【悲報】トイレから戻るとテロリストに占拠されてた【意味不明】
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あ? え? うん?
ちょっと待って、もう一度だけ。
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よし、落ち着いた。いや落ち着いてないけど落ち着いた。
ブレーカー落ちてるらしくエレベーターが何故か動かなかったから、階段で汗水たらして八階まで上った訳なんだけどテロリストっぽい人にに占拠されてたわ。
なんだこれ。いや本当に意味わからん。
中央の広間には一般人と生徒数人。見るからに人質だろうか。それを囲うようにして銃を持った人たちが配置されている。それに、咲崎くんがボコボコにされてる。
全員がこっちを凝視してくる。上映中の映画館にいきなり電話しながら入ってきた奴を見る「何コイツ」みたいな視線だ。
流石に気まずさを覚えるが、こっから走って逃げようものならば射殺されそう。ならばここは一度落ち着くべきだと、今にも逃げ出しそうな頭を無理やり押さえつける。
そもそもテロリストの登場ってどうなのさ。ライトノベルかよ。
「……えっと、あれ?」
無意識にその言葉が漏れていた。
しかし、それに答える者はいない。
そりゃそうだ。銃を向けられた状態で軽口叩けるような奴は、多分こんな場所で人質にはされないだろう。
「『史上無敵』だ。彼が、来てくれた……」
「……た、助かったのか?」
周りからそう声が聞こえる。
『史上無敵』。
その名前は俺に厄介事しか運んでこない不釣り合いにもほどがある異名だ。言葉通りに受け取るなら無敵らしいけど、一体どこら辺が無敵なんですかね? 簡単に死ぬ、謂わば『
そもそもなんでこの四文字異名が与えられたのか、未だに理解できていない。俺何もしてないのに。一般的なボッチ学生のどこら辺に功績があったというのだろうか。
そもそも異能だって役に立たない欠陥。この威圧感だけの中身ハリボテ異能。意図していない虚勢な訳で。
「これどうしよう」
「……は、はは。マジか、大マジか。話には聞いていたが、まさか藪から蛇どころかドラゴンが出てくんの?」
ヘルメット被った人がそう言った。
どっからドラゴン? でも蛇神が居るぐらいだし、居てもおかしくないんだよな。龍神的な感じの。
……いやそうじゃなくて。
「それで……この状況について聞いても良いかな?」
「これ以上は許さないってワケか?」
「いやいや、そんな次元の話じゃないよ」
だって許す許さない以前の問題だろ。
腰が抜けそうなの我慢して、何とか聞いてるんだからそんな敵意剥き出しやめてくれ。
人質だったら喜んでなるから、銃は良くない。
そうだ、手を挙げて敵意がないことを示そう。流石に両手挙げてる奴を撃たないだろうし。
「何のつもりだ?」
「これは命乞いだ。このまま何もせずに死ぬよりはマシだろう?」
「――ッ!」
このまま、俺が何もせずに死ぬよりは命乞いして助かる可能性に賭ける。これしかない。
お願い助けて。
「命乞い、命乞いと来たか。……手を出さない、見逃している内に消えろって事か?」
「は? そうじゃ――「いや、皆まで言うな」――な、い?」
「成程、全部想定済みって事か。あのクソ女、邪魔しやがって」
さては話聞かないタイプの人間か?
勝手に疑問浮かべて、勝手に解決してるんだけど。
「――お前、知ってて罠にかかったな? 一般人に被害を出さないために」
え、何の話?
「……だとするならば、ああ。ここで壊滅するよりかは、だ」
「あ、あの?」
「曰く、『史上無敵』に仇なす事は出来ない。そりゃあそうか、『史上無敵』自身が相手にすらしてないんだからな。人間であればそれだけで甘んじて見逃すに値する、と」
ヘルメット被った人が手に持っていた銃をしまう。
何やら変な解釈してるよこの人。
暗闇でどんな表情をしているかわからないが、どうやら攻撃の意志はない、のか?
