脱ニート中の元職業軍人の俺が炎の銀兵士に詰め寄られている件   作:ライハイト

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29話 馬鹿どもによる奇跡のコラボレーション

 

「なるほどなるほど――捕虜は情報が取れ次第処刑するってことで良いんだな?」

 

 なんという二律背反だろう。

 我ながら緊張感が欠片もない問いかけにおおよそ物騒な響きはないが、その内容のなんと血生臭いことか。

 だが生憎とここは『零号ホロウ』。

 無人の廃墟というどでかい誰かの墓の上ですることが尋問というのも、ある意味でこの危険地帯においては相応しい。しまいにはエーテリアスなんて悪霊まで出る始末なのだから手に負えないなんてもんじゃない。

 

 もっとも、未だに赤熱する大鉈を構えたままの11号を横に伴いながら尋問という状況に陥っている我々も大概なわけなのだが。

 

「そ、そうだ」

 

「そっか……どう見る?」

 

「嘘を言っているようには見えないわね」

 

 俺が要約した内容、反乱軍の兵士はしどろもどろになりながら肯定の意を示している。

 

 しかしこの様子だとこれ以上は碌な情報を取れないだろう。

 

 となれば取る行動は一つだ。

 

 強引に引っぺがした装備の山から適当な銃器を取り出し、弾数を確認して安全装置を解除してから一か所に纏められたソイツらに銃口を突き付ける。

 

「『ナイトバード・クロニクル』」

 

「だからコーバスだって。大丈夫、悪いようにはしないから」

 

「……」

 

 隣では呆れたように俺を見つめる11号に向けてにへらと笑えばデコピンされた。解せぬ。

 

「というわけだ――さっき言った通り、お前ら脱げ」

 

「なんで!?」

 

「10秒でカウントダウンを始めるぞ――いーち」

 

「ちょ――」

 

 回答を受け付ける気はない。

 

 俺のそんな姿勢を示すようにチュインと反乱軍の兵士の一人を弾丸が掠めた。

 

 更にもう数発撃てば兵士は愉快なタップダンスを披露してくれる。

 

「オラもっと脇閉めろ! それでトップダンサーになろうなんておじさん許しませんよ!」

 

「明らかに目的変わってるだろうが! つーかカウントダウンはどうした!?」

 

「馬鹿野郎。男は1と2だけ覚えておけば生きていけるんだよ。勉強になったな」

 

「んなわけあるか! どんだけ不便な世界で生きて来たんだ貴様は!」

 

「いや俺の」

 

「そんなんで生きていけると思えるお前の方がよっぽど勉強が必要だろ!」

 

「ろーく」

 

「イラついたからって発砲するなァ!? せめて人道的人間的手順を護れェェ――!!」

 

 

 ――――んで。

 

 

 そんな反乱軍の兵士達とごちゃごちゃとしたやり取りがあってしばらくのこと。

 

 

 俺の決定に対しぴーぴー鳴く反乱軍兵士達を移動ルートである裂け目に向かって放り込んだり。

 こうして敵地への侵入を気取られないように11号と共に最低限の戦場の後始末をしたり。

 これまた強引に置いていかせた彼らの装備をいくつか物色してたり。

 

 

 そんな紆余曲折を経て――現在、俺は先程遭遇した反乱軍とは別の兵士の前で敬礼していた。

 

 

「――C班、哨戒より一時帰還いたしました」

 

 

 俺の恰好は一新されていた。

 いつものスナイパーマントとククリ刀など見る影もない。

 緑を基調としバケツ頭にも見えなくもない頭部の防具を身につけた、それはもう如何にもな『吾輩は反乱軍兵士である』と言わんばかりの姿。

 

 何も知らない顔見知りがこれを見ればいよいよ謀反を起こすのかと疑われること間違いなしだ。

 

 腰には反乱軍仕様のライフルを携え、右手で敬礼をすれば、たとえガワに過ぎなくとも頭のてっぺんからつま先に至るまで俺は反乱軍兵士に違いなかった。

 

