ある異能学園の最弱は世界救済の時を待つ   作:l:pさあびす

6 / 10
6 ご指名

 

 場所は教務課、教務棟一階。

 流石に校舎ほどの大きさの建物ではないが、そこそこの広さを持つ三階建てでガラス張りが特徴だ。

 

 教務課は文字通り、先生や用務員などのデスクが設置されており一般校で言うところの職員室に該当するだろうか。

 この国営異能者養成学校に勤める先生は皆、エリートのような人物が多い。他の私立や他国の学校のことは余り知らないが、少なくとも国営にふさわしいような人選がなされているだろう。

 つまり、この場には単身で俺のような一般人を容易につぶせる人ばかりということに他ならない。そんな事もあってか、自ら足を運ぶのことは滅多にない。強制的な呼び出し以外は。そんな俺に対する呼び出しは悲しい事にかなりある。何ならここ最近も一回すっぽかしている。

 

 そんな場所の、面談室の一室。少し手狭な部屋に机が一つと椅子四つの簡易的な場所。

 机を挟んで俺と佐藤先生が座っていた。歳は三〇歳ぐらいの無精髭が特徴的な男性教師だ。高等部一年の学年主任を務めており、依頼などの管理も請け負っている。

 視点が生徒に近い人気者タイプのおじさん先生だ。

 

 そんな彼の手元にはファイルがあり、おそらくはその中身が本題だろう。

 

「まずこれが、お前宛の苦情だ。テロが起きるのなら未然に防げだとさ」

 

 さっ、と机に紙が置かれる。

 俺宛、もとい『史上無敵』宛の苦情が数行書かれていた。

 怪我した、怖い思いをした、死人が出たらどう責任を取るつもりだったのか、と似たり寄ったりな言葉がそこにはあった。

 

「……無茶じゃないですかソレ?」

「俺もそう思う」

 

 渋い顔をしながら同意した佐藤先生。

 実際、ここら辺はいちゃもんに近い。

 そもそも俺は何もしてないし、何も知らないのだ。未然に防ぐのは不可能だろう。

 

「こればっかりは有名税だと思って甘んじて受け止めておくんだな」

「なりたくて有名になった訳じゃないんですけど。てか異名だけが独り歩きしてるような」

「独り歩きって……。お前マジかよ」

 

 なんでそんな目で俺を見るんだ。

 何もしてないぞ。勝手に有名になってるだけで。

 

「まあいい、それの報告書は今回不問とするだとさ」

「やりぃ」

「おま、そんなタイプだったか……? 昔はもっと寡黙だったと思うんだけどな先生」

 

 後頭部をポリポリと掻いた先生はさらにファイルからさらに紙を抜き取った。

 

「余計な雑談は良いとして、これが本題の依頼だ」

 

 紙には『イベントの警備依頼』と大見出しには書いてあった。

 

「……?」

 

 顔を顰める。

 イベントの警備自体はざらにある任務だ。それこそ体のいいアルバイトとして多くの一般学生がいくらでも釣れる。

 それなのに指名依頼は基礎料金もそうだが、手数料を鬼のように取る指名を使うとは中々に大盤振る舞いだ。

 

「まあ? 人が、って言うかなんて言うか」

「……あ、まさか」

「そうだよ。いつもの癇癪持ちの議員」

 

 心当たりがあった。

 あまり詳しくはないが、そこそこ有名な議員である。

 口うるさい癇癪持ちであるものの、責任感の強いおっさんであったはずだ。

 

 そして俺の常連でもある。

 と言っても気が向かないと逃げていたため、そこまでの数を受けていた訳ではないが。

 そんな数少ない接点で、どんな感情を抱いたのか知らないが指名をよくしてくる。はっきり言って謎だ。

 

「……しょうもないやつじゃないですかソレ」

「しょうもない言うな。一応はお前指名の要請だ。放置したら増えるぞ」

「雑草かよ」

 

 異名を貰った中等部二年の頃から贔屓にしているがこんな無能のどこが良いのだろうか。

 毎度大金はたいて雇って貰っているため、何かしらの意図はあるのだろうが。まったくもって意味が分からん。

 

