転生先はガンダムの世界?え?生き残れ?は?   作:スウェーデンクラス

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すんません!!
めちゃくちゃ遅くなりました!!
もうね、一回データが消えちゃって(自分の操作ミス)
心が折れていました笑
でも、その分書き直せたので良い面もあっかもしれません
どれだけの方が待っていてくださってるのか分かりませんが、最後まで書いていこうと思ってます。
あ、今回の話めちゃ長いです笑


第88話 ………

 

『クソ!! なんだこの対空砲の数は?!』

耳障りな警告音とともに、荒々しい男の声が響く。

画面いっぱいに広がるのは、ガウ攻撃空母の機内から撮影された降下中の映像だった。

 

機体の振動によって画面は激しく揺れ、時折、砂嵐のようなノイズが走る。

映像の向こう側では、巨大なガウ攻撃空母が密林の上空を飛行していた。

その腹部から、次々とモビルスーツが投下されていく。

 

ザク。

グフ。

ドム。

 

歴戦の兵士たちが操る機体が、輸送用の装備を伴い、次々と地表へ向かって落下していった。

 

その光景だけを見れば、作戦は順調に進んでいるようにも思えた。

しかし――。

 

『偵察部隊が先に潰してたんじゃないのか?!』

 

別のパイロットが叫ぶ。

その声には、隠しようのない焦燥が滲んでいた。

 

画面の端に、森林地帯の向こう側が映り込む。

そこには、無数の閃光があった。

 

対空砲火。

 

密林の中に巧妙に隠された連邦軍の砲座から、凄まじい数の砲弾が撃ち上げられていたのである。

地上から伸びる光の筋が、降下するモビルスーツを追いかける。

一発。

二発。

そして、次々と。

 

『右舷、被弾!』

 

『降下中の二番機、撃墜されました!』

 

『くそっ、どこから撃ってきてやがる!』

 

怒号が飛び交う。

機体の姿勢を立て直そうとするパイロットたち。

落下速度を制御しながら、対空砲火の隙間を探す。

 

しかし、敵の射撃は止まらなかった。

 

ジャブローを守る連邦軍は、ただ待っていたわけではない。

降下経路を予測し、射界を重ね、逃げ道を塞ぐように対空陣地を配置していた。

 

一つの砲座を避けても、その先には別の砲座がある。

高度を変えれば、別の射撃網に捕捉される。

まるで、空そのものが巨大な処刑場と化したかのようだった。

 

『?! 伍長!! ロックオンされてるぞ!!』

 

『了解!!回避、だめだ! 避けきれない!!』

 

画面の中央を、閃光が横切った。

直後、モビルスーツの機体が大きく傾く。

爆発。

カメラの視界が白く染まり、映像が激しく乱れた。

 

『くそ! やめ――!』

 

通信が途切れた。

その瞬間、ブリーフィングルームのどこかで、小さく息を呑む音がした。

だが、映像は容赦なく続いていく。

 

降下する機体。

迎え撃つ対空砲。

爆散する機体。

 

地表へ到達する前に、無数のモビルスーツが撃墜されていった。

 

機体の破片が森林へ落ちていく。

炎を引きながら墜落するザク。

降下用装備が破壊され、姿勢制御を失って回転するグフ。

 

その先には、密林が広がっている。

地面に激突するまで、あと数秒。

その数秒の間にも、通信回線には仲間を呼ぶ声が飛び交っていた。

 

『こちら第七降下班! 被弾した! 誰か応答しろ!』

 

『隊長、応答願います! 隊長!』

 

『駄目だ、降下地点が違う! 周囲に味方が見えない!』

 

『こちらもだ! くそっ、どうなってやがる!』

 

誰もが、自分の置かれた状況を理解しようとしていた。

そして、理解した頃には、すでに遅かった。

 

長年にわたり宇宙で戦い抜いてきたジオン軍の精兵たち。

 

ルウムで戦果を挙げた者もいた。

数々の戦場を生き延び、仲間を失いながらも、ここまでたどり着いた者もいた。

 

