ある異能学園の最弱は世界救済の時を待つ   作:l:pさあびす

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史上無敵編
1 史上無敵という男Ⅰ


 

 もしも、これがライトノベルならきっと扉か窓からヒロインが現れて有耶無耶にしてくれるに違いない。だが、残念なことにこの世界はライトノベルではない訳で、そんなこと当然起こらない。

 

 高校生デビュー失敗した。

 笑いごとではないく、今まさにその状況であった。

 

「名前は広井(ひろい)かのん。趣味は読書とゲーム。仲良くしてください、うぇーい」

 

 あれぇ?

 

 沈黙の教室。春らしく麗らかな日差しと気温すらもこの空気の前では絶対零度と化していた。

 クラスメイトの皆さんが冷ややかな目で俺を見てくる。訂正、冷ややかと言うか引き攣った笑顔してる。

 これは高校生活終わったな、と理解するまでそう時間はかからなかった。

 

 おかしいな、そこまで変な挨拶をしたつもりはなかったんだけど。

 ……。

 いや、変な挨拶だったわ。なんだよ「うぇーい」って。しかもダブルピースまでしちゃって何考えてたんだ俺は。金髪に染めて浮かれていたのが敗因か。

 

「え? は? あ、あはは。広井君の事故紹介は終わりで良いですかぁ~?」

「事故」

「あ」

「…………………………………………………………………………、」

 

 沈黙が痛い。

 広井かのん十五歳の春の出来事。もし数秒前に戻れるなら、自分に思い直すようぶん殴りたい。

 

 そもそも小中高大までの一貫校で高校生デビューのキャラチェンしようとした事が間違いだった。

 いくら過去が酷いからとは言えタイミング下手か。

 

 初等部時代、何故か周りから人が逃げていき友達百人どころか一人だった。あと二桁どこ行った。

 中等部時代、ラノベ好きの中二病真っ盛りであった俺は孤高の一匹狼を気取っていた。当然周りに人はいないし、なにあれと噂話される始末。

 結果としては人は寄り付かないどころか避けられる始末。悲しみを抱えながら、トイレで飯を食う毎日。今更ながら悲しすぎる。

 そこで一念発起、外部からの進学生も多い高等部からなら友達も作れるのではないかと思い、自爆した。それも盛大に。

 

 いやでもね、友達できないのは異能のせいでもあったのよ。

 俺の異能が『周囲に電磁波を発生させて、緊張感っぽいような存在感っていうか威圧を与える異能』とか言う、あやふやすぎるふざけた弱能力のせいで友達は片手で数えられるほどしかいなかった訳で。勿論、能力にオンオフ機能なんて優しいものはなく。常に威圧してくる人になってた訳だ。もしかして:不審者。

 そりゃあ思い切ってイメチェンの一つや二つしたくなるのよ。ほら俺、危ない人じゃないよ~的な。

 

 その結果がこれ。

 ああ、終わった。このまま卒業まで腫物扱いだよ。

 気が触れたみたいな「うぇーい」のたった一言で全てが台無し。どうすんの。

 

 ……こうするしかないか。

 

「……うわああああああああああん!!?」

 

 ▶広井かのんは泣いて逃げ出した。

 

「ひ、広井くぅぅん!?」

 

 遠くから先生の声が聞こえるが関係ない。

 この空気に俺は耐えられそうになかった。

 寮に帰るか人が少ない場所に行くかして、一人で黄昏たい気分なのだ。

 

 ともかくとして、俺には目指していたものがあった。それはこの国営異能者養成学校で仲良しこよしで学生生活を送る事だった。

 本来ならそれだけであったのだが、悲しいことに高校デビュー失敗した奴という不名誉な情報で恐らくはボッチ続行か。

 上昇志向のない学生、高校デビュー失敗した痛い人、なんか威圧感ばら撒くヤバイ奴。

 それが出だしをミスった俺の、今現在の身分である。

 

 

 

   1

 

 

 

『さあ! 始まってまいりましたこの模擬試合! 実況解説はこの私、二位階のナレ子がお送りします!!』

 

 ……なにこれすっごい既視感あるんだけど。この前買ったラノベで見たよコレ。

 

 その日の夕方、つまり俺のやらかした日の夕方だ。

 公園で初等部以来のブランコ乗りながら黄昏ていたら模擬試合があると耳に挟んだ。そんな訳で気分転換の物見遊山で来ていた。

 

