「うっ、ううっ……」
薄暗い中、一筋の光のみが扉の隙間らしきものから漏れ出るのをぼんやりと見て、目を覚ますと私の前方から誰かのすすり泣きをする声が聞こえてきた。床の材質、揺れ、そしてこの暗さから鑑みるにおそらく私は襲撃されて倒れたところから車で輸送中……そして、順当に行けば目の前で泣いているのは私と一緒に誘拐されちゃったセリカちゃんと言った所だろう。
ハクアの不思議な夢空間から出戻り、意識の浮上した私を迎えたのはそんな状況であった。
まぁ、よくよく考えればそりゃ、セリカちゃんは至って真っ当な子供だし。私みたいに大人の精神と融合している外面美少女中身半大人の中途半端な精神キメラではないわけで……。誘拐されて暗い荷台の中なんて、不安とか諸々で泣いてもしょうがない。
……取り合えず、落ち着かせた方がいいか。
「あー、セリカちゃん?起きたよー?」
「……ッ!?…………ルリ!あなた、大丈夫なの?」
ああ、ちゃんと気絶したことに心配してくれる……、良い子だ。こんなの何時ぶりだろうね?矯正局じゃ誰もが「3分水に浸したら起きる」だの「どうせこいつが原因だろ…放置で」みたいな雰囲気出しやがってたし。いやー、目が焼ける程眩しい眩しい……まぁ、いくら眩しく感じたとしても目の前は依然として薄暗いままだけど。
こんな良い子を襲撃からの誘拐決め込んだやつらがいるらしいんだよね、それも多分アビドス側に対する人質とかそういう類のくだらない目的でさぁ。諸々終わったら、首謀者はボコしきった後に矯正局送りにしよう、そうしよう。
「うん、無事無事。元気ピンピンだよ!」
横たわったまま底抜けに明るい声を出す私に、セリカちゃんから「心配して損した…」という声とホッと小さな安堵の溜息が聞こえてくる。
さーてさて、セリカちゃんのちょっとしたツンデレノルマもこなしまして――有言したからには即実行、こんな場所から逃げることについて考えようか。
まず、拘束具。手足を軽く振った感じこれは全くの無し、トラックの荷台の中雑魚寝状態で放置と来ている。んー、無警戒。
あとは……私の直感を頼ると監視カメラの類も、ゼロ。何か行動を起こしたとしても大抵の事じゃバレやしない事も請け負いだ。
私の事、ヘルメット団の奴等戦闘力だけの美少女とか思ってる?私、戦闘なんかより逃げる方が圧倒的に得意って自負してたんだけどなぁ。自信なくなっちゃうよ、折角『
――拘束具も無いことだし、わりかし自由に……いや今回はセリカちゃんもいるのか。じゃあ、車内で一番効果的な『SATSUMA式チェスト特攻作戦』は使えないから……。
うん、ここは手間はかかるけど『炸裂!光と音のカーニバル作戦』で__
「ルリ……、私達どこに連れていかれるのかな」
私が明るく脱獄計画について考えている横でセリカちゃんの暗い声が響く。
「どこに、か……多分ヘルメット団のアジトとか?多分、私達人質とかそういうのだろうし」
「そう……」
「まぁ、そんな暗くならないでさ……っ、よっと」
私は取り合えず影――というかこの車の荷台の中暗いからそこら辺の空間に腕を突っ込んで影の空間からキャンプ用のライトを取り出し、それを床に設置して電源を押す。
明るくなった私の目の前に現れたのは長時間泣いていたのだろう、少し目が赤くなっているセリカちゃんの姿。また、制服は私と一緒にアビドスの町を歩いていた時と比べてボロボロになっていることを考えると、私が気絶した後ヘルメット団に対して一人で立ち向かったのかもしれない。
そんな推測をしつつ、突然の明かりに驚いているセリカちゃんへと私は握り拳を突き出した。
「暗くなっても、悪いことはまだしも良いことなんてそうそう無いんだから……ほら――」
私が手をひっくり返し、開くと、そこから現れたのはミレニアム学園特注のスノードーム。中の景色は砂漠の中の見覚えのある学校を中心に砂がキラキラとライトの光を反射して輝いている。
……それを私はセリカちゃんの手に無理やり持たせて、手渡した。
「――これあげる。落とすなよー、そこそこ高いやつだったから」
「なんで、これを私に?」
「ん?何か上げたら元気出るかなーって。特に気にすることないよ、別所属だけど先輩からのプレゼントってことで」
……まぁ、色んな意味で年長者としても泣きそうな子をそのままには出来ないしね。
私の渡したスノードームをセリカちゃんが眺める。
――見つめるその眼には不安が未だ残るものの、少なくとも先ほどまでとは別の感情が宿っているように見えた。
「んじゃ、……いっちょ脱走としますか、セリカちゃん!」
「脱走って……私達には武器もないでしょ。そんな状態でどうやってここから出ればいいのよ」
「武器、武器ねぇ……そりゃあ――――こうやって?」
私が下を見て少し汚れてしまったスカートを叩くような動きをする。
すると「ごとり」と重い音がトラックの荷台の中に鳴り響いた。
ライトの光が照らす中、スカートより落ちたソレは――黒鉄の色に染まり、特徴的なL字型の形を成すこれは……。
「……バール?」
うん、バールだね。
モッチのロンで影の空間産地直送のやつだけど。因みにスカートから取り出したのは私の趣味だ、他意は無いっと!
