転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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やっと地球から出れました笑
これで、残すところ三分の一くらいかな?笑
頑張って書いていきます。
主人公の機体何にしよー(^◇^;)


第87話 残された者達

 

ヘルヴォル艦長室。

 

艦橋から一枚隔てられたその部屋は、艦長専用の執務室でありながら、決して豪奢ではなかった。

室内には最低限の戦術図が貼られ、棚には整然と作戦資料が並び、その逆に、壁には歴代の勲章や装飾品などは一つも飾られていない。

 

あるのは、一人の軍人として必要なものだけ。

 

無駄を嫌い、実直に職務を全うしてきた男――ゲルハルト・アイゼンベルグという人物を、そのまま部屋にしたような空間だった。

 

室内には、紙をめくる音だけが静かに響いている。

ゲルハルトは執務机に腰掛けたまま、一枚の報告書をじっと見つめていた。

 

表紙には、

『戦闘終了報告書』

とだけ記されている。

 

ヘルヴォル各部の損傷。

弾薬残数。

機関部の被害。

整備状況。

補給可能日数。

 

そして――人的損害。

 

一枚一枚、淡々と目を通していく。

それは艦長として当然の責務だった。

 

感情を挟んではならない。

数字は数字として受け止め、次の戦いへ繋げる。

それが指揮官という存在である。

だが――

最後の一枚で、ゲルハルトの手が止まった。

 

戦死者一覧。

 

そこに並ぶ、たった三つの名前。

 

クラウス

 

グスタフ

 

アイゼン

 

その三つの名前だけが、白い紙の上で異様なほど重く見えた。

 

ゲルハルトは無言のまま、その名前を見つめ続け、やがて、白い手袋を外した右手をゆっくりと伸ばした。

 

そして、人差し指で一人目の名前をなぞる。

クラウス。

次に。

グスタフ。

そして最後に。

アイゼン。

 

指先は、そこで止まり、部屋には時計の針だけが音を刻んでいる。

その静寂の中で、ゲルハルトは誰にも聞こえぬほど小さな声で呟いた。

 

「……ワシより、先に死んでどうする……」

 

乾いた声だった。

怒りでも、悲鳴でもない。

 

ただ、長年戦場を生き抜いてきた老兵だからこそ漏れた、本音だった。

 

「……馬鹿者共が……」

 

その一言だけで十分だった。

 

椅子の肘おきに置かれた拳が、小さく震えている。

 

椅子がきしり、と鳴った。

 

普段、どれほどの激戦でも眉一つ動かさず、何人もの部下を見送り、その度に歯を食いしばってきた男のその表情には、隠しきれない悔恨が浮かんでいた。

 

クラウス。

初めて会った頃は、まだ若く、生意気で、真っ直ぐな青年だった。

隊長になってからも何度も衝突した。

命令に食ってかかることもあった。

 

だが、その度に必ず部下を守り抜いた。

誰よりも隊長らしい男だった。

 

グスタフ。

豪快に笑い、酒を飲み、部隊を笑わせ続けた男。

どんな苦境でも

「がはは!」

と笑えば、不思議と皆が笑えた。

 

誰よりも仲間想いで、

誰よりも熱い男だった。

 

そしてアイゼン。

寡黙で冷静。

常に二人の後ろから支え続けた影の功労者。

第一小隊が”最強”と呼ばれた理由は、決してクラウスだけでも、グスタフだけでもない。

 

その二人を陰から支え続けたアイゼンがいたからだった。

 

三人とも。

自分より若い。

本来ならば、自分より長く生き、次の時代を担うはずだった男達。

 

それなのに残ったのは、年老いた自分。

 

ゲルハルトはほんの数秒だけ目を閉じる。

 

それだけで十分だった。

再び目を開いた時、そこにはもう、一人の老人はいなかった。

 

いたのは。

 

ヘルヴォル艦長。

ゲルハルト・アイゼンベルグだった。

 

その瞬間。

電子ブザーが室内へ鳴り響く。

来客を知らせる音だった。

 

ゲルハルトは一度だけ深く息を吐く。

感情を心の奥へ押し込める。

戦場では、涙は後回しだ。

 

「……入れ」

 

短い返答の後、自動ドアが静かに左右へ開く。

 

現れたのは四人。

 