 場所は第四スタジアム。少し前にバカが粉塵爆発をやらかして吹っ飛んだらしく、所々にブルーシートが被さっている。

 その中心の舞台には二人の男女がいた。

 片方は、茶髪にピアスぐらいしか特徴らしい特徴の無い、いかにも平凡そうな少年。特に制服を着崩すこともなく、本当に普通って感じだ。

 もう片方は、赤髪の美少女。確か外部からの進学生だったはず。赤髪釣り目は明らかツンデレ属性だ。

 

『史上最年少の神殺しであり九位階、「名無き戦士」天津契(あまつちぎり)!』

 

 九位階。かなり高いな。

 五からエリートだなんだと言われているからその四つ上。高等部一年にしてはかなり高い。

 

 この学校には『位階(いかい)』ってものが存在する。

 いろんな指標で生徒の実力をランク付けするラノベあるあるのアレだ。とは言え、普通に座学のテストで上がるから検定って方が近いけど。一位階からスタートして天井は無いらしい。噂では三九位階の奴もいるとか。

 因みに俺は二位階。原付免許取るのと同じくらいの難しさの位階らしい。そこまで位階にこだわらない生徒の大半はここだと言われている。つまりはやる気のない生徒って事。

 

『対するは、あの「神仏殺(しんぶつごろ)し」の異名を誇る一位階、咲崎(さきさき)カナタ!!』

 

 ははん、これはあれだな。咲崎くんがセクハラまがいの事して決闘って流れだな。

 ライトノベルなら絶対その流れだ。

 

 にしても今日の試合の観客は多い。普段の倍以上いるだろうか。百人は入る観客席が半分以上埋まっている。

 特段この学校で模擬戦はそう珍しいものでもない。スタジアムが空いていて、申請すれば誰でも使える。そんな訳でよく罰ゲーム、飯のおごり、喧嘩etcで模擬試合している姿を散見できる。そのため、ここまで集まるのは一周回って珍しい。

 なんでだろう、と頭をそう捻っていると隣の席に女子生徒が座った。

 

「うひゃー、やっぱり人が多いや」

 

 青髪のポニーテール少女。八重歯がトレードマークだろうか、笑顔が眩しい。

 記憶が正しければ同じクラスだったはず。ただ朝のホームルームから逃げ出したからよくは分からないが、見覚えがないから多分外部生なのだろう。

 すると彼女はこちらを向き、一言。

 

「あ、痛い人」

「君の言葉の方が痛いんだが!?」

 

 こう、胸に刺さる。

 ナイフどころか某竜殺しの大剣で貫かれるぐらいのダメージだ。

 特に女子に指摘されるのがなお辛い。

 

「ごめんごめん」

 

 平謝りする彼女。

 謝る気ないだろ。でも可愛いので許す。

 

「そういえば君、自己紹介の後泣きながら教室抜け出したから、私の名前わからないのか」

「あー、そうかも」

「私、皆頸木(みなくびき)アネモネ。よろしく!」

 

 親指を立てながらグットマークで挨拶する彼女。

 名前まで特徴的だ。

 

「で、この対戦カードはどう思いますかな? かのん氏」

「いきなり下の名前……。まあ、咲崎くんが負けるんじゃない? 彼弱いし」

 

 実際、咲崎くんが弱いのはボッチの俺ですら知っている有名な話だ。

 『神仏殺し』という物騒な異名を学校から貰っているものの、異名持ちの力はピンキリだ。なぜなら異名は強さではなく功績で決まる。だから弱い奴は弱いし、強い奴は強い。特に咲崎くんは神様特攻持ちなだけで人相手はそこまでという話を聞いたことがある。

 そんな訳で、彼は対人においてそこまで強くないというのが一般生徒からの認識だ。

 

「ちっちっち。甘い甘いぞ、かのん氏」

「じゃあ、皆頸木さんはどう思う訳さ」

「そりゃあ、天津さんが勝つでしょうね。ただ咲崎くんはそれだけでは終わらないと思うよ。だって彼は『神仏殺し』、神の天敵だ」

 

 なんか意味深な事言ってるよこの人。俺よりも彼女の方が痛いのでは?