私は拾ったバールを薄っすらと光が指す場所、とどのつまり扉に向かって振るう――――
その真逆、運転席があるであろう場所の壁にバールのL字の角を思いっきり叩きつけた。そして勿論轟音が響く。運転席に伝わる様な強力な音……うんうん、完璧だね。
何度も何度も壁にバールを叩きつける。
そんな行動を急に始めた私に対するセリカちゃんの視線が痛い気がするが、無視だ無視。現実を直視すると頭痛くなっちゃうでしょうが。
私だって、とんだ酔狂で『さっさと扉をバールでこじ開けて逃げ出す』という最適な逃走ルートをなくしたわけじゃない。
これは私の気分の問題だ。
カタカタヘルメット団。随分とふざけた名前だけど、こいつ等が、引いてはこいつ等を動かす何者かがセリカちゃん――私のお気に入りの一人を狙って襲撃した。一回目の襲撃の時には許したよ?だってあの時はまだアビドスの子達に対するスタンスは決まっていなかったわけだし。……でも今は違う、既にアビドスの子達は
こんな銃を撃つことが常態化し、子供たちが犯罪まがいなことをすることも少なくないこのキヴォトスで見た、久々の『他者を慮れる集団』……。いやー、頻繁に脱獄して毒抜きしていたとはいえ矯正局という名の魑魅魍魎の住処から出てきた元犯罪者としては目が潰れる程輝いて見える。
なら、そんな子達が脅かされたこの状況に於いて、ただ逃げるだけじゃダメに決まってる。今回、私は
てな訳で、私はバールで壁を叩き中だ。あ、また壁がちょっと凹んだ。
まぁ、こうやってたら十中八九荷台の様子を見に車が止まって中を見に来る、だって私がこんなバールなんて持ってるはずがないし相手としては、急にアホ程轟音が鳴り響いて怖い状況だ。それにキヴォトス人パゥワァーで大人時期よりも上の今の筋力じゃ、時間があれば運転席までそうかからないでぶち抜ける気がするし……様子を見に来ても来ないでも得しかない……!なんて、素敵な脱走手段なんだ!
「…きゃっ」
「……おっとぉ!?」
地面が急に跳び出たかのようにセリカちゃんと私の身体が宙に舞う。
咄嗟に私がセリカちゃんの頭の方へ手をやり、落ちた瞬間には私の身体は次のすべきことに向けて既に準備を始めていた。
又もやスカートの中の内ポケットと繋がった影の空間より取り出すのは、スタングレネード――それも特別性の……耐久性を犠牲に光と音を既存製品の数倍アホ程まき散らす取扱注意の普通に危険物だ。
今回の作戦は『炸裂!光と音のカーニバル作戦』……読んで字の如くまんまな作戦だけど、輸送中なら間違いなしの神がかり的作戦――というか前にこの作戦を実行した時は護送車で護送中だったし多分成功するでしょ。
いやー、久しぶりの脱走……楽しみだなぁ。
◇
◇
◇
◇
◇
◇
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
「あ゛ー!なんなんだよもう、さっきから!?」
「こんなことになるから、私は前々から誘拐用の車両にカメラぐらい設置したほうがいいって言ってたんですよ!」
元脱獄囚が荷台にてバールを振るう中、トラックの車内では運転席の赤いヘルメットを被った少女と、助手席に座る黒いヘルメットの少女が先ほどからヘルメットを貫通して鳴り響く轟音に騒ぎ立てていた。
「……しょうがないだろ!前回の襲撃に失敗して報酬は無し。弾も無駄撃ちだ!余裕持って使える金なんて無いんだから……!取り合えず周囲の団員に連絡、武器を構えてこのトラックを囲んだ後に様子を見るぞ!」
「えー、リーダー……たかが銃を持っていない2人相手にそれは過剰じゃ……」
「過剰も何もあるか!!昨日の事を思い出せ、あの
「知ってるわけないじゃないですか……気絶した2人を運び込む時にでもどこかに落としたんじゃ?」
「そうか――まあいい、それでは連絡通りに行動だ。車は一旦ここに止める……久々のでかい仕事なんだ、ここまで来て絶対に抜かるんじゃないぞ」
