脱ニート中の元職業軍人の俺が炎の銀兵士に詰め寄られている件 作:ライハイト
◇
命令を受け取ったボンプ姉妹が揃って不満そうに電子音を漏らす。
それでも二機はそれ以上の抗議を口にすることなく、しばしの沈黙の後……起動準備を終え待機状態へと移行し、俺の首元へその丸っこくやわっこい表面をぐりぐりと押し付けて来た。
聞き分けが良いのやら、悪いのやら。だが今はこれで良い。
あとは時が来たら実行するだけ。
『死』が怖くないわけでもない。
これ以上迷惑をかけて生きるのは……正直生きている以上にしんどいとか、そういうことである。
「――玄飛くん、監視が位置替えを始めました。仕掛けますか?」
「いや、いいタイミングだよ」
作戦の実行にあたって眼下に施設を一望できる位置に移動した辺りだった。
敵の動向の監視にあたっていたトリガーからの報告を受け、そんな思考を切り上げる。
予後への諸々の迷いや葛藤は、一先ず後回しだ。
「それじゃあお仕事開始だ『パエトーン』……あぁ、お仕事開始。なんていい響きなんだ」
「この感じ、発作の兆候よ。『クリムゾンアイズ・ハーミット』」
『ちょっとー? トリップするなら後で部屋で一人でやってくれる~? 時間だってあるわけじゃないんだからさ』
「……し、しとらんが? な、11号」
「いえ、腐った生麺のような顔をしていたわ」
「ただの悪口」
しかも割と度を超えてるやつ。いったいどんな顔だそれは。どんな顔をしてれば良いんだ俺は。
開幕早々に相も変わらず袋叩きにされる俺だが、リンちゃんにのってきた11号やトリガーを含めた他の面々に油断はない。
一人アウェーな空気に若干気後れしつつ、ぽんぽんとボンプなリンちゃんの頭に手を置いた。
「そ、それでだ『パエトーン』。ここから施設の構造は確認できるか?」
『ちょっと待ってね……この施設の古い記録をサルベージしたよ。けど明らかに新築というかリフォーム済みだし、内部の情報をあてにし過ぎるのは危険かも」
「増改築してるってことか? 俺も勝手にエンゾウさんから借りた部屋をDIYして治安官沙汰になったな」
『それは一度ぶっ飛ばされておいた方が良いと思うよ……出力できたよ、見取り図。エアリスの方に送るね』
リンちゃんの声に応じ、送信された諸々の情報が視界に捉える施設を透過するようにしてゴーグルに表示される。
曰く、元々は港で搬入した物資の管理を行っていた場所なのだとか。
空中に張り巡らされた鉄骨めいたレールに設置されているクレーンアームや、ぶら下がるコンテナの残骸などは恐らくかつての作業跡なのだろう。
そして搬入する物資から備品であろうクレーンやコンテナに至るまで一通り管理していたのが、ツイッギーが根城にしているらしきあの施設のようだ。
つまり、である。
電力もある程度の通信も、なんらかの『用途』においても廃墟と化した施設内部に残っていたものをそのまま転用すればそのまま使えるということになる。
ホロウ内であるためある程度の活動限界はあるのだろうが、隠れてコソコソ何かをするにはもってこいの場所なのであろう。
「意外に広いな……トリガ、追加で情報は」
「監視の配置と人数は把握しました。外周に六名、施設内部にも複数の出入りと反応を確認できますね」
「人数までは正確に把握できないか……少数精鋭で押し切るには、ちょっとリスクがあるな」
「突破そのものは可能よ」
11号がなんてことないように告げる。
まぁ、彼女の腕前とこの面子であればその考えも間違いではない。
ただ、今回の目的は敵を皆殺しにすることではなく、ツイッギーとの接触。
ここまで市政と軍の追跡を振り切ってきた存在がバックにいるのだ。必要以上に騒ぎを起こし混乱を招けばそれだけ相手に時間を与えることになる。
だが、選択肢の一つとしては悪くない。
「それじゃあ二手に分かれよう。パエトーン、トリガー、アンビー、連中の気を逸らせるか」
「……具体的にはどのようにするつもり?」
