脱ニート中の元職業軍人の俺が炎の銀兵士に詰め寄られている件 作:ライハイト
◇
太陽を覆い隠す曇天が『零号ホロウ』を闊歩する俺たちを見下ろしている。
陽の光を阻みこの退廃的な景色を生み出してるのは雲によるものだけではない。
砂でできた城のように崩れ落ちていくビル。
焼き払われた街の如く、そのことごとくから命と人の痕跡を消し去った都の残骸。
それが
俗に『ヌシ』と呼ばれる要警戒エーテリアスを複数同時に生み出す超弩級のエーテルによって構築された亜空間。
この不気味な薄闇を宿す風が運ぶ暗雲と、外界ではお目にかかることはまずない島を一つ作り上げる異常な力場が巻き上げる塵と灰が、太陽すら覆い隠しているのだ。
この薄弱な光と冷たさに文明の名残はあれど生き物の気配は皆無であり、生きている己が歩いてることにすら違和感を覚えるほどその場所には『命』というものを感じられない。
文字通り別世界であるそこは人を拒み、怪物をこそ歓迎するのだ。
「よっと!」
そして――部外者である俺に牙を剥こうと飛び掛かったエーテリアスを一閃した。
外界で言う狼の風貌をした四足歩行のエーテリアス『ハティ』。
獣を思わせる強靭な顎の中から覗く黒い『核』は真っ二つに引き裂かれ、その存在を支える力の根本を切り裂かれたことにより体の節々を巡っていた黄緑のエーテル光はその供給を絶たれたかのように明滅し、やがてただの黒い塊となって光を放ちながら大気に溶けるように霧散する。
また一匹、更にもう一匹と同じように刃を振るい、一匹残らず塵へと還していく。
そしてこれも最後。
最後の一匹が胴体から両断され、その体を形成したエーテルが蓄積したダメージの限界を迎え紫光を放ちながら古びた人形のように崩れ落ちていく。
そして同じように迎撃していた11号の方でも、その始末を終えていた。
「これで全部でいいか、11号」
「ルートを塞いでいたエーテリアスはこれで一掃できたわ。そしてこのエリアは確か反乱軍の……ともかく、次のポイントに向かいましょう」
「了解……あ、ちょっと待って」
「……?」
俺の上官にあたるらしい11号のその声を聞いて俺もそれに倣って鞘に剣を納めるが、すぐに移動を開始しようとする彼女を手で制する。
そして腰のポーチから、オレンジに塗装された丸みを帯びた筒に見えなくもない容器を取り出した。
「エーテリアスがいるなら、
止めた理由はちょっとした野暮用というか……まぁ言ってしまえば『保険』だ。
周囲に生えるエーテル結晶。11号は首を傾げているが、なにも酔狂で結晶集めに興じてるわけでもない。
コンクリートや建物の残骸などから生えている紫の光を放つ黒曜石のような見た目をしたエーテル結晶を拳で叩いて粉砕し、可能な限り粉状にしてからいくつか用意しておいた耐エーテル仕様の特殊な筒に入れていく。
その筒に記載されているのは、『エーテル危険物取扱注意』という申し訳程度のユーザーに対する警告だ。
知り合いの
これ単体では何も使えないが特殊な薬品と混ぜ込んで一種の化学変化を起こさせ、しっかり混ぜて密封すれば、酸素に触れさせ電気と反応させた時、とある現象を引き起こしてくれる。
ここは『零号ホロウ』。
異空間の迷宮を前に携行武器が近接一辺倒な俺達からしてみれば、『武器』となるものはいくらあったって良いのだ。
何より――レイ博士曰く、自分の身を護ることが結果的に11号を護ることに繋がるかもしれないのだから。
「よし……これくらいでいいな」
「それは?」
「ちょっとしたお守り。んで聞いてたなサラ、エアリス。リソースは全部火力以外の感知と諸々の支援に振っていいから。前線は俺と11号で回す。はい返事」
「ンナンナ(ごすじんが全部やって)」
「ンナンナ……(働きたくない……)」
「まともな返事を期待した俺が馬鹿だった」
