転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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めっちゃ遅くなってすみません!
他の作品に少し集中してしまってました!
こちらの作品もやっていきますので、お付き合いください!


第84話 覚悟

 

「機体を格納していくぞ!」

 

クラウスの号令が、煤と煙の残る空気を切り裂いた。

黒いグフカスタムがゆっくりと進み、艦の格納エリアへと向かう。

 

シーウルフ隊の機体は、一機、また一機と順に収容されていく。

そのどれもが、無事とは言い難い姿だった。

 

装甲は剥がれ、外装は焼け焦げ、動力ケーブルはむき出しになっている。

弾薬はほぼ底を尽き、無傷と呼べる機体は、指で数えるほどしか残っていない。

 

――それでも。

 

誰もが胸の奥で、同じ感情を抱いていた。

「帰れる」

その事実だけが、重く張り詰めていた心を、わずかに緩めていた。

 

やがて、格納エリアに残ったのは、クラウスたち第一小隊のみとなる。

 

「クルト! 格納状況はどうだ?!」

 

クラウスが通信を開き、叫ぶ。

ほどなく、酒焼けした声が返ってきた。

 

『大体終わった! 後は隊長達だけだぜ』

 

その言葉に、クラウスはわずかに笑みを浮かべる。

 

艦内では、既に戻った小隊員たちが、互いの無事を確かめ合っていた。

肩を叩き合い、時に抱き合い、声を掛け合う。

そこには、戦場を生き延びた者だけが共有できる、短い安らぎがあった。

 

イオリとシーマも、その中にいた。

油と汗に汚れた服のまま、並んで立つ二人の表情には、確かな安堵が浮かんでいる。

言葉は少ないが、それで十分だった。

 

クラウスは周囲を見渡し、深く頷く。 

 

「よし! 俺たちも艦に戻るぞ!」

 

「よっしゃ! やっと一息つけるな。酒だ酒だ!」

 

グスタフが豪快に笑う。

 

「今回はダメかと思いましたねー。妻と子供にビデオ通話ができる」

 

アイゼンが、ほっとしたように微笑む。

 

その光景を、ゲルハルト艦長は艦橋から見守っていた。

規律を重んじるその顔にも、ほんのわずか、緩みがあった。

――この地獄の中で得た、かけがえのない静寂。

 

だが。

 

それは、あまりにも脆かった。

 

空を裂く、甲高い音。

不吉な笛のようなその音に、クラウスの背筋が凍りつく。

 

「砲撃だーーーー!!」

 

叫ぶと同時に、グフカスタムを咄嗟に屈める。

次の瞬間、ヘルヴォル周辺に激烈な衝撃が走った。

 

艦の機銃が唸りを上げ、迎撃弾が空を切り裂く。

だが、それを嘲笑うかのように、砲弾が地面と艦体を叩く。

 

爆炎。

衝撃波。

大地がえぐられ、鋼鉄が悲鳴を上げる。

 

砲撃が止んだ時、そこにあったのは――

無数のクレーターと、破壊の跡だった。

 

第一小隊は、辛うじて致命傷を免れていた。

しかし、グスタフ機の片腕は根元から捥げ落ち、アイゼン機は動力パイプが千切れ、白煙を上げている。

 

そして、決定的な損傷。

ヘルヴォルの機体格納庫のゲートが歪み、裂け、完全に機能を失っていた。

 

「被害報告を!! 艦長! 艦は無事ですか?!」

 

クラウスの声が、緊張を孕んで響く。

 

『艦は致命傷は免れた。しかし――』

 

ゲルハルトの声は低く、重い。

 

『格納庫のゲートが破損した。これ以上、機体を格納することは不可能だ』

 

艦橋のオペレーターが続けて報告する。

 

「先程の砲撃は、ここから数キロ離れた地点からです!ミノフスキー粒子のおかげで直撃は免れましたが、すぐに次が来るはずです!」

 

さらに、別の声が重なる。

 

「報告します! 友軍HLVが先程の砲撃に晒され、打ち上げ困難とのことです!」

 

