脱ニート中の元職業軍人の俺が炎の銀兵士に詰め寄られている件   作:ライハイト

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33話 遊びと戦闘兼用の防衛軍仕様の豪華RV

 

 ――敵味方問わず、誰もが一秒にも満たないその光景に圧倒させられていた。

 

 耳を劈く銃撃の雨霰が俺と11号を捉える、その刹那。

 無数の銃声を優に上回る轟音と振動は、衝撃を伴いながら突入する重装甲を纏ったバンという状況によって完全に意識の外に追いやられた。

 

「――ンナ!? おい、11号!」

 

「これは――!」

 

「な、何事――いや、構わん! そのまま撃て!!」

 

 瓦礫を吹き飛ばしながら姿を露わにする黒い鉄塊。

 埃を巻き上げ、銃撃の暴力を上回る豪快さを以て破壊を撒き散らすそれを正確に認識する術を俺達が持つ筈もない。

 直前の迎撃態勢、俺に至っては大技を放つ寸前だ。

 二振りの刃と()()()()()()()()()()()()()()()が何事もなかったかのように霧散し、残留するエーテルがただの無力な光へと還っていく中で、確かに視認した。

 

 それはまるで前方からの火線を阻むように、眼前で黒く巨大な車体より火花を散らす光景を。

 

「盾に――!?」

 

「というか()()()()()()()()()()!」

 

 袋の鼠でしかなかった一瞬前の状況においてはあり得ざる光景に、思わぬと言った様子で言葉を零す11号。

 黒い盾と化した車体に傷らしい傷はない。

 凝視しなければ認識できない僅かな弾痕と焦げ跡を残すだけで、その装甲に綻びは一ミリたりとも生じていなかった。

 

 反政府勢力に流通、あるいは横流しされるような型落ち品であっても、まごうこと無き軍の正規品である火器を前にして、だ。

 

 何より運転席には誰もいない。

 操作レバーだけが一人でに動き、車体をこちらに滑り込ませてくる。

 各操作レバーによる運転を無人で可能とする遠隔操作型自動運転機能(リモートコントロール)システムを搭載した最新も最新な仕様を有しているのだろう。

 

 加えてこのタイミングでの登場、只者ではないことは火を見るより明らかだ。

 

「え」

 

 しかもそれが、減速なんて知らんと言わんばかりのスピードでケツから突っ込んで来ているというのだから。

 

「ちょちょちょ!? なんか近づいてくるんだが!?」

 

「このドライビングテクニックは――乗るのよ! 轢き殺されるわ!」

 

「マジで!?」

 

 孤立無援だった現状を鑑みれば、大いに突飛過ぎる発言をした11号を見て唖然とするが、顔を見る限り本気(マジ)だった。

 その顔は制圧射撃より眼前の光景の方がよっぽど驚異的だと物語っていた。

 心当たりがあるとすれば『左を見ろ』と言われた時の通信だ。

 あの時、彼女に何かしらの確信を与えるきっかけがあったとは思えないが……まさかドライビングテクニックが云々のくだりではあるまい。

 

 

 ――いや、だとしても目の前の光景はマズ過ぎるんだけども……!?

 

 

 ぎゃりぎゃりと甲高く悲鳴を上げる車輪。

 黒い炭を強引に引き延ばしたかのように濃く、奇天烈な運転を否が応でも見せつけて来る縦横無尽に狂気的な軌道を描くタイヤ痕。

 

 11号が先程口にした『轢き殺される』という言葉が嫌に現実味を帯びた光景の具現だった。

 

「ンナ、ンナナァ!!?(ひ、轢かれるぅ!!?)」

 

「安心しなさい! 運が良ければ即死よ! 『ブラックフェザー・コフィンベイ』!」

 

「だからコーバスだって! てか棺って何よこの状況でなに物騒なこと――――っ!?」

 

 ――瞬間、俺の視界を真っ黒な何かが覆った。

 

