『近藤信竹の憑依物語』   作:零戦

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第九話

 

 

 

 

 

 

「三国同盟? 結んで得する事があるのか? 技術協定の同盟なら喜んでドイツの技術を盗みまくるが?」

 

 1940年(昭和15年)6月下旬、次長室に押し寄せた佐官達に軍令部次長になっていた(1939年10月に就任)近藤はお茶を飲みながらそう言う。

 

「し、しかし……」

「ドイツが勝ちまくっているのは事実だろうね。だがそのうち息切れを起こす。恐らくは英国本土を攻撃するだろうが英国の後ろにいるのは米国だ。米国の支援がある限りは英国本土は陥落する事は無いだろう。そのうちにヒトラーは英国攻略を諦めて東ーーソ連と激突するだろうね」

「ですがドイツとソ連は独ソ不可侵条約を結んでいますぞ!!」

「直ぐに破るよ。君らソ連信用する?」

「い、いや……」

「だろ? 多分三年以内には両国は戦争するぞ。ドイツはシベリア方面のソ連軍の兵力を東部側に持っていって貰う方がいい」

「しかし奥方はドイツの人ではありませんか!? 奥方の故郷とも言えるドイツを放っては……」

「え、家内は日本が故郷と言ってるぞ? まぁ親の墓は向こうだから何とも言えんが少なくとも毎日日本酒二合の晩酌を共にしてるから日本人以上の日本人だぞ」

『…………………』

 

 次長の説得はこれ以上無理かもしれないと判断した佐官達はトボトボと部屋を出ていくのである。それと入れ替わりに入ってきたのは軍令部第一部長の宇垣纏少将であった。

 

「相変わらず威勢は良いですな」

「威勢だけでは戦争には勝てんよ。まぁ茶でも飲め」

「頂きます」

 

 近藤は新しいお茶を入れて宇垣に渡す。両者とも喉を潤してから口を開いた。

 

「三国同盟は気に入りませんか?」

「場所が場所だからな。これが豪州とかならまだ分かる」

「確かに。まぁ豪州は土地柄的に乗って来ないでしょうな」

「だな」

 

 そう言って近藤はお茶を啜る。そして宇垣はズイッと身体を近藤に寄せる。

 

「同盟となった際……アメリカに勝てますかな?」

「勝てるわけないだろ」

 

 宇垣の言葉に近藤はそう答えた。言葉を濁さずにストレートに告げる近藤に宇垣は思わず苦笑してしまう。

 

「そこは山本長官のように一年は暴れてみせると告げませんと……」

「言葉を濁すよりハッキリと言った方が相手も現実は見えるというもんだ」

「まぁそうなりますな」

「取り敢えずは宮様には反対の立場で居られないとな……あの人もドイツに留学していたりしているから親独派と見られているし」

「ですな。そもそもドイツの旨味があるとしたら技術力しかありませんし海軍力も当てになりませんな」

「怖いのはUボートくらいだ」

「対潜兵器も開発を急がせてはいますが……」

「早くしなければ『常陸丸』の悲劇が其処ら中で起きるぞ」

「それは厄介ですなぁ」

 

 海軍は対潜兵器も漸く重い腰を挙げて開発に取り組んでおりその過程でドイツからその技術を学んでいた。(1939年に史実三式水中探信儀が完成、九九式水中探信儀として採用される)近藤が主張するのはそこから来ていたのだ。また、ロッシェル塩型聴音機をドイツから輸入してそれを元に新型水中聴音機の開発も急がれていたのである。

 

「それで、他にも何かあったのかね?」

「あぁ忘れてました。戦時量産駆逐艦の一番艦が起工しました。他にも戦時標準船の各種船、輸送艦も起工しました」

「おぅそうだったのか」

 

 戦時量産駆逐艦は史実でも大戦後半に活躍した『松』型駆逐艦であり一番艦(後の『松』)が起工したのだ。他にも戦時標準船は史実でも建造配備されていた第一次戦時標準船であり特に力を入れていたのが戦時標準油槽船のTL型であり今年度は4隻の建造であったが、来年度(1941年)は16隻の建造予定だった。

