ある異能学園の最弱は世界救済の時を待つ   作:l:pさあびす

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5 史上無敵と呼ばれたくない男

 

「広井かのん。貴殿の功績を讃え、異名を授ける」

 

 荘厳な場所。国会議事堂とかつて呼ばれていた場所。

 周りには、テレビで見たことあるような人たちが並びこちらを俯瞰している。

 そういえばここからだったか。ストレスで胃痛が起きるようになったのは。

 

「一つ、貴殿は神殺しを果たした。その名はギリシャが全能神『ゼウス』」

 

「一つ、貴殿の助力によって治安維持、及び犠牲者の大幅減少に寄与した」

 

「一つ、学校間世界大戦の阻止。……その他は今回省略とするが、そのいずれも評価に値する」

 

 息が詰まりそうなほどに重い空気を前に、俺は唸り声一つ出せずにいた。

 正直全部身に覚えがなかったが、緊張のし過ぎで何も言えなかった。

 さながら判決を静かに待つ罪人のように受け入れるしかなかった。

 

 異名は国から与えられる。

 異能者の位階に限らず、ある程度名前が売れれば議題に上がる。

 

 その内訳として四文字、五文字、六文字の異名が存在し、少ない方がより高位に位置づけられる。

 

 六文字は、異能者として模範的であり、一般兵よりも華々しい活躍をした者。

 五文字は、神殺しを成した、或いはそれに準ずる偉業を為した者。

 四文字は、この世界を救う英雄であると認められた者。

 

 そして四文字は今では四人しかいない最上級の栄誉である。

 

「故に我々は、四文字の異名を以て貴殿に期待しようと思う。そう結論付けた」

 

 普通であれば、栄誉な事だと喜んで拝命するべきであろうが、俺にとってはそれは不幸としか言いようがなかった。

 身に覚えのない功績を評価されるっていうのは中々、心に引っかかりを覚えるのだ。それが、国家レベルで評価されるようなものとなれば。

 

 ひときわ目立つ席に座った初老の男性は、その不幸の象徴たる名前を口にした。

 

「――歴史上最も魂が高潔な者、その背に敗北の文字は無く、眼前に敵も無し。それ即ち『史上無敵』と」

 

 少なくとも、この瞬間から俺の周りに厄介事が目に見えて運ばれてくるようになった。

 

 

 

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 異能者養成学校にはそれぞれ『校則憲章』なる兵器が存在する。

 

 それは神の残骸を無理くり改造して作られた武器らしい。校則をそのまま当てはめ、解釈した概念武装とでも言えばいいか。形は様々、効果も様々。物によっては既存の物理法則を作り変えたり、強制させたりする異能に近い武器だ。

 

 例えば、行動に対価を要求したり。

 例えば、武器に類する物が一瞬で解体されたり。

 例えば、同じ行動を指定回数強制させたり。

 

 文字通り、記述された校則から解釈できる物であればなんでもありなのだ。とは言えそれは学区内、学校内だけの特権でもある。別に校外に出れば使えなくなる訳ではないが政治的に面倒くさくなるから基本はNGらしい。

 でも、校内限定でもそんなすごい武器があるというのは生徒たちのある種精神安定に一役買っている。なんでもこれのおかげで、神が直接教育機関に攻撃してこないとも言われているらしいし。

 因みにこの学校には五個あるが、他の学校は四つだったり七つだったりで数がまちまちでもある。

 

 何故こんな話をしたかって?

 

 ウチの学校の校則憲章、その内の一つを俺が所有しているからだ。

 確か去年の事だったか。元々、校則憲章は教務課が全部保管していたのだが現生徒会長にディベートで論破されて分配される事になった。

 その結果で教務課が二つ、生徒の代表として生徒会が一つ、権力分散に部活動連盟が一つ、公平性を期して『史上無敵』が一つ保管する事となった。なんで俺?

 

 それは今もなお、寮の自室の押し入れで座布団の上に鎮座している。物騒すぎて下手に触りたくないのだ。ここら辺一帯を吹き飛ばす威力があるらしく、余計に。

 例えるとするならば、ピンの刺さった手榴弾だろうか。抜かなければ爆発しないのは解っているが、それでも怖いものは怖い。

 

 しかも手に余るこれを返還するためには、自分の異名も返上しなければならない。それ自体は別にいい、むしろしたいぐらいのだが何分異名の返上は手間が掛かる上に確実性がない。するためには、まず教務課に届けを出し、その後に国会で審議される。大抵は教務課で却下されるか、国会で議題にならず終わるかの二択。そもそも異名を返上する奴は犯罪で捕まって取り上げられる場合が多い。いくら異名返上のためとは言え流石に犯罪はしたくないけど。

 

 つまりだ。

 いい加減『史上無敵』なんて呼ばれたくない。返上したい。でも出来ない。この異名が不本意である。

 そう言うことだ。

 

「かの……『史上無敵』ちゃんは昨日大活躍だったねぇ」

「それやめろ」

 

 高等部一年の教室。昼休み。

 昼食を取った後の自由時間に、皆頸木さんが色々ちょっかいをかけてくる。

 

「朝、ニュースでも取り上げられてたよ。『史上無敵、活躍か。ビル占拠に立ち上がるヒーロー』だってさ」

「ぬおおお! やめてくれ、頼む」

 

 自分の机に上半身を伏し、頭を抱える。

 せっかく高等部デビューに色々策を弄した(当社比)結果がこれだよ。多分もう友達は望み薄。

 

 気にしないようにしていたが、教室の至る所から視線が飛んでくる。正確には皆頸木さんに、だが。

 多分、腫物である俺相手に親し気にしてるからだろうか。

 

「なんでそんなに呼ばれるの嫌がるのさ。四文字だよ、天下の四文字」

「そんな異名、俺にふさわしくないからだ」

「おや、大きく出たねぇ」

 

 何が大きいのだろうか。

 

「第一、俺は友達が欲しいの。そんな異名を名乗ってたら相手が逃げる」

「実感籠った言葉」

「そりゃあ実感したからだとも」

 

 一度考えてみてほしい。

 こんな物騒すぎる二つ名的なものを持っている相手と友達になろう、と気軽に言えるだろうか、断じてない。逆もまた然りだ。話しかけてきたらビビるだろう。

 正直、それを乗り越えてくる程のフレンドリーだと政治的意図を感じてならない。俺を政治に利用しようとする奴もいない訳ではないが、ネームバリューにつられ過ぎじゃないか? 我無能ぞ。

 

 ……皆頸木さんは良いのかって?

