ラウラ・ボーデヴィッヒは苛立っていた。
その事実を隠そうともせずに、周囲に怒りの感情をばら蒔きながら専自身の用機、シュバルツェア・レーゲンの装着を解く。
そんな彼女に一人、ペアである繰空廻がラウラの怒りなど知らないとばかりに声をかけた。
「お疲れ様でした、二回戦まで時間がかかると思いますけど何かします? 反省会とか、次の戦いに向けて」
「いらん」
廻の言葉へ短く返したラウラは、一人で生徒の待機部屋から出ていこうとする。
相変わらず不機嫌なのを隠そうともしないラウラに、廻はもう一度声をかけた。
「随分と不機嫌ですね。そんなに空野春樹に一杯喰わされたのが気に入らないんですか?」
その発言で、ラウラの中にあった感情が一気に沸き立つ。自らもそれに触れず、何とか消化しようとしていた物に他人が触れる。
その不快感を噴出させたラウラが振り向き廻へと襲いかかる。
「どこ見てるんですか……本当に酷いですね。敵の場所を間違えるとか正気です?」
「っ……!」
が、既に廻はラウラの後ろではなく隣にいる。
廻が言うとおり、今のラウラは自分でも正気を疑いたくなるほどに無様だ。
それでもラウラの怒りは収まらない。その矛先を廻に向けたままラウラが吠える。
「黙れ! 貴様、貴様が邪魔をしなければ早期に決着は付いた!!」
「そうですけど、私が貴女とタッグを組む時に言ったじゃないですか。『私は貴女にも勝つ』ってね、貴女はそれにどう答えましたっけね? そも、私がデュノア君を倒すまでに貴女が勝てば良かったんですよ」
「それほどあいつを倒したことが誇らしいか!」
「ええ、まあ。結果で言えば私はデュノア君を倒し、貴女は誰も倒せていない。それが事実ですし、私の方が活躍できました」
「ふん! あんな男を一人倒した程度で私と肩を並べたとでも思っているのか? 嘗められた物だな」
「それは……え、待ってください? もしかしてラウラさん……」
「なんだ、間違っていないだろう」
「…………いえ、はい、そうですね。はい」
まさかのラウラがシャルルの正体に気が付いていないという事実。
それを受けた廻は困惑しながら「これ相当視野が狭くなってますね」と口の中だけで呟いた。
その後にラウラは大きく息を吐き出し、再び語り始める。
「確かに奴の実力やお前の虚構切り替えは驚くべき点ではあった。だが、奴の戦い方と虚構切り替えの相性の良さ、それがお前をあそこまで早く勝利させた。違うか?」
「む、それを言われるとそうですが」
「対してあの男……空野はデュノアが勝つことを前提に、私に対しては徹底的な逃げで立ち回っていた。奴の機体性能で逃げに徹されると私のシュバルツェア・レーゲンではどうしても時間がかかる、そういった相性も踏まえれば私とお前の戦いがイーブンだとは思えん」
「それは確かに」
先程のため息である程度の怒りも外に出たのか、冷静に先程の戦いを分析し、自らの不利戦闘と廻の有利戦闘を同列に語るなと言い、それには廻も同意する。
その事実に「ふん」とラウラは鼻を鳴らす。
が、しかし。
「それで? 言い訳はそれだけですか?」
「貴様……」
廻の煽りに、ラウラの額から「ピキッ」と青筋が立つ音がした。
だが廻はそんな事では怯まない、怒りが再び燃えようとするラウラへ冷水のような言葉を被せる。
「その程度の相性差をひっくり返せないラウラ・ボーデヴィッヒでは無いでしょう。貴女は自らの強さを証明するためにここにいる。私はそんな貴方の強さを見込んで利用するために声をかけた。……どんな相手でも自らの力でねじ伏せる、そんな貴女だから私はペアを申し込んだんです」
「…………」
廻の言葉を静かに聞いていたラウラは、舌打ちを一つして部屋の外に出た。
そうして……自分の怒りが収まっている事に気付く。消えたわけではない。だが自らの中に収まり、冷静に向き合えるほどには落ち着いている。
「クソっ!」
まただ、とラウラは壁に手を叩きつけて繰空廻について考える。
「詐欺師の方が向いているんじゃないか、奴は」
そう呟きながらラウラはこの数週間しかない、しかし印象に残っている繰空廻との記憶を思い出し始めた。
ーーーーーーーーーーーー