 顔面を閉ざす黒い影に両目が埋もれる中、11号が俺の身体に触れたことがわかった。

 言うなればそれは、停車予定のない快速列車の車両へ扉から転がり込むような無茶振り。

 だが、11号の身体能力は決して伊達ではない。

 いつぞやの任務で単独で立ち向かっていた鋼鉄の赤い巨人を相手に御せるほどのポテンシャルを誇るそれは、成人男性一人を抱えることなど造作もない。

 

 

 結果――何がとは言わないが女性特有の、女性の身体においてひと際柔らかい胸元にある二つの物体を顔で受け止めながら、後部の(くち)を開けるバンへ11号と共に転がり込んだ。

 

 

「――――」

 

 漂白される思考。

 戦闘の熱も、この妙ちきりんな事態に対して唸っていた頭の一切を白紙にする情報量。

 一周回って冷静になった頭はしかし、11号の言っていることすら何も認識してくれない。

 勢い余って頭を盛大に打ち付けても何も感じない。

 俺を抱え込むように飛び込み、組み敷かれるように俺の上へ覆いかぶさっている彼女に対しても何も抱くことはない。

 

 なんも含むところなんてない筈なのに――もうなんか、色々目の毒だった。

 

「一時はどうなることかと思ったけれど――流石は隊長、この流れを読んでいたようね」

 

 俺を下敷きにしたまま当の11号は能天気にそんなことを呟いている。

 能天気なのはどっちだ、なんてツッコミは精神衛生上の問題により決して受け付けない。

 されるがままになって共に飛び込んだその場所は存外に広く――そして俺にとって思いがけない光景が待っていた。

 

『――全く、無茶が過ぎるぞ11号! 連絡くらい寄越せ! 24時間体制でお前からの連絡を待ちわびているこちらの身にもなれ!』

 

「返す言葉もありません鬼火隊長……オルペウスも、手間をかけたわ」

 

「いいえ、これは戦術プラン『追跡.4』でありますので」

 

 

 ――それはいつしか遠いものになっていた、軍人たちが集う光景だった。

 

 

「――――」

 

 

 突如として湧き上がる諸々の感情に息を呑んで蓋をする。妙な懐かしささえ感じるその光景を見渡して、そこでようやくその異様さに気づいた。

 

 粛々と返す11号を叱責する知能構造体……否、おそらく例の人間の意識を知能構造体の体に移す実験の産物だろうか。

 

 竜の頭を模したそれは赤い銃身で言葉を綴り、発言の節々より滲み出る苛烈さを示すように火を噴く口元であろうそれは容赦なく11号に詰め寄っている。

 一目でわかる11号のえらく畏まった様子と、その声音から恐らく女性であろう『隊長』と呼ばれた知能構造体の彼女たちのやり取りに、俺は何も言い出すことが出来なかった。

 

 というか、転がる俺をそのままにされてしまっているので俺にはどうしようもなかった。

 

『とか言いつつ、誰よりも11号を心配してオルぺちゃんを振り回していた鬼火隊長なのであったー、まる』

 

「は、はわわ! シード! しーっであります! そんなこと言ったら鬼火隊長の機嫌を決定的に損ねてしまうのであります!」

 

 車内から聞こえてくるスピーカーの間延びした緊張感の無い声に反応するのは、何やら軍人らしからぬおどおどした態度で話す三角の耳を持ち、あるいは竜が持つような捻じれた角を持つ赤髪の少女。

 

 奇妙なのは赤髪の少女より伸びる尻尾を模した、黒地で伸縮自在の柔軟な素材より加工されたであろうソレの先端には、ガミガミと文字通り気炎を吐き続ける隊長と呼ばれた銃身がガス欠寸前のバーナーの如く火を噴き続けている。

 

「そもそもこの救出作戦そのものが大いに無茶でしたので……それはそれとして、無事で何よりです。玄飛くん、11号」

 

 ……驚きが、見知った顔の登場によって二周目を迎える。

 

 つまりは冷静を通り越して頭痛。

 

 ひょこりと助手席より顔を覗かせ、スコープのついていない特殊な銃身の弾を装填しながらそう呟くのは、先日の『モグラさん』以来となる兵士の姿だった。

 

