一万字越え、オリジナルの技の解説が殆どです()
遂に迎えた学年別タッグトーナメント本番。
トーナメントの対戦表が表示された時、一夏、春樹、箒、セシリア、鈴、そしてシャルルのメンバーは驚きを隠せなかった。
彼らが見ていたのは第一回戦、第一試合の組み合わせ。そこには『ラウラ・ボーデヴィッヒ&繰空廻ペアvs空野春樹&シャルル・デュノアペア』という文字列が表示されていた。
春樹とシャルルは良い。それは事前に知っていたし、男子二人がペアになるのは自然な事だ。
代表候補生の二人はシャルルの事を怪しんでいたが、春樹と自身の想い人である一夏は何も言わず、そして自身が下手を動けば問題を大きくするだけだと理解している故に、何も言わなかった。
話が逸れたが、問題は春樹とシャルルではない。
もう片方、ラウラと繰空廻がペアであるという事実。それが問題だった。
このメンバーの内、鈴とセシリアはラウラに機体と体に傷を負わされた屈辱があり、一夏はラウラに因縁をつけられ千冬によってこのトーナメントで決着を付けることにしている。
他のメンバーもラウラに対して良いイメージは無かった。だというのに、そんなラウラのペアは彼らの友人である繰空廻だという。
それは、全員の動揺に誘うには十分過ぎた。
「め、廻? これは……どういう事だ? なぜお前とラウラがペアに……?」
「これは……救済措置でしょうか? ペアが作れなかった生徒は当日に機械がペアを決定するとありましたが」
「いやまてまて、前に廻さんはペアの当てがあるって言ってたんだぞ!?」
「……て、ことは。これは間違いでも、ラウラとあんたの救済システムじゃない、てことで間違いないかしら? 廻」
思わず呆然として、驚きのあまりに狼狽えてしまう面々。
そんな中で鈴はそれぞれが持っている情報をまとめ、これが間違いではなく正しい表示であることを廻に確かめた。
その姿は小さいながらも、決して嘘は許さないと圧を放っていた。その姿はまるで猛獣……あるいは仇を見つけた復讐者だろうか。
味方な筈の鈴の圧力に、思わず一夏と春樹が喉を鳴らす。
それほどのプレッシャーだった。
それに対して当の本人はと言うと。
「ええ、その通りです。私はラウラ・ボーデヴィッヒとペアを組んでこのトーナメントに登録しました。なにも間違っていません」
あっけらかんと。
それが普通で、当然のように、実に自然な回答だった。
次の瞬間。鈴のプレッシャーは更に増大し、セシリアも鈴と同様に覇気を放ち、一夏と箒は味方二人の影響もあって混乱、春樹とシャルルは信じられない物を見るように廻を見ている。
代表候補生二人の、もはや殺気ではないかと感じる圧に一夏や春樹達の方が苦しく感じ始めた。
それに対する廻の答えはーーー
「それで、何か問題でも?」
二人の圧を飲み込む程の、強力なプレッシャー。
まるでそこにいるのは幾つもの闘争を経験した歴戦の戦士のような、殺し合いがごく普通の世界で生きてきた人間が放つような。
禍々しい。
そう無意識に思ってしまう程の圧に、遂に一般人な一夏が限界を迎えかける。倒れてしまいそうな一夏を箒が受け止め、「一夏! 一夏! しっかりしろ、私をこのバトル漫画みたいな世界から置いて逃げるな!」と一夏の為なのか自分の為なのか分からない言葉を投げ掛ける。
「へぇ、何? 私達を騙してたわけ?」
「いいえ? 単純に聞かれなかったので。相手のリサーチを怠った貴女達のミスですよ、これは」
「あらあら……それは否定できませんわね。ですがラウラさんのペアであることを黙って私達の練習を聞いてきたのは……何でしたか、そう、平等性にかける、情けない行為ですわよ?」
「別にそんなつもりはありません。事実として、私は貴女達がこの数週間でなにをどう鍛えたか、全く知りませんから。昨日のお話でもそう言った話題は避けたでしょう?」
「それを言ったら、あんたも相手のリサーチを怠ったんじゃないかしら?」