ラウラ・ボーデヴィッヒが入学した初日。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ。少佐だ」
教室で自己紹介するよう敬愛する教官である織斑千冬に促され、行ったのがこれだ。
更に
「織斑一夏。私はお前を許さん……!!」
千冬のモンドグロッソの連覇を妨げた汚点、織斑一夏に対して一撃を与えた。
それは同じクラスのメンバーに強烈な印象を与え、周囲からの孤立を促した。
そしてラウラも、それで良いと感じていた。
所詮ここに居るのは生ぬるい生活と、ISについてもファッションのような感覚で生きている自分とは違う人間だ。
そんな場所から恩師である千冬を連れ出す。
それがラウラの目的だった。
そして教官と共に……
そんなラウラにとって、その出来事は予想外だった。
「ボーデヴィッヒさん、手伝ってもらっても良いですか?」
転校初日のIS操縦実技授業。
やはり軍属で訓練を受けていたラウラからすれば、遊戯と言って差し支えないレベルの内容。
専用機持ち毎に班分けが行われ、それぞれのチームでISによる歩行実技。
関わる気など無かったラウラ、だというのに一人の女子生徒は当然のように話しかけてくる。
繰空廻だ。
「……何故そんな事をする必要がある」
「鷹月さんが降りる時にしゃがみ忘れて、次の人がISに乗れません。専用機で乗せてあげて欲しいんですよ」
「下らん。そんな初歩的なミスをするなど、そんな者を何故私が助ける必要がある」
「なるほど……」
廻の提案を当然断るラウラ。
ISの事を甘く見るからそのようなミスをする。
そんな人間達と関わる気は無いし、助ける理由も無い。
練習を続けたければ誰かに甘えず、よじ登ってでもISに乗れば良い。
そんな考えがラウラにはあった。
「織斑先生の意図が読めないかったのなら仕方ありませんね、次の人は……」
「なんだと! 私が教官の意志を読み取れていないと言ったのか!?」
何を言われても話す気は無かったが、敬愛する教官である千冬の名前を出したなら別だった。
更に自分がその教官の意図を理解していないなど、ラウラにとって侮辱以外の何でもない。
「今の言葉、取り消せ!!」
「嫌ですよ、事実ですから」
「何……! 教官は私が貴様らを助けるのが当然だと考えていると言うのか!?」
「なんだ分かってるじゃないですか。当然とまでは言いませんが、あなたに期待されている働きはそれだと思いますよ?」
「何を根拠に……」
「班分けですよ。何も理由なく織斑先生が専用機持ち毎に班を分けると思いますか? ……私達の大半がこの授業で初めてまともにIS搭乗を行います。なら、こういう初歩的な問題が起こるのだって当然です。そしてこれは専用機持ちが各班に一人いれば解決できます、あんな風に」
廻が指した先では、同じような状態に陥った春樹の班。
そこでは次の人を春樹が専用機を纏い、お姫様抱っこの形でISに乗せていた。
回りを見れば同じような光景が全班で行われ、滞りなく授業を進めようとしていた。
「このままだとうちの班だけ遅れる事になりますね。織斑先生の授業で」
「…………チッ! 次の者は誰だ! さっさと前に出ろ、ただし今回だけだ。いいな!!」
「は、はぃ」
「そう怖がらなくて良いですよ、毎回しゃがむように意識していきましょう。丁寧にやればそれだけ良い経験にもなりますから」
千冬の顔に泥を塗ることなどあり得ない。
それ故にラウラは一度だけと伝えて次の生徒をISに乗せる。肝心の生徒本人はラウラの影響かガチガチに緊張しているが、廻の言葉でゆっくり丁寧に動き出す。
最終的には元の場所でしゃがみながら操縦を終えて、次の生徒に交代する。
繰空廻はそんな生徒達の様子を見ながら、最後は自分で操縦して。その日の授業は終わった。
次の日の同じ授業でも、ラウラが他の生徒を運ぶことは無かった。
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「(なんだ、これは……こんな物が! こんな物が訓練だというのか!! やはりここは教官に相応しくない……!!)」
続く3日目と4日目。
ラウラはIS学園の授業を受けながら、自身の考えをより強固にしていった。