「……そんな連絡は受け取っていないが」

 

「通信機器を破損させてしまいました。現在は現場に他の隊員を残し、機材や弾薬の各種補給を受け取りに一時帰還した次第であります。補給を受け取り次第、残して来た部隊と合流いたします」

 

「……念のためボディチェックする。ついてこい」

 

「はっ」

 

 兵士らしく敬礼し、されるがままに振る舞えばあとは簡単だった

 

 どれだけ疑心暗鬼に陥ろうとも、たとえ俺が味方だろうが敵であろうが、必ず何らかの形で『確認』を取る。

 

 その確認が、疑わしきは罰せよと言う姿勢から来る問答無用の射殺か、あるいは軍規に則って武装を解除させ、部隊名とこのバケツ頭の中身を晒すか。

 

 俺からしてみれば、その『間』さえあればそれで十分過ぎた。

 

「失礼」

 

「な――――!?」

 

 そう言って俺に近づいたタイミングで――首を目掛けて締め技を仕掛ける。

 

 装備に覆われ寸胴になった首元に目掛けて足を伸ばし、頭を挟み込んで地面に叩きつける。

 

 通信はおろか、声を上げる暇さえ与えない。

 仕掛けられた本人は何が起こったかわからないまま視界を横転させ、地面に叩きつけられたことだろう。

 

 俺が敵であることに気付いたとてもう遅い。

 

 そして首を今度は腕で絡み取り、装備の上から気道を押しつぶすように圧迫する。

 

 ギリギリと腕でホールドした首から脱出しようと藻掻いて俺の腕を掴むが、それも徐々に力を失い糸の切れた人形のようにその抵抗の気配はなくなった。

 

「悪い。そっちも仕事だろうが、こっちも仕事なんでね」

 

 俺の言葉に返事がないことに完全に気を失ったと判断し、その兵士の体を物陰に隠してシートに覆っておく。

 殺す気はない。

 兵士としては俺の動向を知る存在の生存を許している時点で落第点だろうが、生憎と今の俺は兵士じゃない。

 

 本当であればホロウ内で気絶させるなんて殺しに等しい所業ではあるのだが、少なくとも耐侵蝕装備であればエーテリアス化する前に意識を取り戻すことだろう。

 

「潜入成功。見張りは彼以外確認できない。もう突入してきて良いぞ11号」

 

『こちらでもあなたのボンプ姉妹の視覚共有を通じて動きを把握している。見張りらしき生体反応も周囲にはないわ』

 

「作戦通り頼むぞ」

 

『足の確保は任せて。動くタイミングはこちらから合図を送る』

 

「了解。エアリス、今回は11号を援護しろよ。サラは俺の火力担当だ。いざとなれば景気よく燃やせよ」

 

『ンナンナ……(過ぎたる労働は及ばざるが如し……)』

 

『ンナナンナナ……(ごすじん諸共焼き尽くして良いなら……)』

 

「さらっと俺を葬ろうとしてる?」

 

 とんだ下剋上もあったもんである。普段の俺への扱いを見てると笑いたくとも笑えない。

 俺の家族の軽めに放たれた殺害予告に戦々恐々としつつ、『軍』を名乗るに申し分ない人員を配置している拠点内に視線を巡らせる。

 

 強引に引っぺがした装備を念のため奪って装着したわけだが、これを見ると正解であった。

 

「いやしかし……反乱軍、もとい防衛軍の一部がこんな大がかりな動きを見せるなんてな」

 

 バリケードを潜り抜け、開けた場所に出れば『旧都陥落』によって乱立する廃墟の群れを利用した『巣穴』と称すべき拠点が見えてきた。

 