「元気を出して。平時のあなたは軽んじられて踏みつけにされるくらいがちょうど良いわ」
「何も良くないんだが?」
涼しい顔してなんて高度な煽りをするのだろうかこの子は。
……いや、よそう。この手のやり取りは俺には分が悪い。加えて最近判明したことだが、どうにもうちのボンプ姉妹は何やら11号への贔屓に比重が傾いているらしいし。
いかん、自分で言ってて泣きたくなってきた。
「そんなことないわ。私が保証する。今まで色々なあなたを見て来たけど、今のあなたが一番しっくり来てる。ついに天職を見つけたようね」
いや天職というか無職なんだけど。
「私の隊長も言っていたわ。数々の役職、配置を経験したけれどやはり肌から沁みて己を作り上げて来た
「なにその無職を殲滅する気概しか感じない狂った隊長。逆に無職斡旋してんの? それとも無職になんか恨みでもあんの? つーかなんでどいつもこいつも俺の職歴知ってんだ」
「火の無いところに煙は立たないということね――もっとも燃えるものが無ければ元も子もないけれど」
「クリティカルヒットした今。もうやだおうちかえる」
「待ちなさい」
待ちなさい、じゃないんだ。
二日前に一回。
一日前に一回。
そして『零号ホロウ』に突入する前。
どいつもこいつ漏れなく俺を『無職』と言いやがった。
「行かせてくれ!!」
「逝かせられない。あと勘違いしないで、今そんなあなたを頼りに出来るのは私だけ――だから肩書なんて気にせず必然的に私だけを見てくれれば良いの」
「……それなら……まぁ?」
丸め込まれてる気がしないでもないが、他ならぬ11号がそう言うなら……文句は言わないでやらないでもない。
実際、俺が一番しがらみを背負ってないからこんなことが出来てるわけだし。彼女の言い分には一定の理解を示せる。
……それはそれとして、何やら凄い大胆なことを言われた気がしないでもない。
「どうしたの、『ブラックコーク・ブチャラティ』」
「だからコーバスだって……そ、それよりもさ、博士が渡してくれた座標だが、何か心当たりがあったりするのか?」
誤魔化すように目指しているルートを先行し、先ほど俺が現地調達の武器をコネコネしてる時、何やら気になることを言っていた。
たしか反乱軍がどうのとかなんとか。
ホロウの座標、空間は常に変化する。
とはいえそれも断続的にではない。
少しずつ、少しずつ誤差が生まれ、それがエーテリアスの出現によるエーテル活性などの
だからこそ定期的にキャロットの更新を行うホロウ調査員や、違法とはいえプロキシというアングラへの需要が生まれるのだ。
つまり何が言いたいのかと言うと――11号がこの場所を見覚えがあるといった趣旨の発言をしたことで、キャロットの更新が必要ない程度の短い期間で訪れたことがあるということの何よりの証明ということになる。
「……ここ最近割り振られた任務には反乱軍の動向を監視し、報告する内容もあった。そこには居場所の特定も任務の内容に含まれていたのよ。ただ気がかりなのが……」
「……もしやこの座標って?」
「反乱軍の拠点ね。それもそれなりに大きな」
怪訝な表情を浮かべる11号の前後の発言から俺も恐らくは同じであろう結論に辿り着く。
って、それもそうだが、俺からすればもう一つ驚愕すべき点がある。
「11号……もしかしてこの問題に乗り込むには人員以外の過程をほとんどクリアしていたことになるのか」
「そうなるわね」
「うぉ、流石完璧な兵士。単独でそこまで突き止めるなんて凄いよ」
「……世辞は良い。これくらい」
「世辞でこんなこと言えるほど器用じゃないぞ」
「…………話を続けましょう」
まだまだ何か言い続けようとする俺を見てか、今度は11号があさっての方向を向いて先行してしまう。