「必要ありませんので。……そうですね、一つ宣言でもしましょうか」
もう龍と虎、それに鬼があいまみえているのではないか、と他のメンバーが感じるその会話。
そんな中で二対一な筈の廻が、更に圧を上げる。
鈴とセシリアもそのプレッシャーに息を呑み、一夏は戻ってきてすぐにまた箒の腕に倒れた。箒ももう抗えず、一夏を抱き抱えながら情けなく腰を抜かしている。
春樹は持ち前のポーカーフェイスで耐えつつ、自分の背中に隠れているシャルルに、春樹もまた支えて貰っていた。
「このトーナメント、勝つのは『私』です」
「っ……意外ね、そんなに一夏や春樹と付き合いたいのかしら?」
「そんな事はどうでも良い。私は私の目的の為に、ここにいる全員に、ここにいない人達にも、そしてラウラ・ボーデヴィッヒにも、負ける気はありません。『私が勝ちます』」
「「っ!!」」
力強く自らの『勝利』を宣言した廻に、鈴とセシリアも遂に気圧された。
春樹と一夏は殆ど意識を失い、箒は自身の本気の告白の結果が「どうでも良い」と言われて半泣きになり、シャルルはラウラにも勝つという宣言に疑問をもった。
ともかく、廻は自身の勝利を宣誓した後にそのプレッシャーを消す。
それに会わせて鈴とセシリアの二人も圧を潜めた事で、ようやく事態は終息した。
「では、私はラウラさんの元に行きますね。春樹君、デュノア君、良い試合にしましょう」
そう言ってすたすたと去っていく廻。
残されたメンバーの内、意識がはっきりとしている鈴とセシリアが呟く。
「上等じゃない………やってみなさいよ」
「お手並み、拝見させて貰いましょう」
「ほら、春樹にシャルル。二人も早く行きなさい、試合始まるわよ」
「お、おお……じゃあ、シャル。行くか……」
「あ、うん」
「箒さん、一夏さんを起こしてください。私達も観戦に向かいましょう」
「え、あ、ああ。ほら、起きろ一夏」
「おお……? 今、神様的な人から部下がごめんって言われてた気がする……」
「何言ってんのあんた?」
本当に一夏が死にかけていた事実に気付く者は当然おらず、春樹とシャルルはアリーナに、残りのメンバーは観戦室へと移動を始めるのだった。
ーーーーーーーーーーーー
この学年別トーナメントは、外部からIS関係者を多く招待して開催される。
ある者は自国の代表候補生の成長を確認しに、ある者は自身やライバル企業が開発した機体や武器の活躍を見に、そしてある者は……新しい才能を発見するために。
とりわけ今回、注目を集めるのはやはり世界初となるISの男性操縦者二人だ。
そして一回戦の最初からお目当ての男性操縦者が見れるとあって、観客席も熱気に満ちていた。
そんな中、4人の生徒がアリーナに入場する。
1人目、世界で2番目のIS男性操縦者。
空野春樹
2人目、フランスの代表候補生にしてデュノア社所属、フランスの貴公子
シャルル・デュノア
3人目、ドイツの代表候補生であり、IS配備特殊部隊「シュバルツェ・ハーゼ」隊長。
ラウラ・ボーデヴィッヒ
4人目、通常の一般女子生徒。
繰空廻
それぞれのISを身に纏い、アリーナに現れた少年少女。
いきなりの男性操縦者、そして二人の専用機持ちの代表候補生。最初から見る箇所が多い試合に、観客席が沸き立つ。
だというのに、誰一人からも注目も期待もされていない少女、繰空廻。
彼女がこれから世界に向けて牙を向けることは、誰も知らない、分からない、気付かせない。
この熱狂こそが、私が望んだものだ。
下に向いた顔で、繰空廻が嗤う。
そんな彼女に一人、シャルル・デュノアが声をかけた。
「あれ? 廻、ラファールの色がいつもと違う?」
「……ああ、何でも訓練機は誰か分かりやすいよう、機体毎に色が付けられるみたいです。正直、この試合でオレンジ色はどうかと思いますが」
「軽口とは、随分と余裕があるようだな。貴様」
「試合前のリラックスは大事ですよ、それにこの色ではデュノア君と丸かぶりです。文句だって言いたくなります」