「か、カロ……じゃなくて、今はトリガーだったか? ど、どうやってここに」

 

「それを話すとちょっと長くなるのですが……今は撤退を優先しますよ――もっとも、この車から生きて出られればですけれど」

 

 ……何やら不穏な言葉で最後を締めくくっていたことに盛大にツッコミを入れたかったのだが、それはなんだか怖かったのでやめておいた。

 

 理由はほかでもない。

 そう呟いた彼女の感情を示すバイザーが深い、それはとても深い青の光を点灯させていたからである。

 

 一体これから何が起きるんだと、先行きの無さに眩暈がした頃だ。

 

『――というかそんなところでいつまで寝そべっているんだ貴様ァ! 11号もさっさとどかんか! 戦場で破廉恥な体勢で受け身を取るなど恥ずかしくないのか!』

 

「え、えぇ……」

 

 未だに銃声が鳴り響く車内に、赤い灼熱が肌を焼く感覚を捉えた。

 

 なんなら外で絶賛銃撃中の敵よりよっぽど俺に対して敵意を文字通り燃やしてる気がした。

 

「お、鬼火隊長! ここ車内であります! 火器の使用には細心の注意をでありまして……!」

 

「火器どころか控えめに言って焼却炉のソレですけどね……」

 

「いやそこは車より燃えるゴミと化している俺の心配をするところじゃ――ってそうじゃなくて! ここはどこ!? これはなに!?」

 

 もうなんか色々説明して欲しいというのが俺の切実な願いであった。

 未だに銃声が聞こえてくる外側の出来事より、このただならぬ状況への適応を求めてとにかく何でも良いから答えが欲しかったという心境。

 

 だがこんな状況だというのに楽し気に響く鈴のような声に、この俺の切羽詰まった感情は微塵も届いてない気がしていた。

 

『よくぞ聞いてくれたました!これは趣味と実益を兼ねた試験機、遊びと戦闘兼用の豪華RVだよっ!』

 

「おい注釈とか脚注とかついてないのかこのナビゲーションピクシー!?」

 

【車はブルンブルン♪】

 

「今度は何!?」

 

「クラクションよ。流石はシード、軍の備品も彼女の改造の前では形無しね」

 

「言ってる場合か11号! 車検どころか軍の認可通んないぞこんなの!」

 

 駄目だ、口を開いたら開いたでこの情報量、明らかに過積載だ……っ!

 つーかマイペースの極みかこの子ら!  

 遊び(語弊)と戦闘は果たして兼用できるものなのかとか、そもそも彼女らはなんなのかとか――。

 

『説明は後々~。というわけでしゅっぱーつ、しんこーう!』

 

「――掴まっていてください皆さん! 備えないと私たちでもただじゃすみませんよ!」

 

「どぅわ!?」

 

 鈍重な車であることを忘れさせる重い加速に再度(したた)かに全身を強打させられる。

 無人の運転席から聞こえる顔を見せない妖精、11号より『シード』と呼ばれた軍人。

 どこか掴みどころのない言動と年齢不詳な幼さが残る振る舞いは、アクセルのベタ踏みと言う形でその奔放さを実感させられる。

 

 この滅茶苦茶というか奔放さ、そしてある種の無法さとこのマイペースっぷりは間違いなく11号の系譜を感じさせる――つまりはそういうことだ。

 

 これこそが彼女の所属、『オボルス小隊』……!

