転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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第83話 帰還、戦闘

 

「全機!各小隊ごとにヘルヴォルの周囲へ展開しろ!展開後は付近の敵を掃討する!!」

 

クラウスの声が通信網を駆け抜けた。

その瞬間、シーウルフ隊の各機が一斉に動く。黒、灰、緑……戦場の灰色に染まる街の上を、鉄の影が疾駆する。

 

「エリック、カール!左右に行け!俺は正面から行く!」

 

イオリの灰色のイフリートが、まっすぐに敵陣の只中へと突き進む。

 

『正面から来たぞ!あのイフリートだ!』

 

『バカめ、蜂の巣にしてやれ!』

 

連邦のジム部隊が一斉に照準を合わせる。

その瞬間、閃光が走った。狙いを定めていたジムの頭部が爆ぜ、地面へと崩れ落ちる。

 

「ふん、そんな簡単にやらせると思ってるのか」

 

エリックのザクが構える対艦ライフルの銃口から、なおも煙が上がっていた。

 

『くそっ!ライフル持ちをやれ!』

 

敵の狙いがエリックに向けられたその時――

今度は反対側から、ミサイルとマシンガンの雨が降り注ぐ。

 

「一つの的に夢中になっちゃダメっすよ?」

 

カールの明るい声とともに、ミサイルポッドが吐き出す炎の軌跡が敵陣を貫く。

二人の援護に怯んだ敵部隊、その隙を突くように――イオリのイフリートが、飛び出す。

 

「意思の疎通がなってないな。だから、こうやって一方的にやられるんだ」

 

灰色の巨影がヒートサーベルを振り抜き、至近距離でジムを達磨のように切り裂く。

続けざまに、もう一機へとヒートサーベルを投げつける。

赤熱した刃が敵機の胸を貫き、爆炎が上がった。

 

「エリック、カール。残敵報告」

 

「こちらエリック、付近に敵なし」

 

「カールっす、残党は見当たりません」

 

イオリは息を整え、無線を開く。

 

「隊長、第3小隊、付近の敵を殲滅しました」

 

クラウスの声が応える。

 

「了解した。俺たち第1小隊とハンス達第5小隊も片付いた。一度集まれ」

 

――街の火の手が夜空を焦がす中、シーウルフの機体たちが次々とヘルヴォルの周囲に集結していく。

 

「艦長、付近の敵は掃討しました」

 

クラウスは通信を開く。

 

『助かった。さすがだ、少佐』

 

ゲルハルトの低い声が返ってくる。

 

「いえ、到着が遅くなり申し訳ありません。それで、現在の戦況は?」

 

『……恐らく、少佐の想像通りだ。我らジオンは圧倒的劣勢だ。連邦軍がオデッサ北部の防衛線を突破し、基地は戦闘中。ここ湾岸都市も包囲されており、陥落は時間の問題だろう』

 

沈黙が訪れた。

誰もが知りたくなかった現実――それが今、言葉となって降りかかる。

 

「そんなに酷い状況だったのか。どうりで、連邦の奴ら勢いだけはスゲぇと思った」

 

ハンスが舌打ちをする。

クラウスは短く息を吐き、顔を上げた。

 

「了解しました。これからどう動くべきですか?」

 

『我々は味方のHLV発射を見届けた後、ヘルヴォルで宇宙へ脱出する手筈だ』

 

「HLVの護衛は? それに、よく単艦でここまで持ちこたえましたね。護衛機は?」

 

『HLVの護衛は他の部隊に任せてある。当艦に付いていた護衛機も全てそちらへ回した。少佐たちにはヘルヴォルの防衛を頼みたい』

 

ゲルハルトの声が低く響く。

 

『ところで、第2小隊と第4小隊の姿が見えんが?』

 

クラウスは眉をひそめる。

 

「彼らは、俺たちがここに到着するための足止めを行っています。もうまもなく到着するはず――」

 

言い終える前に、後方で爆発音が轟いた。

黒煙を割って、ボロボロになった四機のザクが現れる。脚部は焼け焦げ、装甲は剥がれ落ち、もはや戦闘機能を維持しているのが奇跡のようだった。

 

「どうした!? 何があった!」

 

クラウスが叫ぶ。

 