 穴だらけでボロボロのコンクリートの壁に文字通り取ってつけたような電線から伸びる照明。

 ところどころ火花を散らすソレと繋がるのは、野営地特有の乱雑さでもって地面に転がる紫光を放つエーテルタンクだ。

 更に見渡せば拠点の隅へ所狭しと追いやられる武器やら物資やらが詰め込められたコンテナが積み上げられている。

 

 肝心の兵士といえばどいつもこいつも頭のてっぺんから足のつま先まで耐侵蝕装備を身につけたお堅い奴ばかり。

 

『情けない話ね。あなたにさせてるのも結局は私たちの尻拭いだなんて』

 

「別に責めてるわけじゃないよ」

 

 これだけの数の人材と装備を揃えておきながらその全てが正規軍でないというのだから世も末だなって思っただけで。

 

 元軍人という肩書を持つ身としては防衛軍の組織体制に問題があると言うべきなのか、軍人すらこんな風にしてしまう世界に問題があるのか……この光景を見ているとわからなくなってくる。

 

『それはそれとして、あなたが男どもの身包みを剥いで兵士に裏切り者たちに恥辱を与えることにこだわった理由は?』

 

「一転して棘あるなぁ……」

 

 元より軍規に実直な11号だ。

 軍の掲げる倫理、規則こそが彼女の中の指針であり方向性なのである。

 そこには情状酌量の余地をよしとする彼女の優しさによって許されている部分が大いにあるとはいえ、流石に碌な説明もせずに進めたこと自体には腹に据えかねるようだ。

 

 とはいえ、何も無策でやってるわけじゃないのだが。

 

「情報の入手と人質の所在確認。要救助者の情報以外不明な状況で後手に回ってる以上、次の一手は効果的に打つ必要がある。結果はご覧の通りよ」

 

『そう……いつも思うのだけれど、毎回まともな理由があるのにまともに戦わない理由は?』

 

「ノリで……」

 

『……鬼火隊長の気持ちがこんなところでわかるなんて、大した皮肉ね』

 

 おい、さり気なく酷いことを言うな。

 

 おおかた好き放題する部下を持って云々とかその辺りが理由だろう。

 

 これの怖いところは、11号が大変尊敬しているであろうその人に、俺が燃やされるか駆除される未来しか見えないという点である。

 

 ……やることやってるし、そこまで酷くないよな?

 

『それは後でゆっくり話しましょう。少なくとも私には実害はないわ』

 

「それ俺の身の安全が保証されないのだけれど……」

 

『いざとなれば私があなたを護る。それより、そろそろ捕虜の処刑が始まる。私とあなたの見解が一致しているのであれば恐らく――』

 

「このタイミング、か」

 

 そう呟いた直後、にわかに周囲が騒めき始める。

 

 おふざけが許されるのはここまでだろう。

 

 この数の相手から救助者3名を連れ出すとなればなまなかな手では崩せない。

 

 だからこそ、ここは11号との連携を密にして慎重な対応をすれば確実に切り抜けられる――。

 

 

「おっとと、これでも持病があってね? 慎重に取り扱ってくれるとありがたいんだけどなぁ」

 

 

「フン……余裕なのは結構だがその減らず口がいつまで続くか見ものだな。情報を吐かない以上、貴様にあるのは死あるのみだ――対ホロウ6課『浅羽悠真(あさばはるまさ)』」

 

 

「――――はぇ?」

 

 

 ――――なんて思っていたのだ。

 

 

 女と見紛うばかりの白い肌に黒い髪が映える金の眼。

 大事な形見と聞いた黄色の鉢巻と、浅葱色のジャケットを腰に巻くという本人の不真面目さっぷりをこれでもかと表現しているその容姿は忘れるべくもない。

 

 けど容姿だけだったのならまだ良かった。

 

 少なくともトドメの一撃として、その名前を耳にするまでは。

 

 

「…………………………11号、これは」

 

『見ての通りよ』

 

「え″え″え″え″ぇぇぇえ!?」

 

 喉に泥でも混入させたのかと言わんばかりの絶叫が響き渡った。

 

