転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は? 作:スウェーデンクラス
砲撃部隊の陣地は、かつて街だった場所に口を開けた、巨大な傷跡のようだった。
建物は根こそぎ削り取られ、地形を抉るように掘られた即席の塹壕が幾重にも走る。
その奥には、長距離砲撃用のモビルスーツ、戦車、随伴の護衛機が密集し、互いを庇い合うように陣形を組んでいた。
だが――
それは、防御ではなく、数に頼った塊に過ぎない。
レーダーに映る敵影を一瞥し、クラウスは黒いグフカスタムのコックピットで、静かに息を吐く。
「……確認した。砲撃タイプ五、護衛機十以上」
数字だけを告げる、淡々とした報告。
だが、その声に焦りはない。
それどころか、研ぎ澄まされた静けさがあった。
近接無線が、すぐに返る。
「上等だ。……久しぶりだな、俺たちだけの戦いは」
グスタフの声には、懐かしむような響きがあった。
それは、恐怖ではなく――数え切れない死線を越えてきた者だけが持つ、確信に近い感情だった。
「数は多いですが、動きが鈍い。陣形も甘いですね」
アイゼンは冷静だった。
だが、その声の底にある微かな高揚を、クラウスもグスタフも聞き逃さない。
長年、同じ修羅場をくぐってきた。
声の僅かな揺れで、互いの状態が分かる。
クラウスは操縦桿を握り直す。
「第一小隊――いくぞ」
一瞬の間。
返答は、同時だった。
「おうよ」
「了解です」
その瞬間、三機は一斉に動いた。
――“散開”ではない。
互いの死角、射線、役割。
言葉にせずとも、完全に共有された配置。
最初に前へ出たのは、クラウスだった。
黒い機影が地を蹴り、正面から――真正面から、敵陣へと突っ込む。
「来たぞ!正面――!」
敵の警戒が、瞬時に一点へ集中する。
砲身が回り、センサーが向き、照準が重なる。
だが――それこそが、第一小隊の狙いだった。
「今だ!」
グスタフのザクⅡMが、左翼から飛び出す。
重装甲とは思えぬ加速。
バズーカの閃光が走り、砲撃型モビルスーツの脚部を正確に捉える。
直撃。
脚部が吹き飛び、巨体が傾く。
そこへ、間髪入れずにアイゼンの射撃。
「――一機、沈黙」
短い報告。
砲撃型は、砲身を天に向けたまま、地面へと崩れ落ちる。
クラウスは、その一瞬の隙を逃さない。
正面の護衛機が、慌てて照準を修正する前に――ヒートサーベルが振るわれる。
一閃。
装甲ごと、コックピットが断ち割られる。
「……っ、速い!」
敵の悲鳴は、爆音にかき消された。
「隊長、右に回り込みます」
アイゼンのザクが、地形に沿って低く滑る。
瓦礫と塹壕を利用し、敵の視界から完全に消える。
背後。
死角。
短く、無駄のないマシンガンの点射。
関節。
センサー。
推進器。
戦闘不能にするためだけの、冷静な射撃。
「二機、無力化」
淡々とした声の直後――
「任せろ!」
グスタフが吼え、戦車部隊へ突進する。
砲身が回り切る前に、ヒートホークが叩き込まれる。
爆発。
衝撃波が土煙を巻き上げる。
だが、グスタフは止まらない。
「次!」
その背後を狙う護衛機。
「させん!」
クラウスが即座に反応する。
ヒートワイヤーが伸び、敵機を絡め取り、地面へ叩きつける。
追撃のヒートソード。
躊躇はない。
「グスタフ。後ろがガラ空きだぞ」
「へっ、いつもすまねぇな!」
笑い混じりのやり取り。
だが、その足運び、間合い、攻防は――寸分の狂いもない。
三機は、互いの“次”を知っている。
誰が突っ込み、誰が引き、誰が止めを刺すのか。
言葉はいらない。
砲撃部隊は、次々と沈黙していく。
「砲撃型、残り二機!」
アイゼンの声。
「俺が引きつける!」
クラウスが前に出る。
敵の注意が、再び一点に集中した、その瞬間――
「今だ、右!」
合図と同時に、グスタフが敵陣深くへ飛び込む。
ヒートホークが唸り、砲身が吹き飛ぶ。
「――撃破!」
アイゼンが、最後の一機を正確に撃ち抜く。
砲撃部隊は、完全に壊滅した。
護衛機たちは、混乱していた。
「……なんだ、こいつら……!」
「三機だぞ……!?たった三機で……!」
恐怖が、無線越しに滲む。
クラウスは、静かに告げる。
『さぁ、片付けるぞ』
その言葉と同時に、三機は再び、完璧な間合いで動き出す。
連携がない。
覚悟もない。
そんな雑兵が――この三人が積み上げてきた年月に、敵うはずがなかった。
土煙の中で。
爆炎の中で。
三機は戦い続ける。
仲間を救うために。
ーーーーーー
爆炎が、ゆっくりと収まっていく。