「すみません!隊長!! 足止めをしていましたが、敵の数が増え続け……弾薬が尽き、我々は被弾しました!」

 

クラウスの表情が険しくなる。

 

「シーマとエーリッヒは?!」

 

「姐さんとエーリッヒ軍曹は俺たちを逃がすため、まだ残って敵を食い止めています! お願いです、隊長!すぐに援軍を!! あの数は二人でも無理です!!」

 

その報告を聞き終える前に――

灰色の影が走り出した。

 

「待て! 少尉!!」

 

クラウスの制止を振り切り、イオリのイフリートが炎の街を突き抜けていく。

背後に響くのは、仲間の呼ぶ声でも、爆発音でもない。

――不安からくる、うるさいほど鳴る心臓の音だった。

 

『シーマさん……今行きます!!』

 

イオリの叫びが夜空を裂く。

その声を掻き消すように、再び戦場が咆哮を上げた。

 

ーーーーーー

 

「エーリッヒ!!右だよ!!」

 

「中尉!後ろだ!!」

 

怒号と爆音が入り乱れる。

視界の先は、煙と粉塵と火炎で何も見えない。

だが、確かに敵はそこにいる。

 

部下たちを逃がしたあと、戦場に残されたのはたった二機。

――黄土色のザク・マリーンと、深緑の機体。

シーマとエーリッヒ。

 

彼らはまるで、退くことを知らぬ鬼人のように、連邦軍の進撃を食い止め続けていた。

 

「まったく、元気な連中だね!!」

 

シーマのマシンガンが吠える。

撃ち出される弾丸が、ビルの陰に潜むジムの装甲を穿ち、機体を穴だらけにする。

 

「本当にな!!どっから湧いてきやがる!」

 

エーリッヒは叫びながら、至近距離でヒートホークを叩き込む。

焼けた鉄の臭いと油の煙が、コックピットの中にまで流れ込んできた。

 

「エーリッヒ!無線はダメなのかい?!」

 

「さっきから試してるが繋がらん!広域ジャマーか何かだ!!」

 

「クソッ……!」

 

二人のザクは、退路を断たれた廃墟の中で、孤立していた。

遠くからは、戦車の履帯が軋む音、戦闘ヘリのローター音が次第に近づいてくる。

 

「俺たちも退却しよう!」

 

エーリッヒは弾丸を避けながら、ビルの陰に飛び込む。

崩れ落ちた壁面が衝撃で粉砕し、コンクリート片が雨のように降り注いだ。

 

「何言ってんだい!今アタシらが引いたら、コイツらがヘルヴォルまで行っちまうだろ!」

 

シーマの声が、怒号と爆音の中でもはっきりと響く。

 

「そうなったら、ただでさえ満身創痍なシーウルフ隊じゃ、太刀打ちできないよ!」

 

その瞳には、恐怖ではなく、仲間を守る確かな意志が宿っていた。

泥に塗れたザクの足元で、弾丸が跳ねる。

煙が立ち込め、空は夕陽と火炎で真っ赤に染まっていた。

 

「クソが!!……は!まぁいいか、部下は逃すことができたんだ。悔いはない」

 

エーリッヒはそう言うと、遮蔽物から飛び出し、脚部ミサイルポッドを撃ち放つ。

煙を吐く筒から火線が奔り、連邦の戦車部隊の先頭車両が吹き飛んだ。

 

「ふん、アンタ死ぬ気なのかい?アタシは死ぬ気なんてさらさら無いからね!」

 

シーマは単発撃ちでマシンガンを撃ち、弾を節約しながら敵の間を縫うように動く。

 

「愛しのイオリに会うためってか?」

 

「うっさい!!帰還したら覚えてな!!」

 

二人の声は、爆炎の中でもどこか笑っていた。

その笑いが、極限の恐怖を押し殺すためのものだと互いに分かっていた。

 

そして――再び銃声が激化する。

シーマとエーリッヒは、連携を取りながら敵部隊を削る。

 

ビルの谷間で、マシンガンを撃ち尽くし、バズーカを放ち、敵を引き裂く。

だが、数が違った。

連邦軍は次から次へと増援を送り込み、包囲網を狭めていく。

 

「チッ、弾切れだよ!!ヒートホークに持ち替える!」

 

「俺もだ!」

 