その瞬間、艦内の空気が凍りついた。

逃げ場が、失われつつある。

 

クラウスは、一瞬だけ目を閉じる。

そして、迷いのない声で告げた。

 

「艦長! 俺はこれから、その砲撃部隊の迎撃に向かいます!」

 

『いかん! 少佐! 一人では自殺行為だ!!』

 

ゲルハルトが即座に拒否する。

だが、クラウスは静かに言い返す。

 

「どのみち、砲撃部隊を叩かなければ退却できません。それに、今、無傷で動けるのは……私だけです」

 

短い沈黙。

そして、クラウスは続けた。

 

「艦長。私の願いを、覚えていますか」

 

その言葉に、ゲルハルトは言葉を失った。

苦渋の表情で帽子を目深に被り直す。

やがて、重く、しかし確かな声で告げる。

 

『少佐。迎撃作戦を許可する』

 

クラウスは、黒いグフカスタムの中で微笑んだ。

それは、覚悟を決めた者の、静かな笑みだった。

 

「了解!」

 

次の瞬間、黒い機体は地を蹴り、砲撃の発生源へと駆け出していく。

その背中を、誰も止めることはできなかった。

 

ヘルヴォルの上空に、再び不穏な静寂が広がる。

――そして、戦争は、まだ終わらないことを、全員が悟っていた。

 

ーーーーーー

 

「艦長! 待ってください!! 隊長一人じゃ無理です!」

 

艦橋に、イオリの声が叩きつけられる。

若さゆえの衝動ではない。

あれほどの戦場を潜り抜けてきた男の、必死の叫びだった。

 

「そうだよ! せめてアタシらだけでも行かせておくれよ!!」

 

続いたシーマの声は、もはや叱責でも進言でもなかった。

それは、失うことを拒む者の悲痛な懇願だった。

 

だが。

 

「ならん」

 

ゲルハルトの声は、鋼鉄のように冷たく、揺るがない。

艦橋の空気が一瞬で凍りつく。

 

「これは、シーウルフ隊隊長が決めたことだ。誰一人とて、彼を追うことを許可しない」

 

その言葉は、命令であり、宣告だった。

 

「何故です?!」

 

イオリが食い下がる。

 

「隊長の願いとは、なんなんです?! なぜ、そこまで……!!」

 

ゲルハルトは答えない。

答えられなかったのではない。

答える資格が、自分にはないと知っていたからだ。

 

その時だった。

 

「……!! 艦長!グスタフ機とアイゼン機が、クラウス機を追っています!」

 

オペレーターの叫びが、艦橋を貫く。

 

「なに……!」

 

ゲルハルトの顔色が変わる。

 

「何をしている!? 早く止めんか!!」

 

即座に通信が開かれる。 

 

「グスタフ機! アイゼン機!直ちに引き返してください! 命令違反です!」

 

だが、返ってきたのは、怒鳴り声だった。

 

『うるせーーーー!!』

 

通信越しでもわかる、怒りと覚悟の混じった声。

グスタフだった。

 

『俺たちの隊長が、命はってんだ!小隊員の俺たちが続かなくて、どうすんだ!!』

 

続けて、軽い調子の声が割り込む。

 

『そーそー。任せてくださいよ。砲撃部隊は必ず撃破してみせます。ついでに……隊長、ちゃんと連れて帰還しますから』

 

アイゼンの声だった。

ふざけたようでいて、その実、決意は揺るぎない。

 

そして、無線は一方的に切れた。

 

艦橋に、重苦しい沈黙が落ちる。

 

ゲルハルトは歯を噛み締め、低く呟いた。

 

「……馬鹿者どもが……」

 

その言葉に、怒りよりも、

誇りと、悔恨と、どうしようもない無力感が滲んでいた。

 

イオリは拳を握り締める。

シーマは唇を噛み、視線を落とす。

止められない背中が、三つに増えたのだ。

 

ーーーーーー

 

荒れ果てた地表を、黒い影が疾走していた。

クラウスのグフカスタム。

 

砲撃部隊の射程圏外ギリギリ。

レーダーには、夥しい数の敵影が映っている。

 