会話の中で廻が言った通り、廻が纏っている訓練機のラファールは装甲の色が変わっていた。
それはこのトーナメントで複数の訓練機が動く中、観客達がどの機体が誰の物か識別しやすくする為だと言う。
しかし、廻のラファールの色は掠れたようなオレンジ色で、シャルル専用機のラファールは明るいオレンジ色。
同じオレンジ色で被ってしまった。
廻はこれでは本末転倒ではないかと思うと同時に、この機体に別の意図を感じていた。
「(オレンジ色の量産機で専用機相手とか露骨すぎませんかね……)オーディンの軍馬ですか」
「なにを言っている、本番に怖じ気づいたか?」
「ありえません。貴女こそよく喋りますね、緊張すると口数増えるタイプですか?」
「ほざけ!」
ラウラと廻は軽口を叩きあってこそいるが、そこに親しみは薄い。
これが本当にペアなのかと、シャルルは疑ってしまう程だ。
そんな中で、試合前のカウントが始まる。
徐々に数値が減っていき、カウントが0になると同時に試合開始の合図がなった。
この戦いの始まりはーーー
「おぉぉぉ!!」
「空野春樹か!」
春樹が戦闘開始と共に瞬時加速でラウラに接近、不意を付かれるような形で懐に入られたラウラはプラズマ手刀で受け止める。
が、それでも春樹は止まらずに機体パワーでラウラを機体ごと押していく。
やがて武器の黒雪が弾かれた事で突進は止まったが、既に春樹とシャルルの作戦通り。
「私とラウラさんの分断ですか、そして私にはデュノア君が付くと」
「まあね、隠す気も無いけどさ」
「しかし春樹君にラウラさんは荷が思いのでは? ……デュノア君が私を倒し、早期に2対1と持ち込む気ですか」
「流石。悪いけど……僕も本気で君を倒す!」
力強く宣言するシャルル。
それに対して、廻が嗤う。
それはどこか獲物を見つけた獣を思わせる、獰猛な笑み。
始めて見た廻のその表情に、一瞬、シャルルの中で恐怖が駆け巡った。
「なるほど、ですが残念。言った筈ですよ? 『私はこの大会で全員に勝つ』と」
「っ!?!?」
シャルルが防御に成功したのは、半ば本能的だった。先程の獰猛な笑みと、獣のような瞳に恐怖した体が身を守ろうと無意識に盾で体を守っていた。
そしてそこに、廻の両手に握られているライフルから放たれた弾丸が命中したのを理解する。
「(速い!? これは
武器を瞬時に展開・変更する
シャルルもまたそれを得意とするからこそ、理解と無意識の対応が間に合ったのかもしれない。
同時に、廻の実力が以前練習で戦った時とは別次元だと彼女は判断した。
「この間よりも強くなってるね! それとも前は手加減してたの!?」
「前者ですね。私、どうもISに関しては天才らしいので」
お互いに軽口を叩きながら、そして廻は平然と嘘を付きながら。
高速切替で両手に拳銃を展開。そのままお互いを狙って発泡、そして二人とも回避。
二人とも自身の攻撃を当てつつも回避する為に動く。これにより円が生まれ、ISの銃撃戦である
しかし、お互いの実力が拮抗以上の場合はこの円は途切れず、時間だけが経過する。
時間をかけることは、春樹とシャルルの作戦では最悪だ。
「(当たらないか)っなら!」
「む、そう来ますか……
シャルルが加速しながら円を抜け、それまで通りの円を描く廻と正面からぶつかるように方向転換。ちょうど8の字を描くような軌跡。
対して、廻はシャルルの考えを理解した上で敢えて乗る。機体を加速させ、円を完成させずに8の右側面で正面からシャルルと向かい合う。
「乗ってくれるなんて、嬉しい、ね!!」
「…………」
シャルルの言葉を廻は返さず、お互いにの銃弾が放たれ続ける。
二人とも高速切替が得意だからこそ生まれるチキンレース。どちらも相手の攻撃が当たる直前まで攻撃を続け、読み間違えればダメージ、早ければ攻撃の回数で相手が有利。
互いに敵の弾が届くギリギリまで両手で銃を撃ち続け、敵の攻撃を受ける瞬間に高速切替で左手に盾を持った。