ザクの両腕が構えを変え、熱を帯びたヒートホークが唸りを上げる。

斬撃。

閃光。

衝撃。

火花と泥が舞い上がる。

 

彼らはもう戦術も何もなかった。

ただ、本隊を守るため――命を繋ぐため――

己の肉体の限り、敵を斬り裂くしかなかった。

 

敵の銃弾が装甲を穿ち、爆風が視界を奪う。

シーマの機体が膝を突く。

それでも立ち上がる。

エーリッヒのザクが腕を失い、それでも敵を蹴り倒す。

 

――やがて、すべての銃声が遠のいた。

 

残されたのは、煙の中に沈む二機のザク。

互いに支え合うようにして、膝をついていた。

 

装甲は砕け、腕は失われ、頭部カメラは撃ち抜かれている。

コックピットの中、アラームが鳴り響く。

うるさいほどだったそれも、今はかすかにしか聞こえない。

 

「ハァ……ハァ……。中尉、俺たち……十分やったよな?」

 

エーリッヒの息が荒い。

血が頬を伝う。

 

「……そんなこと、アタシに聞くんじゃないよ」

 

シーマはかすれた声で答える。

指先が震える。

操縦桿を握る手に力が入らない。

 

――サブモニターの映像に、敵の影が映る。

銃口が、こちらを向いていた。

 

シーマは、最後の力でその姿を睨みつけた。

歯を食いしばり、目を閉じる。

 

『……ここまでか。……イオリ……最期にもう一度、アンタに会いたかったよ……』

 

傾いた太陽の光が、コックピットの割れた装甲から差し込む。

血のように赤い光の中で、シーマは静かに目を閉じた。

 

その瞬間――

遠くから、地を裂くような轟音が響く。

 

ーーーーーー

 

「シーマさん!!」

 

怒りと焦燥の叫びが、通信回線を突き破るように響いた。

灰色のイフリートが、地を蹴り、泥を弾き飛ばしながら疾走する。

視界の奥、炎と煙の帳の中に――ボロボロになった二機のザクが見えた。

 

腕を失い、頭部が吹き飛び、もはや爆発せずに生きているのが奇跡のようだった。

シーマとエーリッヒ。

その機体に、敵のジム部隊が包囲を完成させ、今まさにトドメを刺そうとしていた。

 

その瞬間、イオリの胸を灼くような怒りが突き上げる。

頭の中で血が沸騰する音がした。

 

――殺す。

 

思考よりも先に、体が動いていた。

 

イフリートが火花を散らして加速する。

地を這うようにして疾走し、敵の照準をかいくぐる。

数機のジムが気づき、慌てて銃口を向けた。

 

「くそっ!なんだあれは!?」

 

銃撃が降り注ぐ。

だが、イオリのイフリートはまるで獣のように身を捻り、滑るように弾丸を避けた。

 

そして――一機に肉薄する。

 

「うあああああああっ!!!」

 

叫びとともに、ヒートサーベルが振り下ろされる。

炎の刃がコックピットを貫き、敵機の中心から赤熱した煙が吹き上がった。

内部で何かが爆ぜ、機体は膝をついたまま沈黙する。

 

イフリートがサーベルを引き抜く。

吹き出したオイルが機体を染め、夕陽を受けてまるで血のように黒く輝く。

 

その凄惨な光景に、敵も味方も息を呑んだ。

シーマとエーリッヒの胸をも、戦慄が貫いた。

 

――あのイオリが。

 

目の前のイフリートは、彼らの知る“あの優しい少尉”ではなかった。

灰色の巨体はまるで怨霊のように、無慈悲に敵を屠っていく。

 

「な、なんなんだ、コイツは!?」

 

敵のパイロットが叫ぶ。

しかし次の瞬間、イフリートの姿が煙の中に溶けるように消えた。

 

「後ろだッ!」

 

誰かが叫ぶより早く、ヒートサーベルの閃光が背中を貫く。

腕が、脚が、次々と切断される。

そして――コックピットを、狙い撃つように突き刺す。

 

「ぎゃああああああああっ!!」

 

イオリは止まらなかった。

敵を殺す。

コックピットだけを、確実に。

そこに乗っている“人間”を、逃さず、仕留める。

 

連邦兵が絶叫し、ジムが一機、また一機と倒れていく。

煙の中に光るヒートサーベルの刃は、まるで地獄の鎌のように見えた。

 