3日目のISによる武器使用訓練。
そこでは刃が潰されたブレードと、空砲の銃による練習が行われた。
初めてで録に動かせない生徒達の殆どはブレードを振れず、銃撃はおろか銃を持つことすらおぼつかない。
だというのに、生徒達は上手くいかないと笑い合いながら、穏やかな雰囲気で何度も同じ事を繰り返している。
その事実が、ラウラには気にくわない。
4日目にはISによる飛行訓練。
ISの最たる特徴であり、その飛行速度は戦闘機並にもなる。
その最重要と言える訓練も、多くの生徒は自由な空を飛ぶという経験が初めてなのもあり、笑い合っている。
初日にラウラを言いくるめた繰空廻も、空を感じて笑みを浮かべていた。
「(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! こんな場所が教官の居場所だと! あり得ない、やはり教官はこんな場所ではなく、より実践に近い場所で教えるべきだ!! 教官! 何故何も言わないのです! いや、教官が言えぬのなら私がーーー)」
そんな、勝手な思い込みと強すぎる思想が爆発したのが5日目。その日は武器の使用と飛行訓練が半々の予定だった。
「貴様ら、訓練の前に言うことがある」
授業の開始ともう決まった班分けを終え、更には最初の一人が訓練機に乗り込んだ後。
ラウラは自らの班のメンバーに声をかけた。
珍しくラウラから話しかけられた面々は何も疑わずに集まった。
「貴様ら、馬鹿にしているのか!!!」
そうして、ラウラが普段は出さないであろう大声を持って、ラウラ班のメンバーに語り始める。
「いいか、ISとは力ーーー即ち兵器だ! それをあんなに笑いながら、楽しそうに……まるで玩具を扱うかのように!! 使うなど!! 貴様らのISの向かい合い方は、間違っている!!!」
強く強く、これまで感じていた怒りをぶつけるように。
ラウラは班のメンバーに語る……いや、怒鳴りつけた。
「貴様らが笑いながら振り回していた武器、あれは刃が潰されているがそのままでも数kgの凶器だ! 誰かに当たれば充分致命傷になる! 銃についてもだ! 貴様ら、あれが本番だと弾が出ると予想して使っているか? あり得ん! そんな者が笑い合いながら銃口を向け合うなど論外だ! 貴様らのようにISをファッション感覚で楽しもうとする者などこの場所に、教官に相応しくない!!!」
ラウラの主張に対して、班の生徒達は何も言わないし、言えない。
自らのISとの向き合い方が間違っているだとか、ISをファッション感覚だとか、反論したくてもそれができない。
それほどの怒りのプレッシャーをラウラは放っており、更には専用機を纏っているラウラに誰も恐怖で動けない。
そんな中で、ISを纏っている生徒が自らが動かなければと使命感から前に出る。
「な、何よ! そんなにキツい言い方しなくても」
「黙れ」
そんな生徒に対してラウラが向けたのはあまりにも冷たい、殺意と武器だった。
レールガンをISを纏っている生徒に向け、思わず生徒は止まってしまう。
次に、ラウラがレールガンのセーフティを外し、生徒のISに警告が表示される。
「……え?」
「貴様らに足りないのは、恐怖だ」
そう告げながら、ラウラが迷わずにレールガンを撃とうとする。
ラウラ班の他のメンバーは悲鳴を上げ、流石に不味いと判断した千冬と山田先生が止めに入ろうとした。
その直後
「流石にやりすぎです。落ち着いて下さい、ラウラさん」
「貴様は……」
「繰空廻です、初日にも少し話しましたね」
廻が生徒とラウラの間に入った。
今にも攻撃しそうなラウラの前、他の生徒が悲鳴じみた声で廻に下がるように言うが、廻はだからこそ下がってはいけないと考えている。
「どけ、そのまま私に撃ち抜かれたいか」
「いやです」
「……最初こそお前は違うと思っていた。だが所詮貴様も同じだ、昨日の飛行訓練で笑っていたな。あれはIS操縦において最も重要な訓練だ、そこで笑うなど論外だ。もう一度言う、退け。でなければ次は撃つ」
「撃てるものならどうぞ。ただしその場合、貴女はISでの殺傷事件を起こした犯罪者として代表候補生ではいられない。今の地位、その専用機、貴方の言う力を全て失う事になりますけどね」
