この学校のカリキュラムは実践が多い、と世間からは思われているらしい。
実際はそんな事まったくなく普通の座学授業が基本だ。強いていうのならば体育が戦闘訓練に差し変わっているぐらいだろうか。
その体育終わりは普通に疲れる。なんたってグループ戦で異能をフルに使った体を派手に動かす事が多いからだ。
今日は始業日の次の日。例の模擬試合の次の日に、毎年恒例の異能を使った交流戦があった。
俺だけマラソンさせられたけど。
五から四人で一組のチームになって異能を使いながら相手チームを倒す。それで「お前やるな」「お前こそ」みたいな感じで友情を深める行事だ。
その間、俺はマラソンしてたけど。
もちろんイキり野郎も炙り出されるので、そういった手前の鼻をへし折る役目もあるんだとか。
俺はマラソンだったけど。
――つまり、交流戦なんてラノベお約束イベントはキャンセルと言うことである。
しかし参加できなかった理由はおおよそ見当ついている。俺が全く戦闘向きじゃないからだ。
俺の異能は威圧感垂れ流すだけ。その上、ラノベあるあるの古式武術とか一点特化した身体能力とかそんな都合のいい才能は持っていない。だってシャトルランは二〇回で脱落するし、腕立てにいたっては八回が自己ベストだ。流石にもやし過ぎないって? わ、わかっとるわい(震え)。
体力がない、筋肉もない。きっと先生もわかっているのだろう。こいつは戦闘以前の問題なのだと。だから人と絡むような授業は俺だけマラソンなのだ。怪我させないように優しさをもって接してくれている、と俺は考えている。
……それに今更交流しても既にクラスからは浮いてるし。
それは、その日の放課後の事だった。
「かのんちゃん、今から買い物行く?」
「え、マジ!? 行く行く。……ちゃん付けにツッコんだ方がいいのかコレ?」
その日最後の授業も終わり、ようやくの放課後。
教室には、我先にと出ていく生徒もいれば、掃除しようとロッカーから箒を取り出す生徒もいる。
当の俺はさっさと寮に帰ろうとバックを持ったところだった。
そこに話かけてきたのは皆頸木さん。これもしかしてデートのお誘いか?
……そんな童貞丸出しの考えは捨てよう。頭のヤバイ奴の可能性もあるし、余計な期待をしてはならない。
「行く場所、『J&C’sタワー』なんだけどさ」
「そこって確か……」
この学校。国営異能者養成学校は巨大な学区を誇る小中高大の一貫校だ。
国営の一貫校だけあって埼玉と東京を跨る形で存在している。その学区面積は多分東京ドーム六個ぐらいだろうか。まあ東京ドームの実寸知らないけど。
当然、多くの生徒が過ごすため学区にはほとんどの施設が入っており、それにあやかるため一般人も居住。それもあってか結果は学生が六割、大人が四割の巨大な街そのものだ。つまり学園都市ってやつなのだろう。故にショッピングモールみたいな娯楽施設もあったりする。
それが彼女の言っていた『J&C’sタワー』である。
有名な高級ブランドをテナントに迎えた高層商業ビルだ。場所も学区内移動用の電車の駅から数分の好立地だったはず。
高級ブランド品を取り揃えたそこは俺みたいな庶民には遠い場所で、有名ブランドから高名な職人の手作り品まで高い物ならなんでもござれらしい。曰く、最新技術をふんだんに使った商業用高層ビルで、カッティングクリスタルなんちゃら技法ってやつで生み出された人口の宝石を建材に使ってるらしい。……建材が宝石とか意味あるのかそれ。
そして、セレブリティの権化だけあってセキュリティには絶対の自信があるとかないとか。と、wiki調べ。
とにかく、最近の女子高生はそんなとこにも行っちゃうのか。
まあ、異能者養成学校の生徒は一応公務員の扱いになるから給料も出る。大方、そこから捻出してるんだろうか。
因みに、俺の部屋は給料で買ったライトノベルとゲームで埋め尽くされている天国だ。
「ちょっと用事があってね。ついでに誘ったのよ」
そう言って笑った彼女。
この広井かのんの人生、約一五年。友人のいなかったことに定評がある俺だが、ここにきて青春の到来だろうか。
やっぱりイメチェンして正解だったか? いや、そんなことはないか。
「用って?」
「あ、気になっちゃう~? なるよね~」
じらすな。
「……わかんないってことは、そう言う事だよねぇ」
「??? 何言ってんだこの人」
「辛辣!?」
いやいや、何が『そう言う事』だよ。どう言うことだよ。
何も分からん。まさかこれが女心ってやつか? ボッチには理解に苦しむ概念だ。
「何でもなーい。早く行こ?」
商業特化地区、第六学区。中央の零から始まり、その外周を回るように存在する八まである学区の内の一つ。因みにその第零学区に位置するのが我が異能者養成学校であったりもする。
学区間移動用電車の駅から僅か徒歩数分。そこには四〇階建ての巨大なビルが聳え立っている。
黒を基調としたシックでありながら気取らない高級感。なるほど、これは確かに学区内で最も高級志向な商業ビルだ。
その建物の中は別世界だった。
