諸悪の根源って?……えっ、私ィ!?   作:不死穴

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Vol.0:物語はここから始まる
青春の物語、その始まり


 


 

 (めぐ)(めぐ)りて幾千(いくせん)

  振り出し差し出し

   日の出る方へ 

 


 

 

 

 

 

『連邦矯正局』

 

 

 

 それは、幾千の学園にて構成されるこのキヴォトスで頂点に立つ、連邦生徒会が看過できないほどの犯罪を犯した者達が辿り着く最後の場所。

 

 広大なキヴォトス全土から犯罪者を収容するため、当たり前のようにそこにいる人間の姿、思想、その他諸々の特徴は千差万別である。

 例を挙げるとするならば、破壊・略奪を趣味とする狐、独自の美学を持つ怪盗、仙丹を作ろうとする薬師、伝説のスケバン――と字面を見ただけで理解できるあまりにも多方面に濃い面々が牢に繋がれ捕まっている。

 

 これらのような、一癖も二癖もある凶悪犯罪者が跋扈しているが故に、当然その警備は非常に厳しく堅固だ。

 一定時間ごとに欠かさず見回りする警備員達。

 死角が全くと言って良い程存在しない監視カメラ。

 常にミレニアムの最新技術が採用され、更新されていく牢屋のセキュリティに素材……。

 何よりも、この施設の堅牢さは創設されてからこれまで一人たりとも脱獄犯を出してこなかったという輝かしき実績が()()()()()()

 

 ……そう証明していたのだ――詰まるところ過去形だ。今はその実績など過去の虚栄に過ぎず、脱獄不可能という大層な肩書きはとある一人の囚人によって完全に瓦解していた。

 

 

「おい!またアイツいないぞ!?どこに行った!?」

「今期53回目の脱獄だと!?ふざけるな!草の根分けてでも探し出せ!」

 

 

 矯正局内に慌てふためく警備員たちの怒鳴り声が響きわたる。誰かを探すよう指示するその怒声からは憤怒と焦燥、それと何をしても無駄という微かな諦観の感情が感じられた。

 

「ハハッ!見ろよ!またァ、アイツ脱獄したらしいぜ?今回はいくら賭ける?」

「……興味ありません。賭け事なら、貴方ひとりで勝手にしてください」

「ツレねェなぁ。そんぐらい良いじゃねぇか、頭でっかちめ……。そんなんだからSRTに捕まっちまうんだぜ?狐さん?」

 

「すいません、アイツって誰っすか?」

 

 一人の囚人が、目の前で慌てて走る看守達を指差し、隣に座る着物を着た狐耳の少女へとニタニタと嗤いながら話しかける。

 それを小耳に挟んだ別の囚人が、嗤う囚人へと脱獄したと思われる人物――『アイツ』について尋ねた。

 

「あん?オメーは……新入りか。なら知らねぇのもしょうがねェ。『アイツ』ってのはこの矯正局に一年前入ってきた凶悪犯。噂によりゃ、キヴォトス全域を大混乱の渦中に巻き込んだらしいぜ?

 おめーも、聞いた事ねェか?

 

神出鬼没(しんしゅつきぼつ)月光華(げっこうばな)』って奴をよォ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 ダダダダダッ!

 

 

 場所は移りゲヘナ学園。

 平時ならば、温泉開発部が温泉開発という大義名分を掲げて道路を爆破し、美食研究会が給食部のある生徒を拉致っている等――問題行為が常時多発し世紀末並みの治安が蔓延している場所。それがゲヘナ学園及びその自治区の総評である。

 しかし、どう言う訳か――この場にはそんなテロリスト共の姿はてんで見えず、とある人間を追いかける一つの白い影があるだけだった。

 

「待ちなさい……!」

 

「……っ!?」

 

 銃を撃つ音、その銃弾が建物や地面を穿ち発せられる鋭い音が青く澄んだ空に共振する。

 

 純白の少女が走りながら、その体に見合わぬ巨大なマシンガンを前にいる黒髪の少女へと情け容赦無く連射する姿。その虚像が老朽化した建物のガラスに反射する。

 放たれた銃弾は純白の少女の前方を走る黒髪の少女の頬を擦り、通り抜けて、夜の様に黒く深い色の髪が宙に舞った。

 

「ゲヘナの風紀委員長が何の用さっ……!?別に、私は何かしたって覚えはないんだけどなぁ!」

 

 黒髪の少女が少し弾道がズレていれば自分の後頭部へと命中していたであろう弾丸の数々に冷や汗をかき、息を少し切らせつつ抗議の声を上げる。

 そんな様子を、追いかけるゲヘナの風紀委員長――空崎ヒナは見やり、全力で走りながらも器用に溜息をついて言い放った。

 

「……『何かした覚えはない』?

