連邦矯正局の奥深く――そこから絶対に逃げ出さないように、見せたくない恥ずかしい物を押し入れの奥底に封印するように……この監獄の中でも正面玄関から最も遠方に位置する牢屋の中。
そこに存在する三つのベッドの内の一つ、黒いシーツのかけられた
暗がりの中から黒泥の如き影をかき分けてゴポリと指が生え、手が生え――影と明かりの境界をそれが掴んだ次の瞬間。夜空を幻視させる黒髪を持ったゴスロリファッションの少女。
「たっだいま~!私が帰って来たぁ~~!!」
「…うるっさいのぉ……わしが寝とるんじゃぞ。もう少し静かに帰ってこれんのか。阿呆め」
ベッドの上でクッションに身を任すボンヤリとした金色の眼を鈍く光らせる狐耳少女が、目の前に湧いて出てきた
眠たげな顔をし、今まで寝転んでいたからか少しはだけた着物を纏うその姿には何とも言えない妖艶さ――
帰宅早々、古臭い口調を披露してくれたこの狐耳ロリの名前は
コイツ……何やらかして矯正局に入ったんだっけ?ハクア曰くそこら辺の人を軒並み気絶させたとか言ってた気がするけど、そんぐらいじゃ矯正局に入る事って難しいと思うしなぁ。
むしろその程度ならゲヘナの奴らとかは毎日元気に生活習慣!爆破、炎上、詐欺、暴力!って感じなのにあんまり矯正局に来ないし……。
因みに今日ゲヘナに
負けた時の罰ゲームは勝者の好きな食べ物を買ってくること……。
畜生、あそこでじゃんけんに勝てば私が買いに行かせる事が出来たのに……。
「……でじゃ、わしの頼んでおいた抹茶プリンはどこかのぉ。手には何も持っておらぬようじゃが、まさか無いとは言うまい?遊戯の勝者たるわしがお主に命じた事……。なれば当然、死んでも守らねばなぁ?ルリよ?」
ハクアがベッドの上で身を起こし、クッションを肘当てにして尊大な態度で私へと言ってくる。その眼には微かな愉悦の光が灯り、私に向けて酷く性格の悪い笑みを向けていた。
「いや、あのですねぇ。ヒナちゃんが来たからには買う余裕もないし無理というか、何というか……」
「ヒナぁ?……嗚呼、空崎のことか。あの者は万全ならどう足掻いても無理じゃが……そうでなければ、
それはそれは……もう心身共にボロボロじゃ。……彼の
で、わしの抹茶プリンはどうした?」
忘れてないよ……!
ヒナちゃんの話題でせっかく誤魔化せてると思ったのに!?
目の前で不満げな顔をしたハクアが私の服の裾を引っ張って「わしのプリンはまだか」とせがんでくる。
ハクア、見た目は完全に幼女なんだよなぁ……いや、中身は全然伴ってないけど。そもそも年齢18らしいし。
しかも、ハクアの誕生月二月だから、多分留年してるんだよねこの人。高3留年系ロリのじゃ眠たげ傲慢型愉悦狐ときましたか……明らかに属性過多だね。流石に此処から属性増えてくれるなよ?いや、もう既に一年ぐらいは一緒に同じ場所で過ごしたから新たな発見とかそこまでないと思うけどさ。
……年齢詐称といえば、もう一人のこの牢屋の同居人も目の前にいる
……あの子は外見と内面の不一致と言うよりもその精神性が何というか。まぁ、ぶっちゃけて言えば、その内に秘める圧倒的な包容力が……って感じだし若干違うね。
しかし、こう考えるとやっぱ余りにもキャラが濃いな。私の同居人達。
あ、それと同居人といえば……。同居人二人も私の『
「おい、わしの話を聞いとるのか己は。……聞いておらぬならしょうがない。誠に残念じゃが、
「いえ!滅相も御座いません!私は貴方様の言葉をしかと聞いていますとも!!
だから、それだけはマジで止めて……。というか止めろマジで」
ハクアの口から聞こえたとんでもない言葉に反射して私の口から拒否の発言が飛び出る。
いや、縛ってあの子の前に差し出すのは本気で止めてくれ。私の尊厳が破壊される確率……軽く8割を超えるんだよ。純粋な善意が元の行動だけに断る事も出来ないし、下手な拷問よりタチ悪いからね?
