砂漠の日差しを無礼るなよ
ユメを夢見てゆめに囚われ
ゆめにしユメ追い夢見ぬ星よ
暁輝く砂漠に
貴女は其処から何を見る?
「先生~?……もう、どこに行ったんでしょうか?」
とある日のシャーレオフィス。
書類の束を抱えたリリアが先生を呼び出すために声を張り上げて、シャーレのビル内を歩き回っていた。
「新しい書類もリンさんからたくさん貰ったのに……先生、どこにいるんですか~?」
「……んぁ、リリアか?」
「あ、ハクアちゃん。おはようございます。ごめんなさいね、起こしちゃって」
シャーレのビル、その一室。ルリ達――先生の護衛が主に休憩室として利用している部屋の中にリリアが入り、声を上げたところ偶然その場で眠っていた狐耳の少女――狐落ハクアがその声に反応して目覚める。
ハクアは寝間着をはだけさせて着ており、むにゃむにゃと口を動かしつつ目を擦ってリリアのいる部屋のドアの方向へ座ったまま向き直った。
「ん?リリア、先生を探しておるのか?」
「そうですけど、知っているんですか?半日前から姿が見えなくてですね……一体全体どこに行ったものかと……」
ハクアは一瞬悩ましげな顔をしたかと思うと、たった今思い出したといった表情に顔が変化して寝間着の懐から
「それなら、ルリと一緒に…………なんじゃったかな……名前が思い出せぬのじゃが……ああ!そうそう、
「……はい?」
「じゃから、先生はルリと共にアビドスの学校に向かったのじゃ。
これ、書置きじゃ。ルリがリリアに渡しておけと言っとったぞ」
リリアの表情がフリーズする。
しかし、ハクアはそんなリリアに何か反応するわけでもなく……いつの間に火を点けたのか煙の出る煙管を口に咥えて机の上に置いてある手紙を指さした。
もうさぁ!無理だよ!
ここに来てから書類が終わる気配がないし、なんなら追加でどんどん書類がやってくる。
延々と延々と判子を押したり、被害総額や理由を書き続ける日常はもう嫌だ___
___ってことで、ボイコットがてら先生と一緒にアビドス高等学校の問題を解決してきます。探さないでください。
PS.なんかお土産いる?
「…………」
「そういうことじゃ……まぁ、わしはアビドスとやらに行くのが面倒臭いから残ったんじゃがな」
リリアの手紙を持つ両手がプルプルと震える。
そんなリリアの様子を見てかハクアが不思議な顔をしつつ煙管から口に含んだ煙を吐いた。
「……ぷはぁ、どうしたリリア。追いに行くなら今じゃぞ。……電車は
「ハクアちゃん。行きますよ」
「……は?」
ハクアがその手に持つ煙管から生じた灰を灰皿に捨てて何を言ったのか理解できないという顔をして聞き返す。
___そんなハクアの手首をリリアが素早く掴む。
ハクアより圧倒的に上なリリアの腕力から繰り出されるその牽引はハクアに抗う暇も与えずに部屋の外へ連れ出していった。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ!?わしは斯様な僻地になぞ行きとうない!手を放せ、リリア!」
「どうして私の知り合いの方々はこうもサボろうとするのですかね……ルリちゃんはすぐに逃げ出しますし、ハクアちゃんはすぐに寝ますし……先生もルリちゃんと逃げたという事は先生もサボり魔なんでしょうか……?もう、こうなったら一度お説教をするしかなさそうですね。丸一日くらい……」
ハクアの言葉を無視してリリアは突き進む。
リリアの歩みは止まることなく風の様にシャーレのビルから飛び出し、まっすぐにアビドスの方角へと向かっていた。
「……っち。こうなれば能力を___」
どうしてもこのまま部屋で休みたい、眠りたいハクアが未だに所持していた煙管を握りしめ、
だが___
「駄目ですよ」
リリアのその一言でハクアの動きが完全に――ピタリと糊で張り付けられたかのように止まってしまった。
ハクアはそれに気づき、ゆっくりとため息を吐きながら絶望の眼差しでリリアを見つめる。
「……のう、能力を使う程か?わし一人ぐらい居なくとも__」
「ハクアちゃん?」
リリアがにっこりとハクアに向けて笑う。
その笑顔は……名状しがたいほど綺麗で、冷たく、鋭かった。
「あなたもお説教です。一緒に、アビドスに、行きましょうね?」
「はぁぁ…………分かった。……くっそ面倒臭いのぉ……」
◇◇◇◇◇
暑い、熱い、あつい……。
どうしてこうなったんだっけ……?
