秘密基地――
木々に囲まれた静かな空間で、マックは一人ぽつんと座っていた。
そっと握った膝に力が入る。
マック(……フウトさん、大丈夫なんだな?)
心配を隠しきれず、マックは何度も基地の入口を振り返っていた。
フウトならきっと無事に帰ってくる――そう信じてはいる。
けれど、それでも不安は拭えなかった。
すると、横にいたシロンがふいに立ち上がる。
シロン「……気配がする。外だ」
マック「え……フウトさんが戻ってきたんだな!?」
マックが顔を上げると、木の影からフウトの姿が現れる。
その背後には――黒衣の青年・ランシーンの姿もあった。
シロン「うおいおいおい!!」
シロンが一気に飛び出す。
シロン「なんでそいつが一緒にいやがる!?」
フウトは、ため息混じりに肩を竦めた。
フウト「僕のとこに“いる”んだってさ。敵意はない……とは思うけど」
ランシーン「よろしくお願いしますね、皆さん」
柔らかな笑みを浮かべるランシーン。しかし、その姿にシロンは明らかに警戒心を露わにした。
シロン「フウト!こいつ追い返せ!お前なら一発でボコボコにできんだろ!?」
フウト「いや、理由もなしに暴力はしたくないからな……。正直面倒ごとは避けたい」
ランシーン「私は心配いりませんよ。目的はフウトさんだけです。皆さんに危害を加える気はありません」
そのやり取りをしている最中、奥から声がした。
シュウ「なんか騒がしいと思ったら――って、うわっ!前にいた黒でかっちょ!」
現れたのはシュウ、そしてメグもその後ろから顔を出す。
フウト「シュウ……悪いけど、こうなっちゃったから、しばらくここで過ごすわ」
シュウ「え? ええええ!?ってことは、黒でかっちょも一緒!?」
フウト「名前つけるな。あと“でかっちょ”はやめろってさっきも言ってただろ」
シュウ「だってもう一人の“でかっちょ”だし……」
フウト「とにかく、こいつを家に連れてくのはさすがに無理がある。シュウのお母さんには見せられないし」
メグ「確かに……」
マック「……でも、秘密基地ならきっと大丈夫なんだな!」
シュウ「おっけー!今日からこの秘密基地は“クラブ兼フウトハウス”として運用する!」
フウト(勝手に名称が変わってる……)
こうして、ひとつ屋根の下ならぬ“ひとつ屋根の木の下”で、奇妙な新生活が始まった――。朝日が林の隙間から差し込み、秘密基地の外に柔らかな陽光が降り注いでいた。
次の日、シュウたちは学校へ。
静かになった秘密基地の周囲で、フウトはひとり黙々と気を整えていた。
フウト「……はぁぁぁっ!」
黄金のオーラが舞い上がる。スーパーサイヤ人の変身状態。
しかし、そこから先――彼が目指すのは「その上」だった。
フウト(……俺には尻尾がない。スーパーサイヤ人4の条件は満たせない・・・
だったら、“その先”へ行くしかない……スーパーサイヤ人ゴッドに)
彼の中には、かつてビルスと手合わせした時の記憶が残っている。
あの時、最初は感じられなかった気配――けれど途中から、確かに“何か違う気”を感じ取った。それが“神の気”だったはずだ。
フウト「……っく……!」
黄金のオーラを纏いながらも、フウトの額には汗が浮かぶ。
神の気は荒々しい戦闘エネルギーとはまるで違う。静かで、内に燃えるような気質。
力を抑え、闘志を燃やすイメージを必死に描こうとするが――
フウト「……っち、やっぱ簡単じゃねえな」
荒く息を吐いて変身を解いた。
(まあ、今日中に出来るとは思ってなかったしな)
肩を回しながら、汗をぬぐっていると、背後から気配を感じた。
ランシーン「――おや、フウトさん。何をしているのですか?」
声の主は、黒衣を纏った竜人――ランシーンだった。
木陰から静かに現れ、表情は相変わらず読めない。
フウト「見てわかんないか?特訓だよ」
ランシーン「ふふ……特訓?まだ強くなろうと?」
フウト「……なるさ。必要だからな。もし僕以外にも、この世界に“何か”が来た時に備えるつもりだ」
その言葉に、ランシーンの目が細くなる。
ランシーン「それはまた、立派な心がけですね」
フウト「……皮肉に聞こえるな」
ランシーン「とんでもない」
ランシーンはフウトの近くまで歩み寄ると、草の上に静かに腰を下ろした。
ランシーン「……ですが、そんなことよりも。特訓などより、もっと“知るべきこと”があるのでは?」
フウト「……何が言いたい?」
ランシーン「レジェンズ――それを本当に知ろうとは思わないのですか?」
その言葉に、ふとシロンの口にした言葉が頭をよぎる。
フウト(風の……サーガ……)
フウト「ああ……前にシロンが、シュウのことを“風のサーガ”とか言ってたな」
ランシーン「ええ。その通りです。」
ランシーン「その存在を深く知るには、まず“互い”を理解しなければいけません。つまり、“あなた”と“私”です」
そう言うと、ランシーンはさらに距離を詰め、フウトと同じ目線にしゃがみ込む。
フウト「おい、ちょっと近くねぇか?」
ランシーン「……失礼。ですが――」
ランシーンの手が、ゆっくりとフウトの右手に触れる。
フウト「!!」
フウト「……おい、何のつもりだ?」
手を取られ、軽く引き寄せられるように前屈みになる。
ランシーンは微笑を浮かべながら、フウトの目を真正面から見つめる。
ランシーン「言ったでしょう? 私はあなたに興味があると。そして……あなたが“欲しい”のです」
フウト「っ……」
その言葉に、思わず息を飲む。
ランシーン「知識も、力も、存在そのものも……すべて、観察し、理解したい。近くで触れて、その本質を確かめたいんです」
フウト「こんなとこ、シュウたちに見られたらどうすんだよ……!」
ランシーン「くふふ……ご心配には及びませんよ。今、彼らは学校にいます」
フウト「いやそうじゃなくて!」
ランシーンの黒い翼がふわりと開き、フウトの視界の端を覆うように回り込んでくる。
まるで、逃げ場を封じるように――けれど攻撃の気配は感じない。
フウト「っはぁ……」
フウトは、鼻から大きく息を吐いた。
フウト「……なあ、俺、マジで“観察対象”とか興味対象になる趣味ねえから」
ランシーン「ええ、存じていますよ。でも私の“好奇心”は止まりません。特に、今あなたが感じようとしている“神の気”――」
ランシーン「その片鱗を持つ存在が、この世界に現れたこと自体が奇跡なんです。あなたは特別なんですよ、フウトさん」
フウト「だからって……なあ……せめて距離感ぐらい考えろ」
ランシーン「物理的な距離は、観察には必要不可欠です」
フウト「必要不可欠なのは“節度”って言葉だよ……!」
翼の間から逃げるように、フウトは気を使ってステップを踏み、スッとランシーンから離れる。
フウト「……ったく。朝っぱらから妙なテンションに巻き込むなよ」
ランシーン「ふふ、すみません。では、次回の観察も楽しみにしております」
静かにその場から姿を消すランシーン。
風が残り香のように、彼のいた場所をなでていく。
フウト「……何なんだよ、ほんと」
フウトは首を傾げて空を仰ぎ、ぼそっと呟く。
フウト(この距離感……まるで猫か何かみたいに、気まぐれで……馴れ馴れしい、
……シュウに説明しても理解されねぇだろうな……)
夕方、学校から帰ってきたシュウたちの「報告会」が始まる前に、フウトは草の上に横になった。