彼らは決して、未熟な兵士ではなかった。

それぞれに経験があり、技量があり、守るべきものがあった。

それでも。

敵の用意した圧倒的な防衛網の前では、その経験も技量も、十分に発揮する機会すら与えられなかった。

 

地表へ降り立つことさえできず。

味方と合流することさえできず。

何の戦果も挙げられないまま、命を落としていく。

 

イオリは、いつしか両手を強く握り締めていた。

画面の中で失われていく命の一つひとつに、かつての自分たちの姿が重なる。

自分もまた、いつかあの場所にいたのかもしれない。

ほんのわずかな違いで、生き残っただけなのかもしれない。

隣に座るシーマも、何も言わなかった。

ただ、映像を見つめる眼差しが、少しずつ険しくなっていた。

 

やがて、映像は切り替わる。

 

画面に表示されたのは、密林の中を移動する数機のモビルスーツだった。

その数は、わずか四機。

周囲には、ほかの味方機の姿は見当たらない。

だが、彼らはまだ戦う意思を失ってはいなかった。

 

『……降下できたのは、俺たちだけか?』

 

隊長と思しき男の声が、通信回線に響く。

先ほどまでの怒号とは違い、今度の声には、疲労と警戒が混じっていた。

機体のモニターには、周囲の地形情報が表示されている。

 

鬱蒼と茂る樹木。

湿った大地。

視界を遮る無数の枝葉。

 

密林の中では、モビルスーツの巨体はかえって動きにくい。

それでも、彼らは慎重に進んでいた。

 

『他にもいるはずだが、みんなはぐれちまった。どうする、隊長?』

 

部下の一人が問いかける。

隊長は、すぐには答えなかった。

 

周囲を見渡し、レーダーを確認し、通信回線を切り替える。

 

返答はない。

 

どこかで味方が生き残っているかもしれない。

しかし、いつまでもその場に留まるわけにはいかなかった。

 

『隊長、座標ではこの先に入り口があるようです』

 

別の部下が報告する。

隊長は表示された座標を確認した。

そして、短く息を吐く。

 

『……よし。俺たちだけで先に進むぞ。ジャブローの入り口を制圧し、増援が来るまで待機する』

 

『了解!』

 

四機のモビルスーツが、再び歩き始めた。

その足音が、密林の中に鈍く響く。

 

彼らの任務は、敵の本拠地への突破口を確保すること。

もし、それを成し遂げられれば、後続部隊が内部へ侵入する足掛かりとなる。

 

この作戦で失われた仲間たちの犠牲も、決して無駄ではなくなるかもしれない。

そんな思いが、彼らを前へ進ませていた。

しばらく進むと、先頭を歩いていた機体が足を止めた。

 

『……あれか』

 

画面の向こう側。

木々の間に、人工物らしきものが見えた。

巨大な岩壁。

その一部に、周囲の地形とほとんど見分けがつかないように偽装された構造物が存在していた。

人工的な継ぎ目を隠すように、植物が植えられている。

岩肌に見える部分も、よく見れば不自然なほど均一だった。

それは、自然の地形を装った巨大な扉だった。

 

『……ジャブローです』

 

偵察を担当していたパイロットが報告する。

 

『やっと見つけましたね』

 

別のパイロットが、安堵したように呟いた。

だが、隊長は気を緩めなかった。

 

『浮かれるな。ここからが本番だ。各員、装備を確認しろ。弾薬残量、損傷箇所、通信状態を報告』

 

『弾薬、残り六割です』

 

『機体右脚に軽微な損傷。戦闘行動に支障なし』

 

『通信、正常です』

 

一つひとつ、報告が返ってくる。

隊長はそれらを聞きながら、機体の武装を確かめた。

そして、偽装された扉を見据える。

 

『……よし。今から突入するぞ』

 

その言葉を合図に、四機が隊形を整えた。

隊長機が先頭。

残る三機が左右と後方を固める。

彼らは知らなかった。

自分たちが見つけたその入り口の向こうに、何が待っているのかを。

そして――。

その扉が、ゆっくりと動き始めた。

 

『……ん?』

 

