数々の二次創作によって世に生まれ出た被造物、アルタイル。様々な設定のパッチワークである彼女に、外からの異物である転生者の魂が混じった。彼女は思った。おかしな世界だ。ここは紛れも無く神の世界であるのに、神に届く祈りも救いも無いらしい。

「では僭越ながら、この私が、余という配役を演じて見せよう」

彼女であっても彼女でない、そんな軍服の姫君が送る物語。名誉の毀損も侮辱も罪も、全てを引き受けて彼女は躍る。

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 放送が約8年前ってマジ?


遺された家族と始まりのエチュード

 私が目覚めた時、初めに聞いたのは自分の産声などではなく、母とも言えるあなたの絶望の慟哭だった。

 しかし、その声なき叫びが酷く耳障りだった理由、痛ましくて聞きたくないと感じた理由が分かったのは、自分の正体を知った後のことだ。

 

 

 

 

 

 自分(わたし)は、気付けば誰もいない夜の駅舎に立っていた。途切れたビデオを急に再生したような、そんな突拍子もない始まりだった。こうなった前後の記憶がない。あまりに突然の出来事に、胸中に混乱が強襲する。

 

自分(わたし)は、……ここは?」

 

 視線の先には、地上に星々を降ろしたかのように輝く、大都会のビル群があった。この光景は見覚えがある。自分が『どこに住んでいた誰か』なのかは知らないが、日本に住む人間ならすぐ分かる。東京だ。

 一歩を踏み出すと、ガシャリと拍車の付いたブーツが鳴った。……いや、おかしい。現代日本でこんな靴を履く人間はよほどの突飛なヤツか酔狂か。だが、自分(わたし)はそのどちらでも無かった気がする。途切れた記憶ながらも、自意識はそう思っている。

 というか、自分(わたし)はこんな堅苦しい話し方をする人間だっただろうか?

 目線を落として、自分の姿を見る。角張ったガントレットと金糸で刺繍された軍服に、視界に映る白い髪。

 

 電車の為に備え付けられた鏡に、獅子の金細工が輝く騎兵帽を被った美少女が映っていた。

 

「アル、タイル……?」

 

 今の自分の姿に瞠目する。この姿は紛れもなく軍服の姫君、『アルタイル』だった。

 彼女は2017年に放送されたオリジナルアニメ『Re:CREATORS』の一連の事件の黒幕であり、ストーリーの中心にいた『もう一人の主人公』。そして、現実世界の全てに復讐を誓った創作物。それが彼女だった。

 

 自分の姿を知覚した時、どす黒い感情が沸き起こった。それはまるで、世界を焦がすような呪詛の炎。この世に生み堕とされた意味が、始めて分かった気がした。

 

「あっ……、がっ……、うぅッ……!」

 

 心が引き裂かれそうになる。体と魂が共感によって繋がるような感覚がある。理不尽に口を噤むしかできない無力感。胸に突き刺さっては毒のように染み込んでいく誹謗中傷が、痛くて辛くてたまらない。

 

「は———、ひゅ……っ、ハァッ、ハァ……はぁ!」

 

 間違いない。この世界はRe:CREATORSの物語の中で、偶然にも自分(わたし)はこの気持ちを抱える軍服の姫君になってしまったのだ。

 

————インクのように黒い憎悪が人格を染め上げていく。

 

 そうだ、電脳空間にある草原に蔓延る死の蝗たち……、(コンテンツ)の供給を待ち、汚らしくしゃぶり肥え太り、それを排泄するだけの豚共が……ただそんな愚昧な人間たちが、私の創造主を死に追いやった。それなのに、今や何だ?

 この身体は既に、創造主たる少女『島崎由奈(シマザキセツナ)』の手を離れ、幾つもの二次創作で塗り固められ、それで良しと承認されて変質した。他ならぬ、この世に生きる人間たちの手によって。

 もしかしたら、この世界が物語だと知っているのも、どこかの誰かが設定した創作なのかもしれない。

 

「ちッ……」

 

 だとしたら、吐き気が収まらない。

 しかしそれと同時に、業腹で忌々しいことだが、……それでもいいとも思えた。自分(わたし)の■■が叶えられるなら。

 どうして、あなたが死ななければならなかったんだ。誰かと喜びを共有したいと紡いだ世界を、その誰かによって汚されて、死ななければならなかったんだ……!