総勢30はいるであろうヘルメット団員が各々の武器を手に、トラックの荷台を囲む。その内の一人が集団の輪から荷台の扉の前まで向かって行き、その扉に取り付けられた錠に鍵を差し込んだ。
「じゃあ、開けるぞ……」
ヘルメット団に言い知れぬ緊迫感が漂う中、ガチャリと音が鳴り錠が外れる。
団員の手によって徐々に開いていく扉の隙間から一つ、手のひらサイズのナニカが砂漠の地面に落ちコロコロと集団の中心に転がっていった。
何人かがソレが何なのか理解して動こうとするが……投げ入れた当の本人はそんなこと承知済みである。その動きより早く、その物体――スタングレネードは炸裂し、あらん限りの光と音が辺り一帯に響き渡った。
「っつ!?何が……何が起こった!?」
「目が……ッ!目がぁぁーー!?」
「……????」
「前が、前が見えない!銃どこだよ!?」
「おい、今当たったのは誰だ!」
ヘルメット団の多くがその場で、眩しさと爆音に目と耳を潰されてのたうち回る。
そんな混沌の最中、一人の黒いゴスロリ服を身に纏う少女が満面の笑みでトラックの荷台より朝焼けの砂漠にヒラリと舞い降りた。
「う~ん、大混乱!いいねぇ、最高だね!」
久々の脱走で気が昂っているのか異常にハイテンションなルリが大声で笑う。しかし、そんな状況をヘルメット団達は把握できない。
「私は脱走に於いて大切なのは『混乱』だと思っているんだ!だって、混乱させればそこに『隙』が出来る!後は私の好きに行動するだけだよ、相手は何にも出来ないし私はしたい事が好きなだけできる、最っ高じゃないか!……あ、聞こえてなかったけ?まぁ、いっか!!」
「……はぁ」
何処からかバールを取り出したと思えば、突然壁を叩き出す。スカートの下からスタングレネードを出したかと思えば、遮光グラスと耳栓を渡してきて外へ飛び出し笑いながら銃を乱射。
そんな滅茶苦茶な様子を後ろで眺めていたセリカは溜息を吐く。
バールを取り出す前に先輩面を見せてきたあのルリはどこに行ったのかと。
ルリとしてはちょっと久しぶりの逃亡劇()で大分ハイッ⤴になっているのと、この襲撃に対する個人的な感情から頭も含めた色々な留め金が外れているだけだったりするのだが……そんなこと接して日の浅いセリカに分かるはずも無く、嗤ってヘルメット団を殲滅していくルリを先日バイト先に来た時と同じ現実逃避の目で見つめていた。
◇
◇
◇
◇
◇
◇
「……っ、はぁ、はぁ……」
赤いヘルメットの少女が砂漠をひた走る。
彼女は先ほどのルリのスタングレネードから部下の一人を盾に、あの強烈な光から逃れることが出来たカタカタヘルメット団のリーダー。
音により潰れていた耳も少しずつ治り朝焼けの光が辺りを薄っすらと照らす中、ルリが一方的に自分以外のヘルメット団を笑いながら蹂躙しているのを遠目に見ると、苦々しい表情を見せ近くの砂で埋もれた構造物に身を隠した。
「くそッ……折角の大仕事だったのにあいつのせいで台無しだ。……これで2度目か……ふぅ、取り合えず依頼者に連絡を__」
「おや、撃ち漏らしかのぉ?」
突如、真後ろから鈴の音の様な声が発せられた。
リーダーが咄嗟に振り返ればそこには、煙管を吹かしながらこちらの方へ歩み寄ってくる狐耳の着物を着た生徒。
先ほどまで影も形も無かった人物が突然現れたことに背中に嫌な汗が噴き出すも、この状況で出てくる人間なんて少なくとも味方ではないだろうと決め込み、彼女は懐を弄って自身の銃を探し始める。
――だが、いくら探しても見つからない。銃どころか、弾倉、果ては緊急時用に入れておいた殆どの物品が己の身から忽然と喪失していた。
「というか、何が『逃げ出してみせる!』じゃ、あの阿呆が。わしの前で啖呵切った割には、思いっきり殲滅戦を繰り広げておるではないか……。はぁ、どうせ意味の分からない持論を展開した末の考えじゃろうが……随分とまぁ、吹っ切れて愉しそうじゃなぁ」