 

「『神仏殺し』が、神もとい人類の敵の天敵ってのは有名だけどさ」

 

 そう、人類の敵は神様だ。

 神話から飛び出してきた神は人類抹殺を宣言した。もう今から数十年前の話だ。

 そして、その神を殺すのが異能者の仕事。その仕事を為した存在を神殺しと呼ぶ。簡単に言えばそんな感じ。……まんまじゃね? もう少し名前捻った方が良かったのでは?

 とは言え、神からの侵攻で人類の生存域は二割強。はっきり言ってもう詰みみたいな状況になっているけどさ。

 

「『神仏殺し』って異名の価値、わからない訳じゃ無いでしょ?」

「そりゃまあ」

「この世に四人しかいない、四文字の異名。例えばそうだね、あの『史上無敵』と同じ土俵って言ったらわかりやすいかな」

「うげ」

 

 思いがけない言葉に思わず、反応してしまう。

 

「……異名に強さは関係ないだろ?」

「まあ、見てなって」

「なんで皆頸木さんが自慢げなのさ」

 

 そして準備が整ったのか、ブザーの音と同時に試合の幕が上がる。

 先に攻撃を開始したのはやはり天津さんからだった。

 

戦火(いくさび)!」

 

 その掛け声と同時に炎が舞う。蛇のようにうねりながら咲崎くんに向かって炎の塊が飛んでいく。

 ほう、やはり異能を主軸にした遠中距離型の戦い方。

 あのタイプのキャラはやっぱこうだよねって感じの派手さだ。

 

『火をものともせずに、咲崎が避ける! 避ける!』

 

 負けじと軽やかな動きで避ける咲崎くん。

 それを追いかけるように形を変えながら進む炎。

 

「ちょこまかと」

「生憎、特技なんてこれぐらいしかないんでね」

 

 それでも、咲崎くんの回避はピカイチだ。

 攻撃がかすりもしない、完全にいたちごっこ状態。

 

 模擬試合でも一部の武器の使用が認められているものの、お互い無手での勝負。

 見る限り天津さんの戦闘スタイルは明らかに異能タイプ。対して、咲崎くんはおそらく徒手空拳だろうか。

 

「天津さんの異能の一端、『戦火』は追尾する炎。相手を自動追尾するオートマと自分で操るマニュアルの二つがあって、その熱量は鉄を溶かすほど高い。とは言え動きは遅く、小回りも効かない扱いの難しい技だね」

「へー。……なんでそこまで知ってんの?」

「え、あー、調べたのよ」

「へー。そっか」

 

 調べられるものなの、ソレ?

 まあ、情報筋なんて今時いくらでもあるか。

 

「だからこそ、咲崎くんの異常性が分かる」

「異常」

「誘導されてるの彼女。ペースを取られているように見えて、握っているのは咲崎くんの方」

「誘導」

「そのオウム返しやめなさい」

 

 確かに言われてみると、どんどん天津さんの攻撃は単調になっているような。

 えぇ……。これどう見ても人間業じゃないような気がするんですけど。

 ともかく、だとしたらなんで咲崎くんは接近戦に持ち込もうとしないのか。

 

「……ピンと来ねぇ」

「つまり、咲崎くんは攻撃を誘導して、相手のガス欠を狙ってるの」

「そマ」

 

 てか妙にあの二人の事知ってるな皆頸木さん。

 

「咲崎くんは『神仏殺し』。その異能の性質的に反射神経と回避センスは神がかりの域、未来予知とも評されるの」

 

 その異名だけが先行して、その中身までは知らなかった。『神仏殺し』なんて異名持ってるぐらいだし、神を殺した事あるんだろうな~。ぐらいしか考えてなかった。

 付き合いがまったく無いとは言え、彼とは初等部から同じ学校。まったく知らなかったのが少し恥ずかしい。

 

 でも、なるほど合点がいった。

 神は人類の脅威だ。その一挙手一投足で人を容易く殺す。

 そんな相手を殺すのだ、回避や戦闘センスは推して知るべしか。

 

「じゃあ、どっちが先に体力が尽きるかの勝負ってこと?」

「まあ、そんなこと程度で天津さんが負ける、なんてことはないんだけどね」

「?」

 

 そんな言葉の直後、先に仕掛けたのは天津さんだった。

 

「――けど、甘いわ」

 

 低姿勢からのタックル。いや、組みつき。

 あ、いま胸がふにんってなった。咲崎くんの腹部付近で押しつぶされて変形している胸が見える。咲崎くんも心なしか頬が赤い。うーん、思春期だからしょうがないよね。これは避けられないわ。

 

「だ、抱き!?」

「神が相手ならば話は変わるけど、相手は人間。懐に入る事だって起きうるのよ!」

 

 その瞬間、天津さんは自分よりも大きい咲崎くんを持ち上げ反り返るように投げ飛ばした。

 昔、プロレスの番組で見たことがある技。あれは、そう。

 

『じゃ、ジャーマンスープレックスゥゥ!?』

 

 まさか、あの天津さん肉体派!?