「"ルリ。どうぞ"」
先生が私に水を差し出してくる。
まぁ、私は能力で取り出せるから、いいや。
「それ、先生が飲んで。私、水持ってきてるから」
「"いいの?じゃあ……"」
先生が水を勢いよく飲み干す。ペットボトルの中の水は目に見えて減っていき、一滴も残らず先生の喉を潤すために吸い込まれていった。
……この暑さの中ならしょうがないだろ、飲まなくちゃ熱中症になっちゃうだろうし。
……そう、私と先生は、今__
「先生、アビドス高等学校に着くまであとどのくらい……さすがの私も、この暑さの中長時間歩き回るのはきっついんだけど……」
「"ごめんね、今どこにいるのかがよく分からなくて……"」
__アビドス自治区、自治区内の
ここに至るまでの経緯は……まぁ、至って単純だ。
私は積み重なる書類の束に嫌気が差しシャーレのオフィスから逃げ出そうとした。しかし、その場には先生とハクアがいた。
ハクアはまだ良い。どうせ騒がなかったら寝たままだし逃げ出すとき特に困ったこともない。
しかし問題は先生だ。先生の護衛として此処にいる手前、その場に先生を置いて逃げ出すなど言語道断……といった苦悩する私の元にそれを救う天使の一手が舞い降りた。
それが『アビドスに来て私たちを助けて欲しい』といった依頼状だ。
どうやら先生の方もこの書類地獄の中で疲れていたらしく、「先生、これは行かないとねぇ……だってシャーレ初の大きな依頼だよ?こんな書類放っておいてもリンちゃんは怒らないさ、だからね?」って勧誘したら良い感じにシャーレを抜け出してアビドス行きの電車に乗ることができた。
……ついでとばかりに遭難しているのは……
だからここに来て早半日、どうにかこうにか私の能力――
そんな物を持ってこれるなら逆に先生を私の能力で転移させてさっさとアビドスに行けばいいんじゃ……ってのは不可能だ。
ハクア曰く、先生の体には『神秘』という、私たちキヴォトスの人間が丈夫である元である物が存在しないらしい。
神秘がない状態の生物が私の影の空間を通ると、どんな影響があるのかわかったもんじゃないから、神秘のない生物を極力その中に入れるなとハクアからのお達しがあったんで先生を引き連れての瞬間移動はできない。
私だけ……ってのもダメだ。こんなところに先生を置いていったら先生に危機が迫るかもしれない。ヘルメット団にスケバン……そういった武装集団にキヴォトスは事欠かない。……銃弾一発受けたら致命傷の先生をそんな場所に置いていけるわけがないってわけだ。
「"ルリ……"」
そんな具合で私が考え込んでいると、何かに気づいた先生が水を飲んだからとはいえ疲れの未だ取れない声で私に呼びかけた。
「……先生?何か見つけ__」
「ん、遭難者?」
私たちの真後ろから何者かの声が発せられる。
私の経験として初っ端から背後をとってくる奴にいい思い出がない……よって、私は腰に装着していたホルダーから素早く私の銃を引き抜き、銃を持つ手をそのまま正体不明の人間へと向けた。
「一体誰だ、返答次第じゃ撃__」
そう言いつつ振り返った私の後ろにいた人間は少女だった。獣の耳が生え、ロードバイクを両手で支えて立っている銀髪の少女。彼女は制服を身に纏っており、その見た目と雰囲気からしてヘルメット団やスケバンといった無法者とは違うことが一目でわかる。
……制服?もしかして……。
「あー、急に銃を向けてごめんね。ちょっと所属と名前を教えてくれる?」
「……砂狼シロコ。アビドス高等学校の2年生」
銃をチラつかせた私を怪訝な目で見つつ少女は――シロコはそう言う。
「「"アビドス高等学校!?"」」
「そうだけど……どうしたの?」
希望の光が舞い降りた事で、尋常じゃない程喜び歓声を上げる私たちにシロコは若干引きながらも、この様な砂に塗れて人っ子一人いない道路に倒れている私たちを心配したのか構えられた銃器に警戒していた先程より少々優しい声色で聞き返した。
「"えっと、突然で悪いんだけど……私たちをアビドスまで連れて行ってくれないかな?"」
「……いいよ。でも、ここから高校までちょっと遠いけど、大丈夫?」
シロコが横に立てかけてあるロードバイクを指差して答える。
遠い、遠いかぁ……。私は鬼ごっこという名の日常的な脱獄で足腰と体力が鍛えられてるし、今からシロコちゃんのロードバイクに走って付いて行く事は全然可能だけど……先生はそうともいかないよなぁ。
先生の体力はこのアビドスの猛暑のせいで残り僅か。しかも、現在進行形で脱水症状が進行してるし、このまま休憩もなく走りでもすれば生命の危機もあり得る。
どうすればいいんだ、コレ……。
……こうなったら、手段なんて選んでいる暇じゃないか。
シロコちゃんも信用できそうだしこの手しか……。
「シロコちゃん、先生を背負って連れて行ってくれない?私は後からついていくからさ」