 

『シード! プロキシに合図しろ! 最短最速でランデブーポイントまで真っすぐだ!』

 

「プロキシ……!? まさか、『パエトーン』がここに!?」

 

『狼狽えるな! うちのトリガーが説明した通りだ! プロキシだからってとって喰うような真似はしない! 無論、()()()退()()()()()()()()()()()!』

 

「頼もしい! 敬意を込めて鬼火隊長って呼んで良いですか!?」

 

『貴様のようなバカを部下に迎えた記憶は――ぐっ!?』

 

 どういう意味か詳しく聞きたい、と軽口を呟く暇も余裕もない。

 道なき道を行く黒い車体。 

 体の芯を貫く衝撃はフロントより伝わってくるコンクリートの壁を力技で押し通る破砕音から。

 反乱軍たちの拠点として使われた朽ちかけの廃墟の壁などお構いなしで突き進んでいく。

 車道、もとい正規ルートなんてお構いなしの、戦車道よろしくの突貫走法。こんなの重機じゃないってだけで解体工事となんら変わらない。

 

 それこそ搭乗者の俺達より先に車がくたばり果てそうな荒っぽい運転であった。

 

『おいシード、運転は命大事にだ――無論、この男以外のな!』

 

「なんで俺だけ!?」

 

『まっかせてー! この前やった『殺人自動車3』ってゲームと同じだから!』

 

「おい隊長、今この子なんて言った……!」

 

『私も知るか!? あと隊長と呼ぶな!』

 

 命大事にって言っただろ!

 それ人を撥ねたり銀行強盗したり車を強奪(ぐらんどせふとおーと)したり人を撥ねたりするゲームだろ!

 

 ……なんて、文句を言っていられるような暇もないらしい。

 

 ぎゃーぎゃーとやっている車内より伺える窓の外で、光源と熱を伴った衝撃と爆音が思いっきり車体を震わせた。

 

「後方より熱源と砲撃!」

 

「つまりはパパラッチか!」

 

『砲撃を使うパパラッチが居て堪るか! 追手だ追手!』

 

「だ、大分癖が強い御仁でありますね11号……」

 

「どのような状況でもあんな発言が出来るのが彼の味よ」

 

『う~ん、この順調に毒されてる感と会話のチャンネルの噛み合わなさ。いつもの11号だね』

 

 あまりにもあんまりな状況も相まってついジョークが零れてしまうが、それだってスパーンとしなりの効いた銃身で俺の頭を引っ叩いてくるうえ、それを口々に好き放題言われる始末。

 このヘンテコな編成によるカーチェイスの最中であっても、各々がナイフを、大鉈を、ライフルを構えだしているのは流石と言うべきだろう。

 

『トリガー、目標地点への到着時間は!』

 

「2分と35秒後です!」

 

『アクセル踏み込めシード! トリガー、11号! 戦闘配置につけ! この場で振り切るぞ!』

 

 赤い銃身より飛ばされる指示。

 後方より追跡するはこれまたハイテクな装甲車が三台。

 ゴーグルの視界で捉える認識を拡張すれば、その運転席には反乱軍の装備を身につけた兵士の姿が見える。

 

 それだけじゃない。

 装甲の厚さも、搭載する兵力も携行する火器も中々のもの。

 対して、この車は先程シードと呼ばれた彼女が言ったように実験機、あるいは何かの検証用に用意したものなのだろう。隠し武器や内蔵火器などは確認できない。

 

 であれば、鬼火隊長の指示を逆算して俺のすべき最適解を選び行動に移すまで。

 

「――撃退できれば良いんだな!」

 

『待て、どうするつもりだ!』

 

「前線組を援護してトリガーに繋ぐ! どうせ射撃が出来ない脳筋ばっかりだ! だから俺が敵陣に先行して乗り移って弾幕を防ぐ!」

 

「隊長、私が彼の援護に。作戦はともかく、狙いに関して私は彼に絶大の信頼を置いています」

 

『……なら合図を待て! シードにスピードを落とさせ接敵する――振り落とされるなよ!』

 

 その言葉に、鬼火隊長の意図を察する。

 この追跡劇において思考に耽る暇はない。鬼火隊長の言葉からして、作戦の実行まで残り10秒もない。

 

 すかさず窓を開けて、11号と俺、それに追随する形でトリガーが車の屋根に飛び乗った。

 

「それで、段取りはどのように!」

 

「鬼火隊長の言う接触と共に11号と他の車両へ飛び移る! キミは弾幕の隙を頼む!」

 

「タイミングが重要ね。あなたの消耗の具合は?」

 

