脱ニート中の元職業軍人の俺が炎の銀兵士に詰め寄られている件   作:ライハイト

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このタイトル好き。意味も含めて。


17話 石火春雷

 

 

 

「――報告、D班壊滅! 増援を! 早く!?」

 

 交錯する刃と銃撃。

 一人、また一人と地に伏せる反乱軍構成員の横を銀色の兵士が駆ける。

 閃光のような個の打ち合いと、嵐のように押し寄せる面の撃ち合い。

 炎を纏う大鉈が甲高く敵のアーミーナイフと衝突し、そして数合も打ち合えることなくその体ごと弾き飛ばされ、また地に伏していく。

 

 火炎と火花が敵を貪り合う戦場は、個と群による一進一退の戦況を展開していた。

 

「弾幕薄いぞ! 何やってる!」

 

「この乱戦じゃとても! しかも撃ったところで全て弾いてくる!」

 

「『モグラさん』からの情報通りあの兵士ただ者じゃありません!」

 

「流石はかつての()()()()と言ったところか……!」

 

 銃声が耳を劈き、可視化された火線が縦横無尽に交錯する空間。

 本来では確実に制圧しうるであろう戦況においてこのような伯仲する状況を構築しているのは、ひとえに互いの得物の扱いの差にあった。

 

 11号は銃火器の類を装備していない。

 エーテル技術が進んだ昨今の情勢においてはある種の古めかしさすら言える特注の大鉈のみ。

 使えないこともないが、この兵力と物量の前では付け焼刃にしかならないだろう。

 

 だが、その敵の優位にこそ数少ない11号の勝機があった。

 

『っ……何を怯んでいる! 相手はたったの一人なんだぞ!! やつに直接攻撃を仕掛けた連中を下がらせろ!!』

 

「駄目です、こいつ友軍を盾に被弾のリスクを軽減している! いったん態勢を立て直して――うわっ!?」

 

「次」

 

 だからこそ近接戦闘に徹する。

 相手が距離を取ったのなら詰め寄り、詰めれば最後まで逃がさない。

 

 11号の戦闘スタイルをあらかじめ聞き及んでいたであろう部隊は、どの編成にも銃火器を携行している。

 だが味方への被弾を考えるならフルオートでの制圧射撃など考えられない。

 加えて彼女の機動力の前ではこの敵味方が入り乱れる戦場では狙い撃つのも現実的ではない。

 

 11号はそれを理解したうえで、この数的有利を取る相手であってもどうにか互角の情勢に持ち込んでいた。

 

「っ、『サラブレッド・サマンサ』、あなたは早く家族のところへ――」

 

「ン・ナ!(い・や!)」

 

「……辛抱強いところはっ、あなたの主人に似たのね!」

 

 乱れる息を押し殺すようにそんな言葉を11号は吐き捨てる。

 

 それは数で押される戦況の不利を察してのものか。

 あるいはサラという家族を失う男の喪失を慮ってのものなのか。

 

 それを判別するには、彼女はまだ多くを知らない。

 どうして彼にあんなことを口にしたのか。

 どうしてあのような言葉をかけたのか。

 それを理解するのに、彼女の『心』はまだ未熟過ぎた。

 

「落ち着け、つまり殺すつもりでちょうど良いということか――B班、C班は『テューポーン』の接近と同時に射撃。後隙を突いて弾幕と物量で確実に削れ」

 

 だが敵は依然として存在しているうえにこの乱戦。

 武装補助ユニットとしての機能を多く含むサラの存在はこの戦線を維持するための貴重な『視界』として機能している。

 

 そして敵は決して兵士だけではない。

 

「ンナンナ! ンナンナ!(敵機接近! 敵機接近!)」

 

「――――ッ!」

 

 襟元から発せられるそんな声に合わせた防御姿勢。

 

 立ち込める硝煙の中より現れるのは紅き鉄塊。

 そして指示通りに接近と共に近・中距離(クロスレンジ)より飛来する弾丸。

 

 銃弾を弾くなど11号にとっては児戯に等しい。百発だろうが千発飛んでこようともそのすべてを容易に捌ききる腕前を彼女は持っている。

 

 だがそれが最新の大型戦術ユニットと共に飛び込んでくるとなれば、その限りではない。

 

「くっ――!」

 

 弾かれる火花の中で飛んでくる人型戦車の如き鉄拳を正面から受け止める。

 

 叩きつけられるように放たれる拳はまさしく戦槌。

 のろまとは決して称すことのできない確かな速度を以て放たれたそれに、受け止めた11号の腕がその骨ごと軋んだ。

 

 それを立て続けに二撃、三撃。

 受けた衝撃より遅れて波打つ不快な筋肉の振動。

 骨と肉の境界が曖昧に、腕を伝う金属の鳴動が神経をぐちゃぐちゃにこねくり回す。

 剣を握る力をみるみるうちに奪っていくそれを、滲む汗とともに表情を僅かに歪めながらも決して放さぬと握りしめる。

 

 攻勢はこの状況において最適の防御に転ずる。

 