最初に異変に気づいたのは、前方を警戒していたパイロットだった。

岩壁の一部が、わずかに動いたのである。

最初は、錯覚かと思った。

しかし、次の瞬間。

地面を震わせるような轟音が、密林に響き渡った。

 

巨大な扉が、ゆっくりと左右へ開いていく。

 

内部から漏れ出した人工照明が、密林の影を押し広げていく。

 

『隊長! 扉が開きます!』

 

『総員警戒!!』

 

隊長の声が鋭く響き、四機のモビルスーツが、一斉に武器を構えた。

機体のセンサーが扉の向こう側を探る。

だが、内部は暗く、奥行きが分からない。

 

何があるのか。

何が出てくるのか。

 

隊長は照準を扉の中央へ合わせたまま、じっと待った。

やがて――。

扉が完全に開いた。

その奥から、音が聞こえてきた。

 

ズン……。

ズン……。

ズン……。

 

地面を踏み締める、重い足音。

一歩。

また一歩。

規則正しく響くその音を、ジオン軍のモビルスーツパイロットたちは誰もが知っていた。

モビルスーツの歩行音。

 

『……この音は』

 

誰かが呟く。

 

『モビルスーツか?!』

 

その声に、緊張が走った。

だが、それ自体は不思議なことではない。

ここは連邦軍の本拠地、ジャブローなのだ。

敵のモビルスーツが存在するのは予測できていた。

 

問題は――。

その数だった。

 

暗闇の向こうで、いくつもの影が動く。

一機。

二機。

三機。

そして、その背後にも。

さらに奥にも。

次々と、モビルスーツの姿が現れた。

 

『な……』

 

隊員の一人が、息を呑む。

最初に姿を現した機体は、その頭部に備えられたバイザーを冷たい光で放つ

その後ろから、また一機。

さらに一機。

数え切れないほどの機体が、整然と列を成して現れる。

 

彼らは慌てている様子もなければ、互いに指示を求める様子もない。

統制の取れた動きで展開し、あっという間に扉の前方を埋め尽くしていく。

その光景を見た瞬間、隊長の表情が凍りついた。

 

『な、なんだ……この数は……』

 

信じられなかった。

ジャブローには、確かに連邦軍の大部隊が存在すると聞いていた。

だがそれは、戦車や戦闘機といった類のものだ。

だが、目の前にいるのは、それではない。

現れた大量のモビルスーツ。 

 

『……まさか』

 

声が震えた。

 

『連邦は……もう……?』

 

その時だった。

連邦軍のモビルスーツ群が、一斉に動いた。

頭部のバイザーが光る。

武器が持ち上がる。

銃口が、こちらを向く。

その動きには、迷いがなかった。

まるで、射撃訓練の標的を狙うかのように。

 

『総員――』

 

隊長は叫んだ。

 

『避けろぉーーーーッ!!』

 

次の瞬間。

銃声が、密林を埋め尽くした。

 

ーーーーーー

 

光が走った。

一つではない。

数十、いや、それ以上の閃光が、一斉に四機へと襲いかかった。

弾丸が樹木を砕き、土砂を巻き上げる。

モビルスーツの装甲が火花を散らし、衝撃に機体が揺さぶられた。

 

『回避!!』

 

隊長機が横へ跳ぶ。

間一髪、直撃を避ける。

だが、その隣にいた部下の機体は違った。

連続する被弾。

装甲が剥がれ、片腕が吹き飛ぶ。

 

『隊長! 避けきれません!! 逃げて……キャアァァッ!!』

 

通信が悲鳴に変わった。

機体が横転する。

地面へ叩きつけられた瞬間、複数の連邦軍機がその機体へ照準を合わせた。

 

『やめろ! もう動けないんだぞ!』

 

隊長が叫ぶ。

だが、返答はない。

さらなる射撃が降り注いだ。

爆炎が立ち上り、モビルスーツの姿が煙の中へ消えていく。

 

『嫌だ!! やめてくれ! 頼む……母さん!!』

 

若い男の声が、通信回線を震わせた。

その声が途切れる。

 

隊長の目の前で、もう一機が倒れた。

その機体へも、容赦なく銃弾が撃ち込まれる。

反撃する機会すら与えられない。

 