 完全に異能だよりの戦い方してたから騙された。

 しかもなんて美しいフォーム。一朝一夕でできるものじゃないぞ。

 

「あ、がッ!?」

 

 脳天から突き落とされた咲崎くんは白目を向きながら大の字で倒れ込み、一方天津さんはバックステップで一度距離を取った。

 油断していた人間の意識を刈り取るには十分すぎるほどの一撃。

 

「生憎、舐めてかかってきた相手を倒せないほど、あたしの称号は甘くないわ」

 

 しかし。

 

『おっと咲崎、立ち上がる!』

 

 痛みに強い。というか強くならざる負えなかったんだろう。

 神との戦いで回避しても、衝撃波やらなんやらは当然発生している。

 目に見えなくてもダメージはある。それが同年代最多とも呼ばれるほどの場数を踏んでるんだ。そりゃあ気絶しないか。

 

「一撃とは言え、それなりの攻撃を耐えた……。いいわ、あんたを戦士として扱ってあげる。そして戦士には敬意を表するべきだ」

「そりゃどうも」

「だから、力を見せてあげる」

 

 天津さんはゆっくりと歩き出した。

 

「あたしの異能は、最初に殺した神の力を引きずり出す『簒奪者(さんだつしゃ)』」

 

 その異能自体はよくあるものだ。この学校でも探せばまったく同じ能力者も数多くいる。

 しかしその強そうな能力とは裏腹に、校内ガッカリ能力一位の座を維持している。

 理由としては神殺しを為していないためお飾りの能力と化していることが殆どだからだ。キルを譲れる余裕を与えてくれるほど神は優しくないし、高位な神格ならなおさら。そもそも異能を使わなければ一部の例外を除き、神に碌なダメージを与えられない。そんな完全に状況とミスマッチしたこの能力はハズレ扱いされている。

 

「そして」

 

 だが、天津さんは明らかに違った。それは史上最年少の神殺しという称号が否定する。

 つまり。

 灰色の煙が天津さんの足元から、辺り一帯に広がる。

 

 煙る。

    煙る。

       煙る。

 

 その背後には室内だというのに黒い球体、いや太陽が燦然と輝く。

 

「我こそは黒き太陽、煙る黒曜、夜と鏡。それすなわちアステカ神話が一柱『イパルネモアニ』」

 

 存在感が肥大化する。

 その一挙手一投足はすべてを支配するようであった。

 

「……分かりやすく言うのならば太陽神『テスカトリポカ』。未熟故全能とまではいかないが、戦士の神をどう倒す?」

 

 神は、そう宣言したのだった。

 

 えっと天津さん強すぎない……? なんかインフレしまくったゲームのボスみたいな事になってるんだけど。

 しかもテスカトリポカと言ったら主神クラスの神。その力を制限付きとは言え行使できるなんてチートも良いところ。さすが史上最年少の神殺し、予想を超えるどころかタンクローリーで押し潰してくるぐらいのインパクトがある。てかどうやって殺したんだそんな奴。

 

 そうして呆然と見ているだけの咲崎くんのとった行動はただ一つ。

 

「まいった」

 

 渾身の両手を掲げての降参。

 ですよね。

 俺は責めないよ、うん。

 

『しょ、勝負ありぃ! この試合、勝者は天津契!』

 

 拍子抜けしたせいか、間抜けずらした天津さん。次第に苛立ちに変わっていく。

 

「あ? ――まだ戦えるのに、戦いもしないで負けを認める?」

「ああ。退学も、ちょうどいい機会だったのかもしれない。それに僕は、神殺しはできても人殺しなんかできやしない」

「は? ふざけ――」

 

 え、なんかギスギスし始めたんだけど。

 これ本当にラノベ展開なの? こっから仲良くなる保険あるんですか?