 空から急に降ってきて大勢の生徒達の前でマコトの頭に着地したのに?」

 

「あ、アレは…………そう、不慮の事故。不慮の事故だ!アレはまったく偶然の出来事であって決して私の仕組んだ意図的なものでは__」

 

「マコトはアレでも一応ゲヘナ学園のトップだから……あんな事がいくら偶然であろうと、風紀委員長の私の目の前で起きたら見逃せる訳がない。しかも、犯人は矯正局にいるべき人間……問答無用で捕まえる」

 

 ゲヘナの風紀委員長――空崎ヒナの冷たいその言葉を背後から受けて黒髪の少女は逃げ走りながらも天を見上げ、今にも涙が溢れそうな顔をして叫ぶ。

 

「勘弁してくれませんかねぇ!?私、武器も何も持ってないんですけど!武器のない私とか、武装解除してるただの美少女だよ!?」

 

「……どうやって矯正局から出てきたのかは知らないけど、私の前で騒ぎを起こしたのは失敗だった」

 

「聞く耳持たずかよ、チクショー!」

 

 加速と減速を繰り返し、トリッキーにヒナから逃げ切ろうとする黒髪の少女であったが、やはり常日頃からゲヘナの治安を守っているヒナに地の利があるのか黒髪の少女とヒナの距離は徐々に縮まっていく。

 それを見てか、黒髪の少女は冗談混じりに嘆いていた今までとは異なり、このままでは本当に捕まってしまうと焦った顔を見せて、市街地のビルとビルの間にある路地裏へと滑り込んだ。

 

「……無駄よ。そこは行き止まり__」

 

 冷静なヒナの言葉が途中で詰まる。

 それもそのはず、ヒナが路地の外から銃を構えビルの狭間を覗くが袋小路であるはずのその路地裏には誰もいなかった――逃げ道はない、壁を登ろうにも足場など殆どなくビルは推定10m以上はあるため、少女が滑り込んでからヒナが来るまでの短時間で登り切る事は不可能。

 ヒナは今しがた、確かに黒髪の少女がこの道へと入って行くのを目撃した。

 つまり、黒髪の少女はその場から忽然と……突如として消えてしまったのである。

 

 驚くほど静まり返ったその場で動くのは、路地裏の地面の暗がりの中、落ち葉が浮かぶ水面の如く、微かに揺れ動き波紋を作り出す『影』それだけだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇ 

 

 

 

 

 

 ふぃー、何とか逃げ切れたな。

 ヒナちゃん怖いよぉ。何故にあんなでっかい銃構えて冷徹な眼で追いかけてくるのさ。

 しかもコンクリートの壁が粉砕される威力の銃撃って……あのバ火力が私に直撃したらと思うと……とてもじゃないが1ミリたりとも笑えねーよ。

 

 

 光が全くない、真っ暗な空間を歩みながら私はヒナちゃんへの不満をぐちぐちと心の中で唱える。上下左右、前後ろ――全方位が闇に包まれ音もなく、正に『無』というのが正しいだろうこの空間は一言で言ってしまえば『影の内側』。つまり私はヒナちゃんが路地裏に来るまでの間に路地裏の影の中に飛び込んで難を逃れたというわけだ。

 

 さて、こんな奇々怪々な場所に入り込めてこんな講釈を垂れる私は結局何者なんだって話なんだが……。

 

 私の名前は禍溟(まがくら)ルリ。

 俗に言うTS転生者ってやつだ、多分。

 色々あって、前世の記憶が朧げだから確証は持てないけどね。

 

 そうだな――まぁ、私の素性となると……振り返る事、1年半くらい前かな?

 

 

 

 

 ――目が覚めると牢屋の中だった。

 

 そう、牢屋の中だ。いたって普通の――欲しいゲームの新作発売に合わせて有給休暇を取るぐらいには普通の大人だったはずの私は、気づいた時には牢屋の中にいた。

 極々平凡な一般小市民たる私に牢屋へと入れられる心当たりなんてある訳もない。それが、一度目を閉じて開けてみればまさかまさかの獄中である。

 よって、混乱した私の脳がこの状況を夢だと断ずるのも当然の思考、当然の帰結であった。

 ……でもまぁ、その後残念なことに目の前に(はか)ったかのように配置された鏡によってそんな都合のいい幻想は破壊されたんだけどね。

 

