『近藤信竹の憑依物語』   作:零戦

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第一話

 

 

 

 その男ーー近藤信竹は過去の日本だと気付いたのは第一次世界大戦の真っ最中の時だった。

 

(過去の日本かぁ……しかも憑依したのは近藤信竹か……)

 

 男ーー近藤弘将は令和の日本で過ごしていたミリタリーヲタだった。そんな男が過去に遡ったのは交通事故に巻き込まれたからだ。近藤も吹っ飛んだ記憶はあった。そして気付けば過去に遡ったのだ。その時は1915年、和名に直せば大正5年の11月である。

 

(近藤信竹といや開戦時には第二艦隊司令長官をしていた人だったな。批判はあるけど、それなりに働いていた人だな……)

 

 ある人は酷評しある人は極めて有能だったと語られる近藤信竹、近藤弘将はそんな近藤信竹に憑依したのだ。

 

(しかし……此処から変えるとするなら……まだある程度の悲劇は回避出来る筈だ)

 

 近藤は敗戦はやむを得ないと踏んでおり、それでも引き分けに持ち込めれば何とか……という思案だった。

 

(開戦時までには電探とか揃えておきたいなぁ……)

 

 そう思う近藤であった。そんな時に近藤は上官に呼ばれた。

 

「え? 海大に入校ですか?」

「あぁ。欠員が出たらしくてな、繰り上げで君が選ばれたわけだ」

 

 史実では近藤は海大を甲種17期で入校しているが、1期早まるというわけだった。

 

「分かりました。喜んで参ります」

 

 斯くして近藤は史実より1期早くに海大へ入校するのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

(まぁ1期早くに入校したからと言ってやる事は変わらんわな……)

 

 入校した近藤だが、やる事はそんな変わりはなく大正7年11月に大学校を卒業した近藤。しかし、近藤は直ぐにある辞令を受け取る事になる。

 

「ドイツ……駐在武官補佐官ですか……?」

「あぁ。君が卒業前に書いた論文を上の者が興味を示してな。要は有言実行をしてこいとの事だ」

 

 近藤は卒業後に戦艦『霧島』の砲術班長として着任したが、直ぐに艦長の三村大佐に呼ばれて辞令を受けたのだ。

 

「……確かに論文にはそう書きましたが……」

 

 配属して直ぐの異動辞令に近藤も困惑を隠せなかった。入校中、近藤は論文に『工業力向上にドイツ技術者の誘致』と『高速戦艦と大型航空母艦の整備』『輸送船団護衛艦隊』を提出していた。

 

 

 

『工業力向上にドイツ技術者の誘致』

 

・ドイツの技術は底知れないモノであり、その技術力を習得すれば日本の礎になるのは間違いない

 

 

 

『高速戦艦と大型航空母艦、補助艦艇の整備』

 

・ユトランド沖海戦にて巡洋戦艦の装甲の弱さが出た。重装甲の戦艦の高速化を計り、敵艦隊より速度が早ければ日本海海戦のようなバルチック艦隊の頭を押さえる事も可能となる。

・今大戦で陸の戦車と同じく航空機も著しい発展を遂げており、何れは海上での航空機運用も可能とされると見込む。そのために大型艦艇での航空機母艦の整備が必要有りと思われる。いきなりの大型艦艇は難しいかと思われるので1万トン級から整備していくのが良策と思われる。

・また、石炭から重油への切り替えが行われているので艦隊随伴型タンカーの整備も必要有りと思われる。

 

 

 

『輸送船団護衛艦隊』

 

・今大戦でドイツ海軍はUボートなる潜水艦艇を活用し大西洋、地中海等で暴れて各地の輸送船団航路を脅かしていた。第二特務艦隊が地中海まで進出し駆逐艦『松』や『榊』の活躍は耳に入っているだろう。我が海軍も平時は1個艦隊程度、戦時は数個艦隊の護衛艦隊を編成し輸送船団の護衛を行う必要有り。輸送船団は兵員の輸送や物資の輸送を行うものでありこれを護衛しなければ内地等に到着する事が出来ず、日露戦争における輸送船『常陸丸』『和泉丸』等の悲劇が起こりうる事は必然的となり護衛艦隊の創設は急務と思われる。

 

 

 

 

 