「まだまだ行けるぞ。さっさと敵をやっちまおう」

 

 風が頬を殴りつける車の屋根で展開される言葉を、作戦遂行中の耳はエンジンと向かい風のさなかであろうとも正確にそれを拾い上げる。

 弾丸の飛来する仮初の卓上。

 そこに新たな火兵を伴って、この追跡劇を生み出した装甲車の群れに――装甲車の屋根で武装を構える敵兵士達へ向き直った。

 

「……了解。お二人の背中は私が護ります」

 

「接触までおよそ2秒。間もなくよ」

 

 屋根にて各々の武装を構えて敵と向き合う動きに戸惑いも澱みもない。

 武器に込めるのは迎撃の意思のみ。

 銃身へ雷光が迸る。

 刀身へ猛炎が宿る。

 双刃へ炎雷が灯る。

 

『――今だ、飛べ!』

 

「――突入!」

 

 車内より聞こえる怒号と共に――三者は跳躍した。

 

 眼下に広がるは接触を果たした黒い車体と敵の装甲車による火を撒く落花。

 

 鉄を打ち付ける衝撃は俺達に及ぶことはない。

 

 トリガーはその人類には到底持ちえない両目を失ったことによって獲得した『第三の眼』。

 その視覚で以て衝撃の余波による車体のブレ、影響範囲の全てを見切り、宙を返って乗ってきたバンの屋根に着地する。

 

 俺と11号はその衝撃が及ぶ前に前方へ跳ぶことで、敵陣たる先頭の装甲車の一台へ乗り移り――ほぼ同時に刃を振るった。

 

「迎撃――!?」

 

 たたらを踏む兵士達のそんな声が聞こえる。

 余人であればただの接触事故でしかない現状において、足を一瞬だけ地面から放しつつも武器を手放さず迎撃態勢を崩さないその姿勢は評価に値しよう。

 

 だが、俺と11号に限った話で言えばそれはあまりにも遅い。

 

「こ、こいつら、こんな足場でなんて動きして――!」

 

 その言葉を最後に、次々と兵士たちが切り伏せられていく。

 

 展開するもう一つの戦場は、目算で100キロは下らない。

 尋常じゃない速度で後方へと追いやられていく景色を背に映る敵の姿は静止画か切り取られた画のよう。

 

 足場とすら称するのも烏滸がましい、速度の世界。

 それでも、互いの描く場にそぐわぬ剣の軌道に淀みはない。

 袈裟斬り。下段。上段。切り上げ。

 地面を滑走する車輪が生み出す速度と振動で足場が絶えず揺れ動く中、振るわれる剣に迷いは一部たりとも現れることはない。

 

 大気を切り込む灼熱が刃の軌道を紅く辿る。

 弾丸と化した車体を上回る速度で轟く炎雷が獲物を稲穂のように刈り取っていく。

 俺と11号の武装が近距離仕様なのも功を成した。

 

 そしてその間合いの中に明確な『隙』を見せてやればこの通り――それを縫うようにして、弾丸が飛来し兵士の装備を貫いていく。

 

「ナイス援護! 相変わらずサポートの鬼だなカロン!」

 

「油断しないでください玄飛くん! まだ追ってきますよ! あとトリガーです!」

 

 活を入れるように叫ぶトリガーに成功の余韻は感じ取れない。

 

 だがその言葉にはどこか戦場に似つかわしくないフランクさというか、気やすさというのを感じ取れてしまうものだから、思わず苦笑いが浮かんでしまう。

 

 こちとら、まともな再会の挨拶も出来てないというのに。

 

「玄飛くん! 現状の維持は得策ではありませんよ!」

 

「わかってる! トリガーはそのまま屋根に乗ろうとする戦力を削っておいて! その間にやりたいことがある!」

 

「何か策があるのですね!」

 

 トリガー、やはり馴染みということだけあって話が早い。

 

 銃弾が飛び交い、視界の中で弾丸の雨霰が空中と刃で無数の衝突を繰り返し、一瞬の火線を空間に刻む戦場において、その一つ一つが的確に敵の隙を突き、俺達が生み出した敵の隙へ弾を差し込んでくる。