「…………チッ」
ラウラがレールガンのセーフティを元に戻す。
その上で最早なにも見ることもすることも無いと、場を離れようとした。
そんなラウラに廻が声をかける。
「私達には恐怖が足りない……正直一理あります。成長に必要なのは肯定や成功だけでなく失敗や恐怖、そういったある程度のストレスも必要ですから」
「……何だと」
先程までラウラの言い分に反抗していたのに、今度は急にその考えを肯定する。
今の行動と矛盾する言葉にラウラはつい足を止めて廻と向き合った。向き合ってしまった。
「ですがラウラさん、貴方の視点には欠けている物が多い」
「私に何が欠けていると言うんだ」
「一つ、私達は貴女の語る恐怖が必要なラインまで到達していない。二つ、ここにいる全員がIS操縦者になるために学園に通っている訳ではありません。……この学園では二年生になると同時に操縦者を目指すか、或いは研究者や技術者を目指すか、その選択をします。私達一年生の目的は『ISを知ること』それ自体にあります」
「それがどうした、ならばISの恐怖を知ることも必要だろう。そして恐怖を知るのは早ければ早いほど良い」
「うーん……否定はしませんけど、だからと言って強すぎる恐怖はNGです。最初に恐怖を知れば、それ以降の全てにISに関する恐怖が纏わりつきます。それが強すぎれば操縦、研究、整備などの技術、全ての成長に悪影響です」
「知らん、この程度の恐怖で挫けるような奴なら、これから先でも録な結果は出せんだろう」
「……なるほど」
ラウラと廻の議論はお互いに落ち着いた声だったが、その内容はお互いの思想をバチバチにぶつけ合う論争だ。
が、これ以上の時間のロスはよろしく無いと判断した廻が、一つのカードを切る。
「つまり貴女は、『クズはどうあってもクズであり、それならば最初から切り捨てて放っておくべきだ』そう言いたいわけですか」
「…………!? それは……いや、だが……」
「それならこのように進化や変化を望む授業や訓練、それに教師も教官も最初から必要ない、と」
「ち、違う……私は……私は、教官は!!」
「……とりあえず、練習を進めましょう。ラウラさんも、何かあるまでそのまま見てて下さい」
廻の一言に明らかな動揺を見せたラウラ、更に行われた追撃で動揺のあまりISが解除されてしまった。
それを見て、暫くは大丈夫だろうと考えた廻は練習を始めるように他のメンバーに伝える。
他の生徒達はラウラの事を心配気に見つつも、時間を確認して練習を始める。
「(少々無理矢理でしたかね……別に気にしませんけど、知っている情報は利用する物でしょう)」
廻は転生経験と今世でも千冬から語られたのを盗み聞き(意図的ではない)によりラウラがかつて落ちこぼれだった過去、そしてそこから千冬の手によって這い上がった過去も知っている。
故にそこを付いて会話を終わらせた訳だ。
それから暫くして。
「繰空、廻……!!!」
復活したラウラは廻に向けて殺意の塊のようなどす黒オーラを放ち、それに当てられてしまった他のメンバーは録な結果を残すことはできなかった。
ーーーーーーーーーーーー
同じく5日目の放課後。
ラウラは一人で寮に居た。
日課である訓練も終え、再び織斑一夏を襲撃しようかとも考えた。だが以前の経験から本人に襲撃を仕掛けても意味は薄く、更にアリーナの監視教員による邪魔立て。
この二つの問題を解決する方法を考えていた。
そんな時
「ああ、ここに居ましたか。ラウラさん、これにサインお願いします」
「繰空廻……!」
繰空廻はなんて事も無いような声で、ごく普通にラウラに話しかけた。
ラウラが廻に向けて威嚇のように警戒心を剥き出しにするも、知らんと言わんばかりに廻は紙をラウラに見せるだけ。
ラウラも警戒は緩めず、差し出された紙を見る。
そこには「学年別タッグトーナメント ペア申し込み用」と書かれたプリントが一枚。
「は?」
「私の名前は書いてあるので、後はラウラさんに書いてもらうだけなんですけれど」
「な、何だ……? お前は何を言っている?」
「私とペアを組んでトーナメントに出てください、とお願いしてるわけですが」
ラウラの中で威嚇よりも困惑が強くなる。