……別にほんとのことなので、このまま続けてやっても良いのだが、生憎と11号はああ見えて繊細なのだ。下手を踏めば文字通り火傷をするだろうから、ここは俺も敢えて口を閉ざす。
それはそれとして、今回の任務の内容だ。
これまでの話の流れを見ている限り、レイ博士とある程度の情報共有も行なっていたのだろう。
11号を取り巻く状況や敵の動向、未だ姿の見えない敵の姿を捕捉するのに、11号はあと一歩のところで決定的な戦力差による孤立という問題にぶち当たった。
だからこそレイ博士にとっても11号と行動を共にしていたことは予想外でありつつも、彼女にとっても渡りに船だったのだろう。言い渡した新たな任務の内容にも信憑性が生まれてくるというもの。
とはいえ、とはいえだ。
「相変わらずというかなんというか……無茶を言うんだなあの博士」
さらっと『ニネヴェ』――『零号ホロウ』そのものと言っても過言ではない災害級のエーテリアスに挑んでこいとか言ったり、ヌシ級のエーテリアスの討伐を何度も命じては共にあのホロウの相当深いところに潜り込んだり。
相変わらずというべきかなんというべきか、学会からしてみれば奇行としか言えない無茶なフィールドワーク手法を取る姿勢はどうにも健在らしい。
まぁ、こっちの頼みを聞いて身の危険を冒してまでこちらに座標を渡してこようとするあたり、あの人も相当のお人好しだけど。
「戦力として信頼されている、とも言えるわね。ただ、碌でもないものが待ち受けているのは間違いないでしょう」
「そこに要救助者もいるんだろ? 無理難題とは言わないが……万全を期すってわけにはいかないな、これじゃ」
「今の装備と物資では私たち個人で対応可能な範囲で作戦行動を起こすしかないでしょうね。これは好機よ」
「だな……俺の集めた情報でも『零号ホロウ』における目撃情報があったって点とも一致する……11号」
「……ええ」
重力場が狂い途中で崩落したであろう壊れた橋がルート上にあったので、自然と11号の手を取って共に跳躍し、難なく示された経路を進行していく。
そんな目の前のホロウの奇怪な道を攻略する傍らで思考するのは、11号の話していた俺の集めた情報における一点だ。
防衛軍の任務から得た情報とホロウ調査協会等の公的機関から集められた情報。
俺のような極めて非合法に等しい手法で集めたアングラな情報。
この二点は一見すると結びつきがなさそうだが……こうして異なる場所から入手した情報が、これまた異なる場所からある一点で交錯している以上、妙に陰謀めいたものが見えてくるのは何も俺の勘違いというわけではないだろう。
刑事事件の捜査と同じだ。
浮かび上がった点と点が結びつき、あらゆる仮説が一つの結論へと収束していくような感覚。
これが示すところはつまり、裏でいくつもの糸を引いて都合の良いように事態を操っている人間がいるというのが相場なのだ。
「レイ博士のことだから嵌めるだなんてのはないだろうけど……罠の可能性も考慮しないとな」
「それでも貴重な情報提供者がいる。それを救出しないことには事態の進展はあり得ないわ」
いや、助けないってわけじゃないからその辺りは安心して欲しい。
問題は手段だ。
どうにかして敵の懐に忍び込み、情報提供者の居所を特定し少なくとも3名は確認が取れている人質を連れた状態における撤退手段はどのようにして用意するか。
その点を対策しないことには無謀も同然だろう。
例によって時速200kmで爆走する剣士なんかもいたりするが、あれは例外中の例外だ。
……いや、考えてみると本当におかしいなあの人。それって本当に人類の脚力が生み出して良い速度なのかこれ。
しかも地力だぞ地力。
エーテル由来の道具や技術を用いているわけじゃなくて、据え置きのスペックで下手な戦車や知能構造体より上のスペックを発揮しているのだ。多分スターライトナイトでももう少し人間に寄ったスペックをしてるんじゃなかろうか。