 牢屋の中の鏡に映るのは黒い髪、黒い目、黒い服……全体的に黒という印象の少女。

 顔は可愛いというよりは綺麗という感想が先に出る(まさ)に美少女然とした風貌……。

 加えて、服は光を吸収する(さま)を幻視する黒色のゴスロリ風のワンピースで、それには星のような煌びやかな飾りが散りばめられている。

 

 この時点で私の思考回路は速やかに現実逃避へと移行した。

 だが、そう簡単に問屋は卸しちゃくれやしない。

 試しに頬をつねると鏡の向こうの美少女も頬をつねる。

 しかもフィードバックされる痛みは本物、夢ではないことを如実に語っていると来た。

 

 そのタイミングで、やっと私は美少女になっているという荒唐無稽なふざけた現実を受け入れた――というか受け入れるしかなかった。

 

『な、なぁ!?……はぁ~~~!?』

 

 ……溢れんばかりの驚愕の叫びが牢屋の中に響き渡る。

 

『はぁ!?何だこれ……ッチ、俺の声が可愛い!?……いったい何が……っつ!?』

 

 私が自分から出た声に不覚にも萌え的なサムシングを感じてしまい、たまらず困惑する――直後、私の頭の中に強烈な違和感が生じた。見たことも聞いたこともない記憶、知識がどういう訳か脳内に溢れてくる。

 濁流の如く押し寄せてくる情報をお世辞にも良いとは言い難い脳味噌で、なんとか処理しながら現状を考え――そして、導けた結論は一つ。簡潔に述べるのなら、俺と少女の肉体()の記憶が混ざり合おうとしていた。

 この時の不快感と痛みと言ったら、頭の中身をデスソースと一緒にミキサーにかけて皿にぶちまけたかのような滅茶苦茶な感覚。それが一気に押し寄せてくる――正に地獄の拷問の様な瞬間だった。

 

 そんでもって、あまりの激痛に頭を抑え転がり回る私のとった次の行動、コレが一番の問題であり、私のハッピーキヴォトスライフ最大級の過ち……。

 今思い返せばコレが原因で私は現在の状況に陥ってしまったんだなぁとしか思えない。詩的且つ端的に言い表すなら――()()()()()()ってやつだろう。

 

 コレさえなければ、こんなゲヘナという治安最悪の場所で、個人的には最強の一角だと思ってる空崎ヒナと捕まれば即終了の鬼ごっこに興じるとかそんな頭のイカれた状況になることも、ましてや今の立場になることさえもなかったと思う。

 

 まぁ、何というか――目が覚めたら美少女になっていたという衝撃と記憶の混濁による頭痛で混乱の極致に至っていた私は、誠に不本意ではあるんだが……。

 

 

 その牢獄から記念すべき『初脱獄』をした。

 

 

 何の前触れもなく、私の足元から生える影が部屋いっぱいに広がって己の身体を包み込む。次の瞬間には影が広がったこと以外を認識できる暇もなく建物の外に放り出されていた。

 今思えば自分に備わる能力が無意識に発動されたんだろうなぁ、アレ。

 

 話は逸れるが、ここで言う能力ってのは――簡潔に言うと私が使える『よく分からないチカラ』だ。

 『原理は知らんがなんか使える、便利な力』そう表現するしかないというか、私はこの力をフィーリングで使っている!って状態なので上手く説明できない。

 いや、知り合いのまっくろくろすけの擬人化みたいなヤツ曰く「クックックッ、神秘及びその神性の顕在化ですね。実に興味深い……」とかなんとか言ってた気がするから、多分そんなモンだ、知らんけど。

 

 ……コイツについては一先ず置いておく事にしよう。頭こんがらがっておかしくなりそうだし。

 

 

 それで……、結局何の話だったっけ?

 

 ____ああ、そうそう。()()()()()の話だ。

 脱獄してからだが……私は脱獄したら余計にマズいだろうという至極当然の結論を脱獄した数分後に漸く導き出し、どうせ罪が重くなるならとやけっぱちになって逃げに逃げた。

 当然能力も使った、金、場所、人脈――私の持ち得るありとあらゆるものを利用して逃げた。

 

 私が脱獄したと知って追いかけて来た『ヴァルキューレ公安局』から逃げた。

 

 ヴァルキューレの応援として派遣された『SRT特殊学園』の部隊から逃げた。

 

 逃げるうちに何故か追手も段々と増えてきた。だからそれからすらも逃げた。

 ゲヘナの『風紀委員会』から。

 トリニティの『正義実現委員会』から。

 ミレニアムの『Cleaning&Clearing』から。

 