「あれ?リリアの話で思い出したけど……そういえば、リリアのヤツどこ行ったんだ?」
「愛染なら……どこに行きおった?寝とったから分からんのお……ま、心配せんでもそのうち帰ってくるじゃろ」
……そろそろ点呼の時間だし同室のやつ揃ってないとマズいんですが。具体的には連帯責任で夜ご飯抜き、もしくは刑務作業の労働量が増すとかあるし……………いや、これもしかして心配しなくても良いやつか?
……ハクアは良い、私も良いし。後はリリアだけど……ま、いっか。
――直前考えたことを一瞬で否定したけど、そもそもの話、既に無断で脱獄して帰って来た私がいる時点で処罰確定。なんなら、うちの同居人の中で真面目に罰受けようとするのなんて今此処にいないリリアぐらいでしょ。ハクアに至っては「何があってもサボる、労働はしない、眠って過ごす」という謎に固い信念があるから絶対に働かないし……うん、そう堂々と宣言するハクアが目に浮かぶ、特に拳を寝ころんだまま強く突き上げて見っとも無くそれを述べる光景が。
……私?私はもちろん逃げるよ、当然じゃないか。逃げられる時に逃げといた方が後で絶対に楽――これが私の数ヶ月に渡る逃亡生活で身をもって学んだ三番目ぐらいに大事なことだからね。
「でも、リリアだけが罰食っても可哀想だし3人でちょっと脱獄しよっかなー」という、ちょっと外出してくるわ程度の軽いノリで考えてはいけない『脱獄』という手段を突発的に思いつくルリの目の前。
牢屋に三つ存在するベッドのうちの一つである――ピンク……もう目が痛くなる程の真っピンクで装飾されたベッドの上に何かしらの文章の書かれた紙が一枚落ちているのをルリは見つける。
んん……?何だこれ?
何々……。
それを何となく手に取り、書いてある文言を目にして……ルリはその内容に絶句した。
ハクアちゃんが寝ちゃってますから、これに今からする事を書いておきますね。
ちょっと、カイって子の所に行ってきます。頭を撫でたくなりましたし……。 点呼までには帰ってきます、居なくても心配しないでください。
うわぁ……。
ご愁傷様、あの子に甘やかされるって……。カイってのが何処の誰かはてんで知らんが、包容力の波に呑まれない事を信じよう。私は一度呑まれてハクアの目の前で醜態を晒したけどね、経験者は語るってヤツだな、うん。
……本当にうちの同室のやつがすまん、カイとやら。君の冥福を牢屋の内側から祈ってるよ。
「何じゃ、それは?」
私が手紙片手に額を押さえてため息を吐いていると、ハクアが私の背後へと回り込み、首にその小さな両手を回して、私の肩に顎を乗せてくる。そしてそのまま口元を私の耳に近づけて囁く様に言葉を発してきた。
「あー……。リリアの連絡。もう少しで帰ってくるって」
「……ならよいが。
そうじゃ、これを聞くのを忘れておったわ。
ルリ、連邦生徒会が新たに『連邦捜査部S.C.H.A.L.E』という組織を立ち上げるという噂話を小耳に挟んだのじゃが。お主はこれについて何か知っておるか?」
『連邦捜査部 S.C.H.A.L.E』……?――やけに仰々しい名前だな。
しかも、今さら連邦生徒会が新しい部署を設立?
今、特にキヴォトスに問題も起きていないし、なんならあくびが出るほど平和だぞ?
……待てよ。そろそろエデン条約って名前の取り決めの締結がどうとか何処かで見たな……それで、トリニティとゲヘナが何かしてたし、それに加えて例の二校がピリついているからそれの為か?
「私は知らないよ?むしろ教えて欲しいぐらいなんだけど……そもそもどこでそんなこと知ったのさ」
「最近になって知り合いが口を揃えてその事を言ってくるからのぉ、生きていく上で無駄な情報を無駄によく知っているお主なら幾分か詳しいかもしれぬと思うてな?」
だから、知らないって。私がいつも脱獄してるからって何でもかんでも知っている情報通だと思うなよ?