「んな、なにやってんだよアイツ!? なにホロウ調査と戦闘のスペシャリストがこんなところでくたばりそうになってるんだ!! 除悪務本が聞いて呆れるわ!! つーか処刑!? 処刑!!??」

 

 今日一の驚愕である。

 周囲の兵士が何やら訝しげな視線を俺に寄越してくるが、それすらも気に留める気にもならない。慎重に作戦を進めるとかどうとか一瞬で消え失せた。

 

 そんな俺の唯一の拠り所は、何やら事情を知っていそうで通信越しでも落ち着き払っている11号だけである。

 

「なんで!? なんでアイツがあんなことになってんの!?」 

 

『レイ博士に聞いた話によると――発端は六分街にある下品なエレガントボンプ像からのようね』

 

「しょーもなっ!?」

 

 だが掘り下げたら掘り下げたで浮上してきたのはあんまりにもあんまりな理由であった。

 そう言えば最近無くなってたなあのゲテモノ、なんて感じていたらそんなことになっていたのかアレ。

 

『彼は情報提供者第一号なのだけれど、その情報もあって残業続きで疲労困憊……労働に対する怨念と妄執の果てにあの奇怪なオブジェへ辿り着いた』

 

「なんでだァ! 血迷うにしたって限度あるだろ!」

 

『あの下品なエレガントボンプ像を――ツキシロエレガントボンプ像に改造してるところを捕まってあんなことに』

 

「それなんの意趣返し!? あんな意味のわからんドラム缶体型にOL要素を加えて何になるんだ! 残飯にキャビアかけても残飯だろーが!」

 

 ほんとに残念過ぎる理由であってたまるか!

 敵の陣地でなに自分の上司すら敵に回すようなことを零号ホロウでしでかしてんの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?

 

 強い疑問と脳内を支配する馬鹿々々しさのあまり、俺は頭の中のゴミを吐き出すかのように我も忘れて思わず声を上げていた。

 

 

「おーいっ! マサー!! マサマサー!!」

 

『潜入中よ……! 何を考えてるの!』

 

「いや、何か狙いがあるはず! アレが無策でコイツらに捕まるとは思えない!」

 

 

「…………え、嘘、あの声ってもしかして――」

 

 

 処刑が始まるまでの僅かな時間。おそらく次の処刑対象を連れてくるのだろう。

 

 一刻の猶予もないタイミングで、俺とアイツは耐侵蝕仕様のヘルメットを被っているというのに視線がかち合った確信があったのは不幸中の幸いであった。

 

 

「最後に言い残すことはあるか? 命乞いくらいは許してやるぞ」

 

「殊勝な心掛けだねぇ……どうせなら書けるものが欲しいんだけど」

 

「……余計な真似はするなよ」

 

「この状況で何かできると思うほど馬鹿じゃないよ」

 

 僕は諦めが良いんだと。

 そう飄々と言い切るアイツに、油断した様子もなく兵士は銃を構えながら紙とペンを差し出した。

 

『……ペンを口に咥えて何を?』

 

「違う、アイツ何か書き出したんだよ! そ、そりゃそうだ、何せあいつは雅さんすら一目置くきっての――」

 

 

 何か掴んでる筈だと。

 

 

 そう思った直後だった――。

 

 

【予約してた歯医者、僕の代わりに行っといてください】

 

 

「――すいません。コイツの貧相なドタマ俺にぶち抜かせてください」

 

 

 ――書かれた内容を確認した直後、気づけば処刑用の拳銃を俺が構えていたのは。

 

 

「な、何だ貴様!?」

 

「やれやれ……あれだけ無職を謳歌してた君とまさかこんなところで再会するなんてね……笑えるよ、それでも無職かい」

 

「おめーの方がお笑いものだよ! 少なくともいい歳こいて歯医者でゴネてたようなやつよりマシだわ! つーか無職関係ないだろ!」

 