「まあ、お前が動くまでもないなら断りの連絡を入れるが?」

「動くまでもって……」

 

 そういえば、俺の生活費って壊滅的だったような。財布の中身は百円……いや水買ったから十数円か。

 それに来月の給料も正直心もとない。

 

 この学校の仕組みとして、発生する給料は異名持ち位階関係なく全員一律同じだ。そこに依頼で上乗せするという方式でもあったりする。その上アルバイトをしようにも俺含め一部生徒は規制されている以上、金が欲しいなら依頼しかないのだ。

 

 ……、

 

 イベントの警備なら他にも警備員いるだろうしそこまで悪い条件じゃないのでは?

 

「わかりました。受けます。てか受けさせてください」

「お、おう。……何かあるのか?」

 

 食い気味な俺の態度に、ちょっと引き気味な先生。

 

 そのまま視線を先生から紙にスライドし、内容を確認する。

 報奨金、出席点ともに申し分なし。それどころかかなり高いと言っても差し支えないだろう。

 

「えっと、イベント内容が……食事会? 他の政治家も来るのかよ。マナーとか知らないんだけどなぁ」

「お前なら大丈夫だろ。それに警備だから直接相手する訳でもないし」

 

 どっから湧いて出てくるんですか、その俺に対する信頼。

 

「じゃあ、その旨で先方に連絡しとくからよろしくな」

「あ、はい」

 

 イベントの詳細が書かれた紙に「参加」とメモを残す先生。

 すると何かを思い出したかのようにこちらを向き言った。

 

「ああ、それとイベント、明後日だから」

「はえ?」

「呼び出し自体はかなり前からしていたのに一向に来ないのが悪い」

 

 明後日に用事はない。てか毎日ない。それがボッチ。

 だから日程自体は大丈夫ではある。

 

 ただ、むしろこんな直前なのに参加して良いのか、あの人。

 ……多分良いんだろうな。妙に俺に対して好感度高かったし。おっさんに好かれるのなんか嫌だな。

 

「……それにしても、お前変わったな」

「高校デビューですよ。このままじゃいけないと思って。……それに、素に戻っただけです」

 

 まあ、前までは一匹狼の中二病だった訳で。

 他人から見たら変わったように見えるか。

 

「お前ほどの奴が変わらざる負えない、か。……これから。いや、今一体何が起きているんだ?」

「いやいや。何も起きてませんし、起きませんよ。強いて言えばいい加減一人は寂しいなって」

「……まあ、そういう事にしておいてやる。それなら尚更教員に言っても仕方ない事だろうしな」

 

 どういう事にしておいてくれているのだろうか。

 

「後進育成も良いが、ほどほどにな」

「?」

 

 どういう意味?

 

 

 

   1

 

 

 

 基本的に、依頼は四人一組。或いは所属している部隊、部活で行われる。指名依頼の場合はその限りではないが、一人ぐらいはついてきてもらった方がいいだろう。ぶっちゃけ食事会、つまり社交界とかボッチが突撃するにはハードルが高すぎる。

 しかしだ。俺は部隊なんかに配属されていないし、部活にも入っていないから人数集めから始めないといけない。その人数集めもまたボッチには辛い世界なのだ。なんていったって話しかけに行けない。

 なんとも厳しい話だ。

 

 さて、どうするか。と悩んでみても答えがでるものでもない。

 とりあえず、俺の知り合いを列挙してみよう。

 

 皆頸木さん。知り合って数日の人に頼む事ではないしパス。

 生徒会の幼馴染。流石に仕事を増やすのはかわいそうだからパス。

 後輩。そんなタイプじゃないし、暴走しそうだからパス。

 同級生。無碍にはしないだろうが、社交界向けの性格じゃないからパス。

 

 ……誰も残らなかったわ。

 

 頭を捻ってみても答えは出そうにない。

 かと言ってそこら辺の人に声をかけるのは無理難題に近い。

 だって恥ずかしいのだ。それが出来ていたらボッチになんてなっていない。

 