やがて、最後の敵が残る。

四肢を切り落とされ、地に転がるジム。

そのコックピットに、イフリートがサーベルを突きつける。

 

『や、やめろぉーーーー!!』

 

だが、イオリは止まらない。

その声を聞いても、怒りが、理性を焼き尽くしていた。

ゆっくりと――まるで苦しみを与えるように、サーベルを突き立てていく。

 

金属を焼く音。

何かが焦げる音。

内部の爆発。

火花が舞い、煙が立ち上がる。

やがて、サーベルは地面に突き刺さり、動かなくなった。

 

――沈黙。

 

風が吹く。

焦げた鉄と血の臭い。

そして、重たい息だけが残った。

 

その時。

イフリートの肩に、別のモビルスーツの手がそっと触れた。

 

反射的に、イオリは振り向きざまにサーベルを振り上げる。

その刃は、目前の機体を焼き裂かんと光る――

 

「イオリ!!やめな!!!」

 

その声が、世界を止めた。

 

「……え、あ。シーマさん?」

 

声が震える。

目の前にいたのは、ボロボロのザク・マリーン。

黄土色と紫の塗装が、煤と傷でほとんど剥げ落ちていた。

 

「あぁ。そうだよ。アタシは大丈夫だから、落ち着きな。アンタが助けてくれたんだよ」

 

その穏やかな声に、イオリの手が震え、ヒートサーベルが力を失って下がる。

彼の視線の先には、仲間――クラウスの黒いグフ・カスタムが立っていた。

 

「よぅ、少尉。元気なのはいいが、相手は確認してくれるか?」

 

クラウスが苦笑交じりに言う。

 

「す、すみません!無我夢中で!」

 

イオリの声はかすれ、息が乱れていた。

クラウスは短く笑い、「そうか」とだけ答えた。

 

その光景を見ていたシーマは、深く安堵の溜息を漏らし、シートに凭れた。

辛うじて生き延びたことと、イオリの姿に胸が締め付けられる。

 

遅れて、エリックとカールの声が無線に響く。

 

「少尉!無事ですか!?」

 

周囲を見渡したクラウスは、静かに息をついた。

 

「しっかし……これ全部お前がやったのか? あの短時間で」

 

イオリは無言で周囲を見渡す。

地面に散乱する残骸。

潰れた戦車、燃え落ちる戦闘ヘリ、貫かれたジムの残骸。

どれも、コックピットを正確に貫かれていた。

 

「……あまり覚えていません」

 

イオリの声は、ひどく静かだった。

自分の中に渦巻いていた怒りの余韻が、恐怖に変わっていく。

 

クラウスは短く笑う。

 

「そうか」

 

彼はすぐに通信を切り替え、全周波に声を放った。

 

「よし!シーマとエーリッヒを回収後、ヘルヴォルへ戻るぞ!!」

 

指示と同時に、仲間たちが動き出す。

夕陽に照らされた戦場は、静まり返り、ただ焦げた鉄の匂いだけが漂っていた。

 

そしてその中心で、イフリートの灰色の装甲が、まるで血に濡れたように赤く染まっていた。

 

ーーーーーー

 

「お前ら、機体は動くか?」

 

クラウスの声が通信に響く。

彼のグフ・カスタムが、煙と埃に包まれた瓦礫の中で足を止め、ボロボロになった二機を見据えていた。

 

ザク・マリーンの外装は焼け爛れ、脚部の駆動部からは黒い煙が上がっている。

それでも、その中でシーマの声がかすかに返る。

 

「ダメだね。もう動かすのもやっとだね」

 

「こっちもです。動力源がダメですね」

 

エーリッヒの低い声には、悔しさと諦めが滲んでいた。

 

クラウスは短く息を吐く。

その目は厳しく、しかしどこかに慈しみの色を帯びていた。

 

「仕方がない。お前達は機体を放棄して爆破処理。その後は――シーマはイオリ機、エーリッヒはエリック機にそれぞれ相乗りしろ」

 

「わかったよ」

 

「はぁー、ここまでか……気に入ってたんだがな、この機体」

 

二人は素直にコックピットを開き、傷だらけの外装に最後の視線を送る。

長い戦場を共にした鉄の相棒。

それを見上げながら、静かに降りる姿は、戦友との別れそのものだった。

 