「トリガーとアンビーには外で派手に暴れて貰う。リンちゃんは二人の支援といざという時の脱出ルートの算出を頼みたい。出来れば何パターンか」
『え、私もそっち?』
「うん。こっちにはエアリスがいる。リンちゃんとトリガーには外からの『眼』になって欲しいんだ。連中が妙な動きをしたら俺に伝えて貰いたい」
俺にはトリガーほどの眼と感覚も、『パエトーン』のような演算能力もない。戦闘以外であれば二人の補助に回るのが関の山というものだろう。
よって、能力の割り振りとしてはこれが最善。
あと、出来れば大所帯での潜入は避けたいというのが俺の狙いでもある。
「私からもお願いするわ、『レッドブル・サラマンダー』」
『……別にコーバスの能力に今更疑問を抱いてるわけじゃないよ。ただ――』
「わかってる。彼には私が目をつけて置く……色々危ういのは、今までの言動から嫌でも理解しているから」
『……わかった。11号がそういうなら任せて』
……いまいち信用があるんだか無いのだかわからない会話内容である。
まぁ、大方内容には察しがついているし、言いたいことはわかるのだが、それ俺の前でやるのはどうなの? って感じだ。
とはいえ話の腰を折ってる時間はないので、深くは聞くまいが。
「ちなみに言っておくが、Aちゃんも一緒に来て貰うぞ。これ決定事項ね」
『え』
俺の言ったことが意外だったのか、目を丸くするボンプ姿なリンちゃんを始めにトリガーも11号も思わずと言った具合で俺へ視線を送って来る。
まぁ、無理もない。
Aちゃんは11号やアンビーと同じ『シルバー』の技術によって生まれた子ではあるが……お世辞にもその戦闘力は高いとは言えない。取り繕わず言えば皆無と言って良いだろう。
普通はこういう子は危険から遠ざけ、戦場に招き入れるとしても確実な逃走手段を用意してやってようやく釣りあいが取れると言うレベルだ。
それを屋外ではなく屋内に。
加えて命からがら逃げて来たであろうAちゃんを、そうせざるを得なかった元凶にまた近づけようというのだからこの反応もわかるというもの。
故に、目下の問題はこちらに強い疑念を抱いた視線を送って来るアンビーの存在だった。
「……どういうつもり。今更あなたのことを疑ったりはしないわ。でも、だからと言って全てを許容したわけじゃない」
「わかってる。だからこそ、俺の目の届くところにいて貰うんだ」
「……なら、私も潜入する。これで問題ない筈よ」
「――それはダメだ。今のキミをあの子に会わせたら、どうなるかわからない」
強く、これで止まってくれという語気を込めて、そう告げる。
……思わず強い物言いになってしまった。
それを証明するようにアンビーは二の句が告げられなくなっているし、トリガーも11号も静かに動向を見守りつつも俺の話の続きにより注視している。
わかっている。
アンビーからしてみればどの口が、どのような権利があって言っているんだって話だ。
でもダメなのだ。今日、アンビーと話していてわかった。
勝手な推測だ。我ながら地獄に堕ちろと思われても仕方のない所業である。
だがあの日、あの場所でツイッギーと言葉を交えたからこそ、嫌な確信だけが俺の胸の中で根付いてしまっている。
もし彼女と対面させてしまえば、それが最後の一押しになってしまうと。
「……ごめん、強く言い過ぎた。でもなアンビー、ツイッギーと話をするならAちゃんが適任だ」
「……それは、どうして?」
「キミは『過去』で、この子はあの子にとっての『今』だからだ」
『過去』というものは本当に厄介なもので、毒にも薬にもなりうる。
時には孤独を癒し、時には孤独を実感させる。
……そして大抵の場合、それはどうしようもなくなった『今』の自分を見せつけられる指標にしかならない。
ツイッギーの場合は、どうだろうか。
アンビーのように過去に折り合いをつけて生きていられたのならそれで良かった。
11号のように過去に囚われつつも、それでも強く正しく生きられていたのならそれで良かった。