「はぁぁあ!!」
「なんの!」
結果はどちらも一撃を受けながらも弾丸を盾で防ぎきった。それまでの銃撃戦は終わったが、戦いは終わっていない。
盾を構えたまま正面から加速し、相手が間合いに入った瞬間に右手にブレードを呼び出し相手に向けて振るう。
全く同じ動作で振り抜かれたブレードは、やはり二人とも防御に回していた盾に防がれる。
盾とブレードによる押し合い、どちらも完璧と言える程のタイミング。
ギチギチとブレードと盾が金属がぶつかる音を響かせながら、僅かだが膠着状態を作り出す。
「(読み合いは互角。なら次は……)」
「(読み合いと技術は今のところ互角、恐らくデュノアさんの次の一手は……)」
この数秒で廻とシャルルが思考を回す。
これまでの戦いを分析し、流れを読んでから次の一手を決め、アクションに移す。
シャルルが、機体パワーで廻の盾を押し始める。
「やはり機体性能によるごり押し!」
「スマートでは、ないけどね!」
二人ともたどり着いた同じ結論に、声を上げる。
だが予想通りなら対応は可能、廻が盾を振り上げる事でシャルルのブレードを弾き上げ、シャルルもまた廻のブレードを弾く。
膠着が解けた事で廻は後ろに、シャルルはそれを追うように前へ、互いにステップを踏むように移動する。
「そこっ!」
位置関係から有利なのはシャルル、距離を詰めたまま今度は左手の盾をブレードに切り替える。
これによって盾を持っている廻の左手側ではなく、右手側から攻撃を仕掛ける。
……廻はこれを受けるのか、盾か、剣か、それとも回避の為に動くか。
想像できる選択肢とそれに対してどう動くかを考えながらデュノアが攻撃を振り切る直前。
「『盾』」
ハッキリと、大きく無いが通る声で廻が『盾』と宣言する。それと同時に量子反応が廻の右手に現れた。
瞬間、シャルルは後ろに跳んだ。それは廻が盾で防ぐなら弾かれてのカウンターを受けないようにと、事前に考えていた動き。
そうして体勢を建て直し、次のアクションを考えーーーまった。
シャルルの思考が停止する、おかしいと、自分の理性が警報を鳴らす。
「(何で声に出して武器を呼び出す必要がある、廻は高速切替ができる程に武器の呼び出しは完璧だ。そんな初心者用のアシストなんて今更使う必要は無い……まさか、そんな筈は、だけどそれならまずい!!)」
これまでの読みは全て廻の掌の上。
ここから右手の盾と同時に左手にブレードを呼び出しての攻撃。
それがシャルルが予想した廻の一手。
廻の左手による一撃を防ぐために、シャルルが右手のブレードを盾に切替始める。
だが、事実は
ブン
と刃物を振る音と共に、シャルルの左手側に衝撃が走る。そして同時に減るSE。
ダメージを負わされた、という事実はシャルルの頭にも入ってくる。
だが
「(は……? え? 今、なにがおこったの? 私は確かに盾を展開して……間に合わなかった? いやそうだけど違う、私がダメージを受けたのは左手側で……嘘!?)」
何が起きたのか理解が追い付かないシャルル、そのまま今正面に立っている廻を見て……驚愕のあまり目を見開いた。
今、シャルルにダメージを与えた
種が分かれば話しは速い、要はシャルルはあの右手に持つナイフで切られたのだ……なんて、簡単に納得するにはシャルルはISに詳しかった。
だからこそ廻が起こした異常、あるいは偉業の名前を叫ぶ。
ーーーーーーーーーーーー
「「
観戦用の一室で、鈴とセシリアはモニターを見ながら叫んだ。隣の一夏と箒は何が起きたのかいまいち理解しきれず、困惑している。
「なによそれ……!? 初心者詐欺も良い所じゃない!!」
「な、なぁ、二人は何が起きたのか分かったのか? 俺いまいち分かんないんだけど……」
「う、うむ。私もだ、教えてくれたら助かる」
「無理もないでしょう。あれを知識なしの状態で、見破れる人なんている訳がありませんから」
「そうね、いい?