退路はない。

味方もいない。

敵の数は圧倒的だった。

 

『……話が違う……』

 

隊長の口から、かすれた声が漏れる。

 

『連邦はまだ……量産体制は整っていなかったんじゃないのか……』

 

彼らが聞かされていた情報と、目の前の現実があまりにも違っていた。

連邦軍のモビルスーツは、まだ本格的な量産段階には至っていない。

少なくとも、ジオン軍の将兵たちはそう認識していた。

 

だからこそ、彼らはここまで戦ってきた。

技量ならば負けない。

経験ならば勝っている。

敵の新兵器さえ、熟練の操縦技術で打ち破れる。

 

そう信じていた。

しかし、今、彼らの前に広がっている光景は、その前提を根底から覆していた。

連邦軍の量産型モビルスーツが、数の上でも、性能の上でも、圧倒的な力を見せつけている。

 

しかも、それらはただ並んでいるだけではなかった。

射撃する機体。

前へ出る機体。

側面へ回り込む機体。

互いの死角を補い、逃げ道を塞ぎ、確実に標的を追い詰めていく。

 

そこには、未熟な兵士の集まりとは思えない練度があった。

そして――。

その圧倒的な数の前に、最後の部下が倒れた。

 

『……たい、ちょう……』

 

ノイズ混じりの通信。

隊長が、はっと顔を上げる。

モニターの片隅に、かろうじて動く機体が映っていた。

部隊で最も若い、女性パイロットだった。

彼女の機体は大きく損傷し、片腕は失われ、脚部もまともに動かない。

それでも、通信回線だけは、かろうじて生きていた。

 

『……にげ、て……』

 

その声は、あまりにも弱々しかった。

 

『隊長……逃げて……』

 

隊長は、彼女の機体を見つめた。

ほんの一瞬。

頭の中から、すべての雑音が消えた。

 

彼女は、まだ若かった。

軍人としての経験も、隊長ほど豊富ではない。

それでも、ここまで生き延びてきた。

数々の戦場をくぐり抜け、ようやくこの作戦に参加するところまでたどり着いたのだ。

 

そして今。

自分を逃がすために、彼女は最後の力を振り絞っていた。

 

『……待ってろ』

 

隊長の声が、低く響いた。

 

『今、行くぞ!!』

 

彼は操縦桿を強く握り締めた。

経験豊富なパイロットとしての冷静さは、もう残っていなかった。

頭に血が上っていることも分かっていた。

ここで突っ込めば、助けられる保証などない。

それどころか、自分まで撃墜される可能性の方が高い。

 

それでも。

 

目の前で部下を見捨てることだけは、できなかった。

グフが地面を蹴る。

スラスターが火を噴き、密林の中を一気に突進する。

 

『うおおおおおッ!!』

 

隊長の叫びが通信回線を震わせた。

連邦軍のモビルスーツが、こちらへ向き直る。

銃口が動く。

照準が合わされる。

 

しかし、隊長の操縦は巧みだった。

樹木の間を縫い、地形の起伏を利用し、飛来する射撃を紙一重でかわしていく。

一発。

二発。

三発。

機体のすぐ脇を弾丸が掠め、装甲が火花を散らす。

 

それでも、グフは止まらなかった。

あと少し。

彼女の機体まで、あと少しだった。

だが――。

その瞬間、衝撃が機体を襲った。

 

『ぐっ……!?』

 

脚部に被弾。

機体の姿勢が崩れ、グフは地面へ膝をついた。

スラスターが噴射される。

立ち上がろうとする。

しかし、損傷した脚部は、もはやまともに機体を支えられなかった。

 

グフはその場で動きを止めた。

そして、次の瞬間。

周囲から、連邦軍のモビルスーツが集まってきた。

一機。

二機。

三機。

四機。

逃げ道を塞ぐように、隊長機を取り囲む。

 

それぞれの手には、ビームサーベルが握られていた。

光の刃が、密林の中で不気味に輝く。

隊長は、しばらくそれを見つめていた。

もう、勝ち目がないことは分かっていた。

 