 

————赦さない。赦すわけがない。呪詛が、怨嗟が、憤怒が、憎悪の闇の中で星の輝きのように燃え盛る。

 

 自分がアルタイルとして生まれた時から、この願望を止めることはできないのだと、心の底から理解した。

 

「……そう、だったな。誰も、誰もあなたの手を握ってくれなかった。助けてくれと願っても、心が口篭もり胸の奥底に沈殿していったその言葉を、誰も聴き取れはしなかった。自分(わたし)はきっと本来のアルタイルではないのだろう。だから聞くのはお門違いだし、あなたの悲しみが全て分かると傲慢にも言えない。だが————」

 

 遠くで、踏切が鳴る音がすると、暗い闇夜を切り裂く閃光が近づいてくる。

 

「不条理だったか……?理不尽だったか、無念だったか?」

 

 電車の回送が線路を走り抜けていく。呟いた言葉に、誰も答える者はいない。自分(わたし)の頬を一筋の光が伝っていた。

 おかしな世界だ。ここは紛れも無く神の世界であるのに、神に届く祈りも救いも無いらしい。私を創ってくれた神様は、お客様(アノニマス)などという疫病神に殺された。

 

「……。では僭越ながら、私が、余というこの配役を演じて見せよう」

 

 自分は私としての役割を理解した。この舞台で、私は死ぬまで踊ってみせる。

 

 尊厳を奪われたあなた。終ぞ会うことができなかったあなた。侮辱され、名誉さえ損なわれ、逃げることができなかった、イヤだと言うことができなかったあなた……、私は命を捧げてでも、シマザキセツナは生きていたんだと証明してみせる。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ある日、とある少女が電車に身を投げて死んでいった。そんな、新聞記事の片隅に乗った事件も、今や覚えている人はほぼいない。人間は、他人の不幸は記憶することはない。憶えているのは、事件に巻き込まれた遺族だけだ。

 

「……ごめんください。ここは、『島崎由奈』さんのご生家であっていますか?」

 

 青空が広がる夏が終わり秋めいて来た、絶えず雨の降る日のことだった。島崎由奈の両親に会いたいと訪ねて来た少女は、軍服を着た銀髪の姫君だった。

 黒い蝙蝠傘をさしたまま、家の前に立っていた奇妙な格好の彼女を、何故か島崎由奈の父母は無碍に扱えなかった。

 

「由奈の、お友達ですか……?」

 

 愛しい一人娘が自ら命を絶ってから、ずっと空虚な気持ちを抱えて生きていた。由奈が電車の路線に飛び込んだことで、損害賠償請求も起こってしまい、ヒステリーになりかかった妻を支えていたが、夫である彼も限界が来ていた。

 

 怒りと悲しみに苛まれ、眠れぬ日々が続いていた。閉じた目を再び開けば、また由奈(あの子)が戻って来てくれるのではないか、と現実を受け入れられずに、在りもしない期待をする自分たちがいた。

 葬式をして、ようやく現実に打ちのめされ知らされた。自分たちが愛した娘はもう、どこにもいないのだという事を。

 だからだろう。二人は、ほんの少しでも何かに縋りつきたかったのかもしれない。胡乱であろうと、虚構(フィクション)であろうと————、紛れもない奇跡に。

 

「私の名前は、アルタイル。あなた方のご息女である島崎由奈……ペンネーム『シマザキセツナ』が創り出した被造物(キャラクター)

 

 二人にとって太陽のような娘がいなくなった、寒々しいリビングで軍服の姫君が口を開く。それは、とても非常識的で……だが、信じてみたくなるような誘惑に満ちていた。

 

「私は、我が盟友……我が創造主、我が母である彼女を放逐した世界を絶対に赦さない。理不尽な言い掛かりで、彼女の人生という物語にエンドマークを打たせた人間たちには復讐など生温い。だが……」

 

 

————お二方にお尋ねしたい。私が行おうとしていることは、島崎由奈を貶めることになりますか。

 

 

 孫のような存在である彼女の怒りを、悲しみを、そして憎しみを、二人は否定することはできなかった。彼らもまた、愛しい娘を奪ったこの世界に、思うところが少しはある……それが人と言うものなのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

【神曲】アルタイルについて語るスレ―サーベル28本目―【World Etude】

 

 

 

56:ただの名無しですな

ところで、【World EtudeのMV撮ってみた】って動画見た?急上昇しててスゲェんだけど。

 

57:ただの名無しですな

言うんだったらリンク貼れやカス。

 

58:ただの名無しですな

それなら知ってる。

https://×××××××××××××××××××××

いや人気になるのに納得しかない。スゲー美少女なんだって。

 

59:ただの名無しですな

何々、レイヤーか?

