ある異能学園の最弱は世界救済の時を待つ   作:l:pさあびす

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お恥ずかしながら、帰ってまいりました。
流石に書いてくれと言ってくれる人がいるのに、書かない訳にはいかないので。


10 ビバ、ホテルⅢ

 

「あ、あの? 大丈夫ですか?」

「……ああ。すまない『史上無敵』殿」

 

 いや、最初に弁明しておくと俺何もしてないからね。

 気が付いたら、優男が汗だらだらで気難しい顔していたのだ。流石に俺のせいだと思いたくはない。

 言った通り、何もしてないのだ。

 

 チェスで負けたから賭け通り、質問を三問される訳なんだけどその途端、優男の顔色が悪くなった。

 そして、比例するように秘書さんの顔もナイフのような切れ味に変化していった。

 

 なにこれ。

 

「た、体調が悪いようであれば……」

「そんなことは無い! ……ないんだ」

 

 本当に大丈夫だろうか。

 気づかない内に何かしてしまっただろうか?

 

 うーん、心当たりないんだけどなぁ……。

 

「……、」

 

 ひえ。

 また秘書さんに睨まれてるよ。あからさまな憎悪向けられるとこんなに怖いものなのか。こんな形で勉強はしたくなかった。

 

 もう、乾いた笑いしか出ないんだけど。

 

「は、はは」

「!?」

 

 気まずく笑った俺を見て、秘書さんの表情が驚いたものに変わる。

 もう、やだ。

 優男はなんか体調悪そうだし、秘書さんは怖いしで最悪だ。こんなことになるなら依頼受けなきゃよかった。

 

「……では、最初の質問をして、いいだろうか」

「あ、どうぞ」

 

 体感十分ぐらいはお互いだんまりだった。その沈黙を破って彼は、ついに話し出した。

 

「一問目はそうだな、……貴殿の趣味を伺っても?」

 

 あれ。

 思いのほか普通の質問だ。でも世間話だしそんなものか。

 趣味って言っても、

 

「勿論、ライトノベルですかね。特に王道なものが好きなんですけど……あ、最近はスパイものにハマってるんですよ」

 

 因みにスパイ映画とか好みだ。

 普段はもっぱら恋愛ものと青春ものが好きだが、流行しているものは大抵好みだ。バトル系は……まあいいかな。正直、食傷気味だ。

 

「ほう、スパイですか」

「? ええ、はい」

「どこのが、ですか?」

 

 どこの? なんか質問おかしくない?

 あれか、作者とかのって事か。

 

「えっと、新進気鋭の都落(みやこおち)先生とかですかね」

 

 都落。

 新人なのだが、とてつもないスピードで新作を打ちだし続けている作家だ。

 本人のブログには、前世の内容書き写しているゴーストライターとか書いてあったけど中二病なのだろうか。

 

「ご存じなくて当然だとは思いますが……」

 

 まあ、向こうはこうしたサブカルチャーにかまけている暇なんてないだろうからな。

 

「……、」

「そうそう、本人のブログに前世がどうのってあるんですよ。謙虚なのか、なんなのか」

 

 優男は「あまり知られていない」や「前世?」と、先ほどから何やらぶつぶつと言っている。やっぱりこの人大丈夫なのだろうか。

 

「あの?」

「はっ、いえ失礼しました。……先ほどは、お答えありがとうございます」

 

 そう言って、また十分弱程気まずい空気が流れる。

 

「――では二問目は、そうですね。……明日の、未来のご予定は?」

 

 明日って用事あったけ?

 一応は休む予定だけど。

 

「未定ですね」

 

 ボッチに予定の文字は無いのだよ。

 多分、寝て起きてゲーム。

 これ常識。

 

「未定、ですか……。やはり流石の貴殿でも未来のことは分からないですよね」

 

 ああ、でも。

 

「――でも、きっと良い日になりますよ」

 

 なんと言ってもお気に入りのライトノベルの発売日ですから。

 まあ、買えるかどうか怪しいけど。この素寒貧に。

 

 その言葉に目をひん剥いたように反応する優男。

 そのままどこか納得した表情で笑った。

 

「……ああ、その通りだ。誰も未来の事なんか分からない。けれど、きっと良い日になる。そう信じてここまでやってきたのだから」

 

 は?