機体は動かない。

武器を構えることも難しい。

周囲には、敵機が何機もいる。

そして、残された部下たちも――。

 

『……やめてくれ』

 

隊長は、通信回線を開いた。

 

『投降する』

 

その声は、先ほどまでの叫びとは別人のように弱々しかった。

 

『……もう戦う気はない。武器を捨てる。だから……』

 

彼は、モニター越しに敵機を見つめた。

 

『部下たちは、まだ生きている者もいるんだ』

 

一瞬、声が詰まる。

 

『頼む……助けさせてくれ』

 

それは、敵に対する降伏の言葉だった。

同時に、部下たちの命を救うための、最後の願いだった。

だが。

返答はなかった。

目の前の連邦軍機が、ゆっくりとビームサーベルを振り上げる。

 

『……は?』

 

隊長が呟いた。

そして――。

ビームの光が、グフの装甲を貫いた。

 

『やめろーーッ!!』

 

悲鳴が響く。

一撃。

機体が大きく揺れる。

 

『やめ……頼む……!』

 

二撃。

さらに、もう一撃。

ビームサーベルが引き抜かれ、再び突き刺される。

隊長の声は、次第に弱くなっていった。

 

『……たの……む……』

 

その言葉を最後に、コックピットにビームサーベルが突き刺される。

通信回線から人の声が消えた。

だが、映像は終わらなかった。

 

損傷したグフのカメラは、まだ生きていた。

傾いた画面の中で、連邦軍のモビルスーツたちが隊長機から離れていく。

その先にあるのは、地面に倒れたジオン軍の機体だった。

動かなくなった機体。

まだ、かすかに動いている機体。

損傷しながらも、通信回線を開こうとしている機体。

連邦軍のモビルスーツは、その一機一機へ近づいていった。

そして――。

ビームサーベルを振り下ろした。

 

『…いや!……こないで……!……あ』

 

『やめてくれ!やめ……!』

 

一機。

また一機。

まるで、戦闘が終わったことを確認するかのように。

いや。

それは、もはや戦闘と呼べるものではなかった。

抵抗する力を失った者たちに対する、無慈悲な追撃だった。

 

画面の中で、最後の機体が動かなくなる。

その瞬間、映像が大きく乱れた。

激しいノイズ。

歪む画面。

途切れかけた音声。

そして――。

映像は、唐突に途切れた。 

 

ーーーーーー

 

ブリーフィングルームの照明が、ゆっくりと点灯した。

誰も、すぐには動かなかった。

先ほどまで聞こえていた通信音声が、耳の奥に残っている。

若い女性パイロットの声。

隊長の叫び。

そして、最後の願い。

 

『頼む……助けさせてくれ』

 

それが、いつまでも頭から離れなかった。

ゲルハルトは目頭を揉むようにして、深く息を吐いた。

その顔には、普段の厳格な艦長としての表情とは異なる、疲労と苦渋が浮かんでいた。

しばらくして、彼は静かに口を開いた。

 

「……以上が、ジャブロー攻略戦の際の映像だ」

 

その声は、いつもよりも重かった。

部屋の前方に立つゲルハルトが静かに口を開いた。

 

「……見ての通り、ジャブロー攻略作戦は失敗した。これにより、我々ジオンは地球攻略は不可能となった」

 

低く、重い声だった。

怒鳴るでもなく、声を荒らげるでもない。

だからこそ、その言葉は部屋にいる全員の胸に深く沈んでいった。

 

地球攻略。

 

ジオン公国が掲げた戦争目的の一つであり、数多くの将兵がその達成を信じて地上へ降り立った。

そのために、多くの命が失われた。

 

そして今、その戦いに一つの結論が下された。

もはや、地球を手中に収めることはできない。

ゲルハルトは隊員たちの顔を一人ずつ見渡した。

誰もが、その事実を受け止めようとしていた。

 

だが、そこに浮かぶ表情は決して明るいものではなかった。

 

「今後、連邦は宇宙《そら》へと上がってくる」

 

その言葉に、何人かの隊員が顔を上げた。

 

「……総員、覚悟せよ」

 

