転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第82話 湾岸都市

湾岸都市は、夜明けと共に地獄へと変わりつつあった。

 

黒煙が立ち込め、遠くで爆発の光が空を染める。

夜の名残を焼き払うかのように、火炎が街の輪郭を照らし出していた。

そこに響くのは、無線の断続音と、金属の軋むような悲鳴だけ。

 

「――第1防衛ライン突破されました!」

「第2防衛ラインも……限界です!!」

 

報告の声が重なり合い、悲鳴のように艦橋を満たした。

 

ザンジバル級機動巡洋艦《ヘルヴォル》――

その艦橋では、ゲルハルト・アイゼンベルク大佐が前線指揮を執っていた。

だが、もはや「防衛戦」と呼ぶにはあまりにも無残な状況だった。

実際には、崩壊寸前の友軍を守りながらの撤退戦――それも、最後の一線での足掻きだった。

 

「すぐさま、第3防衛ラインと第4防衛ラインの部隊を統合しろ。第4ラインで敵を迎撃する! HLVの発射状況はどうなっている!?」

 

ゲルハルトの声は、怒鳴るでもなく、しかし一切の迷いを含まない。

だが返ってくる報告は、どれも頭痛の種ばかりだった。

 

「はっ! 現在、HLVへの積み込み作業は続行中ですが……敵の攻撃が激しく、作業に大幅な遅延が発生しています!」

 

ゲルハルトは眉間に皺を寄せた。

額には疲労の汗が滲み、それでもその目だけは鋭く前を見据えている。

 

「味方航空部隊はどうした!」

 

「迎撃に向かっていますが、数の差が大きく……!制空権は連邦側です!地上部隊への支援は困難な状態です!」

 

「ならば――対空部隊を前線から下げろ。空に集中させろ!」

 

「ですが、それでは前線が敵航空機に晒されます!」

 

「構わん!」

 

ゲルハルトの怒声が艦橋を震わせた。

 

「まずは制空権を取り戻すのが先決だ! たとえ数分でもいい、その時間があれば、HLVを発射できる!」

 

艦橋の中で、誰もが息を呑んだ。

ゲルハルトの声には、経験に裏打ちされた確信があった。

それは無謀ではない。戦場を知り尽くした男の“賭け”だった。

 

湾岸都市の防衛戦――当初から困難は明白だった。

四方から押し寄せる連邦軍に対し、ジオン側の戦力は半数にも満たない。

地形を活かした防衛を組もうにも、部隊はすでに損耗し、補給も途絶していた。

 

それでもこの都市がいまだ陥ちていないのは、

この男、ゲルハルト・アイゼンベルクの采配があったからこそだった。

 

各部隊の位置、撤退経路、援護タイミング――

その全てを瞬時に判断し、極限の中で味方を生かし続けてきた。

 

だが、その姿を見ている者の中に、

この防衛線が「もはや限界」であると悟っている者も少なくなかった。

 

本来、この戦域の指揮はゲルハルトより上位の将官が担うはずだった。

だが、その男は――戦闘開始前に、側近だけを連れて真っ先に撤退したのだ。

残されたのは、誇りを捨てぬ者たちと、この老将のみ。

 

ゲルハルトは唇を噛み、短く息を吐く。

 

(……くそったれめ。我先に逃げおって、何が軍人か)

 

それでも、指揮は止めなかった。

 

「各部隊に伝えろ。持ち場を死守しろ。HLVを上げなければ、この戦闘は全て無駄になる。」

 

「了解!」

 

次の瞬間、オペレーターの一人が振り返り、叫んだ。

 

「艦長!! 敵の新手が現れました!」

 

「なんだと!?」

 

ゲルハルトがマップに目をやると、

ヘルヴォルが停泊する発射場へと通じるルートに、

新たな赤い反応が出現していた。

 

「数は?!」

 

「複数です! モビルスーツ小隊を含む、少なくとも中隊規模!」

 

「防衛部隊を回せ! 即座に迎撃だ!」

 

「しかし! 周辺の防衛部隊はすでに他の敵部隊と交戦中!残存する防衛部隊では手に負えません!」

 

艦橋に緊迫と沈黙が走る。

モニターの赤い点が、じりじりと発射場へと迫る。

次から次に届く悲報。

目の前で散っていく仲間達。

そこに、新たな敵の出現という決定打。

皆精魂つきかけていた。

 

誰もが顔を強張らせる中、ゲルハルトは静かに目を閉じた。

さすが勇猛な老将も打つ手が思い浮かばなかった。

(……ここまでか)

