように降り注ぐ。
黒煙を突き破り、巨影が降り立つ。
鋭いモノアイが淡く光り、ジオン兵を一瞬だけ見据える。
そして、無言のまま背を向け、前線へと歩み去っていく。
その機体は、死神のような灰色の出立だった。
だが――。
血に濡れた青年の瞳には、天使のように映っていた。
ーーーーーー
――数十分前。
イオリはコックピットに身を収め、深く息を吐いていた。
何故かその行動が気持ちを落ち着かせるからだ。
「……ふぅ。……そろそろ行くか、相棒」
静かな呟きと共に、彼は計器類に吊り下げられた小さな装甲片へ指先を伸ばす。
それは、かつて愛機であったザクの残骸。
共に戦場を駆け、そして散った仲間のような存在だった。
コツン、と軽く弾いた音は、金属の冷たさではなく、鐘のように響く。
次の瞬間、ペダルを深く踏み込む。
灰色のイフリートが咆哮するかのように加速する。
驚異的な推進力で一気に最高速度に到達し、地を抉るように疾駆する。
その姿は味方の目には狼達の先陣を切る英雄の如く、敵から見れば死神が迫る幻影のように映るだろう。
ーー遠くからその影を見守る者達がいた。
シーウルフ隊である。
「行ったな……」
グスタフが低く呟いた。
「よし、俺たちは手筈通り動く。イオリが開けた風穴に、雪崩れ込むぞ。直前まで無線は封鎖だ。傍受されて作戦が失敗しないようにな」
隊長クラウスの声が、全員の耳に鋭く響く。
各小隊はすぐさま持ち場へと散開し、突入の瞬間に備えて伏せる。
しかし緊張を紛らわすかのように、ハンスが小さく口を開いた。
「なぁ……もし失敗したら……」
その弱音を遮ったのは、凛とした女の声だった。
「イオリは絶対に失敗しない。成功させるに決まってる……そうじゃないと、困るんだよ」
シーマの声音には、絶対の信頼と、ほんの僅かな不安が滲んでいた。
「そ、そうっすよ! 小隊長が失敗するはずないっす! ハンス小隊長は心配性っす!」
カールが声を張り上げる。
「あぁ……小隊長は必ず成功させる。そういう人だ」
伍長エリックも短く言い切った。
その言葉にハンスが振り返り、少し声を荒げる。
「おいカール!お前最近、生意気だぞ!?」
「ふん!」
とそっぽを向くカール。
思わず笑いがこぼれ、緊張の糸が僅かに緩む。
だが次の瞬間、クラウスの鋭い声が空気を引き締めた。
「お前ら、集中しろ……見ろ、もうすぐ接敵だ。俺たちも行くぞ」
笑みは消え、全員が獲物に群がる直前の狼のような沈黙を取り戻す。
ーーーーーー
「さぁ……やるぞ!!」
その一声と共に、戦端が開かれた。
イフリートは爆発的な推力を生かし、前哨基地へと一直線に突撃していく。
監視任務についていた連邦兵たちが、望遠鏡越しにその姿を捉え、慌てふためいて警報を鳴らす。
「スモーク散布!」
イフリートからグレネード弾が射出され、イフリートの周りと進行方向に濃密な煙幕を張り巡らせる。
視界を奪われた連邦側は、煙の中へ闇雲に弾を撃ち込むしかなかった。
イオリは冷静だった。
圧倒的なGに身体を締め付けられながらも、紙一重で弾幕を掻い潜り、イフリートを縦横無尽に操る。
「ぐっ……!きつ……!」
視界が白み、肺が圧迫される。
だが、彼は奥歯を噛み締める。
「もう……少し……!」
やがて煙幕の切れ間から、前哨基地の輪郭が姿を現す。
イオリの瞳が鋭く光る。
「今!」
イフリートが宙を舞う。
わずかな滞空。
その瞬間、シュツルムファウストを二発連続で撃ち放つ。
閃光と爆炎が走り、監視塔とジム一機が同時に沈黙した。
着地の衝撃を利用して滑り込み、イフリートは捕虜収容所の近くに降り立つ。