戦車。

自走砲。

護衛のモビルスーツ。

 

――多すぎる。

 

(……さすがに、これは骨が折れるな)

 

クラウスは冷静に状況を分析する。

残弾は少ない。

正面からの殲滅は不可能。

 

『砲撃タイプだけを狙う。それで時間を稼ぎ、退却路を……』

 

思案していた、その時。

近接無線が鳴った。

 

「なーに一人で格好つけてんだ、クラウス」

 

聞き慣れた、太い声。

 

「ほんとですよ。俺たちまで置いていくなんて」

 

今度は、軽い笑いを含んだ声。

 

左右を見ると、そこには――

 

傷だらけのザクが、並んで走っていた。

 

「……お前ら!?」

 

クラウスの目が見開かれる。

 

「何をしている?! 早く母艦に戻れ!これは命令だ!」

 

即座に返る拒絶。

 

「ふざけんじゃねーぞ!!」

 

グスタフの声が、怒鳴りつけるように響く。

 

「お前一人で、あの数をやれると思ってんのか!?……俺らを頼れよ。俺たちは、第1小隊だろ」

 

「そーそー」

 

アイゼンが、どこか寂しそうに笑う。

 

「悲しいですねぇ。ここまで信頼されてないなんて」

 

クラウスは、言葉を失った。

 

「……お前ら……」

 

一瞬、俯く。

コックピットの中で、肩がわずかに震える。

 

(……俺の気も、知らないで……)

 

だが、次の瞬間。

彼は顔を上げた。

 

モニターに映るその表情は――

間違いなく、笑っていた。

 

「……付き合ってくれるか?」

 

短い問いかけ。

 

「おうよ」

「任せてください」

 

即答だった。

 

三機のモビルスーツが、並ぶ。

傷だらけで、弾も少なく、それでも――

 

第1小隊は、揃った。

 

その瞬間、

この戦場で最も危険で、

そして、最も信頼に満ちた迎撃戦が、幕を開けようとしていた。

 

ーーーーーー

 

三つの機影は、もはやレーダーでしか捉えられないほどの距離まで離れていた。

 

誰もが分かっていた。

あの距離は、もう簡単には届かない。

 

それでも、イオリは一歩、前に出た。

 

背後には、シーマ、ハンス、エーリッヒ。

そして、他の隊員たち。

皆、同じ答えを求めて、同じ人物を見つめていた。

 

「……艦長」

 

喉を絞るような声だった。

 

「教えてください……!」

 

拳を握り締め、イオリは叫ぶ。

 

「隊長の願いとは……一体、何なんです?」

 

艦橋に張りつめた沈黙が落ちる。

 

ゲルハルト艦長は、すぐには答えなかった。

ただ、ゆっくりと視線を落とし、

まるで胸の奥から何かを引きずり出すように、口を開く。

 

「……出撃前だ」

 

低く、かすれた声。

 

「少佐の願いを聞いたのは……」

 

その言葉と共に、艦橋の空気が変わる。

艦長の視線は、もはやここにはなかった。

 

ーーーーーー

 

それは、本作戦の出撃前。

艦長室で、二人きりで酒を飲んでいた時のことだった。

 

作戦前の、いつもの光景。

言葉は少なく、互いに多くを語らない。

 

その夜、先に口を開いたのはクラウスだった。

 

『……お願いがあります』

 

その一言に、ゲルハルトはグラスを置く。

 

『願い? なんだ』

 

短い問い。

だが、その裏に含まれる覚悟を、二人とも理解していた。

 

クラウスは、真剣な眼差しで続ける。

 

『今回の作戦は、危険度が高い。撤退判断も、難しくなるでしょう』

 

コップの中で、氷が小さく鳴る。

その音が、続きを促す合図のようだった。

 

『もしも、我々の部隊が危機に直面した時――』

 

クラウスは、一拍、言葉を切る。

室内の空気が、わずかに張り詰める。

 

『……私一人の命で、部隊が助かるのであれば』

 

彼は、ゲルハルトを真っ直ぐに見据えた。

 

『迷わず、私の命を使ってください』

 