「様子見しろとは言われているが、これはそんなレベルの話じゃねぇな」
「???」
「おい、お前ら退勤時間だ。こいつの気が変わらん内に逃げんぞ」
「???」
そしてヘルメットの人は、テロリストらしき人達を引き連れて従業員入り口に向かって歩き出した。
なんか帰って行ったんだが? ナニコレ?
もう何一つとして分かりません。誰か助けて。
「……『史上無敵』。最後に聞かせろ」
「ひゃいなんでしょうか」
「お前は、一体何処まで知っている?」
「え、あー。何を?」
「……そうか」
その問いかけの後、またもや勝手に納得して今度こそ消えていった。
俺の答えに何を感じたのかは知らないが、明らかに含みのある返答だった。
一体何をくみ取ったのだろうか。真意どころか質問の意図が分からなかっただけなのに。
「助かった、のか?」
そんな誰かの呟きに思わず同意。
テロリストらしき人がいなくなってから数分で、あの緊張した雰囲気は霧散した。
撃たれなくてよかった。いや、マジで。
「はぁ……。無益な争いにならなくて良かった。死者が出るのはお互い困るだろうし」
溜息だって零れる。
まだ心臓が高く跳ねている。そのまま、胸板突き破って心臓が飛び出そうだった。
いや、本当に生きててよかった。
それにしても、今時テロリストとは珍しい。
一般人が多かったとは言え、少なからず居た異能者の相手はかなり面倒くさいだろうに。
実際、ここは国営異能者養成学校の学区内だ。立てこもりができる時間なんて与えないだろう。それに最悪『
それ故、テロは限りなくメリットが薄い。ちょっとでも考えを巡らせればわかるようなものだ。時間と労力に対して、全てを無に帰す奴が異能者には居ることに。あれだ、費用対効果、コスパが悪いって事だろうか。
だから順当に考えれば、思想犯か何かだったのだろう。
「彼のおかげで助かった」
「あの人が『史上無敵』……」
「思っていたよりもぱっと見普通?」
噂話されてる。
いや「おかげ」って……なにもしてないんだけど。向こうが勝手に帰って行っただけではある。
あと普通って言ってた奴顔覚えたからな。普通って言われるの嫌だからわざわざ金髪に染めたんだぞ。
「そういえば、皆頸木さん? あれ?」
てか、皆頸木さんis何処。消えてるんだけど。辺りを見回してもそこには青髪の姿はなく、かと言ってテロリストが連れ去って行った訳でもないだろう。そんな素振りや人は見られなかったし。
……俺の異能の威圧感に耐えられなくてどっか行った? だとしたら申し訳ないな。
ただ、こればっかりはしょうがない。階段の疲労とビビっていたも相まって、異能の制御が難しい。押さえつけるのに意外と集中力がいるのだ、このクソ異能。
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『……で、どうだったの?』
「白かな? まあ、そもそも何となくそうかなって思っただけなんだけどさ」
皆頸木はゆっくりと歩いていた。彼女の手に摘ままれたスマートフォンからは女の声がする。
場所は打って変わって、J&C’sタワーから少し離れた高架橋下の道。車が金網の向こうの道路を走り抜け、蛍光灯の明かりがチカチカと点滅する。
少し視線を上げれば高層マンションと商業ビルが立ち並び、所狭しとソーラーパネルや風力発電プロペラが顔を覗かせる。
まったくもって不気味なまでに明るい街。それは電気ではなくそこに生きる人々が、と言う意味ではあるが。
「かのんちゃんが『転生者』としての線は薄いかな。仮に転生者で『原作』を知らない可能性もあるけれど、それにしたって平凡な高校生だ。とても人生二週目とは思えない」
彼女らしからぬ人を喰った笑みでそう言った。
あるところに一冊のライトノベルがあった。
それは『神仏殺し』を持つ主人公の少年が神と戦いながら人を救うよくある物語。学園異能ジャンルが流行った時に発売されたそれは、三二巻と続く人気シリーズになったライトノベルだ。
ポストアポカリプス的な世界観に、異能者と学園という中々に重い設定で構成されていた。
そして、あるところに転生者と言う存在もいた。
二次創作によくある、好きなラノベの世界に生まれ変わった、そんな存在。