彼の脳裏に、部下たちの顔が浮かぶ。

クラウス。シーマ。イオリーー

(……せめて、あの連中だけでも……)

 

その時だった。

 

――キン、と短い無線の受信音が艦橋に響く。

 

『こちらはシーウルフ隊隊長、クラウス・シュレンケ少佐。……ヘルヴォル、聞こえるか!?』

 

その声が艦橋に響いた瞬間、

張りつめていた空気が一気に揺らいだ。

誰もが顔を上げ、オペレーターの手が止まる。

 

「クラウス……!」

 

ゲルハルトの口元が、初めてわずかに緩んだ。

 

艦橋の誰もが息を呑み、互いに顔を見合わせる。

絶望の底に沈みかけたその時、“狼”たちの声が、諦めかけていた心に再び火を灯したのだった。

 

ーーーーーー

 

アイゼン伍長の報告を受けたクラウスたちは、すぐに機体を走らせた。

夜明けの薄明が地平線を染める頃、彼らの前に広がったのは、もはや“都市”とは呼べない地獄の光景だった。

 

崩れ落ちる高層ビル群。

赤黒い煙が空を覆い、連邦の戦車とモビルスーツが、街路を蹂躙する。

防衛線はすでに瓦解し、退路を失った味方の部隊が次々と倒れていく。

炎の音と破壊音が混じり合い、街は“呻き声”を挙げているかのようだった。

 

「……なんだ、これは……」

 

誰ともなく洩れた声が、無線越しに沈痛に響いた。

それは呆然というよりも、怒りと悲嘆の入り混じった呻きであった。

 

クラウスはグフカスタムの視認装置を起動し、遠方を望む。

――燃え盛る港湾施設の奥、爆炎の中に一隻の艦影。

見慣れた艦体。

ザンジバル級機動巡洋艦「ヘルヴォル」

黒煙の中で、なお主砲を撃ち続けていた。

 

「ヘルヴォル……生きてるな」

 

クラウスは息を呑むと、無線の送信スイッチを叩く。

 

「こちらはシーウルフ隊隊長、クラウス・シュレンケ少佐。……ヘルヴォル、聞こえるか!?」

 

数秒の沈黙。

だが、次の瞬間、聞き慣れた低く威厳ある声が返ってきた。

 

『こちらヘルヴォル艦長、ゲルハルト・アイゼンベルク大佐だ。……遅かったじゃないか、クラウス少佐』

 

ゲルハルトの声は、炎と硝煙の中でも揺るがぬ鋼のように響いた。

クラウスはその声に一瞬だけ安堵の笑みを浮かべる。

 

「申し訳ありません。クラウス以下、シーウルフ隊十五名、全員無事です。これよりそちらに向かいます」

 

『……生きていてくれて何よりだ。だが状況は最悪だ。本艦は敵の新手に包囲されつつある。至急、迎撃に当たってもらいたい。できるか?』

 

「了解。全力で向かいます」

 

『待っている。お前達が来るまで、こちらは全力で抗うとしよう』

 

クラウスはゲルハルトからの返事を聞くと、深く息を吐き、即座に全機へ指示を飛ばした。

 

「全隊聞け! 第1、第2、第3小隊はこのままヘルヴォルへ直行! 第4、第5小隊は車両部隊を護衛しながら追随しろ!」

 

その声に、全員の機体が一斉に姿勢を正す。

しかし、ハンスの声が沈黙を破る。

 

「隊長、それでは戦力が分散します。途中で敵と遭遇すれば、弾薬の減った3個小隊だけじゃ突破に時間がかかります。全員で行った方がいいんじゃないですか?」

 

クラウスは一瞬だけ黙し、燃える都市を見つめた。

崩れ落ちるビル群の奥――ヘルヴォルの位置までの距離を計算する。

たとえ全力で走っても、途中で確実に敵と遭遇する。

しかし、護衛なしで車両部隊を置いていくなど、あり得ない。

 

「……だが、車両部隊の護衛は必要だ。彼らを見捨てるわけにはいかん。ヘルヴォルまでは距離がある。やるしかない」

 

その声には迷いがなかった。

クラウスがそう言う時、それは“命令”ではなく“覚悟”である。

ハンスは小さく息を吐き、

「了解です」 

と答えた。

 

その時だった――。

 

無線に割り込むように、別の通信が入る。

前哨基地の生き残りを乗せた車両部隊の下士官からだった。

 

『シーウルフ隊、こちら車列指揮官。これより我々は貴隊の母艦ではなく、湾岸部のHLV発射場へ向かいます。護衛はここまでで十分。貴隊は母艦へ急行してください』

 