「失礼な! 歯の管理は健康寿命に直結するんですけど!?」

 

「おめーの寿命ここで全損させてやろうか!」

 

 悠真――マサとわーぎゃー言い合っていると、隣より会話を遮るような咳払いが聞こえてくる。

 

 言われずとも説明しろ、と視線が訴えがかけてきていたので、足元のバカを引っ叩いてその兵士と向き直った。

 

「同志よ。対ホロウ6課と繋がりが?」

 

「はっ! 彼とは少なからず因縁がありまして! 訳あって歯医者に同行した際、『何か見つかったらどうするんだ』という恐怖のあまり治安官沙汰となりました!」

 

「どんだけ盛り上がったんだその議論」

 

「僭越ながらご意見させていただきますと、反乱軍という非政府組織と言えど虫歯の保険くらいは効かせるべきかと――」

 

「このバカを連れていけ!」

 

『はっ!!』

 

 俺の進退を懸けた進言は微塵も理解を示されず、ずこずこと他の兵士を伴って処刑の邪魔にならない程度の場所まで連行される。

 

 拘束されずに処刑の続きを決行されたことはこのトンチキ過ぎる状況における不幸中の幸いだったと言えよう。

 

『冷静になりなさい。必ずチャンスは訪れる、この段階で正体が露見すればこれまでの作戦が水の泡になるのよ』

 

「とは言うけどさぁ……!」

 

 設置されたバリケードに齧りつき、気持ち声を抑えながら俺を嗜める11号に応じる。

 なんか雰囲気的になぁなぁになってしまっているがトンデモない。

 最悪分断されても11号と俺ならどうにかなるであろうと思っていたところに、個人的最優先救助対象が追加されてしまったのだから。

 

 作戦の難易度はいつにもましてうなぎ登りである。

 

『あと虫歯の保険は防衛軍なら降りるわ』

 

「聞いてないんだが!? つーか俺は別に虫歯じゃねーから!」

 

 加えて11号に対するフォローも入れなきゃならんのだからほんとに大忙しだ。

 

 つーか俺はマジで虫歯じゃない。何なら診断書を見せてやっても良い。

 

 俺は雅さんに言われて頑なに診断を拒否するあの悠真(バカ)と同行を余儀なくされただけだ。

 

 結果は歯にエビフライの尻尾が刺さってたってだけのオチだったけどな!

 

「と、とにかく、マサの馬鹿は最悪どうにかなるとして他の二人だ! 早急に作戦を修正しないと! 今はどこに――」

 

 

「放せ! たとえ浅羽先輩が何か言おうと、俺からお前たちに話すことなんて何もないからな!」

 

 

「フン、であれば見せしめにして始末するまでよ――治安局特務捜査班『セス・ローウェル』」

 

 

「―――――はぇ?」

 

 

 本日、『零号ホロウ』にて二度目の衝撃。

 

 銀の毛並みよりぴょこっとその存在を主張する猫のシリオン特有の三角の耳。

 青を基調としたプロテクターやアンダースーツなんかは治安局より支給される基本的な装備であり、街の中でもホロウの中でも一目でどこの人間かわかるようになっている。

 

 それが容姿だけの情報なら俺だってここまで狼狽えちゃいない。

 

 だが反乱軍の兵士によって呼ばれたその名は、間違えようもなく俺の顔見知りであった。

 

「……………………11号、これは」

 

『見ての通りよ』

 

「だからさっきから全然わかんねーんだよ! 視覚で補える情報量じゃねーのよ! 見てわかる情報寄越せ! なんで俺の知り合いがことごとく敵に捕まってるんだ!」

 

 なんで『零号ホロウ』なんて危険地帯でこんな笑えないコントを見せつけられにゃならんのだ!

 

 顔触れ変わっただけでさっきと全く同じ絵面だよ!?