 

 撃ち込んで、隠れて、撃って、転げ落ちて、逃げ急いで、突破して、抜け出して、逃げて、連射して、迷走して、避けて、忍び去って、撃ち放って、逃走して、身を隠して、発砲して、突き破って、発射して、潜んで、潜って、撃ちまくって、逃げ去って、飛び逃げて、立ち去って、壊して、射撃して、忍び込んで、雲に巻いて、雲隠れして、姿を消して、逃亡して、潜伏して、撃ち抜いて、逃げ惑って、振り切って、走って、駆けて、飛び出して、駆け出して、飛び去って、脱出して……――ただ只管(ひたすら)に、がむしゃらに逃げ続けた。

 

 

 そして早半年――肉体、精神共に疲れ果て、体がボロボロになりながら逃げた先、私はどういう訳か最終的に牢屋に戻って来ていた。しかも窓一つない懲罰房……私もつくづく運が悪い。

 牢屋に戻ってきた理由は単純明快、転移ミスである。そりゃあ、逃げるためとはいえ能力の転移を乱用していたら能力の方も疲れる。

 結果、牢屋にダイレクト転移して呆けた私がそこにいた。その後、私が牢屋にいるということに気付いた警備員たちに全身拘束具ガチガチに取り付けられた末『連邦矯正局』って所にぶち込まれた。

 

 ところで、本当になんで途中からあんなに追手増えてたんだ?風紀、正実、C&C…………。

 私なんかやらかしたっけ?

 私がやらかした事、最初の脱獄と連邦生徒会長ちゃんの机の上に転移して山積み書類に飛鳥文化アタックかました事ぐらいしか思いつかないんだけど。……いや、本当にごめん連邦生徒会長ちゃん、反省してる。あの時はSRTの部隊に追われてたからストレスが、こう……凄くて。

 でも、アレについては最終的に本人から許してもらったはず。

 飛鳥文化アタックは関係ないとしても、逃亡生活末期らへん全学園が手を取って躍起になって私を捕まえようとしてきたんだよな……なんで?

 

 ……ま、いっか。どうせ過ぎた事だし。今さら気にすることじゃあないでしょ。

 

 

 

 ああ、ついでに言うべき事があったね。

 いや〜失敬失敬、すっかり忘れてたわ。

 

 今更ながらになるが私の能力は影を媒介とした空間転移。

 その名も夜天(ニュクス)

 友達がつけてくれた名前だ。

 中々にイカしているだろう?

 

 

 そしてどういう訳か。逃げてばかりの私の事を、世間の人々はこう呼ぶらしい

 ――神出鬼没(しんしゅつきぼつ)月光華(げっこうばな)――ってさ。

 

 ……ちょっと逃げるのが得意な程度の一般通過美少女如きには大層な二つ名と思うんですがねぇ。名前負けしてるよ絶対……。

 

 

 ……さぁーて、そろそろ家に帰ろっか。

 家って言っても矯正局の牢屋の中なんだけどネ!

 ははっ、笑えないなぁ……。

 

 私が一歩一歩闇の中を歩いていくと暗い空間を照らす一筋の光が目の前に奔った。

 私は迷わずその光へと手を伸ばす。

 私の手のひらと光の筋が触れたその瞬間、視界は眩い光に埋め尽くされる。

 

 ――その光が収まる頃にはルリはこの真黒な空間から消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

「あ、約束の抹茶プリン買ってないじゃん。のじゃロリ狐にコロコロ(殺殺)される……ま、いっか」

 

 

 ただ一つ、ルリが発した意味不明な言葉の響きをその場に残して――だが。

 

 

 

 

 




Tips:ルリはそこまで自覚していませんが、ルリが追われていたのは各学園に多大な迷惑をかけていたという事が一因だったりします。連邦生徒会長の書類に飛鳥文化アタックしたのが主な原因ではありません……多分。
 やらかした事を具体的に述べると学園トップを足蹴にする、学園の機密情報をチラ見する、侵入禁止区域に無断で侵入……etc。この他の犯罪の詳細も今後出てきますのでお楽しみに!



 高評価感想、ここすきをしていただくと作者のやる気と更新速度が大幅に上昇しますのでどうかよろしくお願いします。



次回「至って普通のなんて事のないただの日常回」


どのキャラが"癖"だい?

  • 男口調が偶に漏れる黒ゴスロリTS転生者
  • 可愛いもの大好きピンク髪世話焼きお嬢様
  • 堕落ヤンデレ和服ロりのじゃ狐
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