廻とラウラは数時間前に意見をぶつけ合い、ラウラは廻に殺意を向けたのだ。
更にラウラは繰空廻と織斑一夏が友人関係を築いているのを知っている。
どう考えてもラウラと廻は敵対関係であり、なぜそんな彼女が自分とペアを組もうとするのか……全く分からなかった。
「そんな事は理解している! なぜ織斑一夏と敵対している私とペアを組もうなどと言うのだ!」
「別に織斑君と貴女が敵対しているなんて、私にとってはどうでも良いことです。私は貴女とペアを組むことでメリットがある。だからこれを提案しています」
「……貴様にとってのメリットだと?」
「ええ、私は目的のためにトーナメントの優勝が必要なので」
トーナメントの優勝……そこからラウラが思い浮かんだのは、トーナメント優勝で男子生徒と付き合えるという噂。
ラウラ自体は下らなすぎて気にしていなかったが……やはりこの程度なのだと落胆すら感じながら廻に答える。
「例の噂か……やはり貴様も下らん奴らと同じだ。男と付き合いたいなどと……」
「何を勘違いしているんですか貴女。……いえ、これは私の言い方が悪かったですね。私に必要なのは優勝ではなく、優勝までの
「過程だと?」
ラウラが同じ言葉を返す。
過程が重要とはどういう事か。
いや、どちらにしてもラウラが廻とペアを組む意味は薄いという事実は変わらない。
「……関係ないな、お前とのタッグは断る。私がお前と組む意味はない」
「そうですか……しかし、それは誰が貴女と組んでも同じことでしょう?」
「何だと?」
「貴女は誰とペアを組んでも、さほど変わりはないという意味です」
侮辱されたと感じたラウラが再び敵対心を放つも、それを廻が「悪い意味ではありませんよ」と宥めながら、両手で落ち着くように示す。
そしてそのまま、先の発言の意味を伝える。
「貴女は強い、それこそ現状では私達の学年で貴女に勝てる生徒は存在しません。であれば貴女の優勝は既定路線であり、それは誰とタッグを組んでも変わりません」
「何……?」
侮辱するような事を言ったかと思えば、次にはラウラの強さではトーナメントでの優勝は確実だという。
「そうですね……貴女が負けるとすればデュノア君が本物としてのペアを見つけるか、後はセシリアさんと鈴さんのタッグでしょうか」
「……あの男が予想以上に実力者なのは認める、だが後ろの二人は以前教官の補佐官に負けた二人だろう。私が負ける筈がない」
「(補佐官……いや間違いでは無いですが)そうでもありませんよ? 山田先生と戦った時は連携のれの字もありませんでしたが、機体相性としては悪くありません。これからの練習で完璧な連携な取れるようになれば、それこそタッグならば学年最強を目指せると思います」
「ほう……」
学年最強、その単語にラウラが僅かに反応する。
この一連の流れが翌日、ラウラがセシリアと鈴を襲撃する理由になるのだが、今は関係が無いので割愛する。
「とにかく。現状、一人で貴女より強い生徒はこの学年には居ません。これから数週間の間に練習や特訓を重ねたとしても、この事実はほぼ変わらないと見て良いでしょう」
「何なんだお前は……」
ラウラには分からない。
一夏の友人である廻が敵である自分とタッグを組みたいという言葉の真意。
他の人間を誉めたと思えば、しかしラウラの優勝は決まっていると言い、その過程に廻の目的があると言う。
より困惑していくラウラに、廻が畳み掛ける。
「どうせ優勝するのなら、より意味を持つ優勝をしませんかって誘いです。貴女の目的は自らの力を証明することでしょう?」
「貴様、どこまで……!」
「大体は想像です。話を戻しますが、貴女は誰と組んでも優勝は変わらない。ならばより力を証明するために
「……! そういうことか」
「そうです。私は貴女の味方としてタッグになるのではありません、
「はっ!! 貴様は私の味方ではなく、第三勢力になろうというのか!」
「そうです」
そこでようやくラウラは目の前の女の言い分を理解した。
仲よしこよしのタッグではなく、お互いに相手を利用する。
そんな歪な関係を求めているのだ。
その事実に、ラウラの中の何かが火を吹いた。
それが何なのか、ラウラは分からない。
「ずいぶんと極端だな、そして貴様程度が私の壁になると思っているのか!?」