 

『聞いたところによると――例の下品なエレガントボンプ像がことの発端のようね』

 

「さっきからなんであのクソみたいな芸術品プッシュしてんの!?」

 

『あの気品のある下劣なボンプ像……仮称『ツキシロエレガント像』を、女性なんだからせめて下着を履かせようと――『ツキシロエレガントミラバケッソ』に改造しているところを捕まって』

 

「それどこの新素材!? 人形のケツ護ってとっ捕まってたら世話ないわ! 公務員がなんでどいつもこいつもくっだらねぇ理由で捕まってるんだ! 我らノンキャリアの最後の城はどうなるんだよ!?」

 

『なんの話をしているの』

 

 やかましい。今は色々あって心が弱ってるのだ。無職時代の嫌な記憶ばかりがこんな時に限って蘇ってくる。

 

 だが、しかし、しかしだ。

 

 あの生真面目な、俺の数少ない癒し枠な後輩のアイツなら、起死回生の手立てとまではいかなくとも何か解決の糸口を導き出している……筈だ!

 

「おーいっ! セス坊!! セス坊ーッ!!」

 

「……! あの声、まさか――」

 

『またペンを咥え始めたようね』

 

「……! やっぱりだ! アイツも何か書きだしてる! 俺達の存在に気付いて何か策を――」

 

 

 やっとこの狂った事態が進展が見られると目を凝らして――。

 

 

【助けてください。あと浅羽先輩を武器にして良いですか】

 

 

「――すいません、こいつの媚びた猫耳俺にぶち抜かせてください」

 

 

 ――またしても処刑用の銃を我が後輩に向けて突き付けていた。

 

 

「だからなんなんだ貴様は!?」

 

「なんでですか! 今が絶好の機会なんですよ! 俺と先輩が揃えば三位一体、強い武器を携えればつけ入る隙のない黄金パーティの完成です!」

 

「なんのだァァ! なーにが治安局だ! いいとこ蛮族だろこれ! 人を鈍器扱いするカリキュラムが実在するなら新エリー都は一周回ってもう少し平和だわ!」

 

「先輩! 善いも悪いも飲み込んで活用しなきゃ友達も仲間も護れませんよ!」

 

「まずは道徳を護れぇ!!」

 

 明らかにラリってるであろう後輩とぎゃーぎゃー揉めていると、またしても隣より会話を遮るような咳払いが聞こえてくる。

 

 言われずとも説明しろ、と視線が訴えがかけてきてたので改めて向き直った。

 

 そうだ。

 

 俺は断じて、人を鈍器にするなと叫ぶためにこんなところまで来たわけではない。

 

「同志よ。治安局と繋がりが?」

 

「はっ! 実のところとある対ホロウ6課の課長と真っ昼間からゲーセンでダンスバトルをしていたところ、審判(レフェリー)として適当に拾い上げた彼にリズムに乗るあまり破壊された筐体を目撃され現行犯逮捕されかけたという経緯であります。というか彼が治安官であったことを失念していたことが原因と愚考いたします!」

 

「先程から反政府組織にあるまじき行動をしてばかりだが、迂闊過ぎないか同志よ」

 

「治安局の常連であります。秩序なんてクソ喰らえです! 偉い人にはそれがわからんのです!」

 

「今サラッと俺を否定したな? あと我らは新たな秩序を作り出すものだぞ。おい、このバカを連れていけ! あとついでに頭に効く病院も紹介してやれ!」

 

『はっ!』

 

 そしてまたしてもずこずことバリケードの外側まで引き戻される俺。これもさっきと同じ絵面である。

 

 そして下手な戦闘よりよっぽど胃の痛い思いをしている俺を他所に、捕虜(バカ)どもはのほほんと会話を繰り広げていた。

 

「セスくん、僕に対してそんな認識を抱いていたんだ……地味にショックだよ」

 

「だっ……!? だって本当のこと言わないと誤魔化せないでしょう!? このままだと俺達本気で殺されますよ!」

 

「言い切っちゃったよ」

 