 

 『狙撃手』というポジションに囚われない、近接格闘の間合いで戦う全距離対応(オールレンジ)の銃手。

 

 千里にすら届く眼光と、銃撃の間合いで放たれる文明最先端の暴力の権化は伊達ではないということだろう。

 

 そして何より、俺の動きだ。

 

 体に染み付いた動きが消えない、ということもあるだろう。

 たとえ一度でも()()()()()、肉体に刻み込んだ技術はその得物の切っ先に至るまで戦の術理と蓄積は簡単に消えるもんじゃない。

 

 だが、それより何より――時折見る『悪夢』が皮肉にも、想起される戦場に合わせてその動きを復元していっていることがわかる。

 

「『ブラックコーヒー・シンセサイザー』、何をする気!」

 

「だからコーバスだって! 車体を吹き飛ばす! それにはこの前の合流の時にやったやつだ! ほら、『モグラさん』のロボぶっ壊した時の!」

 

「――了解!」

 

 紙一重の攻防の最中、合いの手のように交わる言葉にそれ以上の追及は無粋というもの。

 石を打つような火花を散らす11号の大鉈。

 刃を赤熱化させるに留まっていたそれらはその平時の出力を凌駕し――閃光を撒き散らしながら炎の柱としてバックパックに携えた剣より疾走する。

 

「サラ、火力の調整頼むぞ! エアリスは火力の演算とトリガーの感知の補助! 万が一でも撃ち漏らしを当てるなよ!」

 

「「ワナワナ!(了解!)」」

 

 こちらも演算が完了する。

 出力の模倣。

 属性の臨界。

 小気味良いボンプ特有の返事と共に、交差させた刃が蒼爀を纏い、空間という器から溢れ出るように白い光を放つ。

 

 そして――炎を疾走させた大鉈を構える11号に向けて、双刃を振りかざした。

 

 

「「はっ――――!!!!」」 

 

 

 俺と11号。

 

 

 紅蓮と蒼穹が光の軌跡を描いて――衝突した。

 

 

「「「「ぎゃああああ!?」」」」

 

 ホロウの闇すら反転する閃光。

 刃と刃が触れ合うことすら拒む、尋常ならざる力場。

 蒼爀が溶け合い、無色の力場が光となって生まれるは純粋な高純度のエネルギーによる衝撃。

 

 足場にしていた車体が吹き飛ぶ。

 そこだけ重力が何倍にでもなったかのように、べこりと作り出されるひしゃげた装甲車。

 叩きつけられ、跳ねるように飛んだ重量級の車が生んだ衝撃は他の車も巻き込んで、派手な玉突き事故のようにこの絶速の世界より離脱していく。

 

 そして――後方より飛んできたトリガーの弾丸によって、ひしゃげた車は爆散した。

 

 

「――――」

 

「――――」

 

 

 遅延する世界で足が捉える、硬い車の装甲の破片。

 

 俺と11号は空中へ吹き飛ぶ体をそのままに――それらを足場にコンクリートを滑走し、元のヘンテコなバンの縁取りを掴み合流した。

 

「見事です、二人とも――!」

 

 バンの屋根から声を掛けてくるトリガーに、サムズアップで応じる。

 後続車へと車をぶつけて敵の攪乱と無力化。

 その後詰めにトリガーの弾丸を撃ちこむという、即席にしては悪くない連携に俺も満足だ。

 

「手馴れているのね。ブランクじみたものを感じないのは『クリムゾンアイズ・ハーミット』の影響かしら」

 

「そりゃ()()()()()()()()()これくらいは――――……いや、なんでもない」

 

 11号とトリガーと共に窓から転がり込みながら、余計なことを口走りそうになった口を強引に閉ざす。

 

 逸らした視線の先から感じる強い気配を、つとめて黙殺する。

 

 ここには、余計なものが多すぎる。

 

 言うならもっと人がおらず――自分の口から、だ。

 

『よくやった11号……それに貴様も、言動に反して中々良い動きをするじゃないか』

 