 輸送艦は史実の『第一号』型輸送艦と『第百一号』型輸送艦であり特に『第百一号』型輸送艦は陸軍も戦車輸送で興味を示す程であった。

 

(取り敢えず開戦時までにある程度が揃っていてくれたら……)

 

 そう思う近藤であった。なお、開戦時までに『松』型駆逐艦4隻、戦時標準船(TL型)13隻、『第一号』型輸送艦2隻、『第百一号』型輸送艦2隻が就役するのである。そして9月15日に海軍首脳会議が開かれ近藤も出席した。

 

「~~であるからしてドイツ、イタリアとの同盟締結は避けきれないと思われます」

 

 軍務局長の阿部少将が経過を報告し終わり席に座る。座るのを見た伏見宮総長は溜め息を吐いた。

 

「此処まで来たら……仕方ないのかもしれないね……」

 

 宮様も思うところはあったが、これ以上反対していたら陸軍は元より国民からも「海軍は意気地無し」として石を投げられると判断していた。その発言を受けて軍参議官の大角大将も賛成を表明した。そして近藤も口を開いた。

 

「ドイツ、イタリアとの同盟は肯定ではありません。ですが技術は旨味はあります。技術協定同盟くらいで手を打ちましょう」

 

 そう主張するも大半の列席者は賛成派に回っていたので近藤に同調する者はいなかった。最後に聯合艦隊司令長官になっていた山本中将が発言した。

 

「条約が成立すれば米国と衝突するかもしれない。現状では航空戦力が不足しておりせめて陸上攻撃機は2倍にしなければならない」

「長官、陸上攻撃機は増やせるでしょうがパイロットはそう簡単には増やせません。むしろパイロットの大量育成が必要でしょう」

 

 山本の発言に近藤はそう主張する。近藤の主張に山本と宮様は同調したのでパイロットの育成が重点となったのである。

 翌年、1941年4月10日に海軍は空母を中心とした艦隊ーー第一航空艦隊を創設した。初代司令長官には南雲中将が就任し参謀長には草鹿少将、航空参謀には源田中佐が就任した。

 

(ここいらは史実通りか。てか源田は俺が左遷させた筈なのに舞い戻ったのか)

 

 歴史の因果に近藤は思わず苦笑するのである。そして新しく軍令部総長に就任した永野大将に近藤は具申した。

 

「第一航空艦隊司令長官の南雲中将は元は水雷屋の人物です。塚原中将が地上勤務しか運用出来ないのは仕方ありませんが、南雲中将は適当な時期に小沢中将等航空戦に精通している将官に交代するべきだと思われます」

「ウム、それは確かにな。しかし今すぐというわけにはいかない」

「それは承知しております。適当な時期です、適当な時期です……」

 

 近藤は直ぐに変えろとは言わないが永野にそう具申したのであった。ちなみに、永野と近藤は性格が不一致だったらしく近藤は1941年(昭和16年)9月1日に第二艦隊司令長官として転出するのである。

 数日後に旗艦となった『高雄』に中将旗が掲げられたのである。

 

(いよいよ開戦が近づいてきたか……)

 

 段々と対米対英関係が悪くなりつつあるのを近藤も感じていた。無論、それは嫁であるハンナやグレイスらもそうだった。

 

「ノッブ、イギリスは徹底的に叩くのが常套手段だ。インドも叩いたら多分終わるぞ」

「……イギリス出身の君が言う言葉では無いと思うぞ?」

「確かに生まれと育ちはイギリスかもしれんが今は日本だからな!!」

 

 ムフーと自信満々な表情をしつつラム酒を飲むグレイスでありその様子に近藤は苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ久しぶりだね近藤君、久しぶりの海上勤務だが宜しく頼むよ」

「お久しぶりです山本長官」

 

 10月9日、近藤は第二艦隊司令長官就任後、『長門』の聯合艦隊司令部を訪れ山本や宇垣らと再会した。

 