その刹那、走り去ろうとした装甲車両を捉え、容赦なく引き金を引いた。
轟音。
炎に包まれて爆散する車両。
煙の向こうに、ボロボロの捕虜たちの姿があった。
打ち据えられ、血に塗れながらも、彼らは口々に叫んでいた。
『いいぞーー!!やっちまえ!』
『待ってたぞ!!』
『あのエンブレム……狼部隊だ!!』
声は届かない。
だが、その口の動きだけで十分だった。
イオリはわずかに笑みを浮かべ、呟く。
「はは……まだ元気そうで何よりだ」
安堵を胸に、再び周囲へと視線を走らせる。
――けたたましい警告音。
「来たか……!」
モノアイが鋭く動き、建物の隙間から迫る複数の敵影を捉える。
ビームライフルとマシンガンがこちらに狙いを定めていた。
だがイオリは退かない。
建物の影を縫うように一気に接近し、ヒートサーベルを抜き放つ。
「うらぁぁぁ!!」
突如飛び出したイフリートの刃は、反応の遅れたジムの腕を両断し、続いて胴体部分を貫く。
金属の断裂音と爆炎が重なり合い、ジムは火球と化す。
「次!」
イフリートが矢のように跳ぶ。
次の敵を一閃、さらにもう一機を袈裟斬りに。
鮮烈な光跡が刻まれ、敵は次々と沈黙していった。
「さぁ……次はどいつだ?」
灰色の巨体は佇み、迫り来る連邦軍部隊を睨み据える。
ーーーーーー
奪われた前哨基地の内部は、爆発音と土煙、そして機械の悲鳴が交錯する地獄と化していた。
「なにをしている!? 敵は1機だろ?! はやく撃破しろ!」
指揮所の奥で、連邦軍司令官は苛立ちを隠さず机を叩いた。
額には汗が滲み、声は震えていた。
「は! しかし、敵はおそらく相当な手練です! こちらのモビルスーツ隊が既に複数機撃破されてます!」
副官の声は怯えに濁っていた。
「ええぃ! たった1機にこの基地を奪われてたまるか!! 他の守備隊も全て向かわせろ!」
怒声が響く。
「そ、そんなことをすれば、他の守りが手薄になります!」
部下が制止するが、司令官は歯を食いしばり、椅子を蹴り飛ばさんばかりに立ち上がる。
「何を言っているか?! たった1機の敵モビルスーツに好き勝手やられているのだぞ?! 数で圧倒すれば一瞬でケリがつく! その後すぐに元の配置に戻せばいいのだ!」
渋々、部下が通信を開く。
「……どうなってもしらないぞ…… 第2、第3守備隊も敵機迎撃にむかえ。繰り返す……」
基地の内部で、灰色の巨影が舞う。
イフリート。
両腕の煙幕射出器はすでに弾を吐き尽くしていたが、それでもなお、戦場を縦横無尽に駆け抜けていた。
「ハァ……ハァ……」
コックピットの中でイオリは必死に呼吸を整えようとするが、荒くなる息は勝手に漏れる。汗が首筋を伝い、シートに染み込んでいく。
右手にはヒートサーベル、左手にはショットガン。
彼は躊躇なく戦車にショットガンを浴びせ、次の瞬間には跳躍してジムの頭部を両断する。
黒煙と爆炎が、基地の鉄骨に反響して轟く。
だが、その勝利の積み重ねが、次第にイオリを追い詰めていく。
「…! まだくるか!」
新手の戦車部隊が正面から突進してくる。
イオリは反射的にショットガンを向け、引き金を引く。
轟音とともに戦車の装甲が破れ、火花と油煙が舞った。
その直後。
耳をつんざくような警告音がコックピットに響く。
「……残弾、ゼロか……スモークも、ダメか……」
本隊の攻撃まで傍受されないように無線は使えない。
誰も助けには来ない。
イオリはゆっくりとショットガンを投げ捨て、両手にヒートサーベルを構えた。
白熱する刃が二筋、獰猛に輝く。
「さぁ……来いよ。相手になってやる!」
孤独な咆哮が鉄骨を震わせた。
ーーーーーー