所謂、『原作知識』を持ち、半端な未来の知識を持った存在でもある。
「それだけの理由だから、転生者である可能性もある訳だけどさ」
『確実な証拠はまだないってところ?』
「まあ、幸い時間はある。それに原作を崩そうとしたらその場で首を切り落とすから大丈夫」
『そんな事できやしないだろう? 相手は無敵ともいわれる奴だ。慎重であれば慎重なだけ良いに決まってる』
物語を逸らす、いや根本から破壊しうる巨大な変数。それが『史上無敵』であった。
彼女の目的はその『史上無敵』の監視、及びコントロール。もっとも、彼女は既に勘づかれていると思っているが。
「……広井かのん。二位階。初等部から通学している異能者。異名は四文字の『史上無敵』。書類上の異能は『微弱な電磁波』となっているけれどそんな訳はない。恐らく能力を隠しているとみた」
『でしょうね。下手すれば神の権能並み、いや「当代最強」レベルの概念干渉能力の可能性がある』
「嫌な話だよ。邪魔くさい変数が簡単に取り除けそうにないなんてさ」
皆頸木の心臓が今もバクバクと鳴る。
死を前にした小動物のように恐ろしいという感情だけが脳裏を過ぎる。ただ彼の近くにいただけなのに、だ。
それほどまでに彼が放つ威圧感は強いものであった。そんな感覚を気のせいだ、と無理やり納得して思考を切り替える。
「なーんか、ぞわっとした感じが体の芯に突き刺さるのよね~。まるで『お前の全てを解ってるぞ』と暗に言っているようで、ただひたすら恐ろしい」
身内とも呼べない、つなぎ姿の男たちテロリスト集団はそれを前に心が折れた。
彼女もまた、似たような感覚を覚えるのはなんら不思議ではなかった。
「……これで報告は全部かな」
『成程、了解した』
「まあ、個人的には大筋に影響していなければどうでもいいんだけどさ」
『そうもいかない。我々としては余り野放しにはしておきたくはない。「史上無敵」なんて異名を持つ奴だ。原作にいつ干渉してもおかしくないからね』
原作に『広井かのん』という少年はいなかった。
より詳しくいうのならば『広井かのん』と『史上無敵』という名前を持つネームドキャラは登場しなかった。
それが意味するのは、彼女の追う原作に影響が出かねないこと。勿論、原作に出ていないだけで物語の裏に存在した可能性はある。だか、それを見過ごすには余りある力であった。
その力を、先ほど肌で実感したなら尚更だ。
「原作が捻じ曲がるのはいただけない。――あの『当代最強』ですら救世主足りえなかった。他の陣営だって同様だ。日本、WSST.USA、大ユーラシア連合、中華連盟、ブリテン、S.W.諸国同盟、アフリカ隣国、その他諸々。いずれも破滅以外の道はない。ならばこそ主人公が必要だ、ってね」
世界の八割が神によって、既に消滅させられている。
この詰みに近い世界の状況を変えられるのは主人公だけだ。ライトノベルとして、それが運命づけられている。ならばその成長を止めると言うことは世界の破滅を意味する。
だからこそ、彼ら彼女らは好き勝手に暗躍する。ある者は大好きな世界で大好きな主人公の活躍を見たいが為。ある者は自分の命を守る為。ある者は世界の真理を知りたい為。皆が皆、他人の命を軽んじながら。
「あ、あと原作一巻の展開を生で見られたの嬉しい」
『ちょ、ソレ言わないでよ。現地で見たいの我慢してたんだからさ』
「じゃあ、以上通信終了。このまま彼の監視しまーす。まったね~」
『あ! まだ、話は』
「――さてと。仕込みは上々、時間もたっぷりとある」
スマートフォンをポケットに仕舞い込み、ニヤリと皆頸木は笑う。
「単なるモブか、はたまたご同輩か、それよりもヤバイ奴か。――『史上無敵』、お前の答えを見せてみろ」
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この物語は、来る破滅のため原作知識に胡坐かいた転生者達の話ではない。
予定調和に、他人のため戦う原作主人公の話でもない。
なんてことはない何も知らない一般人によって前提からひっくり返る話なのだ。
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