 等々提出し、教官達は「近藤はアホか馬鹿か、それとも奇才か」と首を傾げたが大学校長だった佐藤鉄太郎少将はこれを海軍大臣の加藤友三郎に報告した。

 

「海軍の未来は安泰ですよ大臣」

「成る程。合理には叶っているね、ならばこの者には有言実行してもらうか」

 

 仲が悪かった二人だが、これに関しては仲が良かった。今大戦で日本は火事場泥棒に近い形での評価もあったりした。しかし、それを糧に日本ーー引いては海軍が飛躍するのであれば二人は勿論、近藤の為に泥を被る覚悟だった。

 

「内輪揉めしか出来ぬようであれば海軍は発展しない」

 

 加藤は海軍内でも怪しい動き(八八艦隊派)は承知しておりそれを消すために近藤の存在も利用しようと思案するのである。そんな上の考えはさておきで近藤は自身が論文に出した『工業力向上にドイツ技術者の誘致』の為に大正8年のドイツに駐在武官補佐官として赴くのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「プハーッ。やはり本場のビールは美味いッ」

 

 大正8年5月、3月にドイツ駐在武官補佐官として着任した近藤は精力的に駐在武官補佐官としての仕事をしつつ、本来の目的である技術者の誘致をしていた。成果に関しては芳しくなくまだ2組の技術者しか成果はなかった。やはり極東まで赴くというのがネックになっていたがそれでも近藤は諦める事はなかった。

 次の日もベルリンから少し離れた郊外にある町工場のところに向かう予定だった。

 

「ま……せめて10組は成功したいわな……」

 

 ビールを飲みつつソーセージを食べる近藤であった。翌日、汽車で30分の郊外にある町工場を訪ねた。

 

「すみません、誰かいませんか?」

「……どちら様ですか?」

 

 近藤の辿々しいドイツ語に工場の奥から一人の少女が現れた。髪型は淡い金髪のツインテールであるが、結んでいないフロントまたはトップからの一すじが胸にかかるほどの長さで垂れているため、独特な印象を受ける。

 また、白人にしては肌の色は真っ白と言って語弊が無いくらいに白かった。

 

「急な来訪で申し訳ありません。私は日本の駐在武官補佐官である近藤と申します。この町工場を所有するペーター・アルデンホフさんはいますか?」

 

 近藤の言葉に少女は一瞬、顔を伏せたが直ぐに近藤に視線を向ける。

 

「……父に何か……?」

「実は日本の工業に技術指導をお願い出来ないかと参りました」

「……そうですか、しかしながら父はもうこの世にいません」

「え……?」

 

 少女の言葉に近藤は目を見開く。

 

「つい一週間前です。病気で父はこの世を去りました」

「ッ、それは……御悔やみを申し上げます」

「いえ、葬儀も終わったところで従業員達もこれからどうするか悩んでいたところでしたので」

「そうでしたか……」

 

 少女の言葉に近藤はどうするか悩む。目的の男が亡くなっていたのは想定していなかった。

 

(仕方ない、出直すとするか……)

 

 そう思い、頭を下げて出直す事を告げようとした近藤を遮ったのは少女だった。

 

「あの……」

「はい?」

「父に何か御用だったので?」

「えぇ。先程も言いましたが日本の工業に技術指導をお願い出来ないかという事でして……」

「……良ければ従業員にも話を聞いてみてはどうですか? 戦争から帰ってきた人の中にも中国にいて日本軍の捕虜になっていたという人もいますので」

「そうなのですか? それは有難いです」

「それと……工場の工作機械も売りましょうか?」

「え、機械を?」

「はい……父もおらず、親戚もいないので工場を支える人がいないのです。それならせめて従業員の退職金を作るために……」

 

 少女はそう言って目を伏せる。少女自身もこの工場を売りたくはなかったが背に腹は代えられぬのである。

 

「……分かりました。なら工作機械を購入させて頂きます」

「ご配慮、感謝します」

 

 近藤の言葉に少女は頭を下げるのである。

 

「ちなみにフロイライン、貴女のお名前は?」

「む、これは失礼。言ってなかったな……ハンナだ、ハンナ・アルデンホフです」

 

 

 

 

 

 

 これが後に近藤家の三女神とまで呼ばれる事になるハンナ・アルデンホフとの出会いだったのである。

 

 

 

 

 

 




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