脇役として頑張るだけ   作:ラン乱

9 / 13
黒き竜の告白、興味という名の監視

あれから、二日が経った。

 

レジェンズたちが再び現れることはなかった。

フウトは、穏やかな時間を過ごしていた。今日は、マックと二人で、街外れの庭園を訪れていた。

 

この庭園は、地域の住民たちが協力して維持管理している静かな場所だった。

中央には大きな噴水があり、周囲には色とりどりの花が整然と咲き誇っている。手入れの行き届いた芝と、整然と配置された石畳。まるで絵画のような美しさが広がっていた。

 

フウト「……綺麗に手入れされてんだな」

 

マック「そうなんだな。この場所は、昔から町の人たちに愛されてるんだな。僕のお母さんも、ここでよくお花を見てたって言ってたんだな」

 

フウト「へぇ……いい場所だ。癒されるな、こういうのも」

 

心地よい風が二人の髪を揺らす。

フウトは深く息を吸い、わずかに笑みを浮かべる。

 

だが、その時だった。

 

ランシーン「――フウトさん、お久しぶりです」

 

背筋に冷たい感覚が走る。聞き覚えのある、静かで冷淡な声。

 

フウトは振り返るまでもなく、その声の主を理解した。

 

フウト「……久しぶりって、まだ1週間も経ってねぇだろ。ランシーン」

 

そこに立っていたのは、黒い装束に身を包み、白銀の双眸を細めた黒き竜人、ランシーン。

 

その気配は静かでありながら、どこか“確かな重み”を孕んでいた。

 

マック「フ、フウトさん……」

 

隣で震えるマックの肩が小刻みに揺れているのを見て、フウトは無言で彼の肩に手を置いた。

 

温もりを伝えるように、ゆっくりと。

 

フウト「マック。君は秘密基地に戻れ」

 

マック「で、でも……フウトさんは……?」

 

フウト「ここは、生徒会委員の俺に任せとけ。ちょっと“指導”するだけだから。……部長のシュウには内緒な」

 

軽くウインクする。

 

マック「……わ、分かったんだな。気をつけるんだな……!」

 

マックは名残惜しそうに一歩下がり、もう一度フウトの顔を見てから、庭園を駆け出していった。

 

一人になったフウトは、ゆっくりとランシーンに向き直る。

 

フウト「さて。で、今度は何の用だ?」

 

ランシーンは微笑すら浮かべず、無言のままフウトに近づいた。

すうっと、距離が自然と縮まる。

 

ランシーン「以前、申し上げましたよね。“あなたとゆっくり話をする機会を設けたい”と」

 

フウト「……ああ、言ってたな。あの竜巻のあとに。お陰で洗濯物が全部吹っ飛んでたよ」

 

冗談めかして言ってみるが、ランシーンの表情は変わらない。

 

ランシーン「私はね、あなたに“興味”があるんですよ」

 

フウト「……興味、ね」

 

ぴたりと目線が合った。

ランシーンはすっと姿勢を落とし、フウトの目線と完全に同じ高さで視線を交わす。

 

ランシーン「あなたの戦闘能力。そして、何よりも……異質な存在としての特異性」

 

フウトは無言で、ただその言葉を受け止める。

 

ランシーン「あなたのような存在は、この世界において“本来あり得ない”。だからこそ――私は観察したいのです」

 

ランシーンの瞳が揺れることはない。

その冷徹なまでの理知と好奇の光は、研究者が未知の標本を前にした時のようだった。

 

ランシーン「……暫く、あなたの近くで行動させてもらいます」

 

フウト「……ちょっと待て、今何て?」

 

ランシーン「観察対象として、あなたの生活、行動、思考……全てをこの目で見届ける。それが私の“意思”です」

 

言葉の意味を飲み込むのに、数秒かかった。

フウトは、明らかにポカンとした顔になる。

 

フウト「……は?」

 

数秒の沈黙。

 

ランシーン「あなたが持つ力、その在り方、思考、価値観。すべてが“純粋に欲しい”と思わせてくれるのですよ。力だけでなく、あなたの全てを」

 

その瞬間、フウトの眉がピクリと跳ねた。

 

フウト「……いや、やめてくんない?ちょっとゾワってきたんだけど」

 

思わず一歩後ずさる。

 

ランシーン「心配いりませんよ」

 

そう言いながら、黒き翼が左右に広がり、まるで大きな幕のようにフウトを覆い囲もうとするが、フウトは一瞬で姿を掻き消し、次の瞬間には、10メートルほど後方の石畳に立っていた。

 

ランシーンの翼が、そよ風のように空を切る。

 

ランシーン「……やはり、あなたは人間ではない」

 

フウト「一応人間だが」

 

ランシーンは再び翼をたたみ、静かに一礼する。

 

「それでは。今後とも、よろしくお願いいたしますね――フウトさん」

 

「……ああもう、どうすりゃいいんだ……」

 

フウトは頭を掻きながら、空を見上げた。

 

心の中で呟く。

 

(……シュウに何て説明したらいいんだよ)

 

“黒いシロン”みたいなのに付きまとわれるなんて、普通に考えても事態はおかしい。

でも、今さら“普通の生活”に戻れるとも思っていなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。