ゲルハルトの手が、わずかに止まる。

 

『命令として、そう扱って構いません。記録にも残してください』

 

その口調は淡々としていた。

英雄気取りでも、悲壮でもない。

ただ、「そうするのが当然だ」と言わんばかりだった。

 

『私には、部下を守る責務があります』

 

クラウスの脳裏に、部下たちの顔が浮かぶ。

だが、その感情を、声に滲ませることはしない。

 

『誰かが、犠牲にならなければならないのなら、それは私です』

 

ゲルハルトは、じっとクラウスの顔を見る。

 

『それは、隊長としての判断か?』

 

低い声。

責めるでも、試すでもない。

 

『はい』

 

即答だった。

 

『そして、一人の兵士としての願いでもあります』

 

しばしの沈黙。

艦長室の灯りが、ゲルハルトの横顔に深い影を落とす。

 

『……そういうことを言う人間ほど、最後まで生き残るものだ』

 

クラウスは、わずかに口角を上げた。

 

『でしたら、なおさら都合がいいでしょう』

 

ゲルハルトは、深く息を吐く。

 

『約束はできん。私は、部下の命を秤にかけることはしない』

 

『承知しています』

 

それでも、クラウスは引かなかった。

 

『ですが、もし選択を迫られたなら――どうか、ためらわないでください』

 

長い沈黙。

 

やがて、ゲルハルトは視線を逸らし、グラスを煽る。

 

『……全て承知した』

 

それが、彼なりの返答だった。

 

クラウスは、静かに笑って一礼する。

 

『――ありがとうございます』

 

ゲルハルトは、空になったグラスを差し出す。

 

『……必ず、戻ってこい』

 

クラウスは、短く答えた。

 

『努力します』

 

コップが、カチン、と小さな音を立てた。

 

 

「……それが、隊長の願いだ」

 

艦橋に、現実が戻る。

 

「じゃあ……」

 

イオリの声が震える。

 

「クラウス隊長は……戻る気は無いってことですか?!」

 

「くそっ……!」

 

ハンスが叫ぶ。

 

「なんだよそれ……!冗談じゃ無いぞ!」

 

「今からでも遅くない!」

 

シーマが一歩踏み出す。

 

「今すぐゲートを修理して、行ける者だけでクラウス達を追うよ!」

 

その言葉に、皆が頷き、動き出そうとする。

 

だが――

 

「ならん」

 

ゲルハルトの声が、鋭く艦橋を断ち切る。

 

「っ……!何故です?!」

 

イオリが食い下がる。

ゲルハルトは、静かに言った。

 

「クルト整備長。ゲートを修理するのにかかる時間は」

 

いつの間にか立っていたクルトは、オイルに汚れた整備服のまま、疲労を隠さず答える。

 

「……半日。早くてもだ」

 

その言葉が、希望を打ち砕く。

 

「……半日……?」

 

ハンスが呟く。

 

「そんな時間……隊長達には……」

 

「だったら!」

 

エーリッヒが必死に声を上げる。

 

「モビルスーツで、無理やりこじ開ければ……!」

 

クルトは、即座に首を振る。

 

「そんなことをすれば、ヘルヴォルが打ち上げの衝撃に耐えられず、分解する」

 

沈黙が、艦橋を支配する。

 

「……じゃあ……」

 

イオリの声は、かすれていた。

 

「俺達は……どうすれば……?」

 

ゲルハルトは、静かに告げる。

 

「待つんだ」

 

一拍。

 

「お前達の隊長が――」

 

言葉を選び、噛みしめるように続ける。

 

「目的を、達成するのを」

 

そして、低く、重く。

 

「信じて、待つしか無い」

 

艦橋には、再び沈黙が落ちた。

 

三つの機影は、確実に、熾烈な戦闘へと向かっていく。

自らの仲間達の退路を確保するために。

もしも、おまけシリーズ。あったら何が見たい?

  • エリックと女の子カールの続き
  • ハンスとエーリッヒ
  • もしもイオリが連邦側だったら?
  • イオリとシーマの日常
  • ………R18笑
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