「というか浅羽先輩も浅羽先輩ですよ! 俺は最近の情勢も相まって不審物を取り除く義務があるからともかく、仮にも執行官がなにしでかしてくれてるんですか! あんな置ける公然わいせつ罪に女装させるとか頭おかしいんじゃないですか!」

 

「ノリで……」

 

 違った。どうやらセス坊もセス坊で職務を真っ当に遂行していたことが起因していたらしい。

 

 つーか俺も俺でちょっと前に同じ理由で怒られたから一気にいたたまれなく。その場でしか出来ないノリってあるよね。

 

 それはそれとして異常事態だ。もう帰って眠りたい。

 

「クソ! 11号、えらいことになってきやがった……! 二徹のダリが尻で書いてもこんな絵面にはならんぞ!」

 

『だから落ち着きなさい。発言の内容としてはあなたも大概よ』

 

「やっかましい! とにかく、11号はすぐに足を確保してくれ! そしてあのおバカ達の要素を含めてエアリスに退避ルートを再演算させるんだ! 事前に入手したキャロットと組み合わせればあんなのでも戦力として――」

 

『待ちなさい! 最後の人質が来る、相手は恐らく……』

 

「……心当たりがあるのか?」

 

『見ればわかるわ』

 

 

 ……これまでのパターンから11号の言葉に対して猛烈に嫌な予感を覚えつつ、バリケードに齧りついて拠点である廃墟の奥から浮かび上がるシルエットを凝視する。

 

 

 なんか、すっげぇ見覚えのあるピンクを認識して精神衛生的な対心傷(ショック)姿勢を整える間もなく――。

 

 

「ちょ、どこ触ってんのよ! 私は高くつくわよ! なんてったって事務所の家賃光熱費、新事業の展開によって私の借金は留まるところを知らないんだから! マジでとんでもないことになるわよ! いいの!」

 

「相変わらずのカスっぷりだな……元はと言えば貴様の迂闊な行動から始まったのだったな――邪兎屋『ニコ・デマラ』」

 

「………………………」

 

 

 お前まで居るのかよ、という絶望と言うかもはや諦観を抱きつつ俺は廃墟になってボロボロとなった灰色となった天を仰いだ。

 

 忘れもしない。

 ストリートファイトでも始めそうな黒いジャケットに胸とへそをこれでもかってくらい剥き出しにしたパンクなファッション。

 ウェーブのかかった桃色の髪をツーサイドアップに纏め上げる黒いリボンはその気質を表したかのように人を唆し強かに生きる小悪魔のような彼女の雰囲気を一層引き立てている。

 

 一時はブラック企業に対して花火を笑いながら焚いて治安局へ補導された仲だ。

 

 そんな奴らが涙目で命乞いをする光景を見て、再度天を仰いだ。

 

 

「……………………11号、これは」

 

『見ての通り邪兎屋よ』

 

「いい加減にしろよてめーら! なんであらゆる犯罪を知り尽くしてるような連中が雁首揃えてあんなとこに仲良く並んでんだ!」

 

 ドナドナと喚きながらも三人揃って跪かせられ、ついに三名揃ったかと思えばコレである。

 

 問題は、あんなのでも助けなきゃいけないのかという目の前の現実だった。

 

『聞いた話によると――彼女がかのエレガントボンプ像をオークションにかけたことから始まったの』

 

「ここに来て新事実!?」

 

『その間に執行官に女装させられ、治安官に新素材のスカートを履かせられ――その果てにオークションで競り落とされ、人形の中身に居た彼女自身ごと反乱軍に捕まったようね』

 

「……なんて? 中身? 中身って言ったか」

 

『例の人形の中に居たのが彼女だったのよ』

 

「エレガントの中身お前だったんかィィィィ!!!!」

 

 なんか馬鹿どもが奇跡のコラボレーション起こしちゃってるんだけど! ふざけんなよマジで!