ゲルハルトは一度言葉を切った。

その短い沈黙の間に、彼は何を思っていたのだろうか。

先ほどの映像に映し出された無数のモビルスーツ。

それらを操る連邦軍の兵士たち。

 

そして、地上で命を落とした数え切れないほどのジオン将兵。

その中には、二度と家族のもとへ帰れなかった者もいれば、帰りを待つ者がいることすら知られぬまま死んでいった者もいる。

 

先の戦闘で失ったクラウスたちも、もう帰ってはこない。

ゲルハルトは、それらすべてを胸の内に押し込めるように、言葉を続けた。

 

「モビルスーツの優位性は無くなった。さらなる激戦が予想される」

 

かつて、モビルスーツは戦場の常識を覆した。

巨大な人型兵器が戦場を駆け、戦艦すらも撃破する。

その圧倒的な機動力と火力は、ジオン軍に数々の勝利をもたらしてきた。

しかし、連邦軍もまた、モビルスーツを戦力の中核に据えつつある。

 

ジオンだけが持つ優位性は、すでに過去のものとなりつつあった。

これから先、待ち受けるのは、互いに同じ兵器を操り、同じように殺し合う戦場。

 

機体の性能だけでは勝敗を決められない。

操縦技術、判断力、連携、そして一瞬の判断の遅れ。

 

ほんのわずかな差が、生き残る者と死ぬ者を分けることになる。

シーウルフ隊の隊員たちも、それを理解していた。

 

先の撤退戦で、彼らはその現実を身をもって知ったばかりだった。

仲間が撃墜される。

助けようとしても、間に合わない。

目の前で仲間が命を懸け、最後には帰らぬ人となる。

その痛みを知ったからこそ、彼らの表情は重かった。

 

「今後は、宇宙用の機体の完熟訓練を優先。その後は追って指示する。ひとまず解散だ」

 

ゲルハルトは、それ以上の言葉を重ねなかった。

今、彼らに必要なのは、慰めの言葉でも、根拠のない希望でもない。

生き残るための準備だ。

 

これから訪れる戦いに備え、少しでも多くの隊員を生還させるために。

そのために、今できることを一つずつ積み重ねるしかなかった。

 

「……了解」

 

誰かが小さく答えた。

それを合図に、隊員たちが次々と椅子から立ち上がる。

その中で、一人の女性がゆっくりと立ち上がった。

 

シーマ・ガラハウ。

先の戦闘で隊長クラウスを失い、その遺志を継いでシーウルフ隊の新たな隊長となった女傑である。

 

彼女は一度、部屋に残る隊員たちを見渡した。

先ほどまで、彼らの顔には疲労と悲しみが色濃く浮かんでいた。

それは無理もないことだった。

長く共に戦ってきた仲間を失ったばかりなのだ。

 

シーマは背筋を伸ばし、隊員たちへと声を張った。

 

「みんな聞いたね? 30分後に格納庫に集合だ。私らに休んでいる暇はないよ」

 

その声には、迷いがなかった。

厳しくも、どこか仲間を気遣うような響きがあった。

隊員たちの視線が、彼女へと集まる。

一瞬だけ、空気が張り詰めた。

しかし、それは長く続かなかった。

 

「了解」

「了解しました」

「あいよ、姉御」

 

返ってきた声は、まだ完全にいつもの調子を取り戻したものではなかった。

それでも、確かな力があった。

シーマの言葉を受け、隊員たちはそれぞれの思いを胸に、ブリーフィングルームを後にしていく。

 

誰もが、失った仲間たちの顔を忘れたわけではない。

忘れられるはずもない。

 

ただ、彼らは歩き出したのだ。

 

残された者として、これからも戦い続けるために。

一人、また一人と隊員たちが退室し、やがて室内には足音すら聞こえなくなった。

 

残ったのは、シーマ、イオリ、エーリッヒ、ハンスの四人。

そして、彼らの前に立つゲルハルトだった。

 

先ほどまで隊長として部下たちを鼓舞していたシーマの表情が、わずかに変化した。

張り詰めていた頬の筋肉が緩み、視線が静かにゲルハルトへと向けられる。

 

「艦長。……隊長やグスタフ、アイゼンの遺族に連絡は?」

 