 彼女は、俺が異名持ちだと知る前に知り合ったはずだからノーカン、セーフ、無罪。と言うかそう信じたい。

 

「いやはや、なんか存在感すごいな~とは思っていたけど本当に『史上無敵』だったなんてね」

「……気づかなかった事にしてくれない?」

「いやいや。そんなことしたら信者に殺されちゃうのよ」

「信者? なんだそれ」

「まあ、あれは非公認だし知らなくても不思議はないか。簡単に言えばファンクラブだよ」

「誰の?」

「君の」

 

 俺にファンクラブあったの!?

 ここ最近で一番のビックニュースだ。

 目腐ってんじゃないのか?

 

 いや待て、確かに『史上無敵』のネームバリューはそれなりにある。それに釣られたミーハーだったら作ってもおかしくはないのでは?

 きっとそうだ。俺みたいな無能のファンクラブとかそんな理由に決まってる。

 かく言う俺も逆の立場で、そんな異名持ってる奴がいたら入ってるかもしれない。割とミーハー気質だし。

 

「うっわ、どうしよう。ファンクラブとか俺アイドルだったのか?」

「うーん、人による」

「人によってはアイドルなのか」

 

 そんな感じで、くだらない会話に花を咲かせていると、担任がやってくる。

 

 ビクビクとしながら、明らかに俺に対して怯えている。

 

「ひ、広井くん? 後で教務課の佐藤先生まで、お願いしてもいいかな?」

「あ、はい。……いや、やっぱり嫌です」

「え? あ? な、なんでか、な?」

 

 なんでって……。

 厄介事の気配しかしないからに決まってるじゃないですか。

 

「……用って何ですかね」

「うーん、私はそこらへんの管轄じゃない、から……。た、多分、依頼関係の事だと思うけど」

 

 依頼。依頼か。

 ……名指しなんだろうな。

 

 この学校は定期的に休みの生徒が出る。

 異能の検査、軍に一時出兵、公務、その他諸々。そこら辺は一括で欠席として処理される。

 ただそれだと、出席日数が足りなくなる生徒が続出する。それを解決するのが依頼ってシステムだ。

 

 個人だったり国だったり様々だが依頼者が金を出して猫探しや掃除などの雑務、辺境の人員を割きたくないような場所の調査なんかを依頼する。放課後や休日にそれの報告書か、現物を持って帰れば単位出席日数付与というものだ。危険性が全く無いとまでは言えないが、よっぽどな物は軍が出動しているためそこまで酷い内容が回ってくることない。ほとんどアルバイトみたいな任務のものが基本だ。

 と言ってもそこまで件数があるわけではないため、一般生徒の場合は取り合いが発生している。

 因みにそんなクソシステムのせいで留年する学生が多発している問題もあったりする。なんで強制的に休みにしてくる公務の癖に、欠席扱いにするんですかねこの学校は?

 

 本題として、その中でも異名持ちだったり有名な奴には指名で依頼が入ることもある。

 大抵かなり面倒くさい。基本的に、一般生徒では手に余るような内容の際に指名されるのだ。異能者救援、暴徒鎮圧、イベントのゲストetc。後は、単純に一般生徒でも取りたがらないような意味不明の残り物依頼など。

 

 それが時たま回ってくる。

 ついこの前までは中等部の生徒だったから温情で逃げることを黙認されていたが、俺も高等部に進級したのだ。やっぱり来たかという感情しかない。

 

「それなら同じ異名持ちの咲崎くんにでも頼んでくださいよ。彼も四文字ですよ。俺よりもきっと役に立ちますよ」

「彼は……ほら、問題児だから……」

 

 なんだそりゃ。

 それ言ったら俺も問題児だぞ。クラスから浮くって意味ではね。

 なんか自分で言ってて悲しくなった。

 

 正直、すっぽかしても良いんだけれど後が怖い。

 

「じゃ、じゃあ生徒会は?」

「先生思うに、あの人たちにこれ以上仕事押し付けるの良くないとおもうな……」

 

 生徒会、その仕事量は教師を超えると言われている。ブラックまっしぐらどころか、ブラックホールだろう。一日一五時間労働とか人間の範疇逸脱している気が。

 俺の四人しかいない友人の内一人が所属しているから多少詳しい。因みに目の前の彼女含めての四人だ。

 

「『史上無敵』なんて呼ばれているけど俺何も出来ないですよ?」

「それは無理がある」

「皆頸木さんは黙ってようか」

 

 口を塞いで黙らせる。もがもが言っているが一旦どうでもいい。

 

「と、とりあえず先生は伝えたからね……?」

 

 そう言って去っていく先生。

 ……まあ、指名依頼って必ずしも大変な物しかない訳じゃないし? この前あった初等部の講師代行とかは割と楽しかったし?

 

「はぁ……、仕方ないか……」

 

 危険がないような物だといいなぁ。

 




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