だがツイッギーは、そのどちらでもない。
あの日接した彼女に、そのような前向きさは微塵も見られない。
もう手に入らない過去に執着するのも、
それは俺がこの場で誰よりもよく知っているつもりだ。
『……わたし、行く』
「A……」
諫めるようにAちゃんへ視線を向けるアンビー。
だがそれも一瞬だ。
Aちゃん自身がアンビーと俺達の顔を交互に見つめながら、小さいながらも力強く頷いている光景を見れば、そんなこと言える筈も無かった。
『……嫌いって、もう顔も見たくないって、言われるかもしれない……でも……行きたい……もう一度、会いたい……』
『……じゃあ決まりだね。11号、アンビーの代わりにその子をちゃんと護ってあげてね』
「問題ないわ。彼女の安全は私が保証する…………だからアンビー、あなたはあなたの命令を全うしなさい」
「11号……わかったわ。私は、私が出来ることをする」
これなら、もう大丈夫だろう。
これを切り出した時点でもう少し俺からのテコ入れが必要かと思ったのだが、思わぬところから11号がフォローを入れてくれたのが幸いした。
ずっとどこか上の空で調子の上がり切っていなかったアンビーも、今の言葉で随分と持ち直してくれたようだった。
わかるよ。
どんな形であれ、家族から頼られるってのは嬉しいものだ。
「よーし……リンちゃん、換気設備の稼働状況を確認してくれ」
『……え、もしかしてそこから入るつもり?』
「そりゃ玄関から入るわけにもいかないし。まぁピンポンダッシュ組のキミらからしたらあまり関係の無い話だろうけど」
『あながち間違ってないけどその呼び方やめてくれない……?』
それは無理。
そんな軽口を交えながらゴーグルに屋内設備の細部を映し出し、リンちゃんが『パエトーン』としての電子戦技能を使ってついでと言わんばかりに俺の移動ルートをマークしてくれている。
相変わらずのさり気ない気遣いに苦笑いを浮かべつつ、11号を含めた各位に移動を指示していく。
トリガーとアンビーは施設の正面入り口を閉ざす正門へ。
リンちゃんは二人を支援できるほどほどに後方へ移動し、俺達は建物の裏手へと回り込む。
そして腕の耐侵蝕仕様の電子時計が時間の経過を示した辺りで、再度各員へ通信を繋げた。
「感度良好。各員、配置に着いたわね。A、私から離れないで……『ダークローチ・ミラーディメンション』、号令を」
「だからコーバスだって……うんまぁ、取りあえず作戦開始で」
『電子系の攪乱と援護は任せて! 派手に暴れちゃって! トリガー、アンビー!』
『ふふっ、大船に乗ったつもりでいてください、プロキシさん。では行きましょう、アンビー』
『……頼んだわよ、コーバス』
こうして。
これまで明確に見えてこなかった敵の本陣へ、いよいよ足を踏み入れるのだった。
◇
「馬鹿な、侵入者だと!? どうやってここを突き止めた!」
「わ、わかりません! 数は二名とボンプ一匹! 現在は正面入り口を警護していた者たちでどうにか応戦中です!」
「ここにいる連中をかき集めて早急に始末しろ! 一人も逃がすな! ここを嗅ぎつけられたら軍どころか『新エリー都』にすらいられなくなるぞ!」
「は、はっ!」
雷鳴のような戦闘の音が聞こえてくると共に、錆びついた金属の臭いと古い機械油の残り香が混ざり合ったものが鼻を突く。
それらの音から判別するに、作戦は依然として進行中ということだろう。
一寸先が暗闇であるお世辞にも良好とは言えない視界の中で差し込む、この閉ざされた空間において数少ない隙間であるダクトの通気口から差し込む光は幾度も人影が横切り、慌ただしい足音と怒号が次々と遠ざかっていく。
それを見計らい、ハンドサインで俺の後方に同じく
……Aちゃんだけピンとこずに、何やらあたふたしていたけど。
「エアリス、俺達の作戦の進捗と移動ルートは常にリンちゃん達と共有しておいてくれ。サラ、キミはAちゃんの護衛を優先しろ」