その問いは、先ほどまでの指示とは違い、ひどく静かなものだった。

シーマの声からは、隊長としての威厳だけではなく、一人の人間としての気遣いが滲んでいた。

 

戦場で命を落とした兵士たち。

彼らの死を、まだ知らない者たちがいる。

夫の帰りを待つ妻。

父親が帰ってくる日を指折り数えている子供。

いつものように帰宅する息子を待つ親。

 

戦場で命が尽きた瞬間、その兵士の時間は止まる。

だが、残された者たちの時間は止まらない。

 

いつか帰ってくると信じていた人間が、もう二度と帰ってこない。

その事実を、誰かが伝えなければならない。

 

そして、その役目を負う者もまた、決して軽い気持ちで言葉を口にできるはずがなかった。

 

ゲルハルトは、ゆっくりと目を伏せた。

 

「クラウス、アイゼンの家族には私から連絡したよ」

 

その声には、先ほどまでの指揮官としての響きがなかった。

 

「戦死の報告ほど辛いものはないよ」

 

ゲルハルトは、静かに息を吐いた。

これまで、彼は何人もの部下を戦場へ送り出してきた。

作戦を立て、命令を下し、時には撤退を決断し、時には誰かを見捨てる判断を迫られたこともある。

艦長という立場にある以上、感情だけで決断を下すわけにはいかない。

一人の判断が、艦に乗る全員の命を左右するからだ。

 

だが、どれだけ経験を積んでも、戦死の報告だけは慣れることがない。

 

電話越しに伝えた言葉。

相手の沈黙。

震える声で返された問い。

あるいは、何も言葉が返ってこなかった瞬間。

 

その一つひとつが、今もゲルハルトの胸に残っていた。

 

「……グスタフ曹長は?」

 

静寂を破ったのは、イオリだった。

彼は、ゲルハルトの表情を見つめていた。

クラウスとアイゼンには家族がいた。

 

では、グスタフはどうなのか。

 

あの豪快な笑い声。

戦場では誰よりも頼りになり、味方を鼓舞し、どんな窮地でも仲間を見捨てなかった男。

そんな彼にも、帰りを待つ者がいたのではないか。

イオリは、そう思わずにはいられなかった。

 

だが、ゲルハルトはすぐには答えなかった。

ほんのわずかに唇を引き結び、やがて、静かに首を横に振った。

 

「曹長は本当に天涯孤独の身のようだ」

 

その言葉に、イオリの表情が曇る。

 

「いたのは、彼が住んでいたアパートの大家に預けられていた一匹の犬だけだったよ」

 

ゲルハルトは、そこで一度言葉を切った。

何かを思い出すように、視線を遠くへ向ける。

 

「いつも窓から主人の帰りを待っているそうだ……」

 

その瞬間。

四人の間に、言葉では埋められない沈黙が広がった。

誰も、すぐには口を開けなかった。

 

グスタフ曹長。

いつも豪快に笑い、細かいことなど気にしないとばかりに肩を叩いてくる男。

戦場では頼もしく、仲間が窮地に陥れば真っ先に飛び込んでいく。

時には大声で怒鳴り、時には冗談を飛ばし、部隊の空気が沈んでいれば、わざと馬鹿げた話をして皆を笑わせる。

そんな男が、誰もいない部屋へ帰っていた。

仕事を終え、軍服を脱ぎ、疲れた身体を椅子に投げ出す。

そして、窓辺には、主人が帰ってくるのを待つ一匹の犬がいる。

 

犬にとって、グスタフは世界のすべてだったのかもしれない。

主人がいつ帰ってくるのか。

今日はどんな顔をして帰ってくるのか。

扉が開けば、きっと尻尾を振って飛びつくつもりだったのだろう。

いつもと変わらない明日が来ると信じて。

 

しかし、その明日はもう訪れない。

 

軍からの連絡が届くこともないまま、犬は今も窓の外を眺めているのだろうか。

聞き慣れた足音が廊下から響くのを待ち。

鍵が回る音を待ち。

扉の向こうから、あの大きな声が聞こえてくるのを待ち続けているのだろうか。

 