 それはひとえに、手を緩めればすり潰されるのはこちらだと理解しているが故に。

 

「ハァッ!」

 

 紅い鉄塊の胴体に刻みつけられる灼熱の一閃。

 下段から袈裟に斬り上げ、返す刀で上段より斬り下ろし交錯する陽炎。

 11号の背負ったバックパックより供給され剣に集約される『熱源』は彼女の汗すら蒸発させ、炎を纏う剣閃と共に放出された熱は伊達でなく堅牢な『テューポーン』の装甲を熔断させる。

 

 だが――それでも外装しか剥がせない。

 

「あの女、重量級の戦術ユニット相手にたった一人で渡り合ってやがる……!」

 

「各員絶対に近づくな! そもそものスペックが違う! アレの間合いに入ればすぐに切り崩されるぞ!」

 

 外装を剥がし内面を剥き出しにするか、あるいは駆動系の機械工学的に脆弱にならざるを得ない部位に狙いを絞り斬り崩すことは可能だ。

 

 だがあまりにも時間が足りない。

 

 戦闘が長引くほど11号は疲弊し、やがて数の暴力と戦術の最適化により消耗を強いられていく。

 現に圧倒的な近接戦闘能力を見せつけた11号に近づこうとする兵士などおらず、距離をとって確実に彼女を仕留めようとする動きに変わってきている。

 

 部隊から飛来する凶弾に削り切られ落ちるか、巨人の拳を前に倒れるかは時間の問題だった。

 

 

「ぐぅ――!?」

 

 

 瞬間、全身を揺さぶるような鈍い痛みと衝撃が11号を襲った。

 出血はない。腕が落ちたわけでも、骨が折れたわけでもない。

 彼女の視界に映るのは軍用の大盾(タワーシールド)

 長方形に切り取られたエーテル合金で鍛えられたソレは鈍重な反発が体中を貫くように、彼女の華奢な体を大きく吹き飛ばした。

 

「かはっ――!?」

 

 続けさまの追撃に迫るは『テューポーン』の拳。

 振り下ろすのではなく、突き出されたソレの内包する質量は速度も相まって尋常じゃない。

 逃げ場を失った衝撃が全身の空気すらも押し出されたかのように宙に放り出される。

 かろうじて武器は捨てないでいたが、本当にただ握っているだけ。

 

 遮蔽物の無い実験場の壁に体が叩きつけられて、いよいよ11号は身動きが取れなくなった。

 

「ふ、ぅ……!」

 

『苦しそうだなぁ、軍の鼠め。どうする、個人の力ではここが限界だ。今ならなるべく楽な方法で投降させてやるが?』

 

「……いい加減黙りなさい。軍人ならわかるでしょう……任務を前にした軍人に、そのような戯言は通じない」

 

『フン、愚かな――撃て、急所は避けろ』

 

 冷徹な処刑命令が通信より下される。

 

 赤い照射光は11号の腕や足を捉え、部隊の前面には『テューポーン』が盾となるように配置され、最後の一撃を繰り出すべく拳を文字通り唸らせている。

 

 ……せめて、ボンプだけでもと。

 可能な限り遠くの安全圏へ投げ飛ばそうと襟元に手を伸ばして――。

 

 

 ――――待ってろ、絶対一緒に戦ってやる。

 

 

「――――」

 

 反芻する言葉に、熱が宿る。

 灼熱を支配し、焔を従える兵士の心の内側に灯る、戦場の熱にはあまりに相応しくない温もり。

 

 誰も迎えに来なかった。

 誰も残ることはなかった。

 誰も己を待つ者はいなかった。

 

 だから欲したのだ。

 

 かつての孤独を否定する裏切り者の血を。

 

 己の存在を証明する強さを。

 

 

 何より自分の傍に立つと言ってくれる同志を――戦友の存在を。

 

 

 ――――すぐに迎えに行く。

 

 

「――――まだッ!」

 

 

 烈火の如き咆哮。

 

 

 そして、ここにはそれに応える者が一機(ひとり)いた。

 

 

「ンナンナ! ンナンナ!(火力支援! 火力支援!)」

 

 

 なけなしの防御として剣を盾のように構えた直後――尋常じゃない熱源が11号の剣より迸った。

 

 

「――――!」

 

 立ち上がる焔の柱が灼熱を巻き上げる。

 武骨で鋭利な剣の柄に抱き着くように張り付く、その出力とはあまりにも不釣り合いにデフォルメされた小さな赤いボンプの姿。夥しい焔の奔流が金属製の地面へ水面に広がる波紋のように周囲へ行き渡り、その熱を循環させていく。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、その炎熱をものともしない『テューポーン』がベールと化した火焔を突っ切ってその鋼鉄の拳を赤熱化させながら振り上げてくる。

 思考の巡りは一瞬。

 11号は寸分の迷いもなく、その剣が纏う焔を振るった。

 

『なっ!?』

 

「か、回避ぃぃ――――!!?」

 

 袈裟に一閃。

 