イフリートの周囲を囲んだ連邦軍の戦車とモビルスーツが、一斉に銃口と砲口を向ける。
「やつは弾切れだぞ!! 近づく必要はない! 遠間から撃ちまくれ!」
「好き勝手しやがって……穴だらけにしてやるよ!!」
指揮所では、司令官が狂気じみた笑みを浮かべていた。
「はは、やっと堪忍したか! 守備隊に連絡しろ。手足のみを破壊し、パイロットは捕虜にしろとな。奴は捕虜の前で銃殺刑だ。少しでもヤツらに期待を持たせたのだからな、今度は絶望を味わってもらおう」
「は、了解です……」
副官が唇を噛みながら頷き、伝令を飛ばす。
だが、その時。
「……ん? なんだあれは……」
指揮所の兵士のひとりが、ふと別方向に目を向けた。
空高く舞い上がる、巨大な土煙。
「なんだ?」
と望遠鏡を上げた瞬間、彼の目に映ったのは、進軍するザクの部隊であった。
銃口をこちらに向け、地を蹴り迫ってくる群影。
「……はぁ?」
思考が凍りつく。
その刹那、ザクのひとつがバズーカを構え、火焔が吐き出された。
「た、退避ー!!」
兵士の絶叫が指揮所に響く。
司令官は
「うん? なにをそんなに慌てているのだ、奴ならもう直ぐ……」
と言いかけたまま、轟音と爆炎が指揮所を呑み込む。
ーーーーーー
弾切れのイフリート。
連邦軍の銃火が放たれようとしたその瞬間。
「ーー待たせたな、少尉」
轟く声とともに、敵陣を貫く弾丸の雨。
炎を切り裂き、黒色のグフカスタムがイフリートの前に降り立つ。
シールドに取り付けられたガトリングが唸りを上げ、迫り来るジムに対し牽制射撃を行う。
「遅いですよ! 隊長!」
イオリは笑いながら叫ぶ。
クラウスは口元を緩め、
「俺だけじゃないぞ」
と低く応じた。
その言葉と同時に、建物の影からイフリートを狙っていたジムが、背後から撃たれ、炎に包まれる。
「少尉ーーー! お待たせっす!」
「遅くなりました! 少尉!」
カールとエリックの声が無線に飛び込み、2機のザクがブーストを吹かして駆けつける。
さらに周囲の屋根に、グスタフやベテランのザク達が次々と降り立ち、一斉に火線を開いた。
「がははは!! なんだ少尉! 今回はボロボロじゃないんだな!!」
グスタフの豪快な笑いが響く。
「曹長! めちゃくちゃ頑張りましたよ!! 来るの遅くないですか!?」
イオリは嫌味を含ませながらも笑みを返す。
クラウスは横目で彼を見て、ふっと笑った。
「そう言うな。これでも”急いだ”んだ……ふっ、2回目だなこのセリフは。と言っても、あの時とは全く状況が違うがな」
視線を巡らせるクラウス。
脳裏に浮かんだのは、かつて囮役としてズタボロになりながらも仲間の為に戦った若き少尉の姿だった。
だが今、彼は傷ひとつ負わず、弾薬を使い果たすまで戦い抜いて立っている。
――もう、若造ではない。
クラウスの胸に、そんな誇りにも似た思いがよぎる。
「シーマ中尉達は?」
イオリが息を整えながら問う。
「アイツらは捕虜のところに行って解放してるはずだ。制圧も時間の問題だろう」
クラウスは静かに答えた。
その声は、戦場の轟音の中でも確かに届いた。
戦況はもはや、シーウルフ隊の手の中にあった。
ーーーーーー
捕虜解放の進展は意外なほどに早かった。
捕虜の解放は、ほとんど抵抗を受けずに進んでいった。
理由は単純だ。
――イオリが基地内部で暴れまわっていたからだ。
灰色のイフリートが敵戦力を引きつけ、破壊と混乱を撒き散らした結果、捕虜収容所周辺の警備は手薄となり、シーマ率いる第2小隊と第4小隊及び第5小隊は大きな障害もなく目的地に到達していた。
疲弊しきったジオン兵たちが次々と解放されていく。