「おぉ、ありがとう隊長」

 

『だから隊長じゃない!!! オルペウス、このあっぱらぱーの頭蓋をブチ抜け!!!』

 

「まぁまぁ鬼火姉さん……」

 

 窓から顔を出してぽろっとそう零せば、文字通り烈火の如き反応を見せる鬼火隊長。

 それを嗜める……オルペちゃんと言ったか、その流れは様式美と言って良いほど馴染んだやり取りであった。

 

 そんなやり取りに密かに和んでいると――ゴーグルの端で火器管制のレーダーより危険を知らせるアラートが表示された。

 

『ンナ! ンナンナ!(前方! 敵弾捕捉、敵弾捕捉!)』

 

「カロン! 視認!」

 

「トリガーです! 前方より砲撃! 距離からして空中での撃ち落としは不可です!」

 

『アクセル踏み込め、シード! 総員衝撃に備えろ!』

 

 獣の如く唸るエンジン。甲高く摩擦を生み出しながら黒い軌跡を刻む車輪。

 

 そして――そのすぐ横を飛来する弾頭を視認した。

 

 瞬間、重々しい轟音と衝撃。

 (つたな)いハンドル捌きよって蛇行する車体に振り回される最中、窓の外で一際強く、大きな光と爆発を生み出した。

 

 黒煙によって埋め尽くされる視界のさなか、エアリスのサポートを得て俺はソレを視認した。

 

「回り込まれたな。丁寧に装甲車でバリケードを構成してる」

 

『先程の部隊はこちらを捕捉し確実にあの布陣を作り上げるためのデコイ……!』

 

「……先程から直接戦闘に参加せず、敵を追い込むような布陣……気に入らないわね」

 

 ……11号の、さも知っているかのような発言が妙に引っかかる。

 

 引っかかるが、今はこの事態に対して適切な対処をしなければ。

 

「シードちゃん。この車に搭載されている武装は?」

 

『実験機だからねぇ~。火器管制のシステムは未完成で何も搭載してないんだなーこれが』

 

『突破するにはパワーが足りんぞ!』

 

「……カロン、援護しろ! ギリギリまで引き付けて俺がこの車両を飛ばす! 11号にはどうにか『道』を作って貰って――」

 

『――あ、だったらさー』

 

 俺達の即席の行動に対して冷や水を浴びせるように能天気な声がスピーカーを通じて聞こえてくる。

 

 奇しくも嫌な予感を覚えるのは、この爆走道中を思えば当然の反応だった。

 

 

『――ちょーっと試したいスペシャルなエンジンがあったんだよねー』

 

 

 しん、と空気が一際冷え込んだ気がした。

 エンジン音が妙にはっきりと耳元まで届いている気がする。減速せず、加速を続けているというのに移動している気がまるでしないのは、まず間違いなくこの車内に充満するこのおかしな空気の所為に違いなかった。

 

「……えっと、スペシャルって?」

 

『見ればわかるよ――むん!』

 

 なんて言葉から数瞬。

 バンの車内の中心部から、煙を立ち上げながら出現するのは、配線やら基板やらが剥き出しになりながら、何やら毒々しい緑の光を放つ四角の箱。

 

 その表示には――何とも重々しく10秒のカウントを赤いランプと共に刻んでいる。

 

「隊長、俺の小動物的危険本能がこの車から今すぐ降りろと叫んでいる……!」

 

『貴様ァ! 一人だけ抜け駆けは許さんぞ! 死なば諸共だ! 少なからず貴様の命は貰っていく!』

 

「目的変わってませんか鬼火隊長!?」

 

「シ、シード? 確かそのシステムはまだ未完成なうえ確か燃料の調合もテキトーとか言ってませんでしたか……?」

 

『僕はいっこうに構わんっ!』

 

「距離50――総員、対衝撃姿勢!」

 

 そのカウントを容赦なく無慈悲に進めていく四角の箱の赤い数字。

 

 8、7、6、5、4、3、2、と。

 