って言うか、そもそもハクアと話せる知り合いっていたのか……。日がな一日寝て過ごしてるからコミュ障で人と話せない民かと思ってた……。いや、なんかクズ――なんだっけ?そう言う名前の知り合いは母校にいるって聞いたことはあるけどさぁ。イマジナリーフレンドとかそんな類の哀しい存在だと思ってたし……。
「んー、私は知らないけど……あの子なら知っているでしょ、ほら連邦生徒会関連の部署ならあの子の部下なのには変わりないはずだし」
「あの子……ッチ、彼奴か__」
ハクアが苦虫を噛み潰したような表情でボソリと言う。ルリは別方向を向いていたため気づく事は無かったが、もし彼女を良く知る者が下へ向くその顔を見れば、その言葉にルリの言う『あの子』への嫉妬心がこもっている事は容易に分かることであった。
「ん?今、なんか言った?」
「いや、何でもないぞ?」
「えー?本当ぉ?えいえいっ、何て言ったのか教えてよー」
ルリが自分の肩に顎を乗せているハクアを肘で小突きつつ意地の悪い笑みを浮かべて問いかける。そんなルリの様子にハクアは顔をしかめて、自らを小突くルリの肘を払いのけた。
「あー、鬱陶しいわ!
はぁ、お主は全く、何時も……」
「ん、何?」
「……のぉ、ルリよ。
お主はどうして此処から出たがらんのじゃ?お主、出ようと思えば此処に帰らずともそのまま脱獄して生活する……というのも十分可能じゃろう。何故出ていこうとせぬ。もしや、此処にいた方が楽とか左様な理由ではあるまいな?」
「あ~~それね。まぁ、確かに矯正局に捕まっときゃ衣食住困らないっていう理由もあるっちゃあるんだけど……。一番の理由って言ったら――約束、かな?」
真剣な顔をして、突然何を話すかと思えばそんな事か。
脱獄する理由というよりどうして脱獄しても結局すぐに戻ってくるのかってことなら__。
うん、やっぱり約束だな。あの子との。
「……約束じゃと?」
「そっ、約束。頼まれてるんだよね『
それに……。ハクア、君もここから逃げ出す気なんてないんだろ?なら話は簡単だ、繋がりの無い人生に価値なんてない……それが私の選択で信条だ。せっかく出来た友達なんだ、こんな所でお別れなんて勿体ないじゃないか。
だからね、ハクア。私は『その時』が来るまでここを出る事は決して無いし、もし出る事になってもハクア、リリアとずっと一緒だよ?」
後ろへ振り向き、文字通り目と鼻の先にいるハクアと目線を合わせてルリは笑いかける。
そんなルリの笑顔を見て、ハクアは口角を少し上げ、己の顔をルリの髪に埋めると共にルリを一層深く抱きしめた。
(おお、狐耳と髪の毛が顔に当たって……ふわっふわだコレ。この間お茶した黄色い子レベルでふわっふわだよ、しかもお日様のいい香りが……。
そういえばヒナちゃんの髪の毛ってお日様の香りするんだよね、こう……落ち着くような実家の布団みたいな感じ。いやぁ……あれはいい経験だっ___)
ギュッ
顔に当たる毛の質感、匂いから連想して、今まで出会った様々な
その様な思い
さて、ハクアの名誉と純情に懸けて明言は避けたい所ではあったが――ハクアがルリの行った髪への連想の直後、ルリの首周りに回していた手による拘束を強めた事についての理由を話さねばなるまい。
まず、薄々感づいている方もいると思うがルリの首に手を回し、黒髪に顔を埋めるこの少女――狐落ハクアは禍溟ルリのことを好いている。
何故ルリの事が好きなのか?コレにはやや込み入った
ハクアは生まれて初めての恋故に恋愛クソ雑魚であった――しかし、それはそれとして相手にもっと自分のことを見て欲しい、あわよくばその思考を独り占めしたいというやや面倒臭く重い感情の持ち主でもある。
だからこそ、普段は直接「好き」などと直接言う事はなく、出来てもちょっと触れる程度――それが彼女の限界で……。
だが、今日は珍しく、本当に珍しく――勇気を振り絞って直接的な好意を伝えるためべったりと……大胆に顔を近づけて抱き着くという行動に出たというのに、当の愛しき人は自分ではなく他の女のことを考えていると来た。
さて、こんな時
答えは
ハクアはルリの首に回していた手を徐々に絞めて行き、己の間違えた思考に気付かぬ愚か者を正そうと行動に出た。
何で当然のように相手の思考が読めるんだよ、などという野暮な疑問は捨て置いた方がいい。恋する乙女とは無敵で万能で最強で――まぁ、そういう存在だ。
「ハ、ハクアさん?苦しいし、そろそろ重た____」
だがしかし、そんな
一年半前まで男だった人間に果たして乙女心が理解できるだろうか?