「――止まって、反乱軍よ」
時速200kmの速度で行われる地獄の鬼ごっこ(ガチ)という過去の思い出に悪寒が止まらなくなっていたところで、11号のそんな一声が俺の意識を過去から現実へと強引に引き戻した。
それ以上の言葉はいらない。
目ぼしいビル陰を見つけて、そこから11号が促す視線の先を辿っていく。
そして視界に広がる灰色の光景に浮かび上がるように複数、見覚えのある緑をベースにした耐エーテル装備を装着し、銃で武装した反乱軍の兵士の姿を目にした。
そしてその立ち位置はまさしく、レイ博士から渡された座標へひとっ飛び出来る『裂け目』の前で陣取っているようだった。
「斥候……? いえ、哨戒かしら」
「かもな。ま、ルートに監視用の人員くらいは配置するだろうけど」
俺だったら罠か何かを仕掛けておく。あるいはエーテル結晶などをばら撒いてエーテリアスを集め、天然の防衛線を作るのも良いだろう。その方が連絡用の監視を一人つけるくらいで効率が良いからだ。
だが反乱軍の取った行動はそのどれでもなく、連絡と迎撃を確実に行える配置にしたようである。
「どうするんだ11号、敵はそこそこ。それに一人でも逃がしたら面倒なことになるぞ」
「敵の処理か、もしくは捕縛か。選択肢は限られているわ。あなたはどう?」
「あ、そういうことなら考えがある」
提案を受け入れてくれるというのならいくつか思いついた方法があるのだ。
レイ博士と11号の話を聞いていた時から少しばかり考えていたことがあるのだ。
ルートを阻む敵の存在に思うところがないわけじゃないが、逆を考えればそれは敵の索敵圏内であるということだ。拠点の安全のために貴重な人足を割り振るというのは間違った選択じゃない。
今から俺が行うのは、それを潜入の手立てとして利用するということになる。
敵が退くのならばそれで良い。
それで情報が少しでも手に入れば御の字だ。
「……嫌な予感がするのだけれど」
「任せとけ。男を見せるぞ」
「見せないで」
やかましい。
こちとらここ最近の出来事の所為で色んな鬱憤が溜まってるんだ。自業自得じゃねって俺の冷静な部分が囁いてくる気がしないでもないが、そんなもんは無視だ無視。
11号の目的を確実に完遂するためにも、今は目の前の
「悪いねぇ――目指すはパーフェクトゲームだ」
そしてここで出番となるのは。腰にぶら下げておいた、先程コソコソと製作していたオレンジの筒。
側面についているスイッチを押せば燐光が奔り、内部から電気を放ちながら上部と下部のパーツが激しく回転を始めた。
「……敢えて聞く。その手に持っている不吉な爆発物は?」
「さっきテキトーに作った」
「なるほど、先程から作っていたのはそういう……待ちなさい、やはり私が矢面に立って――」
後ろで11号が何やら言っているがもう遅い。
なにせ道中でちまちま集めていたエーテル結晶をコネコネしたことによって作られた賽――お手軽爆弾は投げられている。
電光をまき散らしながら放物線を描く爆弾は緩やかに――その反乱軍の部隊へと投げ込まれた。
「っ!! エーテル反応増大! 3時の方向!」
「なんだと――待て、なんだアレは」
「まさか、敵襲!?」
狙いはぽぽいのぽいと敵部隊のど真ん中。
なるべく多くの対象に効果が及ぶように計算して投げたソレは狙い通りに光の軌跡を緩やかに空へ刻んで、観測手が拾い上げたエーテル反応に反乱軍が対応を始める頃には既に電撃の力場が球状に展開を開始していた。
爆破解体を始めよう、とか言えば少しはあの人らしいだろうか。
「ひ、引き寄せられる!!?」
「あ、ヤバイ!」
「ヤバーい!!」
「総員、退避ィ――!」
「出来なーい!!?」
瞬間、電光がエーテル力場をまき散らしながら弾け、周囲のものが爆散した。