先頭を歩くシーマ。

 

その後ろに、続くのは

 

イオリ。

 

エーリッヒ。

 

ハンス。

 

四人は歩幅を揃え、机の前で止まる。

 

シーマが一歩前へ出た。

踵を鳴らし、鋭く敬礼する。

 

「失礼します。シーマ以下、イオリ少尉、エーリッヒ軍曹、ハンス軍曹の四名。参集いたしました」

 

その声に合わせ、三人も一斉に敬礼する。

 

「ご苦労だった。……楽にしてくれて構わん」

 

「はっ」

 

敬礼が解かれた四人は、姿勢を正したまま立つ。

 

そこで。

ゲルハルトは初めて、四人の顔を真正面から見た。

そして。

ほんの僅かに、誰にも気付かれぬほど、

 

目を見開いた。

 

(……何だ、この目は)

 

ゲルハルトは内心で息を呑む。

呼び出す前。

彼は覚悟していた。

 

絶望しているだろう、と。

 

隊長を失った。

第一小隊を失った。

 

部隊創設以来、誰一人欠けることなく戦い抜いてきたシーウルフ隊。

 

その象徴とも言える三人を、一度に失ったのだ、崩壊していても不思議ではない。

 

泣き腫らした顔。

虚ろな目。

立ち上がる気力さえ失った兵士達。

 

そういう姿を想像していた。

 

立て直すには時間が要る。

そう考えていた。

 

だが、目の前の四人は違った。

 

確かに、その顔には疲労が刻まれている。

目の下には隈。

戦闘と喪失で休めていないことは一目で分かる。

 

悲しみもある。

悔しさもある。

クラウス達を失った傷は、決して癒えてなどいない。

 

それでも、その瞳だけは。

 

燃えていた。

 

シーマの瞳は獣のように鋭く。

イオリの瞳には、決意が宿り。

エーリッヒは静かに拳を握り締め、

ハンスは今にも敵へ飛び掛かりそうなほど闘志を滲ませている。

 

死んではいない。

折れてはいない。

 

いや。

 

あの三人の死を背負ったからこそ、さらに強く立ち上がっていた。

ゲルハルトは四人を見つめたまま、心の中で静かに呟く。

 

(……そうか)

 

(クラウス)

 

(お前は最後まで、この部隊を育て切ったのだな)

 

その瞬間。

ゲルハルトは確信した。

 

第一小隊は失われた。

だが、シーウルフ隊は、まだ終わってはいないのだと。

 

その魂は、確かに目の前の四人へ受け継がれていた。

 

ーーーーーー

 

やがて、シーマが一歩前へ出ると、背筋を伸ばし、敬礼の姿勢のまま口を開く。

 

「艦長、お話とは何でしょうか」

 

その声で、ゲルハルトは我に返る。

 

「ああ……」

 

短く息を吐き、一度だけ咳払いをした。

軍人としての顔を作り直すための、ほんの僅かな時間だった。

 

そして、低く、よく通る声で語り始める。

 

「今後の部隊運用について、諸君に伝えるため呼び出した」

 

四人は黙って聞いている。

 

「……先刻の作戦において、我々はあまりにも大きな損失を受けた」

 

その一言だけで、部屋の空気がさらに重く沈む。

誰の脳裏にも浮かぶ顔は同じだった。

 

クラウス。

グスタフ。

アイゼン。

 

各々の顔に力が入るのがわかる。

 

ゲルハルトは続ける。

 

「本来ならば、隊員たちの心が落ち着くまで待ちたいところだ」

 

その声には、軍人ではなく、一人の老人としての優しさが滲んでいた。

 

「……だが、今は時を争う。」

 

現実は、悲しみに浸る時間すら許してはくれない。

連邦は待たない。

次の戦いは必ず来る。

 

だからこそ――。

 

ゲルハルトは四人を順番に見つめる。

その視線が最後にシーマで止まった。

 

「クラウス少佐亡き今――」

 

静寂。

その数秒が、やけに長く感じられた。

 

「今後のシーウルフ隊の指揮は……」

 

シーマは息を止める。

 

「シーマ中尉」

 

その名が呼ばれる。

 

「君に任せる」

 

その一言は、命令であり、同時に部隊の未来そのものを告げるようだった。

 