「高速切替と同じように、機体性能ではなく操縦者自身による武器切替のテクニックだ」
そこに新しい声が後ろから聞こえて来た。
いつものメンバーの後ろに立っていたのは、全員がよく知っている人物。
元世界最強にして、今は一夏達の担任。
それ即ち
「千冬ね「織斑先生だ、馬鹿者」いったぁ!」
織斑千冬、その人である。
呼び方を間違えた弟には出席簿による一撃を頭に与え、一団に混ざりながら語り始める。
「虚構切替とは。言葉にすれば、口から名前を出した武器とは違う武器をイメージによる召喚で呼び出す。そういうテクニックだ」
「……うん? 言われてもいまいち分かんないな、ていうかそれって凄いのか?」
「凄いなんて物じゃないわよ、私達と同じ世代でできる奴はいないわ」
「それどころか、ISが生まれてからこれまででもそれを可能にした人は指で数える程です」
「オルコットの言葉をより詳しく言うと、実戦で使える程の者は数人というのが正しいな。やろうと思えばできる人間はそこそこいるだろう……私なんかもな。だが実戦で使うのは私は無理だ、あれには相性がある」
「千冬さんでも難しいのですか「織斑先生だ」ふぐぅ」
元世界最強と現役代表候補生二人が解説を行い、最後に呼び方を間違えた箒へと千冬の出席簿が炸裂した。
しかしそれでも一夏と箒はピンと来ないのか、頭に? マークが浮かんでいるのが容易に分かる、ポカンとした顔で立っていた。
「う、うーん……?」
「織斑、以前行った武器の呼び出しについての授業は覚えているか?」
「え? えーっと……」
「一夏と春樹がクレーターを作った授業ですね。覚えています」
「あぁ……あれか」
「そうだ、その中でオルコットが近接用の武器を呼び出した時を思い出せ」
「えーっと、確か最終的に「インターセプター」って名前を呼んで呼び出した奴だよな」
「は? あんた代表候補生なのにまだ初心者用のアシスト使ってるの? 嘘でしよ???」
「それは過去の話です!! 今はもう問題なくイメージだけで呼び出せます!! ていうか貴女は知ってるでしょう!?」
「虚構切替の解説途中だ、お前達の喧嘩は後にしろ「へぶっ!」「ぐぅ!」」
イマイチ理解が足りない二人の為に、過去の授業内容も使って教えようとする千冬。
例として以前クラス代表決定戦の後に行われた授業の内容を思い出させるが、その最中に喧嘩を始めた代表候補生二人に三度目の出席簿が炸裂した。
なお、二人に当てた筈なのに、一振にしか見えなかった早さに箒は戦慄している。
「その授業や今凰が言った通り、名前を呼ぶ事で武器を呼び出すのは一般的にはイメージだけの召喚が難しい、初心者が使う技術だ。そして虚構切替はそれを逆手にとった技とも言える。……言葉にすればどうしてもイメージは無意識下で言葉に寄る。それを完全に断ち切り、全く別の武器を呼び出すのは非常に難しい」
「う、うーん???」
「むぅ……?」
「多分あんた達は実際に体験した方が分かりやすいわ。てことで一夏、今からじゃんけんするわよ。せーの、最初はぐー、じゃんけん」
「え、ちょ、ちょっと待てって鈴! ああもう!」
「パー!」「ぐ、グー!」
鈴の提案により急にじゃんけんをする事になった一夏は、焦りながらもグーを出した。
対して鈴が出した手は……指が三本立った、どの手でも無かった。
思わず一夏が顔をしかめる。
「オリジナルは無しだろ、鈴」
「……違うわよ、このアホ」
「なぁっ」
「ふむ……恐らく、今のはチョキを出そうとした。で、間違いないか、凰」
「はい」
「む? しかし今鈴はパーと言って……あぁ、そういうことか」
「そうだ、今の凰のように口ではパーと良いながら実際はチョキを出す、それが虚構切替だ。もっとも、これは失敗だがな」
「失敗なのか?」
「……先程も言ったように、口に出すとどうしても無意識で言葉に寄る。そしてイメージが混ざり、口に出した方でも、本来呼びたかったものでもない手が出されることもある。ISならばこの場合は、どちらのイメージも不確か故に何も出てこない。そうなれば隙を晒しているだけだ」
「なるほど、ちょっと分かってきたかも」
ようやく理解が追い付いてきた一夏と箒。
しかしそれを実戦で行う凄さはまだ理解しきれていないだろう。むしろ今のだけで分かったらそれこそ天才か、天災だろう。
そう判断した千冬が補足の説明を始める。
「今のはじゃんけんという、三つだけの固定された手だったが、これがISになるとどうなると思う? 織斑」
「え? えーっと……どうなるんだ?」
「……無数の選択肢による、情報撹乱だ」
「へ?」
「考えてみろ。お前の敵となる機体には様々な武器が搭載されている。銃であればライフル、拳銃、ショットガン、マシンガン、近接なら剣、ナイフ、槍、斧のような特殊形状、或いは拳その物、盾でも体を覆う大盾か、一般的なものか、あるいは機動力を確保する小盾か……そんな無数の選択肢の中で、相手が銃と言いながらそれ以外の選択肢で迫ってきたら対応できるか?」
「……………………無理だ」
「そうだろう、虚構切替を実戦で使うとはそういう事だ」
千冬の問いに対して、時間を使って一夏が出した答えは不可能というシンプル故に絶対的なもの。
だがここで、箒が一つ疑問をぶつける。
「しかし、その騙し討ちはそこまで決まるものでしょうか? 正直、私は相手のISの武装なんて一々覚えられません」
「ああ、今のお前達にとってはそうだろうな」
「?」
箒の問いに対して、千冬は含みを持たせた回答を与える。今の自分達には効きにくい、それはつまり……これからの自分達には効く、という事だろうか?