 急に何言ってんだこの人は。

 

 おっと、つい心の中の辛辣な部分が出てしまった。でもそうなってしまうぐらいにはクサい台詞を吐いている。

 

「これで、最後の質問です。……何か、私に手伝えることはあるだろうか?」

「は、え、は?」

「恩は返すものだ。借りは返すものだ。なに、貴殿は理解しないままで良い。これは私が勝手に聞いて、勝手にした事だ」

 

 もう無理だ。ついていけない。

 急に何言ってんだこの人(二度目)

 ……疲れたし適当でいいか。

 

「あー、じゃあ、すぐに逃げられるよう、準備しておく事をお勧めしますよ」

「ほう。……理由を伺っても?」

「特に意味は無いですけど。……万が一があったら、ですかね」

「では、もし逃げるとしたら、どこに逃げた方がいいと思いますか?」

「えー、知らね――」

 

 キッ、と秘書さんの目線がキツくなる。もうどうしろってんだよぉ。

 無意識に目を泳がしてしまう。

 丁度、通りの向い側の少し離れたテレビ局。その大きなビルが目に入る。

 

 ぱっと見で一番目立つ場所。

 逃げても、人が多くいるであろう場所。

 ふむ。

 

「……じゃあ、あそこ、あそこで」

 

 ラウンジの窓から指をさす。

 実際、あそこまで離れれば何かあっても無事だろう。

 何もないけどね。

 

「わかりました。では知らないところで、勝手に仕事が片付いていても不思議ではない。と言う事で」

「え?」

 

 そう言って立ち上がる優男。

 

「えっと、どちらへ?」

「なに、食前の運動ですよ。お恥ずかしい話ですが、元軍人として少々血が騒ぎましてね」

「は、はあ……」

「……『史上無敵』殿、最大限の敬意を貴殿に送ります。公にできない故、これは私個人としての礼としてですが」

 

 そう言った優男の何処か嬉しそうな後ろ姿を見送る。

 それについていくように秘書さんも離れる。

 

「結局、なんだったんだあの人達?」

 

 頭おかしいんじゃね、とまでは声に出せなかったが。

 きっと、俺には見えない世界があったのだろう。

 ライトノベルとかでも良く他人の何気ない一言がクリーンヒットする事もあるし、恐らくはそれだ。もうそれ以外考えたくない。

 

 そこで電話が鳴っていることに気づく。

 周りをチラリと見て、電話に出ても大丈夫そうなことを確認する。

 幸い、電話をしている人が少なからずいるっぽいので、出ても大丈夫だろう。

 

 流石に、マナーとか知らないから、外に出た方が良いのかどうかは判断しかねるから丁度良かった。

 そのままスマホの画面をスワイプ。

 

『もしもし? 「史上無敵」か?』

「あ、どうも重元さん」

『……そろそろ食事会が始まるのだが、様子はどうだ?』

「あ」

 

 やっべ、何もしてないんだけど。

 ただ、トイレ探してぶらついていただけの人間なんですが!?

 

 ……、

 

 よし。

 

「ばっちりです。もう準備は済みました。それはもうばっちりに」

『準備!? なんの!?』

「なんのって……、そりゃあ」

 

 謝る準備?

 

「うん。はい。えっとあれです」

『!? 言ったよなぁ、何かするなら相談してくれって! 今度は何だ!? 何が起きる!?』

「大丈夫ですよ、大丈夫。個人的な準備でしたから」

 

 そう、心の準備的な感じのアレだ。

 

『まさかこのホテルが吹き飛ぶとかじゃないだろうな!?』

「え、そんな事起きるんですか?」

『――ッ!』

 

 あら怒らせてしまっただろうか。

 

「大したことは起きないですよって。それに、咲崎くんもいますし」

『……彼に対する評価がどうにも高いようだが?』

「え、あー、彼はあれです。俺なんかと違って本物ですし?」

 

 そう。

 俺と違って本物の四文字異名の異能者だ。

 間違っても、はき違えちゃあいけない。

 

「じゃあそういうことで。自分トイレ行きたいんで」

『あ、おい、待て、待ってく――』

 