室内は静まりかえるが、その驚きは長く続かない。

 

四人は互いに視線を交わすことなく、一斉に敬礼する。

まるで、最初から分かっていたかのように。

 

「はっ!! 了解であります!!」

 

四人の声が重なる。

迷いはなかった。

その返答に、ゲルハルトは静かに頷く。

 

「……この采配は、ワシが決めたものではない」

 

四人の視線が自然と集まる。

 

「これは……クラウス自身が決めていたことだ。」

 

その言葉に、シーマの瞳がわずかに揺れた。

ゲルハルトは遠い日を思い出すように目を伏せる。

 

「ヤツは以前から言っていた」

 

静かな声だった。

 

「万が一、自らの身に何かあれば、隊の指揮はシーマ中尉に一任してほしい……と」

 

その言葉は、静かに部屋へ落ちていく。

誰も動かない。

誰も息をしない。

 

シーマだけが、小さく唇を動かした。

 

「……クラウス」

 

ゲルハルトは苦く笑う。

 

「……現実にならないことを、ワシは最後まで祈っていたが……」

 

短い独白だった。

誰よりもクラウスを信頼し、誰よりもその死を受け入れられない男の、本音だった。

 

しかし――次の瞬間には、その表情は再び艦長のものへ戻る。

 

私情を戦場へ持ち込まない。

それがゲルハルトという男だった。

彼は戦況図へ目を向ける。

 

「諸君」

 

その一言だけで、空気が引き締まる。

 

「我々はこれより、損傷した艦の修復及び、物資補充のため、ア・バオア・クーへ向かう」

 

四人は力強く頷く。

 

「了解」

 

簡潔な返答。

だが、その声には先ほどまで以上の力が宿っていた。

ゲルハルトは四人を見渡す。

 

「……我々は、偉大な男たちを失った」

 

部屋の空気が、また少しだけ重くなる。

 

「クラウス、グスタフ、アイゼン」

 

今度は、三人の名をはっきりと口にした。

 

「だが――」

 

ゲルハルトの声に力が宿る。

 

「立ち止まるわけにはいかん」

 

その眼差しは、まるで部下たちだけではなく、自分自身にも言い聞かせているようだった。

 

「奴らが命を懸けて守ったものを、我々が止まることで無駄にしてはならん」

 

机へ拳を置く。

鈍い音が部屋へ響いた。

 

「奴らも、それを望んではおらん」

 

そして最後に。

 

「最後まで、この戦争を戦い抜くぞ」

 

短い言葉。

だが、それは亡き三人への誓いでもあった。

 

四人は再び敬礼する。

 

「はっ!!」

 

その返答は先ほどよりも、さらに力強い。

ゲルハルトは静かに頷いた。

 

「以上だ」

 

四人は一礼し、踵を返す。

 

自動扉がゆっくりと開き、廊下の灯りが室内へ差し込んだ。

ハンス。

エーリッヒ。

イオリ。

三人が順に退室していく。

 

最後に残ったのは、シーマだけだった。

あと一歩で扉をくぐる、その瞬間。

 

「……中尉」

 

低い声が背中を呼び止める。

 

シーマは静かに振り返った。

ゲルハルトは振り返らない。

 

窓の向こうに広がる漆黒の宇宙を見つめたまま、ゆっくりと口を開く。

 

「……頼んだぞ」

 

たった五文字。

 

だが、その言葉には計り知れない重みがあった。

 

隊長という重責。

残された隊員たち。

クラウスが命を懸けて守ったシーウルフ隊。

 

そのすべてを託すという意味が、その一言には込められていた。

 

シーマはしばらく黙っていた。

やがて、ゆっくりと背筋を伸ばし、目を閉じ、小さく息を吸う。

 

そして振り返ったまま、深く敬礼した。

 

「……はい」

 

短く。

だが、迷いのない返答だった。

その声を聞いたゲルハルトは、静かに目を閉じる。

 

それ以上、何も言わない。

 

シーマもまた、何も言わず踵を返した。

 

自動扉が閉まり、静かな音を立てる。

艦長室には再び静寂だけが残った。

 

ゲルハルトは一人、宇宙を見つめ続ける。

 

漆黒の彼方には、もう帰らぬ三人が命を燃やした地球が、小さな青い星となって静かに輝いていた。

 

 

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