 刃の間合いから外の外、その軌道をなぞるように金属製の床に奔った断面が熱で熔け煮えたぎるように歪む。

 

 紅く眩く閃光が周囲を一瞬だけ照らし――鉄塊を思わせる鋼鉄の巨人の体は容易に吹き飛び、膨大な熱量を伴って多数の兵士を巻き込みながら実験場の壁へ爆音と共に叩きつけられた。

 

「ンナンナ!?(だいじょうぶ!?)」

 

「なんて火力……! 見事よ、『サラブレッド・サマンサ』」

 

「ンナ!(ならよかった!)」

 

 得意気に小さな画面の液晶で笑顔を象る赤いボンプが剣の柄で手を振り上げる。

 

 だが11号が驚嘆したのはその小さなボンプから放たれる莫大なエネルギーの出所だけではない。

 

「――これほどの熱量を、彼は二本の刃で並列に扱っていたというの」

 

 このボンプの持ち主たる男の背中を11号は思い出す。

 

 無職を嘆き、あくまで元軍人という定義のもと力を振るう一般人の姿を。

 

 彼は嘆いていた。

 力を持ちながら、何も出来ていないと。

 軍人としての在り方を失った自分に対して、どうしてここに居るのだろうと。

 

 それを聞いた時の11号は――どうしようもない悔しさとやるせなさがない交ぜになった。

 

 その後悔の中に、どれほどの努力と研鑽があったのだろうか。

 

 その戦場に、どれだけの執着があったのだろうか。

 

 そしてその全てを捨てざるを得なかった彼の境遇はいかなるものなのか。

 

 

 ――――私だったら、絶対にそのような思いをさせないのに。

 

 

「――報告! エーテル活性率が上昇中!」

 

『なにぃ!? こんなときに……エーテリアスはあらかた掃討した筈だろう!?』

 

「いえ『モグラさん』、この感覚は恐らく――」

 

 形勢を白紙に戻された混乱の最中にある戦場で、11号は確かにその声を聞き届ける。

 

 ホロウの裂け目。

 あらゆる座標が入り乱れ、空間そのものが不規則な迷路の入り口や出口になりうるホロウの特性を象徴する事象の一つ。

 

 そして11号は一つ、思い至る。

 

 

 『モグラさん』より言い渡された任務の際この広大なホロウを――果たして自分たちは()()()()()()()移動してきたかを。

 

 

「――ホロウの、裂け目!?」

 

「やはりエーテリアスか!?」

 

 

 エーテルが無数の小さな力場を作り上げ、まさしく『裂け目』と呼ぶに相応しい『入口』に向けて、反乱軍の視線が部隊の真上に向けられる。

 

 それは賭けであり確信。

 

 だが退却という選択肢はもはやあり得ない。

 

 雷を蓄える暗雲が如く。

 裂け目の奥で灯る燐光が空間に亀裂を刻むように迸り――未だ混乱から立ち直れぬ『テューポーン』と敵部隊に落雷が直撃した。

 

「ら、雷撃!?」

 

「いや違う、これは――熱源!?」

 

 気づいた頃にはもう遅い。

 

 駆け出す11号に誰も気づかない。

 

 蒼い雷光を突き破る何か。

 逆反りの曲線を持ち、肉を切り骨を断つ独特の形状をした白い刀身。

 

 それはとある兵士の愛用する得物の片割れ。

 回転するソレは蒼光を放つ弧を描きながら反乱軍の隊列を刻み――11号の手に収まった。

 

 

「――執行」

 

 

「さあ――」

 

 

 紅蓮が大気を焦がす。

 右の大鉈を一度鞘であるバックパックに納め、左のククリ刀にボンプが張り付く。

 

 轟、と唸りを上げる豪炎。

 ()()の狙いは一つ、紅鉄の巨人。

 

 言葉はいらない。

 11号の手に収まったククリ刀は本来の仕様でもって本来の出力をボンプと共に発揮し、彼女の携行するバックパックが悲鳴のような軋みを上げながら大鉈に最大出力で抜刀する。

 

 二振りの焔を従え『テューポーン』に向かい――11号は硝煙に紛れる雷電に向けて突貫した。

 

 

「――――【火雷(ほのいかずち)】」

 

 

「――――燃やしましょう」

 

 

 交差する二つの蒼赫(そうかく)

 

 

 落雷の化身と化した地を這う影は巨人の右腕を。

 

 

 焔の陽炎を従える光は巨人の左腕を斬り飛ばした。

 

 

「――即席にしちゃ悪くなかったか?」

 

「――えぇ、これ以上ないくらい」

 

 

 ゴーグルを外しながらそう口にする元兵士――コーバスの声。

 

 それをどこか懐かしそうに。

 

 頬を撫でる二つの熱風を感じ取りながら、11号は応じた。

 

 

 

 




 11号の湿度なら時間も超越すると思ってる。俺がそう判断した。

 火属性なのにゼンゼロ随一の加湿器とはこれ如何に。

 たぶんだけどタコとかサメとかよりもアレよハリンちゃん。
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