 

「おーいゲテモノピンクー!!! 銭ゲバズラ!!! もうこの際なんでも良いから何か言えー!!!」

 

「あの声、まさか――!」

 

『知り合いが多いわ。無駄に顔が広いのね』

 

「だから一言余計だ!」

 

 11号と通信でわちゃわちゃやり取りをしていると、例のごとく拘束されたままのニコが口にくわえたペンで何かを書き出し始めた。

 

 そうだ。あんなんでもなんやかんやでアイツはこの物騒な新エリー都において各勢力から一目置かれる存在なのだ。

 アウトロー叩き上げの戦闘スキルに、金を使う才能が致命的に欠けている代わりに金を集める才能に長けた商才と知略の持ち主。

 

 普段なら牢獄だろうがヤクザの事務所だろうが笑いながら脱出してるような女だ、少しはこの状況を一転させるような策を――。

 

 

【1タッチ、50万ディニー】

 

 

 ――思いついてる筈もなかった。

 

 

「――――すいません。こいつの乳を俺にブチ抜かせてください」

 

「今度はなんなんだ貴様は!?」

 

「ちょっと! アンタ私を殺しに来たのか助けに来たのかどっちなのよ!」

 

「うるせぇ! この期に及んで金ふんだくろうとするカスを助けなきゃならんこっちの身にもなれよ!! つーかそもそもお前俺が貸した3万すらまだ返してないだろ!!」

 

「なんでよぉ!? もしかしてバナナの皮で作ったポシェットを老舗メーカーと偽って販売したから怒ってるわけ!?」

 

「アレすぐ茶色になったのそういうことか!!」

 

「いっちょ前に使ってんじゃないわよ!!!」

 

「おめーの発案だろーが!!!!」

 

 

 もう我慢の限界を迎えて堪らず頭の耐侵蝕装備を脱ぎ捨てた。

 

 

 そして、このトンチキ展開を前に冷静じゃなかった俺は――潜入という観点において致命的なやらかしをしてしまうことになった。

 

 

「あ」

 

 

 いっそ能天気とも言える間の抜けた声が敵の拠点に木霊する。

 ホロウで鳥が生きていられる環境であればこの場所に一発くらいは間抜けな鳴き声が響き渡ったかもしれない。

 外気から隔離されていたヘルメット内部より晒された素肌は清涼感を通り越して寒さすら感じる。

 

 それは単に暑かったからなのか、それともこの状況に対する焦りから来るものなのかは定かではない。

 

 

「待て、あの特徴! まさか……!」

 

 

「貴様――『コーバス』だな!」

 

 

 重々しく音を立てながら一斉に突き付けられるいくつもの銃口。

 

 咄嗟に処刑台に立たされる三人をそれらから庇うように構えた。

 

 

「やっぱ顔も割れてんのかよ……!」

 

「頑張れークロー、出来れば早めにーあ、ゴホゴホと」

 

「大丈夫です玄飛先輩! 浅羽先輩は俺が担ぎます! たとえ両手が使えなくともいざとなれば浅羽先輩を武器にしますので!」

 

「セスくーん? 治安局で何を教えられてるか先輩はすごく心配だよ」

 

「捕まったらタダじゃ置かないんだからね! 働きなさいよ引きニート!」

 

「呑気で良いよなお前らはさぁ!?」

 

 俺におんぶに抱っこで役立たずな状態でよくもまぁそんなことを口に出来たもんである。それとニコは後で必ずシメる。

 

 

 

「逃げたら一つ、進めば二つ……! うおおおおおおおお、ソーセージ爆弾んんんんんんん!!」

 

 

 

 それはもうヤケクソ気味に。

 

 銃口を突き付ける群衆に向かって先の戦闘で作った爆弾を投げつけた。

 

 




多分今までで一番ニートが発声している回。

でもここで顔バレしておかないと実質的な援軍がニートと11号くらいしか間に合わなかったからこれが最善という地獄。

ちなみにマサマサとセスとでニートは同学です。
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