風翔「くっそ・・・、こういうのは予想外過ぎるって……。」
全身にまだ残る疲労感を引きずりながら、僕は暗黒空間からようやく抜け出した。
視界に広がるのは……高層ビル、アスファルトの道路、広告看板と車の列。
風翔「東京か?ここは……。」
懐かしい風景だと一瞬思った。
けれど、交差点を歩く人々の言葉が耳に入った瞬間、違和感を覚える。
「Oh my god!!」
「Hurry up! We’re late!!」
「C'mon, let’s go grab some coffee!」
風翔「英語……?……まさか……!」
近くの歩道橋に駆け上がり、上に掲げられている道路案内板を見上げる。
『Welcome to New York』
風翔「……ニューヨーク……!?」
その英文が、なぜか自然に理解できた。まるで頭の中で翻訳されたかのように。
風翔(どうして……?なぜ日本じゃなく、アメリカに……!?)
頭の中に、再び混乱の波が押し寄せてくる。
そしてその瞬間──
「うわっ!?」「いてっ!」
何か小さなものが足元に突っ込んできて、僕は少し体勢を崩した。
?「いってー!何処見て歩いてんだ、デカい兄ちゃんよ!」
小さな男の子が、地面に座り込んで文句を言ってくる。続いてもう一人──少女がその子の頬を叩いた。
?「アンタがちゃんと前見て行かないからでしょ!」
バシッ!
???「いでーーーっ!?なんで叩くんだよメグ〜!」
メグ「後ろばっかり見てるシュウが悪いのよ!」
そして横からもう一人、小さな帽子を被った少年が慌てて二人に駆け寄ってくる。
???「またやってるんだな……シュウは反省しないんだな……。」
風翔「僕は気にしてないから、大丈夫だよ」
僕が言うと、三人とも一瞬びっくりした顔をしたが──すぐに明るく笑った。
シュウ「な!ほら、メグ、マック!兄ちゃん怒ってねーってさ!」
メグ「コラ!謝りなさいよ、あんたがぶつかったんだから!」
バチィッ!
また叩かれた。
マック「お兄さん、大丈夫なんだな?怪我してないんだな?」
風翔「ん、大丈夫。怪我なんてしてないよ。それより……君たち、急いでるのか?」
僕はしゃがんでマックと目線を合わせた。
マック「そうなんだな!学校がもうすぐ始まる時間なんだな!」
次の瞬間、僕はマックを右肩にひょいと抱き上げた。
風翔「じゃあ──乗れ!一気に送ってやる!」
マック「えぇぇぇええっ!?」
足に軽く【気】をまとわせ、アスファルトを蹴る。
風翔「行くぞっ!」
軽い助走だけで、目の前の景色が一気に後方に流れていく。
数秒で、先に走っていたシュウとメグを追い越した。
シュウ「うおっ!?ええええっ!?なにぃ!?」
メグ「早すぎっ!?」
風翔「おっと、行き過ぎた。……二人とも、乗ってく?」
シュウとメグは呆然としたまま頷き、背中に乗り込んできた。
風翔「マックだったな。学校まで案内頼んだぞ」
マック「う、うん、分かったんだな……この道をまっすぐ……!」
風翔「了解、出発!」
僕はアスファルトの上を風をまといながら滑るように走る。
周囲の人間たちが驚きの表情で振り返るが、今は気にしていられない。
シュウ「兄ちゃんすっげー!これ何!?超能力!?ヒーローかよっ!」
メグ「髪の毛、風になびいてる……かっこいい……!」
風翔「(……ここ、ニューヨークでしょ……なんで日本語で会話できてるんだ?)」
そんな疑問も浮かんできたが──今は、この子たちと一緒に走るこの時間が不思議と心地よかった。