「日に日に日本を取り巻く事態は深刻化している。その中で近藤君の二艦隊は重要な位置付けだ。しっかりと頼むよ」

「お任せください長官」

「長官、そろそろお時間かと……」

「ん、もうか」

「何かあるので?」

「ハワイ作戦の図上演習を行うのだ。そうだ、近藤君も見学していきたまえ」

「宜しいので?」

「構わない。南方作戦にも関連するかもしれないからな」

 

 そう言われ近藤も見学という形で図上演習を見学したのである。なお、図上演習の結果では敵戦艦4隻沈没1隻大破、空母2隻の撃沈1隻大破と引換えに、味方空母4隻中3隻沈没、1隻大破で機動部隊全滅という結果に終わるのである。

 

「やはり空母6隻の集中運用しか無いだろう」

 

 山本はそう決断をするが出席していた軍令部の三代中佐は反対をする。

 

「ですが南方作戦が主になります。空母は4隻でしか……」

「しかしだな……」

 

 三代と宇垣が口論になりそうな時、席を立ったのは近藤であった。

 

「山本長官、質問があるのですが宜しいか?」

「構わない」

「改造空母の『隼鷹』型はいつ頃戦力になりますかな?」

「『隼鷹』型だと?」

「『隼鷹』型なら遅くとも11月中旬には南方作戦に投入出来ますが……」

「それは好都合ですな」

「好都合とは?」

「長官、一航艦の空母は6隻の集中運用でするべきです。南方作戦には『隼鷹』型2隻で構いません」

『ッ』

 

 近藤の言葉に作戦室はざわめき出す。南方作戦の総司令とも言うべき近藤がそう決断したのだ。

 

「し、しかし近藤中将!?」

「代わりに三航戦の『瑞鳳』は貰いたい。『祥鳳』も欲しいが四艦隊がウェーク島攻略で欲しいらしいのでそちらに譲ります」

「……良いのかね?」

「はい。空母は小沢中将の南遣艦隊で運用させます。それと二戦隊を二個小隊に分けて四艦隊とうちに臨時配備頂きたい」

「二戦隊をかね?」

 

 この頃、二戦隊は元より海軍が保有する戦艦は高速化が図れていた。『金剛』型の30ノットは元より『長門』型で29ノット、『扶桑』型は予算不足もあり27ノット、『伊勢』型で28ノットの速度を出せたのである。

 

「二艦隊は分かるが四艦隊にもかね?」

「はい。痛いしっぺ返しを喰らう可能性もありますので」

「成る程」

「ですが長官、戦艦部隊はソ連の万が一の参戦も考慮して待機すべきでは……」

「その場合は『一号艦』の就役を早めるべきだろう。何のための戦艦だ」

「ムムムッ」

「何がムムムだ」

 

 宇垣の言葉に思わずそうツッコミを入れる近藤である。対して山本は頷いた。

 

「良かろう、そのように取り図ろう。三代中佐、南方作戦の総指揮官とも言える近藤中将はこのように申している。永野総長にそのように伝えてもらえないだろうか?」

「は、はい……」

 

 三代中佐はそう言わざるを得なかった。会議後、近藤は山本と面会をした。

 

「自分を出汁にして空母6隻の使用を取り付けてもらう手筈ですか」

「いや、君がいたのはたまたまだった。それに空母は6隻でやりたかったからね」

「ですが長官、ハワイ作戦については一つ念押しがあります」

「……念押しとは?」

「空母がいてもいなくても燃料タンクは破壊すべきです」

「……燃料タンクか」

「仮に空母が居らずに燃料タンクを破壊すれば少なくとも半年間はアメリカも行動不能でしょう。ハワイを根拠地に使うのであればタンカーを大量に運用してアメリカ本土から重油を運ばなければなりません。その間の空母は浮かぶ鉄のフネになります」

「……分かった。草鹿達にはそう厳命しておこう」

 

 斯くして日本は、日本陸海軍は戦争への準備を整えていったのである。そして12月8日、遂に尖端が開いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『臨時ニュースを申し上げます、臨時ニュースを申し上げます!! 大本営陸海軍部、12月8日午前6時発表。帝国陸海軍は今8日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり。帝国陸海軍は今8日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり!!』

 

 

 

 

 

 

 

 日本は史実と同じく戦争へと向かったのである。

 

 

 

 

 

 

 




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