……適応が早い者なら順応し、何なら
更には、いかんせんアホなので恋愛観は小学生で止まっている――つまり、残念ながらルリはハクアの行動を好意を伝える為の物だと認識できず、ちょっとしたスキンシップぐらいにしか感じていなかった。
しかも、気づかないならそれまでだが、あろうことか乙女に対し圧倒的
ハクアはキレた、この邪智暴虐の恋愛が解らぬ阿呆を分からせなければならぬと決意した。ハクアにはこの阿呆の機敏が分からぬ。だが、この朴念仁は基本押しに弱いため、多少強引な手段を用いて己の恋心を手っ取り早く理解してもらえれば割とどうにかなりそうと言うことは知っていた。
『だからさっさと既成事実を作れば』――なんて脳内の悪魔が囁き、一瞬その思考に陥りかけたが、そんな事をするのはこちらとしても恥ずかしいし、何か負けた気分になる……。
(……
――ハクアもハクアで他人の事が言えないぐらい恋愛観がとても
奥手な乙女の恋心とルリの発言への憤怒が合わさり、火災旋風の如き情動がハクアの心中で暴れる。ルリの処遇をどうするのか――関係の進展を望むか、愚かな行為への制裁を望むか……。
瞬間、ハクアの囚人的思考回路が輝いた。天地がひっくり返っても働かないと自負する面倒くさがり屋の己が最も簡単にこの感情を収める方法――それがハクアの脳内に浮かび上がる。
ハクアがルリの首……主に気道あたりを意識して綺麗に整った白磁の如き指をかける。今までの比較的優しく抱きしめるソレとは異なり、力の限りを込めてルリの首周りの手をギュッと引き絞った。
電子の海での訓練の施された第三者がその場面での
「アレには思わずNice boat.と言いたくなった」と。
「ちょ、あ……待っ。ヘッドロックは、マズいっ……カハッ!?」
「…………ふん!」
しっかり
ルリは程々にクズでアホですが、仲間のこと第一な考えを持っているので「自分と仲間、どちら取るのか」という質問されると躊躇なく「仲間」と即答します。そんな子です。
ハクアはルリのことが大好きな、のじゃロリ狐です。恋愛観が『いつか
ハクアとルリの出会いは――いつか出てきますので、それまでこの
因みに百鬼夜行にいるであろう若干容姿が被っているクズ何とかさんとは一応関係があります。
今回名前と奇行だけのリリアは――うん、次回見ればわかる。一つ言えるのは、この子の過去はとびきりエグいです。
まぁ、とても優しくて純粋でカワイイものが大好きなだけの良い子なので安心してください。
Tips:ルリは連邦矯正局に入る基準をよほどの罪を犯した事のみだと認識していますが、実際のところは『罪の大小に関わらず連邦生徒会が見逃せない事をしでかした時捕まる』のため、極論、連邦生徒会の中心――サンクトゥムタワーのあるD.U.でちょっとした(?)強盗事件を起こすだけでも矯正局に入る可能性があります。……ゲヘナではその程度、風紀委員会にしょっぴかれて終わりですが。
……結論を言うとハクアの罪は現時点では重いか軽いか分からないという事です。次回判明しますのでお楽しみに!
Data NO.1:身長・年齢
禍溟ルリ :159cm(フウカと同じ)
17歳?
孤落ハクア:135cm(モミジと同じ)
18歳?
愛染リリア:165cm(アコと同じ)
16歳
次回「罪人にも手に職を……贅沢言わないので高収入、短時間労働、週休5日制でお願いします」
どのキャラが"癖"だい?
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