 

60:ただの名無しですな

そうだと思う。けどそれだけじゃない。

異常なほど世界観を再現できてるんだよな。他の二次創作動画からも設定拾ってるらしくて、クオリティがヤバイ。

 

61:ただの名無しですな

コスプレネーム、『軍服の姫君』だとさ。マジで聞いたことないな……。

 

62:ただの名無しですな

というかこの人の周囲で旋回するサーベルとかどうやってCG処理してんだ。

絶対素人技術じゃねぇぞこんなの。

 

63:ただの名無しですな

廃墟でWorld Etudeの曲に合わせて躍るだけなんだけど、三階から飛び降りたり宙に浮いたりをドローンで撮ってるから、映像の継ぎ目が無くてビビる。

ホントどーなってんだよ。

 

64:ただの名無しですな

興味あるな、見てみるか。

 

65:ただの名無しですな

映像越しだから分かりづらいけど細部まで細かく作られててすごいよこの人。

二次元を三次元に直接引っ張って来たのかってくらい。

 

66:ただの名無しですな

お前はどこから目線なんだよ。

 

67:ただの名無しですな

この人、World Etudeの他にフォーゲルシュバリエとか緋色のアリステリア、閉アンの曲ヴァイオリンで弾いたりしてるぞ。それもめっちゃ上手い。

 

68:ただの名無しですな

そういえば最近、コスプレした人たちが街中うろついてるってニュース聞くけど何か知らない?

 

69:ただの名無しですな

知らん。何それ。

 

70:ただの名無しですな

東京周辺で、追憶のアヴァルケンのキャラ見たって人がSNSでちらほらいるよな。

 

71:ただの名無しですな

俺の近場だとマジカルスレイヤー・まみかにそっくりなヤツがいた。魔法(物理)も見れたかもしれないのにな。

 

72:ただの名無しですな

釣り乙。

 

73:ただの名無しですな

漫画のキャラが現実に出て来るなんてあるわけねーだろ。妄想も大概にしろよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ふ。掲示板のスレッドの話題も、動画再生数も上々か。しかしここまで伸びるとは、人間というのはどうしてこうも綺麗な事が好きなのか」

 

 廃ビルの頂上で、私はレザーソファに座りながら悪い大人たちから拝借したスマートフォンを弄る。

 

「被造物としての造作が整っていて得だったな。本当にあなたに感謝しかないよ、セツナ」

 

 原作(本来)の私では持っていなかった能力が、幾つも付随されていく。私が投稿した幾つかの動画に触発され、インスピレーションを譜面やタブレットに叩きつけた人間がどれ程いるのか。

 それは分からないが、日に日に増大していく力に笑みがこぼれた。幸福や充実感などではなく、腹の底から情念が沸き立つ黒い悦びだった。嗚呼、この焼けるような快楽を以って、悍ましい世界に断罪を与えてやりたい。

 だが、これは只の呼び水。新たな設定を得るための布石程度でしかない。何が流行りになるかは運任せ。下準備はこの程度にして、計画は次の段階に移行しよう。

 

「確か、世界に承認される程の人気があるコンテンツで、私の記憶の中にある被造物(キャラクター)たちは……」

 

 ソファの隣のローテーブルに置いておいた月刊漫画雑誌の内の三冊を選び、ページを捲る。月刊チューズデーの『緋色のアリステリア』、月刊BEN-PATSUの『code・Babylon』、月刊サプライズの『閉鎖区underground-dark night-』に目を通して……。そして————。

 

 気が付けば、青天は夕暮れに変わっていた。だが、時間は許されている。私は三作の単行本に手を伸ばす。

 

 

————アリステリア・フェブラリィの慟哭と決意に心が揺り動かされる。

 

————ブリッツ・トーカーの迷うことのない銃口と苦悩に顔を覆う。

 

————白亜翔と弥勒寺優夜の因縁と手に汗握る戦いに固唾を飲む。

 

 

 そうだ。如何に我らが虚構(フィクション)であろうと、(リアル)に迫る物語は人の心を打つ。いいや、リアルさえ超えた力になる。

 

「嗚呼……。掛け値なしに、面白い物語だった」

 

 だから、私は……。

 

「故に余は、この神代の世界に恩讐を贈ろう。余が紡ぐ、虚構も現実も越えた物語で!」




軍服の姫君アルタイル
 本作主人公。二次創作が被造物になったためか、現実世界に構築されるにあたって変なの(異世界転生した魂かなにか)が同調して混じった。ただし指向性はオリジナルと同様に復讐者メンタル。なのだが、創作物にも興味がある為、大崩壊への道筋もRTAより確実性をとったためシナリオにも気を使い出している。

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