クラウスの眉がぴくりと動いた。

そして、誰よりも先にイオリが声を荒げる。

 

「待て! お前たちだけで行く気か!? そのルートは連邦軍の包囲線の中だぞ! どう考えても――!」

 

『承知の上です。しかし、私達は貴方達の足枷にはなりたくない。大丈夫です、貴方達に救ってもらったこの命。無駄にはしません』

 

淡々とした声だった。だが、その裏には確固たる覚悟があった。

イオリはなおも食い下がろうとする。

 

「足枷だと!? 無茶だ、やめ――!」

 

「イオリ」

 

その声が、イオリの言葉を静かに断ち切る。

シーマだった。

彼女は静かにイオリの名を呼び、柔らかく、しかし強く言葉を続けた。

 

「彼らは、アタシたちを思って決めたんだ。その思いを無碍にするのはやめなよ。……アンタの優しさは分かる。でも、彼らの覚悟を信じてやんな」

 

その声に、イオリは口を閉ざした。

唇を噛み、視線を伏せ、ただ静かに頷く。

全員が知っていた。

――護衛の伴わない非武装の車列が、この戦場で生き延びる可能性など、ほとんど無い。

だが、誰一人として、その現実を口にする者はいなかった。

 

クラウスが最後に通信を開く。

 

「……再確認する。本当にいいのか?」

 

『えぇ。もう決めました。行ってください。少佐……皆さん、ここまでありがとうございました』

 

車両部隊の前に立つ下士官が、モビルスーツに向けゆっくりと敬礼した。

後ろでは、負傷兵たちが松葉杖を支え、互いに肩を貸しながら、それでもまっすぐに立ち上がっていた。

その姿は、誰よりも誇り高く、そして痛ましかった。

 

クラウスは目を閉じ、息を整える。

次に目を開いた時、彼の瞳には一片の迷いもなかった。

 

「……了解した。シーウルフ隊、全機――ヘルヴォルへ向けて急行する!」

 

そして、低く、敬意を込めて続けた。

 

「貴官らが無事にHLVに辿り着くことを、心から願う」

 

その言葉に、車両部隊の無線が震えた。

 

『こちらこそ……貴隊のご健闘を祈ります。ジオンに栄光を』

 

通信が途絶える。

静寂が訪れた瞬間、クラウスのグフカスタムが、車両部隊に向けて静かに敬礼した。

それに続き、シーウルフ隊全機が右腕を掲げる。

――鉄の巨躯たちが、覚悟を決めた仲間に最後の敬意を送る。

 

そして次の瞬間、

15機のモビルスーツが一斉にブースターを点火し、夜明けの空へと飛び立った。

燃え立つ都市の炎を背に、灰色の機体が、朝焼けの光を反射する。

その姿は、誇りと悲しみを背負い、尚も未来へと進もうともがいているようだった。

 

ーーーーーー

 

「左方より敵接近! 戦車とモビルスーツの混成部隊です!!」

「右方からも来る! 戦車と……戦闘ヘリだ!!」

 

報告の声が無線を満たす。

ヘルヴォルへ向かうシーウルフ隊は、炎と瓦礫に沈む湾岸都市の市街地へ突入していた。

ビルの残骸が倒れ、道路はクレーターと瓦礫で寸断されている。

空には戦闘ヘリが群れをなし、地上では連邦軍の戦車が火を噴いていた。

 

「……チッ、予想以上に敵が多いな」

 

クラウスは短く息を吐くと、即座に指示を下した。

 

「第2小隊! 左方の敵を押さえろ! 第4小隊は右方だ! 撃破までは不要、足止めで十分だ! 残りの小隊はこのままヘルヴォルへ急行する!」

 

彼の声は落ち着いている。

だが、そこに込められた緊迫と確信が、全員の心を支えていた。

 

「いいか!? 無茶はするな! ある程度足止めしたらすぐ追ってこい! 道は俺たちが作っといてやる!!」

 

クラウスの指示に対し

『了解!!』『任せろ!』

と各小隊の無線が一斉に応じる。

 

誰一人、疑う者はいなかった。

クラウスの判断は常に正確であり、彼の指示によりシーウルフ隊は戦い抜いてきた。

 

「あいよ!第2小隊、行くよ!」

 

シーマの声が響く。

その声には、戦場に似つかわしくないほど明るさがあった。

 

『ぃ喜んでぇー!!』

 

彼女の小隊の部下たちが応じ、瓦礫の街へ突撃していく。

それはまるで死地へ笑いながら踏み込んでいく、戦鬼のような姿であった。

 

「4小隊、右だ! 無理はするなよ、機動を優先しろ!」

『了解!』

 