一瞬だけ青白く染め上げられる視界。
巻き上げられた黒煙の内側には電気が光を放ちながら残留し、暗雲に立ち込める雷の如く辺りを焦がしながら枝分かれしていく。
それが晴れたところで大きく、大きく声を張り上げた。
「おーい!!」
「ちょっと待ちなさい……!」
「いいからいいから」
大きく手を振る俺を全力で制してくる11号を宥めながらぐいぐいとその吹き飛んだ集団へと近づいていく。
濃かった煙が晴れていく頃には、後方への被害報告どころか混乱した部隊の陣形を再構成することすら出来ていない反乱軍の兵士の姿があった。
「俺に会いたかったんだろ! 俺は会いたくなかったけどな!」
「何を言ってるんだアイツ!?」
「な、何者だ貴様! 何故このようなことを!」
そしてお約束というべきか定石とも言うべきか、俺の正体を探るべく一見無防備にしか見えない俺に銃口を向けながらそんなことを問うてくる。
そんなもん無力化した後にでも聞けば良いのに、やはり練度という点において反乱軍は一歩劣る。
初手で容赦なく仕留めなかった敵の不覚とも言える行動に内心でほくそ笑んだ。
「なんだかんだと聞かれたら――答えてあげるが世の情け」
ビルの残骸から身を乗り出して、我ながらそれはまぁ仰々しくそんなことを口にする。
隣で何を言い出すんだという顔をしている11号を手で制す。
「世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため」
「本当に何を言ってるの……」
「愛と真実の悪を貫く」
「貫かないで」
ごめん。こういう口上なんだ。
「ラブリーチャーミーな敵役、コーバスと!」
「…………………………11号」
はきはきと視線で促せば諦めたように大鉈を構える11号に笑顔を浮かんでくるのがわかる。
対して敵は未だに固まったまま。集敵効果としては上々ということらしい。我ながら見事だ。
「銀河を駆ける防衛軍の二人には」
「…………」
「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ!」
「「ンナーンナ!!(ソーナンス!!)」」
「……………………………」
背後で11号が本気で、本気で頭が痛いという顔をしている。
それこそ、関係者と思われたくないと言わんばかりである
はて、かつてここまで俺の評価が下がったことがあっただろうか。
「ワナワナ(結構あったよ)」
「諸説ありまぁす!! というわけだ!! てめぇらぶっ殺してやる!!」
「何の説明もしてないんだがあの男!?」
「終始頭おかしいぞコイツ!」
「これもエーテル侵蝕か!? エーテリアスになる前にすぐに仕留めるぞ!!」
「気狂いという点では完全に同意するわ」
「フォローサンキュー11号!」
「耳もやられたのかしら」
文字通り呆れを隠さない11号を背に、俺は二振りのククリ刀を構えて突貫する。
一振りには炎を。
一振りには雷を。
間合いは剣で振るうには及ばず。一斉に向けられた銃口を前にどちらが有利かなどは一目瞭然。
それが王道の剣であるのなら。
そしてお生憎様こっちは邪道上等だ。
既に『角度』の演算は済んでいる。
どこに投げれば跳ね返るか、どの軌道に乗せればそれは思い通りに動くのか。
それらを阻む風も重力も、全てはお膳立てされている。
俺はそれを辿れば良い。
刃を伝って迸るそれを上段に構え、態勢を整えつつ黒光りするいくつもの銃口を前に全力で投擲した。
「まだ爆弾だ! 散開して距離を――待て、剣だと!?」
「遅い」
飛来する剣に視線を奪われた兵士の視線を縫って、11号が踏み込んだ。
その一歩で文字通り空気が変わった。
曇天の下で奔る火線。大気に敷かれる紅蓮のカーテン。
赤熱した大鉈に炎は疾走し、発砲寸前だった銃器はその熱を前に容易く熔解する。