よく分からない答えにまた二人の頭に?が浮かぶ。それに対してまた千冬が答える。
「ISの戦いとは結局は相手の攻撃、行動にどう対応するかだ。遠距離からの攻撃、近距離での戦い方、敵の追いかけ方、敵からの距離の取り方……どんな時に何をするのか。その様々な経験を何度も重ねる度に、その読みと対応は洗礼されていき、自らの戦闘スタイルを確立する。虚構切替はそんなIS操縦の上級者にこそ、よく刺さる」
「……もしかして、廻さんって滅茶苦茶凄い?」
「凄いなんて物じゃないわ。学び始めて2ヶ月で高速切替と虚構切替の両立とか、私を天才って褒めてた人達は今頃泡吹いて倒れてるんじゃない?」
「認めたくありませんが、認めるしか無いでしょう。彼女が言うとおり、繰空廻はISの天才です」
「あまり自分を卑下し過ぎるなよ、お前達。所詮この業界には天才と秀才しか残らないんだ、お前達も間違いなく天才側だ」
「確かにそうですわね。私もビットの才能に関しては絶対だと思っていますし」
「はー、天才しかいなくて嫌になっちゃうわね」
そんな天才達の会話になんとなく居心地が悪くなっていく一夏と箒。
結局二人は観戦用のモニターに視線を逃して、廻とシャルルの戦いを見ていた。
モニター側も廻の戦い方に気付いたのか、積極的に廻とシャルルの戦いを写している。
と、直後にアリーナで歓声が沸いた。
何かが起きた、それだけ理解した面々はモニターに集中する。
「(虚構切替は、デュノアのように多くの武器を持って様々な場面に対応する操縦者には特に強い……どう出るデュノア、そして繰空)」
千冬は自らの教え子二人の戦いを静かに、しかし写されたものは一瞬も見逃さないようにモニターを見ていた。
ーーーーーーーーーーーー
「ぐっ!」
アリーナでは廻vsシャルルが佳境を迎えていた。
虚構切替を廻が披露してから、シャルルは殆ど一方的に押されている。
既にSEは1/4まで減らされ、当初の「ラウラのペアをシャルルが速攻で倒し2対1でラウラを追い込む」という作戦は既に息をしていない。
そうしてまた、廻の攻撃が始まる。
「『銃』」
宣言と共に、両手に武器を呼び出す光を集め始めた廻。それに対してシャルルはそれが本当か、嘘か、その二択に迫られる。
その判断時間が隙となり、高速切替で呼び出された両手のライフルが撃ち込まれ、咄嗟に盾を構えるもそれより早く被弾した分のダメージを受ける。
「(これじゃじり貧だ! こうなったら……)」
シャルルがちらりと自らの盾を眺める。
表面は普通の盾だが、その裏側には別の武器が装備されている。
その特徴はなんと言っても連射が可能なこと。
これを当てられれば、きっと勝機はある。
元々は対ラウラに取っておきたかった秘策だ。だが今のシャルルはそれよりも、たとえ相討ちであろうと廻を倒さなければ春樹は
シャルルは勝負に出る為の覚悟を決める。
左手に
「(次の選択は悩まない、ただひたすらに廻に接近して、盾殺しを決める事だけを考える!)」
「……なにやら、覚悟を決めたようで」
シャルルは諦めず、まだなにかを狙っていると悟った廻だが、敢えてそれには触れない。
ただ相手の覚悟を見つめる。
そうして両手のライフルを消し、再び虚構切替を始める。
「『ライフル』」
先程のよりも鮮明な一言。
これが嘘か、真か。
だが今のシャルルには関係無い、ただ加速をして廻との距離を少なくし、盾殺しを当てることに全集中力を注ぐ。
弾が来るなら撃たれながら、剣で迎え撃たれるなら切られながら、どちらでも、何でも良い、とにかく距離を消す!!