「それはまぁ……実戦で計ってもらえばいいかな、と。なんなら今からアリーナ行きます?」
「いいや、いらん。貴様が実際にどうであろうと関係ないのだからな」
「そういって貰えると、こちらも楽ですね」
「だがその紙にサインするには条件がある」
「何ですか?」
ラウラはこの感情が分からない。
だが、これは、この感覚は知っている。
それは強大な敵と戦う時、自らの限界を突き詰めてなお足りない物に挑む時。
それらは千冬と共に居た期間に何度も経験した。
「貴様の本心をさらけ出してみろ、そんな飾ったような言葉では無い。貴様の素の状態、貴様のありのままの本心を、私に見せてみろ!」
ラウラの言葉に廻は失礼だと思いながらもつい「(なに言ってるんだこいつ)」と思ってしまう。
なんだか勝手に盛り上がっているラウラに対して、こちらは最初から素だし本心なのだが……と面倒臭いなと思いながら「(タッグを組むならある程度は言っちゃっていいか)」と結論を出した。
「では」と一つ前置きを置いて、廻が告げる。
「私にとっての最高の当て馬になれ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「…………!!」
その言葉と同時に、ラウラは確かに感じたのだ。
強者故の迫力、無意識にでも言葉を強めた事で漏れでた禍々しいプレッシャー。
それを感じながら、ラウラは自身の高揚を押さえるのに必死だった。
それはーーー
「私が求めるのは貴女を出し抜いて果たす私の価値証明と、貴方の力のによる価値証明。その喰らい合いの先にある互いの存在証明だけ。その為に……私を殺す気で来い、ラウラ・ボーデヴィッヒ。その上で『貴女を潰して私が勝つ』」
「はっ!! それが本心か、良いだろう! 貴様の価値なぞ、いや他の全ての者も、私が私の力で叩き潰す!! それが私の……私による教官への存在証明だ!!!」
この提案に乗れば自らが
それを自覚することなく、ラウラ・ボーデヴィッヒは獰猛な笑みを浮かべながらペアの登録用紙を奪い取り、自らの名前を記した。
それを見て廻が呟いたのはーーー
ーーーーーーーーーーーー
「良いですね、貴女」
その一言で、ラウラの意識は過去から現在に浮上する。誰が言ったのか確認のために顔を上げれば、そこに居たのは繰空廻だった。
「……何の話だ」
「席の話です。貴女にだれも寄り付いて無いから、貴方の周囲すっぽり空席じゃないですか。助かります」
よっこいせ、と言いながらラウラの隣に座る廻。
今現在、二人は学年別タッグトーナメントの第一回戦を観戦するべく、アリーナの中にある一年生用の観戦席に居た。
「……貴様は織斑や空野達と同じ場所で見れば良いだろう」
「今は貴方とタッグを組んでるので……正直居づらいんですよ。なのでダメ元でこっちに来てみたのですが……ペア様々ですね」
「ほざけ」
お互いに軽口を叩きあう。
既に先程の怒りはラウラの中でも消化され落ち着きを取り戻し、廻は元々ラウラの怒りなんぞ気にもしていない。
それをこの数週間同じクラス、同じ班で授業を受けたことで知った繰空廻の在り方だとラウラは分かっている。
「しかしこの二タッグの内、勝った方が次の私達の相手とは……運命的というか因果的というか」
「そんな物はありはしない」
「貴女はそういう人でしょうね」
そう言った廻の目の前には『織斑一夏&篠ノ之箒ペアvsセシリア・オルコット&凰鈴音ペア』という文字列が見えていた。
これは運命力的に一夏が勝つかな~と思いながら、繰空廻はこれから行われる一年生達の第一回戦を楽しむべく笑みを浮かべるのであった。
簡単キャラ解説
ラウラ・ボーデヴィッヒ
今回からがっつり書いていきたい。
廻の存在を自らの壁と認め、越えるために手を組んだ。周囲からは避けられているが、授業で一緒の班に成ったメンバーからは善悪はともかく強者と思われている。
ラウラ班メンバー
ラウラに一回殺されかけるも、その経験でちょっとやそっとではガチガチに緊張しなくなった。
全員がトーナメント一回戦突破により、ラウラの教え方は厳しかったけれど間違ってもいなかったと思うようになる。
それはそれとして優しくしてほしい。