直後、赤と青の灼光が戦場を照らした。
「一気に畳む! 11号、後詰め頼むぞ!」
「……もう質問するのも億劫でしかないけれど、了解!」
どこかヤケクソ気味にそう答える11号を横目に、残り二つとなった先程の爆弾をもう一つ取り出して起爆準備を整える。
幸いにして11号は気づいてないが――この先、何があるかわからないのだ。
待ち受けるのが単なる敵襲なのか、あるいは罠か。
戦力はともかく、その物量差は歴然だ。
加えて俺の相方は何かと一人で無茶しがちな11号。
だからこそ最小限の動きで最低限の消費を実現し、最高効率を目指す。
いざってなったら一人でも逃げて貰えるように。
「もう一押しぃ!」
先程の刃の投擲で巻き上げた粉塵と、11号の大鉈より放たれた爆炎の残滓は良い具合に相手の視界を潰している。
あとは彼女と言う火力の本命に橋渡しをすれば良いだけ。
起動してからまもなく爆発する爆弾を、煙の中にいるであろう反乱軍目掛けて再度投擲した。
それがこの戦闘の決着だった。
「あ」
恐らく反乱軍の兵士の間の抜けた声。
次の瞬間、爆ぜた。
爆炎ではない。
轟音でもない。
圧縮された電磁場が球状に広がり、周囲の金属片、銃器、弾倉、装甲の留め具と言ったあらゆる金属類のみを強引に引き寄せた。
「うわああああ!?」
「銃が! 銃が持っていかれる!」
「ベルトまで!? 待て! ベルトは駄目だ!」
「耐えろ! 耐え――ズボンが!!」
兵士たちの装備が展開された磁場に引かれ、爆心地を中心に中央へと集まっていく。
銃も、弾倉も、腰のナイフも、通信機の類も。
あとついでに一部の兵士の尊厳すらも。
「最低な兵器ね」
「褒めて伸びるタイプです」
「知ってる。けれど褒めてないわ」
「どういう意味?」
「ンナナ(アホだ)」
「ンナンナ(アホだよ)」
装備をひん剥かれ、ホロウ内ではまずあり得ない『アレ』や『ソレ』までも晒されるという阿鼻叫喚の光景に11号が剣を腰だめに構えながらそう呟く。どうやらお気に召さなかったようだ。
ほら、言われてるぞグレースさん。
「そのような浅ましい責任逃れをするような兵士には片手腕立て伏せ175回を命じるようにしているのよ、『ブラックロック・シューター』」
「そのペナルティセンサーの感度もう少し落としてくれませんかねぇ。あとコーバスな」
「即時却下よ――さて」
一段と低くなった声と共にかちゃりと重々しい金属音と共に炎が散る。
散る火花が電撃によって大半が動けないでいる兵士の中で、唯一口が開けそうな兵士に対して背部の装備から抜刀した刃を叩きつけた。
「ひっ!?」
「あなたたちにはいくつかの選択肢がある」
視線で促す11号を見て、俺が前に出る。
この戦闘を始める前に口にした策とやらを実行しろ、ということなのだろう。
「な、何を言う! 今更脅しなど――」
「一つ。このまま俺にボコられて装備をひん剥かれて、ホロウに放り出されるか」
「……えっ、あの、これ以上何を剥かれるんです……?」
「『零号ホロウ』つったら――ゴールドボンプだよ、な?」
「ひ、ひぃぃぃぃ!!?」
「…………」
マスク以外無残にひん剥かれている反乱軍兵士は何を想像したのか、装備越しにでもわかる程度に兵士は顔を蒼くしている。
こんなのと同類にされている11号が不憫でならない。
「この場において誰よりもあなたには言われたくないでしょうね」
「なんのことやら……それはそれとして、だ。俺は防衛軍じゃない。そこの彼女はともかくな。だから、お前らを保護する理由は俺にはないし、全て自己責任だ――そこで二つ目の提案なんだが」
可能な限り笑顔を浮かべて、爆弾が生み出した力場によって金属の塊みたくなっている装備の山に対して指さした。
「二つ――あの身ぐるみおいて俺達が辿ってきた道を戻るか」
「……は?」