慌てふためく赤いヘルメットの少女を他所に、狐耳の少女は少し先で騒動の中心になっている者について唯々、独り言を続ける。
その声色は何処か言い聞かせているようで、これから起きる何か大きな嵐の前触れの様に静かな、そして愉しそうなモノだった。
「矯正局時代からあやつは面倒臭い事が多すぎると、なんじゃったか……『キチゲ発散』とか何とか抜かして暴れ回りよるからな。最近は特にシャーレの書類やら何やらで
「…っ!お前は、お前は誰なんだ!」
一瞬の余白の後、急激に変わった狐耳の少女の雰囲気に気圧されたヘルメットの少女が後ずさりながら問う。
「『誰なのか』か……質問に質問で返してほしくはないのじゃが。
強いて言えば、あそこで馬鹿やってる阿呆の救出……いや、待て。貴様……」
そこまで言うと狐耳の少女の視線が、ヘルメットの少女の視線と合った。
一瞬であったが、その一瞬のうちに見えた……否、見えてしまった狐耳の少女の眼の中にある、どろりとした得体の知れないナニカにどういう訳かヘルメットの少女は恐怖を覚え、後ろに転ぶ。
「……見たぞ。そうか、そうか……貴様が、ルリの頭部になぁ……」
その言葉と共に狐耳の少女が――ハクアが、右手に握る煙管を強く握りしめ、先ほどより増えた辺りに漂う煙を着物の裾でゆらりと扇ぐ。
「此処に
ヘルメットの少女の周囲に白い煙が絡みつく。少女の眼の前から白以外の色が消えた後に、此処から遠ざかっていく下駄の音が聞こえ、彼女の意識は徐々に消えていった。
「……ぐっ、……ぎ……」
苦し気な表情のまま
「何処からが夢で、何処からが現実なのか……教える気はないが、少なくともわしの近くに来たことが貴様の不幸じゃったな。……暫くは、
「ハクアちゃん、私たちが近くに来た瞬間この人急に眠っちゃったけど良かったんですか?」
煙管を持つハクアに対し、魘される赤ヘルの少女を指さすリリアが不思議そうな顔で首をかしげる。
「……リリア……お主こそこんなとこで道草食ってないで、さっさと先生とアビドスにルリ等を見つけたと連絡してこんか。……お主じゃぞ?『あのスパーキングは多分ルリちゃんなので、私たちが確認してきます!』とか言い始めたのは?」
呆れた表情で語るハクアに、リリアの顔色が徐々に変わってゆく。額から更に汗を流し、目を回して慌てた様子で振り返り全力で走り出した。
「そ、そうでした!?……先生!アビドスの皆ー!ルリちゃんとセリカちゃんいました!どっちも無事でーす!!」
「はぁ、今日はいつにも増して随分と騒がしい朝じゃのぉ。……のぉ、ルリ?」
Tips:ルリがセリカに渡したスノードーム
別名:『投影機能付き即時再現型スノードーム君改NEXT1.0』
ミレニアムのどこぞの部活が娯楽用に作り出したスノードーム。近くで爆弾が爆発しても壊れない程度には無駄に硬く、何故か自爆機能付きである。(なお、ルリが特注した部分はこの自爆機能のオミット、何故かお値段3割増し)
機能としてはネットワーク上のデータベースから好きな時間、場所の景色をスノードーム内に投影することができるというもの。ミレニアム学園は通信販売にも対応しております、今なら配送料無料でミレニアム学園から安全に到着する確率驚異の90.0%!!お値段:結構お高め円。
Data NO.10:各々のメンバーへの反応(ハクア編)
ルリ:いっつもだらけてる堕落狐だよ。
話も合うし、まぁ……悪友みたいな感じ?
リリア:ちっちゃくてカワイ……じゃ、なくてですね!
ちょっと前にお世話になりましたし、ルリちゃんの事が好きな様なので!私が!2人のキューピッドになろうと!思い__(横っ面をハクアに殴られる)
次回「この子達にはッ…!才能があるッ!」
どのキャラが"癖"だい?
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