シーマは地に降り立つと、焦げた土を踏みしめ、ゆっくりとイフリートの足元へ歩いていく。

その背は、薄く煙をまとって揺らめいていた。

 

「イオリ、早く上げてくれないかい?」

 

顔を上げたシーマの声には、戦闘の疲労よりも、どこか優しい響きがあった。

イオリは短く応じる。

 

「あ、はい。今タラップを下げます」

 

イフリートの脚部から、金属音を響かせてタラップが降りてくる。

シーマはそれを掴み、軽やかに登る。

煤と火薬の匂いが、コックピットの中に流れ込んだ。

 

「まったく……相変わらず、狭いね……!」

 

とシーマは愚痴をこぼしながら、イオリの後ろの予備シートに腰を下ろした。

 

イオリは何も言わなかった。

シート越しに見えるその横顔は、無表情というより、何かを押し殺しているように見えた。

 

クラウスの声が全周波で響く。

 

「ヘルヴォルに向かうぞ!」

 

各機が応じ、重い金属音を響かせながら歩を進める。

瓦礫の間を抜けるたび、焼けた鉄と血の匂いが漂った。

夜の帳が落ちかける空の下、ヘルヴォルの姿が遠くに浮かび上がる。

 

――しかし、イフリートの中だけは、沈黙が続いていた。

 

「……どうしたんだい? さっきから無言だね」

 

静寂を破ったのは、シーマの柔らかな声だった。

 

「さっきは助けてくれてありがとうね」

 

その言葉にも、イオリは何も答えなかった。

ただ、操縦桿を握る手がわずかに震えていた。

 

「イオリ?」

 

シーマは少し身を乗り出すと、横の肘掛けに腰掛けるようにして、イオリの頬に手を伸ばした。

手袋越しの掌で、彼の顔を包み、強引に視線を合わせさせる。

 

イオリはシーマと目が合うと、ハッとしたように息を呑む。

その瞳は揺れている。

まるで、叱られるのを恐れる子供のように――。

 

「イオリ、アンタ今、しょうもないこと考えてるだろ?」

 

その穏やかな声に、イオリは唇を震わせた。

言葉が詰まり、喉が動かない。

 

シーマはゆっくりと続ける。

 

「アンタは私とエーリッヒを助けてくれたんだよ? 敵は倒すのが当たり前なんだ。自分を責めるのはおよしよ」

 

しかし、イオリの脳裏には、あの光景が蘇る。

コックピットを狙い、ためらいもなく貫いた自分。

血のようなオイルが弾け、敵の悲鳴が無線越しに響く。

そして――サーベルを振り上げたその先にいた、最愛の人の機体。

 

イオリは俯いた。

 

「……でも、さっきのは戦闘なんかじゃない。虐殺です。……それに、シーマさんまで殺すところでした……」

 

声は震え、最後の言葉は掠れて消えた。

 

シーマは静かに息を吐き、優しく微笑んだ。

 

「アタシは大丈夫さ。ほら、目の前にいるだろ?」

 

そう言って、彼女はイオリの手を取る。

そのまま、自分の頬にそっと添えさせた。

暖かい。

まだ、生きている温もりが、そこにあった。

 

「シーマ……さん……」

 

イオリの声が、かすかな安堵と共に漏れる。

シーマは、まるで幼い子をあやすように微笑み、彼の頭を胸元へと抱き寄せた。

 

「大丈夫。アンタは悪くない。アンタを悪く言う奴がいたら、今度はアタシがアンタを助けてあげるよ」

 

その言葉は、戦場の喧噪が消えた後に残る、唯一の静かな約束のようだった。

 

イオリは、震える手でシーマの腰を抱きしめる。

油と火薬の匂いに混じって、わずかにシーマの香水の匂いがした。

コックピットの中、機械の振動音と二人の呼吸だけが響いていた。

 

 




遅くなりすみません。
展開は決まってるんですけど、なかなか文章にならなくて汗
もう後1話くらいで脱出できそうですね!

もしも、おまけシリーズ。あったら何が見たい?

  • エリックと女の子カールの続き
  • ハンスとエーリッヒ
  • もしもイオリが連邦側だったら?
  • イオリとシーマの日常
  • ………R18笑
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