 

「あんたにはプライドはないの!? そうやって目の前の戦いを適当に済まそうとしているなんて、あたしのプライド以上に自分の神殺しとしてのプライドを傷つける行為よ!」

「殺しの称号にプライド? すまないけど、僕にそんな物あるはずがないんだよ」

「それ、本気で言ってる?」

「そもそも、他人を蹴落として得た物だ。ここにいるのだって罪滅ぼし以外なにものでもない」

 

 あれ、咲崎くん闇深くない? 聞いてて結構痛々しいんだけど。

 

「……退学の件、なかったことにしてあげる」

「……?」

「そのねじ曲がった根性叩き直すのに退学させたら意味ないから。いいわね」

「そりゃあ、まあ」

 

 強く咲崎くんに念を押した天津さん。これツンか? これ本当にツンか?

 

「……ちっ。クソ野郎が」

「え? 今なんて」

 

 難聴系はここで発揮したらまずいだろう咲崎くん! 明らか好感度マイナス。恋愛沙汰に詳しくない俺でもわかるレベルだ。

 もう一度下手でもしたら殺しそうな勢いだ。

 

「あたしはあんたを認めない。そんな生き方をするあんたを」

「ごめんね。僕は、この生き方しかできないんだ」

 

 えぇ……。これ系ってお互いに認め合って終わる流れじゃないのか。

 めちゃくちゃ遺恨残ってそうだけど……。

 

 

 

 そこでふと、隣を見る。

 きっと皆頸木さんもこのギスギス具合にドン引きだろ――

 

「うぇひ、ひひ……。うわー、すっごい! すっごい! 生で見られてよかった!」

「えぇ……」

 

 皆頸木さん、目を輝かせて拍手してる。

 ……もしかして、この人ヤバイ奴か?

 

 

 

   2

 

 

 

「ああ、そうだった。この学校で暮らしていくなら覚えないといけないことがあるんだ。特に外部生はまだ何も知らないだろうし」

「? なによ」

 

 そう切り出したのは咲崎であった。

 日は傾き、オレンジ色の光が辺りを照らす模擬試合終わりの帰り道。少し顔を上げれば高くそびえる高層ビル、所狭しと並んだソーラーパネルに風力発電機。鏡面が夕日を反射して、やけに眩しかった。

 半ば天津に引きずられる形で寮に帰る途中の事だった。

 

「この学校には暗黙の了解が一つあってね」と咲崎は一拍子おいてから「――『史上無敵(しじょうむてき)』の手を煩わせちゃならないという話だよ」

「……『史上無敵』? 『当代最強(とうだいさいきょう)』じゃなくて?」

 

 契は似たような人物であれば知っていたが、その名前自体に聞き覚えはなかった。

 

 神が人類の敵になってから早数十年。

 最強の異名を持つ異能力者は掃いて捨てるほどいる。その中でも最も埒外とまで言わしめた強き存在が『当代最強』。それが人類の常識であり、子供ですら知っているような話だ。

 だからこそ、そんな最強を差し置いて『無敵』とまで評される存在を契は知らなかった。

 

「曰く、彼の前では神すら跪いて自ら喉を掻っ切る。曰く、人類最強の『当代最強』すら足元に及ばない強さ。曰く、戦う事すらせずに勝利を掴む名実共に無敵。と様々な噂もあるが、その全てが彼を指す言葉だ。比類なき存在感とカリスマ性、『当代最強』にあやかって彼の異名は『史上無敵』」

「それ、本当?」

「きっと会えば嫌にでもわかるよ」

 

 契にとってその話一つ一つが絵空事に聞こえた。しかし仕方ないことだろう。神が自害? あの『当代最強』を超える? あまりに荒唐無稽だろう。

 そんな話、本当なのだろうかと考える契。

 この学校に来るまではそんな人物の噂すら聞いたことがなかった。それが本当ならば校外に名前が轟いていてもおかしくないような、あまりに仰々しい名前だ。

 

「それに、この学校には彼に助けられた者も多い。あまり敵を増やさないことをお勧めするよ」

「今あんた皮肉言えるような立場じゃないでしょ。それに、あんたとあたしが対等だなんて勘違いしてると川に沈めるわよ」

「え」




(書き直しているので書き溜めなんて)ないです
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