内装も人が通りそうなところにはレッドカーペットや装飾があったりして、とにかく豪華。
スタッフもよほど教育を受けたのか、アルバイト程度では不可能な所作の美しさを見せている。
そして何よりも客層だ。いかにもなマダム、若社長っぽい人、買い物袋を執事に持たせた学生。流石は高級とつくだけある。
その八階の通路脇にあるベンチで一息ついていた。
「やっぱり場違い感がすごい」
中のテナント巡りをあらかた終えた俺が言うんだ間違いない。
わかってはいたけど、一介の学生風情が来るような場所ではなかったよ。
恐らく、今後一人で来ることは一生無いだろう。
「制服の子少ないからねぇ。特に今日は」
「いつもはもっといるって事か?」
「割と多いよ。顧客の六割は学生だったり」
確かに割と多い。
所詮は一般生徒。そこまで給料が高いというわけではないのだが、恐らく何らかの魔力が人を引き付けているのだろう。
……今にして思えば今日は交流戦であった。みんな疲れて外出する気分にならない可能性もあるか。
「それよりも、どう? 同級生の女の子に奢られる気分は」
「情けない」
そう言って、手に持った金箔を塗したソフトクリーム(税抜¥3000)を食べる。
うん、おいしい。
「流石に百円じゃあ何もできない。てか俺の生活費なんでそんなことに……?」
「感謝してくれたまえよ、かのんちゃん」
「はは~、姫様」
「うむ、くるしゅうないぞ」
今になって考えれば、友達と遊びに出掛けるとか初めての体験だった。
一応、誘える知り合いも居るには居るけど。そいつはあんまり買い食いして帰るタイプじゃなかったからなぁ。
「そういえば、結局のところなんでここに?」
「この後、面白いイベントがあるからかな~」
「イベント?」
そんなものあっただろうか。
少なくと店内の掲示板にそれらしいものはなかったはずだ。
そのことに頭を捻っていると。
「多分そろそろだと思うんだけど……あ、いた」
「?」
彼女の視線の先に見覚えのある二人がいた。
茶髪ピアス少年と赤髪釣り目少女。そう咲崎くんと天津さんである。
あの二人が目的?
「あ」
じゃあつまり。
「……まさか用事ってストーキング」
「ストップそれ以上はいけない」
やっぱりか。
やっぱり皆頸木さんってヤバイ奴だったかぁ~。
ナチュラルストーカー属性とは業が深い。
「警察……行こっか? 俺も着いていくから」
「なんで!?」
本気で否定しにかかる皆頸木さん。
ほうほう、この反応。つまり『泥棒猫』って事か。
彼女は咲崎くんの事が好きで、天津さんとのデートを何等かの方法で察知。不貞行為に及ばないように監視していると。
そういうことね、完全に理解した。多分。
「にしたって、先回りしてのストーキングってねぇ?」
「いやいや、多分誤解してる」
「……参考までにどこら辺を?」
「全部」
やっぱり女心って難解だわ。孤高の中二病であったのも手伝って、やっぱり何もわからない。
「いいから付き合いなさいって。三千円返してもらうよ?」
「人質に取りやがったな」
「なんとでも言え。私に借りを作ったかのんちゃんが悪い」
至極真っ当過ぎて何も言い返せない。
それからそそくさと、隠れるように咲崎くんと天津さんの後を尾行する。
明らか高そうなブランド品店だったり、化粧品店にはしごする彼ら。普通にショッピング楽しんでんじゃん。
ただ、それとなく天津さんをリードしている辺り咲崎くんは相当女の扱いがうまい、と思う。所詮は漫画とかの知識だけど。
咲崎くんモテる理由がよくわかる。
他人の話をまた聞きした程度なのだが、彼はかなりモテるらしい。隠れファン的な子が校内に多くいるとかなんとか。
なんでも真面目で、極度のお人よし。それでいてどこか闇のある感じがたまらないのだとか。それに嫉妬した醜い奴らがつけた渾名は『女殴ってそうなピアス男』らしい。いじめかな?
でも、やっぱり時代はピアスなのか? 俺もピアス買うか……。
「カナタ、あそこ行くわよ」
「下着屋ッ!?」
「何か問題が?」
「あー、はい。なんでもございません……」
「よろしい」
女物の下着屋に引きずられていく咲崎くん。哀れだ。
俺と同じように弱みでも握られているのだろうか。てか、天津さんも大胆だな。あれか、もう付き合ってるとかなのか?
「……これ、いつまで追うの?」
「うーん、一応は後三〇分ぐらい? かな」
……これ傍から見たら俺もストーカーなんだよなぁ。
…………………………………………………………。
「ちょっとお手洗いに……」
▶広井かのんは逃げ出した(二回目)
「行ってら」
そんな軽い相槌を聞き流しながら、逃避行を開始する。
実際、ストレス性の腹痛があるし。
便所飯食ってたんだ、三〇分ぐらいは余裕で耐えられる。
……あれ、トイレどこ?
1
――広井がビル内を迷った挙句、六階下のトイレに籠ってから約数分後の事だった。
それは唐突に起きた。
「……悪いけどさ。ちょっくらこのビル、占拠させてくれや」
それと同時に爆破音と揺れがビル全体に響いた。
J&C’sタワー。今年三度目の爆破だった。
次の話は今日中に出します