「ンナンナ……ンナナナナ、ワナワナ?(いつから我々は配管工に……そして相方には炎使い、ごすじんは腐ったキノコのような男。キノコとは食われる運命。やることは一つだね?)」
「ンナナナ――(それってどこのマリ――)」
「それ以上はよせお前ら……! 戦うしかなくなる……!」
「あなたは口より腕を動かしなさい」
「にしても……やっぱ狭いな」
「そうかしら。私としては寝泊まりするのもやぶさかではないスペースなのだけれど」
「マジでか」
「これで激辛ラーメンが提供できるのなら言うことはないわ」
「コレが本物のダクト飯……!」
「……何故かしら、今のあなたなら全力で殴っても誰も文句を言われない気がする」
「マジでごめんなさい……」
『ふふ……』
俺の発言に絶妙に神経を逆撫でされたらしい11号が今にも炎を噴出しかねない勢いで切れ散らかしている。
違うんですよ11号さん、サラとエアリスに黙秘する能力がないばっかりに主人として俺は反応せざるを得ないだけであって。つい舌に油が乗ってしまったというか。
あとAちゃん、さり気なく笑うんじゃない。
「無論、冗談よ。喧しくて虫唾が奔ったのは事実だけれど」
「ばちくそにキレてるって副音声が聞こえてくるんだが……俺が言うのもアレだけど、目的の方は忘れてないよな……?」
「わかってるわ。目的はこの騒動を終息させること……そのためにもツイッギーを抑えないと」
「内部構造は依然として分析中だよ。パスワードのロックもいくつかな。ただどんな部屋かまでは特定できていない。ある程度深部にまで到達したら、そこからは手探りだ」
つまりはここから降りて歩いて探すということ。
ダクトはあくまでダクトだ。空気の通り道でしかなく、映画のように万能の侵入経路じゃない。
よって、事前に入手した施設内部の見取り図と分析したデータを現在進行形で照合させながら、手頃な場所でここから降りるべきなのだが……。
そんな、進捗報告も兼ねた雑談をしていた時だった。
「――おい、例の搬入分はどうなっている?」
俺が即座に動きを止めると、11号がそれを察したかのように息を潜める。
偶然か、必然か。
怒号と慌ただしさに溢れていたこの下の廊下には似つかわしくない、落ち着き払った男の声が聞こえて来た。
「はっ、予定通りの手筈で進めております。大半は既に別の施設へ。残りは侵蝕率の低下を見計らってすぐに次の輸送地へ……ただ品質に問題があるものがいくつか」
「問題があるなら処分しろ。持ちきれない分は破棄して構わん。何より買い手は選り好みが激しいからな……それに此処はそろそろ墜ちる、侵入者への対処より優先して処理しろ。いいな」
「ですが、あの女の許可が必要では?」
「……あの小娘か。面倒なことだ」
聞こえてくる内容に思わず眉をしかめた。
物資を搬入する施設らしく、やはり元の機能を維持して何やらあくどいビジネスに活用しているらしい。
だが、ここまでは予想できていたこと。
気がかりなのは『小娘』という単語だ。
その言葉が誰を指しているか――この事件の中心にいる『シルバー』関連の事柄を鑑みれば、もはや考えるまでもない。
「……これも、あなたが予想していたこと?」
「あぁ……見立て通りだ。やっぱりいるぞ、この施設に」
『…………』
換気口の空気が流れる大きな音に紛れ込むような声量で、11号と言葉を交える。
その表情は芳しくない。
きな臭い取引に身内がいるかもしれないという事実を堪えるように、その顔は険しさを増している。
そしてそれはAちゃんも同様で。
どこか諦めたように漏れ出る悲し気な声を、小さな吐息と共にかき消していた。
「それで、次の取引は?」
「後日の予定です。既に顧客には連絡を済ませてあります。ですので、まずはここからの脱出が先決かと」
「わかっている……あぁ、持ちきれないものは処分しろと言ったがが、念のため保管室の温度だけは保っておけ。なに、いざとなればホロウの侵蝕が仕事をしてくれるさ」
「承知しました」