 後、取れる手は。

 

「……かと言って、掲示板張り出しだと明日までに申告が間に合わないだろうしなぁ」

 

 一応は掲示板の張り出しというものもある。そこで募集して、というのもできなくはないが如何せん時間が足りない。同行者の申告期限は明日まで、それまでに言っておかないと不審者扱いになってしまう。そもそも人が来るかどうかは半分賭けでもある訳だし。

 駄目もとで……いやでも。

 

『指名依頼の同行者、人員最大三名募集中! アットホームなパーティです。参加者は「史上無敵」広井かのんまで!!』

 

 ……うん、無理だな。辞めよう。

 逆の立場なら何やらされるか、わかったもんじゃない。

 

 そんな教務棟を出てすぐの廊下を歩く。放課後だからか人通りは疎ら。日は傾きそろそろ夕方になろうかと言う時間帯。

 曲がり角から飛び出てきたのはダンプ。ではなく皆頸木さんであった。

 

「――話は聞かせてもらった!! この世界は滅亡する!」

「何も話してないし、もう滅びかけだろ。やめろそんなブラックジョーク!」

 

 流石に笑えないジョークに思わずツッコみを入れてしまう。コミュ障からツッコみを引き出すとか、彼女のコミュニケーション能力恐るべし。

 て、そんな話はどうでもいいのだ。

 

「ごほん。……話は聞かせてもらった。私が共に行こう警備任務」

「な、なんでそれを……!?」

 

 それさっき聞かされたばかりなのだが何故、彼女が知っているのだろうか。

 いくらなんでも情報が早すぎる。

 あれか、実はあの先生は彼女にも声をかけていたのだろうか。

 

「まあまあ、情報のソースなんかはどうでもいいじゃないの。それよりも困っているでしょ。てか困ってろ」

「確かにその通りだけど釈然としない」

「だから私が提案しに来たのよ。お手伝いいるかって」

 

 まあ、確かに情報の出どころなんてどうでもいいことだ。

 それに申し出自体は願ってもないこと。断る理由は無いし、彼女のコミュニケーション能力ならば社交界の雰囲気を前に臆することはなくなるはずだ。

 ……はずだよね?

 

「じゃあ頼もうかな」

「よしきた」

 

 軽くガッツポーズする彼女。テンション高いな。

 確かに指名依頼は、報奨金と単位日数の付与が他の依頼よりも羽振りがいい。ただ、この前奢ってくれたから金もそこまで無いって訳でも、入学したてだから単位が欲しいって訳でもないだろうし。

 ……そこら辺考えても仕方のない事って話でもあるが。

 

「じゃあ、皆頸木さんと俺の二人かな。とりあえず一人寂しく行かなくて済むならよかった」

「甘いね、それだけじゃないのよ。任務って四人一組が基本でしょ」

「? まあ、そうだな」

「ふふふ。とっておきの人選があるのだよ! 私の人脈フル活用で」

 

 正直、嫌な予感はする。

 だって、知らない人が来るって事でしょ。対応ミスるとハブられる原因に……。

 

「因みにどちら様……?」

「秘密に決まってるでしょ」

「なんで秘密にするのさ」

「後のお楽しみをご存じない?」

 

 いやいや、一応は指名された重要な任務ではあるんだけど。

 彼女を信用してないって訳ではないけどさ。

 でもそれを口にだそうものなら。

 

『かのんちゃん、私を信用してないの? ――さようなら』

 

 みたいなことになりかねないし。それはそれでボッチには辛い。

 後、噂ばらまかれそう。「他人を信用しない人間不信」だって。

 

 どうせ食事会の警備だ。相当な事を起こす馬鹿はいないだろうし、大丈夫か。

 

「はあ、分かったよ。任せる」

「物分かりが良いのは嫌いじゃないぜ」

 

 ご満悦な皆頸木さん。楽しそうでよかったね。

 




毎日更新したかったのに、失敗しちゃった。
それでも頑張って書きますとも。

期待できそうなら感想評価お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。