痩せこけた顔、擦り切れた軍服、だがその瞳には希望の光がかすかに戻り始めていた。
「ほら! さっさと武器を拾って、この基地を奪い返しな!」
シーマは苛立ちを隠さぬ声音でザクの拡声機能を使い叫んだ。
ライフルを受け取った捕虜たちは、その迫力に思わず後ずさる。
彼女の瞳には鋭い光が宿り、その振る舞いは冷徹な司令官そのものだった。
「ひぃ〜……おっかねぇ。あのザク乗ってるの女か?」
「噂に聞く、あれが“狼部隊の女豹”ってやつか?」
「間違いねぇ。噂だと……隊長よりも権限があるらしいぜ」
「なんでも、不満があれば部下や他の隊員に銃を向けて脅すらしい……」
捕虜から解放された兵士たちの囁きは、畏怖と伝説めいた噂話で入り混じっていた。
そんな彼らも、生え抜きの歩兵だ、やることは分かっていた。
武器を装備すると、即座に部隊編成を実施し、各要所へと向かい制圧行動に移行していった。
彼女の様子を見ていた、第2小隊の隊員のひとりが低く呟く。
「なぁ……姐さん、めっちゃ荒れてないか?」
もう一人が苦笑混じりに返す。
「だよな。あれは相当キレてるぞ……捕虜に対しての態度じゃねぇよな」
やれやれ、と器用にザクの肩をすくめた彼らの会話に、横からハンスの渋い声が割り込んだ。
「お前ら、分かってねぇな。姐さんはな……イオリの救援組に入れられてねぇことにキレてんのさ」
エーリッヒがすぐに同意する。
「そーそー。隊長にあんだけ『アタシがイオリの救援じゃないってどういうことだい?!』ってキレてたもんな」
四人は一様にため息をつき、呆れ顔を見合わせた。
「まったく……」
彼らは長い付き合いゆえに、シーマの苛立ちの理由を正確に理解していた。
その時だった。
突如、コックピットに甲高い警告音が鳴り響く。
「……っ! 新手か?!」
「マルチロック?! 手練だぞ、気をつけろ!」
「建物の影に入れ! 身を出すな!」
「付近の奴らに報告しろ!」
歴戦の猛者らしい反応だった。
一瞬の迷いもなく、彼らはザクの身を翻し、遮蔽物へと移動させる。
その動きに無駄はなく、まさに狩人のそれだった。
だが、ロックオン方向へと視線を向けた瞬間――
彼らの動きは凍りついた。
「……へ?」
建物の影に立っていたのは、敵ではない。
黄土色と紫に塗装されたザクⅡM、その威容は見間違うはずもない。
シーマの機体だった。
「アンタら、暇そうだね?」
その冷徹な声が通信に割り込む。
「……とっとと、歩兵達の援護でもしに行きな!!」
鋭い叱責に押し出されるように、四機のザクが「了解ッ!」と返し、散開して兵士の援護へと走った。
静寂が訪れる。
シーマはひとり、モニターに映る青白いレーダーの光をじっと見つめていた。
そこに点滅するのは、イフリート――イオリのシグナル。
「……ハァ」
安堵と悔しさが入り混じった吐息が、狭いコックピットに溶けていく。
本当なら、彼の横に並んで戦いたかった。
彼の窮地に駆けつけ、自分の手で支えたかった。
だが今は叶わない。
シーマは無意識に、レーダー上のシグナルに指を伸ばし、その軌跡をなぞった。
彼女の瞳が、ふと柔らかさを帯びる。
「心配ばかりかけるね、アンタは……」
わずかに微笑んだその顔は、冷徹な“女豹”ではなく、一人の女性としてのものだった。
戦場の喧噪の中、誰も知ることのない表情を浮かべながら、彼女はイオリの無事を確かめるように、画面の光点を見つめ続けていた。
もしもシリーズのカールちゃんがみなさん案外好きなようで嬉しいです笑
もしもシリーズのカール
-
可愛い
-
なし!
-
続編希望
-
他のもしもシリーズ希望