 秒数がその間際を示していくたびに、不気味な緑の光は徐々にその輝きを増しており、現在進行形でその内部出力を向上させていく。

 

 11号なんてもうこの後の展開を色々察してか、とんでもないことを抜かしていた。

 

「これが、オボルス小隊……!」

 

『違う!! 絶っ対に違うからな!!!』

 

「言ってる場合でありますか!? は、はわわ、シートベルトシートベルト……! あぁーでも間に合わないぃー!!? このままじゃミンチにぃ……!」

 

『えいっ』

 

 

 ポチっ、と。

 

 

 間抜けな音が通信越しに鳴ったのとほぼ同時に。

 

 

 搭載されたエンジンがエグめの悲鳴を上げながら、甲高く加速を開始した。

 

 

 

 

「「「『うわああああああああ!!??』」」」

 

 

 

 

 そこには俺達を颯爽と助け出してみせたプロフェッショナルな軍人たちの姿はもうない。

 

 そりゃもう、バンは敵の悲鳴か味方の悲鳴かもわからんほどの尋常じゃない速度で道路を滑走した。

 

 

 否、もう走っているというよりかは飛んでいる。飛んでいるというかこれもうただタイヤが地面を滑っているだけのような気がしてならない。地面から離れていない現状が何よりも信じられない。

 

 ついに窓が割れる。ひび割れてから捲れるみたいに持ってかれた窓の破片が車内に侵入し、それこそ弾丸みたいに車内で暴れまわり車の外に追いやられた。

 

 一部の車体の装甲が剥がれ、安っぽい車の塗装みたいにみっともなく剥がれて風に流される。

 

 立ちふさがるバンの集団は、もう目の前だ。

 

 

『ハイスコア~!』

 

「よせよせよせ――――!」

 

 

 これ以上どうするってんだ、という訴えを含んだ声は聞き届けられることもなく。

 

 

 尋常じゃない速力によって生じた衝撃で車内は揺れて、車の外でこのモンスターカーの猛進によって刻まれた恐怖と痛みを含んだ敵の悲鳴ごと踏みつぶしながら突破していった。

 

 

「よ、よぉし! 連中は撒いたぞ! スピードを落とすんだシードちゃん!」

 

『あ、それは無理。ブレーキ無いんだこのシステム』

 

『なんだと!?』

 

「未完成って言ってましたからね……!」

 

「実用兵器として採用するには、まだ課題点が、多そうね……!」

 

「ハイスコアって言ったじゃないですかぁ!」

 

『じゃボーナスステージだー!』

 

 

 口から入り込む暴風の如き風圧を前にぶるぶると唇を揺らしながら問いただせば、そんな危機管理がバグった発言がスピーカーから紡がれていく。

 

 そして、更に悪いことというのは重なっていく。 

 

「おいおいおい、こっから先やばいぞ!!!」

 

『ら、ランデブーポイントは本当にここから先で良いんだな、シード!』

 

『そうだよ! このまま真っすぐ!』

 

「じゃあなんで()()()()()()()()()()()!!??」

 

 

 未だに猛烈に『零号ホロウ』の内部を走り続けているこの車に待ち受けている運命は、まさかの崖っぷち。

 

 エーテルによる侵蝕を受けたのか、あるいはエーテリアスによる破壊があったのか、大橋を形成していたであろうその場所には視界に描かれてしかるべき『橋』と呼称する形状のものが存在していなかった。

 

 

「――――!」

 

 

 冗談抜きで、11号と見るからに精神的に幼く戦場慣れしていないオルぺちゃんを来る衝撃に備えて抱え込む。

 

 

 俺のそんな行いに対する反応を許さず、せめて俺の背中がクッションになるよう彼女たち二人の身体をどうにか覆うように囲い込んで――

 

 

『――――大丈夫! そのまま真っすぐ行って、オボルスの皆!』

 

 

 そんなどこかで聞いたような声と共に。

 

 

 

 車一つを飲み込む大きな裂け目に向かって飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 




 マダガスカルシリーズでは『3』が一番好き。
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