そう燃えるシャルルに対して、廻の答えは……
「正解など関係無い特攻ですか、ある意味これ以上ないですが……速さはどうでしょう?」
「え?」
シャルルの目の前に、突如として廻が現れた。
どうにかして食らい付いてやる、そう覚悟した相手が急に目の前にいる。その状態にシャルルは混乱しそのまま、瞬時加速した廻と正面から文字通りぶつかり合った。
ガチィン!!
と、IS同士がぶつかる音と共に、シャルルと廻が激突して両者が体勢を崩した。
立て直しが早いのは、当然仕掛けた側の廻。
両手にブレードとナイフを持ってシャルルに接近戦を仕掛ける。
対するシャルルは、体勢を立て直した時には既に廻が近付いている事を悟り元々の盾とブレードで迎え撃った。
ガキィ!!
お互いに振るったブレードがぶつかり合って音を立てる。ブレードはそのままに、廻が右手に持ったナイフをシャルルに向けて突き出す。
シャルルは左手の盾で防ごうとして、瞬時に間に合わないと判断を修正。
突きに合わせて後ろには跳ぶ事での回避に切り替える。
そうして廻の攻撃を受けきった、とほっとしたシャルル。これを油断だと指摘するのは簡単だが、それは少々酷だろう。
その目の前で廻はナイフを操り、シャルルではなく彼女の盾、そしてその裏側にある盾殺しに突き刺した。
「なっ!?」
「これで貴女の切り札は封じました」
悲鳴のような驚愕と、残酷な宣言。
シャルルが確認すれば、廻のナイフが突き刺さっているのはパイルバンカーの本体、打ち出される巨大な釘の根元を2つに割っていた。
このような状態では、爆発に釘が耐えきれない。耐えきれても、その勢いは乗り切らずに威力は半減どころではない。
文字通り、盾殺しが殺された。
その事実がシャルルの諦めを誘う。
「……まだ、それでも!!」
「良いですよね、盾殺し。第三世代機と戦うのならこれくらいは準備しないと」
まだだ、と顔を上げたシャルルの前で廻が見覚えのある盾に触れている。
それは先程までシャルルが構えていたのと同じもので、だからその裏には……
「
「行きます」
廻が再び瞬時加速で距離を0に変える、シャルルは少しでも衝撃を和らげようと両手を前でクロスさせた。
「残念、
「えっ」
シャルルの目の前に立つ廻の腕に盾殺しはおろか、先程の盾すら握られていない。
変わりにあるのは、二丁のマシンガン。
「私としては使いたかったのですが、あんな危険な物は訓練機の生徒は使ってはいけないそうで」
「あぁ……そっかぁ。それはそうだね」
少し不満げな廻と、穏やかな声のシャルル。
次の瞬間には廻が両手のマシンガンを解き放ち、シャルル・デュノアの専用機ラファール・リヴァイヴ・カスタムのSE残量は0になった。
簡単キャラ解説
シャルル・デュノア
秀才。デュノア社のテストパイロットとしてIS操縦をする内に様々な技術を身に付け、対応力が高いが今回はそれが仇となった。
セシリア・オルコット
天才。ビット適正Aは伊達ではない。
でも素のIS操縦技術については努力の塊、その両立は才能と努力のハイブリッド。
凰鈴音
天才。訓練を始めて一年で代表候補生に登り詰め、更には専用機の特殊武器も使いこなしている。
しかもその理由は「勘」、控えめに言ってヤバい。
繰空廻
複数回転生している経験値の暴力。
普段は記憶の奥底に眠っており、それを思い出す事で自分自身を手本に強くなっていく。
ーーーーーーーー
オリジナル技
虚構切替
初心者が声に出して武器を呼び出すならそれを逆手にとってこういう事もできるのでは? という発想から生まれた。
ただし、実際に使うシーンや説明が滅茶苦茶難しい。