 通話を切ってポケットにしまう。

 よし。(現実逃避)

 

 

 

   1

 

 

 

 カレン・ヘイツの最も古い、大切な記憶。

 

 それは、まだ己が一般校の学生であった頃、燃え盛る大地を前にエイブラムスがこちらに手を伸ばしている光景だった。

 

「君、大丈夫かい?」

 

 優しく、そう言った。

 倒壊した建物の瓦礫に足を取られて転んだカレンを心配していた。

 

 頭から血を流したことによって綺麗な金髪は濁った色に変色し、USAの軍服もズタズタ。それ以上に目につくのは、生きているのは不思議なほどに抉られた右腹部だった。

 誰がどう見ても、足元の瓦礫に躓いて転んだ自分よりも重症であった。

 一瞬で街が壊滅した光景に放心状態のカレンは、その言葉にただ人形のように頷く事しかできなかった。

 

「そうか、それならよかった」

 

 心から安堵したように笑う。

 この光景を他人が見れば、きっとカレンを責めていたのだろう。ほとんど死体のような人間に何をさせているのだと。

 けれどカレンは見惚れていた。その美しすぎる光景に。

 

「今すぐ、早く逃げるんだ。まだ、私は戦うから。君を逃がす時間ぐらいは……」

 

 そう言って彼は死地に赴こうとしていた。

 

 『アナザーワンス』、アルバート・前田・エイブラムス。

 

 当時のUSA軍において、最良と評価された男。決して一人で戦う事は無く、仲間と共に勝ち星を広げる名軍師にして、腕っぷしも強い軍の英雄。

 それでも、六文字の異名しか拝命できなかった悲しき男。

 

 だからこそ、四文字の異名持つ存在が化け物にしか思えなかった。

 

 ……その時あった戦場の結末はこうだ。

 殆ど不意打ち気味の攻撃で戦線を崩壊させ、エイブラムス達を軽々と潰した神はそのまま侵攻、東京を壊滅させようとしていた。

 そこにたまたま『当代最強』がやって来て、接敵僅か三十秒で神を殺して帰った。

 

 そんな埒外の存在が四文字。現存する四名の世界最強達。

 

 それこそが。

 人類最強『当代最強』。

 神の天敵『神仏殺し』。

 名は伏せるがもう一人。

 

 そして。

 

 それらを凌駕すると噂の『史上無敵』。

 

 だが、どうだ?

 この少年は。

 それこそ、あの『神仏殺し』の少年の方がよっぽど、()()()()()

 

 だとするならば、『史上無敵』はあまりにも普通過ぎる。

 特筆するようなところはその存在感だが、その程度ならいくらでもカレンは知っている。能天気な面で、まるで覇気がない。どれだけ弱く偽装していたとしても筋肉、技術が無さすぎる。

 政府高官と言えどほぼ一般人と変わらない身体能力のカレンですらも倒せそうなほど貧弱さ。

 

 いくら異名の選定基準が功績と言えど、四文字ともなれば実力も当然考慮される。

 なのに、まるでただの一般人が運だけで成り上がったようにしか見えなかった。

 

 こんなものが、本当にエイブラムスが束になってかかってきても歯牙にもかけないような存在なのだろうか。

 カレンはただ疑うことしかできそうになかった。

 

「――それじゃあ、カレン。あのテレビ局に居るテロリスト、ちょっと殲滅してくるから」

「無茶しないでくださいよ。もう現役じゃないんですから」

「ははは、そうだね。でも、恩人の仕事を代わりに受け持つんだ。少しぐらいは無茶するさ」

 

 確かに、あのテレビ局には怪しげな集団の出入りが確認されていた。

 それは『史上無敵』と出会うよりも前に、周辺の調査として軍の諜報員に確認を取らせていた事だ。

 彼が語るべきでないと判断した以上、進言するべきではないと考えてあえて黙っていたが、本当に気が付いていたのだろうか。

 

「絶対たまたまだと思います……」

 

 そのか細い呟きに彼が反応することはなかった。

 




最も正解に近かった、と言うか正解していた女。作中で一番人を見る目がある。

多分次は明後日か明々後日更新
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