男の付き人らしき声の主の温度を感じられない返事を最後に、足音が遠ざかっていく。
11号やAに、それを追いかけるような気配は見られない。優先順位がわかっているようで何より。
そう、優先順位だ。つまりはあとでアレもしょっぴくということだからなんの問題もない。
そんな考えを巡らせながらしばらくその場で耳を澄ませ、完全に気配が消えたことを確認してからこの狭いダクト内で息を吐いた。
吐いた息はこの施設内の温度を示すように、白かった。
「……11号、聞いてたな」
「えぇ、ここで降りるのね」
「嫌に話になって来た。ここから先で見かけるものも、きっと碌なものじゃない」
「愚問よ。矢面に立つあなたが先行するというのなら、私が共に行かない道理はないわ」
「わかった――じゃあ、斬るぞ」
11号の意思の最終確認を行い、ククリ刀で目下のダクトの壁面をこじ開ける。
切り口に不備はなく、音が出ることもない。
どの道帰りは同じ経路を使えないのだ。景気よく行こう。
頭から廊下へ降りた俺に付き従うように、11号も後に続いた。
『…………』
「A、大丈夫よ。確かに非戦闘員のあなたからしてみたら少し高いかもしれないけど、問題ない。キャッチする」
『………………』
「11号の言う通りだよAちゃん。大丈夫、11号と俺を信じてネコ科の如く着地――『わ』――おぉぉぉぉぅふ……!!」
「……侵入成功ね。よく頑張ったわ、A」
その高さにしり込みしたAちゃんを受け止めなきゃならないという多少のアクシデントはあったものの、それ以外はおおむね順調と言った具合で三人して侵入に成功する。
そして周囲を見渡し、視覚情報とゴーグルを同期させた。
「……何かしら、この気配。温度だけじゃない……それに、妙な匂いもする」
「……輸送会社の古い情報を入手した。もともとこの区画は食品なり野菜なり薬なり温度管理が必要なものを保管する場所だったらしいが……これは」
その内部は清潔感がありながら、どこか寒々しかった。
吐く息も白く、指先も如実にこの施設内の温度を感じ取っているが、それだけじゃない。
外から聞こえてくる戦闘音の方が、よっぽど生き物らしい気配があるというものだった。
「……! 『ブラックブレット・クロウラー』、アレを」
「だからコーバスだっつの……大丈夫、見えてる」
武器を抜きながらAちゃんを挟んで内部の散策をしばらく進めていると、見えたのは重厚な扉だった。
分厚い扉で、恐らく戦車の弾すら通さない。壁付近には電子ロックだけでなくいくつもの認証工程を必要とする施錠機器の数々が厳重に施されている。
……ここに何か隠してますという、これ以上ないってくらいの証明であった。
「エアリス、内部のカメラを調べろ。いくつかある筈だぞ」
『……ンナンナ(……ごすじん)』
「わかってるよ。でも、誰かが見ないと」
とっとと開けてしまえばいいのだが、11号の手前そういうわけにもいかない。
……そう、俺は
保管室。
温度管理。
品質。
……そして、買い手という単語。
これだけ組み合わせればおのずと答えは一つだ。俺が軍に居たころ、似たような現場に何度も出くわしてきた。
それを確認するたびに……反吐が出そうになるのを、どうにか堪えながらエアリスの機能を展開するよう指示する。
そして。
その中身を、内部の監視カメラを通じて覗いた。
「……冷静に聞いてくれると、助かる」
「……いいわ。話して」
驚きはなかった。
可能性の一つとして考えていたことだ……外れて欲しい予測であったが。
軍籍も無ければ伝手も存在しない。
ましてやアンビーや11号と別れた後に四肢を失ったであろう彼女が、如何にして現状に辿り着いたか。
簡単なことだ。
ここは下手な強者であればその欲望と権力の渦へと堕落させる伏魔殿である『新エリー都』。
倫理と人情を切り捨て、腐り果てることを許容した何かになれば、少なくとも野垂れ死ぬことはまずない。
早い話が――
「――臓器売買だ。クローンを使ったな、な」