「帰ったぞ」と。

 

あの男なら、きっとそんなふうに帰ってきたに違いない。

イオリは、無意識のうちに拳を握り締めていた。

エーリッヒは唇を噛み、視線を落とす。

ハンスもまた、何かを言いかけて、結局は口を閉じた。

彼らは、グスタフと共に戦った。

その背中を見てきた。

その声を聞いてきた。

そして、最後には、その男が命を懸けて仲間を守ろうとしたことを知っている。

だからこそ、言葉が出なかった。

 

戦場で散った命は、勲章や戦果の数字だけでは語れない。

誰かにとっては頼れる戦友であり、誰かにとっては大切な家族であり、そして、あの犬にとっては、世界でたった一人の主人だった。

 

グスタフ曹長の死は、戦況報告書の一行で終わるようなものではなかった。

彼を知る者たちの心に、確かな重みを残していた。

 

しばらくして、シーマがゆっくりと姿勢を正した。

彼女はゲルハルトへ向き直ると、右手を額へと掲げた。

敬礼。

 

「艦長。ありがとうございます。訓練に向かいます」

 

その声は、静かでありながら、はっきりとしていた。

ゲルハルトは一瞬、シーマの顔を見つめた。

その目に浮かぶ悲しみを、彼は見逃さなかった。

彼女もまた、仲間を失ったばかりなのだ。

クラウスは、ただの上官ではなかった。

シーマにとって、共に戦い、背中を預け、時にはぶつかり合いながらも同じ道を歩んできた仲間だった。

 

その男から、隊を託された。

だからこそ、彼女は立っている。

 

胸の内にある悲しみを押し殺し、残された隊員たちを率いるために。

ゲルハルトは、ゆっくりと顔を上げた。

そして、シーマの敬礼に答えるように、右手を額へと掲げた。

 

「あぁ、しっかりな」

 

短い言葉だった。

しかし、そこには多くの意味が込められていた。

 

頼むぞ。

隊員たちを守ってくれ。

そして、どうか生きて帰ってきてくれ。

 

口にするにはあまりにも重く、立場上、簡単には言葉にできない願い。

そのすべてを込めるように、ゲルハルトは答礼した。

シーマの隣では、イオリが静かに敬礼していた。

続いて、エーリッヒ、ハンスもまた、ゲルハルトへ向けて敬礼を捧げる。

四人の敬礼が揃った。

 

やがて、シーマは踵を返す。

イオリたちもそれに続く。

扉へ向かう彼らの足取りに、迷いはなかった。

けれど、その背中には、確かに重いものが残されていた。

 

クラウスの声。

グスタフの笑い声。

アイゼンの穏やかな表情。

 

それらを忘れることなど、できるはずがない。

彼らがいなくなった場所に、ぽっかりと空いた穴は、すぐには埋まらないだろう。

 

もしかすると、最後まで埋まらないのかもしれない。

それでも、歩みを止めることはできない。

 

彼らが守ろうとした仲間が、まだここにいる。

彼らが命を懸けて繋いだ未来が、まだ続いている。

 

ならば、自分たちがやるべきことは一つだった。

 

生き残ること。

仲間を守ること。

 

そして、次の戦場から、一人でも多くの仲間を連れて帰ること。

扉が静かに閉じられた。

 

再び、ブリーフィングルームに静寂が戻る。

ゲルハルトは、しばらく閉ざされた扉を見つめていた。

やがて、ゆっくりと手を下ろす。

 

艦長として、彼にはまだやるべきことが山ほど残されている。

次の作戦への準備。

艦の整備。

部隊の再編。

 

そして、これから宇宙へ上がってくる連邦軍を迎え撃つための備え。

悲しみに暮れている暇などない。

それは、シーウルフ隊だけではなく、ジオン軍全体に課せられた現実だった。

 

それでも。

ゲルハルトは、誰もいなくなった部屋で、もう一度だけ目を伏せた。

 

「……ふぅ」

 

そのため息を聞く者は、誰もいなかった。

ただ、黒くどこまでも続く宇宙だけが、窓の向こうに広がっていた。

 

 

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