私は、シロコの眼。白と黒と水色の色彩を直視しながら言う。
私には――矯正局というキヴォトスを混乱に導く犯罪者達が跋扈する場所にいた私にはわかる。
シロコちゃんは先生に悪意を持って先生に危害を与えるような、そんな子じゃない。シロコちゃんは確かな善性を持っている生徒……だからこそ任せられる。私が少し先生から目を離すこと――即ち少しの間であるが『護衛としての役割』を他者に任せるという事が。
「いいの?私のロードバイク結構速いよ?」
「ああ、大丈夫、大丈夫。私の前じゃ速さなんて、そこいらのチリ紙と同じだから」
そうそう、もう先生の影にマーキングはしてるからね。
そこに
「じゃ、どうぞ」
シロコがそう言って、先生に背を向ける。
……そう、荷台の存在しないロードバイクで二人乗りする方法、そんなものおんぶぐらいしか存在しない。詰まるところ、移動するときの光景が意識のある成人が年端もいかない少女に背負われ、自転車で移動しているという大変面白……可哀そうな事になるのだが――暑さと移動で疲弊、疲労の溜まった先生に選択肢なんてものはなくシロコの背に乗るしかなかった。
「あ……」
「"どうしたの?"」
何か思い出したように呟いたシロコに先生が問う。
「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……そこまで汗だくってわけじゃないけど、その……普段は学校のシャワー室を使うの。予備の服もそこにあるし……」
「"気にしないで。むしろ良い匂いがするよ!"」
恥ずかしそうに頬を薄く赤色に染めるシロコに先生は自信満々にそう断言する。
『良い匂いがする』じゃないよ、先生ェ……。ほら、シロコちゃん若干引いてるじゃん……。
そんな冗談言えるくらいには体力回復できたと考えた方がいいな、これ?そういう事にしておこう、護るべき先生が匂いフェチの変態だとか嫌だぞ、私。
「……本当に私が先、行っていいの?」
「うん、気にしないでぶっ飛ばして!絶対に追いつくから!」
「それじゃ、先生……しっかり掴まってて」
言うが早いか、シロコが力の限りを込めてロードバイクのペダルを踏みこむ。
ロードバイクはぐんぐん加速していき最早自動車も超えているのではないかという速度で、あっという間に私の肉眼では見えない位置まで進んでしまっていた。
「速いなぁ、
さぁて、先生がアビドス高校に着くまで…………冷たいジュースでも飲みますか」
◇◇◇◇◇
「ハクアちゃん?ちょっと質問良いですか?」
リリアが頬から冷や汗を垂らしてハクアに問う。
ルリと先生を追い始めて数時間、電車に乗り、バスを使い……どうにかアビドス高等学校に着いたことには着いたが、2人は途轍もなく面倒なことに巻き込まれていた。
「質問しても良いが……この状況でか?」
「あのですね、この状況
「何?余裕そうに話なんかして、あいつの仲間なんでしょ?……早くあいつの事を――黒服のことについて話しなよ」
二人の目前、アビドス高等学校の正門に盾とショットガンを両手に持つ長髪の少女――
ホシノから放たれる気迫は重圧を伴って校庭へと降り注ぎ、校庭の門がビリビリと震えている様を幻視するほどの強烈な圧迫感がリリアを襲った。
そんな凶悪な視線に戦慄し、この状況になってしまった原因を聞くため己へと詰め寄るリリアを横目に、ハクアは現在己に降りかかるホシノの重圧を――目の前に羽虫が飛んでいて煩わしいと感じている程度の感情しかないといった様子で欠伸をしていた。
「__どうして、私が目を離した隙に争いの種を持ってくるんですか!?」
「……ふぁぁ、何度言わせれば気が済むんじゃ。どいつもこいつも面倒臭いのぉ…………
Tips:ルリは公共の決まりや法律はがっつり破りますが、友達との約束は絶対に破ろうとしません。今回は連邦生徒会長という友達との約束『先生を頼む』という約束を守ろうとしてあんなに考えていました。…………最後の場面?………最後の場面は某狐がおじさんの地雷をすれすれでタップダンスした結果の勘違いです。詳しい描写は次回!なお、ハクアの射撃力及び物を用いた戦闘能力はクソ雑魚です。そこいらのスケバンにも負けますし、何なら五歳児にも負けます。なので、ハクアがホシノに真っ当な方法で勝つことなど不可能です。
Data NO.4:好きなものと嫌いなもの
ルリ
好きなもの:自由、仲間、友達、おいしいもの
嫌いなもの:狭いところ、胡散臭いやつ
ハクア
好きなもの:睡眠、夜空、ルリ、羊羹
嫌いなもの:仕事、騒音、面倒事
リリア
好きなもの:友人、可愛い物、鳥、チョコレート
嫌いなもの:自分
次回「ふぁーすといんぷれっしょんは大事……?なんじゃ、それ?」
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