次々に小隊が散開し、煙と火花の中へ消えていく。

各機のスラスターが瓦礫の破片を巻き上げ、砂塵と炎の渦が戦場を覆った。

その中で、クラウスは前を見据えたまま、ヘルヴォルの方角へ進む。

部下を信頼しているからこその突撃だった。

 

「シーマさん! 無茶はしないでください。先に行って待ってます」

 

イオリの声が無線に乗る。

シーマは短く笑い、モニター越しに口角を上げた。

 

「誰に言ってんだい?心配性だね。とっとと片付けて追いかけるよ」

 

その笑みは、戦場で生きる者だけが持つ“死と隣り合わせの優しさ”だった。

そして彼女の機体は、小隊を引き連れ敵陣へと消えていく。

 

「おい! イオリ! 俺には何か言うことねぇのか!?」

 

エーリッヒの冗談交じりの叫びが聞こえる。

だがイオリはそれには応えず、ただスロットルを開き、ヘルヴォルへのルートを突き進んでいく。

 

クラウスは市街地を抜けながら、戦況を瞬時に把握していく。

敵の数、陣形、火線の密度――それらすべてを頭の中で組み立てると、各小隊を逐次的に“切り離しながら”進撃するという戦術を即断した。

接敵するたびに、一個小隊が敵を押さえ、残りが進む。

その間に再合流し、また次の敵を止める。

まさに“駆動しながらの戦術転換”。

常人なら混乱する状況下で、クラウスは一瞬の迷いもなく、仲間たちを導いていった。

 

その結果、彼らは想定よりもはるかに早く、ヘルヴォルの防衛線まで辿り着いたのだった。

 

ーーーーーー

 

「艦長! 敵部隊が発射場の防衛線を突破! 本艦へ接近してきます!」

 

悲鳴にも似た報告が、通信室を満たす。

ゲルハルトは眉をひとつ動かし、即座に命じた。

 

「対地防御配置! 全砲塔、ミサイル、機関砲を目標に指向させよ!」

 

鋼鉄の艦体が唸りを上げ、砲塔が回転を始める。

地上に停泊したザンジバル級ーーそれは動けぬ巨体であり、戦場ではただの的に等しかった。

それでも、ゲルハルトの指揮は一切揺るがない。

 

「敵部隊、左右に展開中! モビルスーツ部隊も確認!」

 

「ミサイルをマルチロックに変更! 左右の敵を牽制しろ!」

 

直後、轟音と共に艦側のハッチが開き、数十発のミサイルが一斉に火を噴いた。

爆煙が地を覆い、衝撃波でガラスが砕け散る。

だが、連邦の戦車部隊は怯まない。

地を這うように進み、重火器の砲弾がヘルヴォルの装甲を叩きつけた。

 

「右舷、被弾! 装甲板に損傷!」

「応急班、急げ! 損傷を最小限に抑えろ!」

 

ゲルハルトは拳を握りしめ、モニターに映る敵影を睨んだ。

敵のモビルスーツが一機、いつのまにか艦橋の正面に立っていた。

その手には、ライフル。

銃口がゆっくりとヘルヴォルの艦橋を狙う。

 

「いつの間に……!? 砲塔旋回! 正面迎撃!」

 

「ダメです!間に合いません!!」

 

誰もがその瞬間、死を覚悟した。

 

ーーだが。

 

閃光。

次の瞬間、敵モビルスーツの胴体が、背後から真一文字に両断される。

火花を散らし、機体は爆煙と共に崩れ落ちた。

その背後から、黒鉄の影が現れる。

黒一色のグフ・カスタム――その背後には傷だらけながらも堂々たる威風を纏っているモビルスーツ部隊が控えていた。

 

「……おそかったじゃないか!」

 

「遅くなりました」

 

通信が入る。

冷静で、だが胸を震わせるほど頼もしい声。

 

「シーウルフ隊、クラウス・シュレンケ。これよりヘルヴォルと合流します」

 

その言葉が響いた瞬間、艦内に歓声が上がった。

絶望に支配されていた艦橋に、希望の光が差し込む。

ゲルハルトは静かに息を吐き、椅子にもたれる。

 

「……待っていたぞ……!」

 

 




くっ!!
何故か、かっこいい軍人はジオンに多い印象!
アニメや漫画では、こういった名もなき兵士達の勇姿が描かれることが多いですよね、感動です笑

もしも、おまけシリーズ。あったら何が見たい?

  • エリックと女の子カールの続き
  • ハンスとエーリッヒ
  • もしもイオリが連邦側だったら?
  • イオリとシーマの日常
  • ………R18笑
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