熱で歪んだ空気が揺れ、赤黒い煙が地面を這うように流れていく。
砲撃陣地だった一帯は、もはや原形を留めてはいなかった。
砕け散った装甲板。
焼け焦げ、ねじ曲がった砲身。
爆圧で引き裂かれた塹壕の縁に、無残に転がる残骸の山。
つい先ほどまで、この地を制圧していた連邦軍の砲撃部隊は――
ほぼ、完全に沈黙していた。
生きている気配は、ない。
……否。
その瓦礫の海の中で、
一機だけが、生き延びていた。
「……1機逃げるぞ!」
クラウスの声が、短く鋭く響く。
損傷した砲撃型モビルスーツが、慌てたように機体を反転させる。
片脚は破壊され、動きは鈍い。
それでも必死に、瓦礫と化した市街地の奥へ、逃げ込もうとしていた。
「逃がすか!」
グスタフが吼え、即座に追撃態勢へ入る。
「待て、陣形を崩すな」
クラウスはそう言いながらも、
自分の胸の奥で、何かが緩むのを感じていた。
――勝てる。
――いや、もう勝った。
それは、疑いようのない事実として、三人の中にあった。
近接無線に、いつも通りの軽さで声が乗る。
「後一機だけです」
アイゼンの声は、穏やかだった。
戦闘の最中とは思えないほど、落ち着いている。
「さっさと片付けて、ヘルヴォルに帰りましょう。……整備班に、また叱られますね」
その言葉に、グスタフが腹の底から笑う。
「がははは!違いねぇ!それにしても、やっぱり連邦の連中は腕が無いな!張り合いがねぇ!」
その笑い声に、クラウスもわずかに口元を緩めた。
覚悟は、決めてきた。
命を賭けるつもりで、この場に来た。
だが――ここまで、あまりにも、うまくいきすぎている。
(……終わった、か)
その思考が、ほんの一瞬、脳裏をよぎる。
それは、指揮官として決して持ってはいけない考えだった。
だが、人間として。
幾度も戦場を生き抜いてきた兵士として。
ほんの一瞬だけ、許してしまった油断だった。
逃げる砲撃型の背後へ、アイゼン機が回り込む。
崩れた建物の影。
瓦礫の隙間。
射線は、通っている。
「照準、ロック」
アイゼンの声が、静かに響く。
「これで終わりだ」
その声音には、もう戦闘の緊張はなかった。
そこにあったのは、帰還の匂いだった。
「早く帰って――」
一拍。
「――妻と子供と……」
その言葉が、最後まで紡がれることはなかった。
閃光。
背後から、一直線に伸びた光が――
アイゼン機のコックピットを、正確に、容赦なく貫いた。
「――――っ!?」
声にならない声。
ビームは、装甲を突き破り、内部を焼き尽くし、反対側の装甲をも抉って、虚空へと抜けていく。
一拍遅れて、警告音が鳴り響く。
だが、それは、すぐに途切れた。
アイゼン機は、膝から崩れ落ちる。
まるで――
糸を切られた操り人形のように。
「……?」
グスタフの笑い声が、唐突に止まる。
クラウスの視界が、白く染まった。
時間が、引き伸ばされたように感じた。
倒れていくザク。
沈黙したモニター。
通信回線に、返ってこない応答。
そして――
ビルの影から、ゆっくりと姿を現す、新たな敵影。
一機。
二機。
三機……。
重装備のモビルスーツ。
その後方にも、新手の敵は更に並ぶ。
「……増援、だと……?」
理解した瞬間には、すでに遅かった。
クラウスの喉から、悲鳴にも似た叫びが絞り出される。
「アイゼンーーーーーーッ!!」
その声は、爆煙に吸い込まれ、誰にも届かないまま、戦場に溶けていった。
ーーーーーー
爆炎の名残が、まだ空気の中に漂っていた。
焦げた金属の匂い。
焼け落ちた建材の粉塵が、ゆっくりと地に沈んでいく。
その中で、倒れ伏した一機のザクが、動かない。
「……アイゼン……?」
次の瞬間、
グスタフの怒号が、戦場を引き裂いた。
「アイゼン!? くそがぁぁぁぁぁぁ!!」
怒りと喪失が混じった叫びと同時に、
グスタフ機のバズーカが火を噴く。
狙いも、間合いも、完璧だったはずの一撃。
だが――
敵機は、まるでそれを“知っていた”かのように、一瞬早く身を翻した。
砲弾は、瓦礫を吹き飛ばすだけで終わる。
「……っ!」
その動きに、クラウスの背筋が凍る。
『違う……』
これまでの護衛機とも、砲撃型とも違う。
反応速度。
間合いの取り方。
無駄のなさ。
『速い……!エース部隊か!?なぜ、今になって……!』
遅すぎる疑念が、胸を刺す。
「まだだ!!」
グスタフは、なおも突っ込もうとする。
距離を詰め、撃ち、叩き潰す――いつもの、豪腕の戦い方。
「待て、グスタフ!!」
クラウスの制止が、近接無線を震わせる。
だが、
「何でだ!?アイゼンの仇だ!!ただじゃおかねぇ!!」
モニター越しに映るグスタフの顔は、怒りに歪み、そして――涙に濡れていた。
歯を食いしばり、震える肩。
豪快さの奥に隠してきた感情が、今、堰を切ったように溢れている。
「分かっている!!」
クラウスは、叫ぶ。
「俺だって同じだ!!だが、無闇に突っ込んで勝てる相手じゃない!!」
一瞬の沈黙。
グスタフは、舌打ちのように息を吐き、
「……クソッ!!」
最後の一発。
バズーカの残弾を叩き込みながら、後退する。
だが敵は慌てない。
ビームライフルが閃き、
バズーカ弾が、容赦なく飛んでくる。
二機は、瓦礫を盾に跳ね、転がり、ビルの残骸の影へと身を滑り込ませた。
「……ちっ」
装甲に走る警告音。
衝撃で軋むフレーム。
「クラウス……どうする?」
落ち着こうと必死のグスタフの声が、低く響く。
「このままじゃ終わりだ。ヘルヴォルに退却するか……?」
その問いに、クラウスは、すぐには答えられなかった。
視界の端に、動かないアイゼン機が映る。
『……俺のせいだ』
心の中で、何度も何度も繰り返す。
『油断した……勝ったと思った……その一瞬で……』
『この俺のせいで、アイゼンは……!許せ……許せ、アイゼン……!!』
胸の奥が、焼けるように痛む。
その時――
「クラウス!!」
グスタフの声が、鋭く響いた。
「しっかりしろ!!今は、この場をどうするかが先決だ!!」
一拍置いて、少しだけ、声が柔らぐ。
「……後悔は、後でいくらでもできる」
そして、静かに続けた。
「俺たちも、いつかは……アイゼンのいる所に行くんだ」
「だからよ――」
グスタフは、モニターの向こうで、笑った。
「その時に、胸張って会えるようにしようぜ。第1小隊としてな」
その笑顔に、クラウスは、はっとする。
――そうだ。
俺は、隊長だ。
唇の端を、わずかに吊り上げる。
「……ふん」
「誰に言っている。俺はシーウルフ隊の隊長だぞ。舐めるなよ」
その言葉に、
グスタフが、嬉しそうに笑う。
「よっしゃ。それでこそ、いつもの隊長だ」
そして、現実に引き戻すように続けた。
「で?どうするよ。このままじゃ、追い込まれて死ぬだけだぞ」
クラウスは、短く息を吐き、思案する。
『敵砲撃部隊は……ほぼ壊滅』
『ヘルヴォルは……離陸できるはずだ』
『退却できるか……?』
その時――
遠くで、轟音が鳴り響いた。
二人の視線が、自然と空を仰ぐ。
味方のHLVが、脱出のため、空へと打ち上がっていく。
「……始まったみたいだな」
グスタフが、少し安堵したように言う。
「敵の砲撃が止んだからか」
そうだ。
自分たちが、道を切り開いた。
そのはずだった。
――次の瞬間。
眩い閃光。
ビーム砲が、上昇中のHLVを正確に捉えた。
直撃。
爆発。
空中で、機体は四散し、炎の雨となって地上へ降り注ぐ。
「……っ」
言葉が、出なかった。
瓦礫の影から、ビームが飛んできた方向を見る。
そこには――肩のキャノン砲から、白煙を上げる、あの砲撃型モビルスーツ。
「……あの野郎……」
グスタフの声が、震える。
「あの状態で……まだ、撃つか……!!」
クラウスの判断は、早かった。
迷いを、断ち切るように言う。
「グスタフ……まだ、やれるか?」
問いは、形だけだった。
「おうよ、隊長」
即答。
「アイツを、やるんだろ?」
二機のモニターに映る瞳には、
まだ――確かに、闘志の炎が燃えていた。
終わらせるために。
守るために。
そして――
失ったものに、応えるために。
戦闘は、まだ、終わっていなかった。
おそくなりすみません!!
構想はできてるんですけど、いざかいたら、あれ?ちょっと違うかなーってなっちゃって、書き直し書き直しで遅くなりました!!
もしも、おまけシリーズ。あったら何が見たい?
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エリックと女の子カールの続き
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ハンスとエーリッヒ
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もしもイオリが連邦側だったら?
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イオリとシーマの日常
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………R18笑