次の日の昼下がりのことだった。
国営異能者養成学校の食堂、もといカフェテラスは無駄に豪華だ。校内でも一番立地のいい場所に建てられた専用の建物に、ショッピングセンターのフードコートのように様々な店舗が入っている。
一応は授業の時間なのだが、俺のような用事で利用している人が数人話し込んでいる。
そこでの打合せのため俺は足を運んでいた。
「……これ一応何の集いか聞いた方が良いのか?」
「何って。かのんちゃんに頼まれてた、とっておきの人選だけど」
カフェテラスの席には皆頸木さんと見覚えのある二人がいた。
茶髪にピアスの少年。赤髪釣り目の美少女。二人の試合はまだ記憶に新しい。
咲崎カナタと天津契の二人であった。
「どうやって彼らをヘッドハンティングしたのさ? 相手は四文字と五文字の異名持ちなのに」
「うーん、そこまで難しくはなかったよ」
ちらりと彼らを見る。
「ふんっ、借りは返す主義なのよ」
「僕も、かな」
「奴隷は黙って」
「はい……」
完全に尻にひかれている。
天津さんの言動がもろ一昔前の暴力系ヒロインじゃないか。
正直、彼がモテるのは気に食わないけど可哀そうな気分になった。
それにしても『名無き戦士』と『神仏殺し』とは恐れ入った。異名持ちが二人とはあまりにも心強い。勝ったなこれは。
これで皆頸木さん含めて丁度四人だし、都合がよすぎるぐらいだ。
て言うか借りってなんだ?
俺、何かしたっけ?
「どうよ、この完璧なパーティは」
「あーうん。そうだね?」
「なぜに疑問形」
だって俺がいるし。不完全の極みみたいな男だぞ。
でも確かに。
咲崎くんが前衛でおとり役。天津さんが後衛からの高火力技で倒す。そして俺と皆頸木さんが一番後ろから応援。実に理にかなった完璧なパーティだ。
え、お前は働けって? 普通に無理でしょ。
「そういえば二人の力はわかるけど、皆頸木さんの異能って何?」
「え、それ『史上無敵』が言うの?」
「どう言うこと?」
何かブーメランでも投げただろうか。
少なくともそんなつもりはないのだが。
そこで咲崎くんが口を開いた。
「……『史上無敵』と言ったら戦いすら起こらないから戦闘方法も分からない。その異能も分からない。不明だらけの男で定評だ」
「えぇ。そんな噂になってんの俺?」
「知らなかったのかい?」
全く知らなかった。
噂上の俺はとてつもなく脚色されているようだ。実際の俺はコミュ障のボッチでクソ異能に頭を悩ませる一般人だと言うのに。
戦闘方法? 土下座に決まってるだろ。あまり俺を舐めるなよ。
「そんな大した人間じゃないよ俺は。無能、それも小学生に喧嘩で負けるぐらいだよ」
「そこまで謙遜すると嫌味になるわよ」
そんなつもりじゃなかったのだが、文句を言われてしまった。悲しいことに謙遜じゃなくて事実なんだけどなぁ。
「まあ、俺の異能には期待しないほうが良い」
そう言いながら自分の手のひらを見る。
このクソ異能でできる事と言ったら、虚勢を張る事ぐらいだ。話にならないほどの弱能力。応用とか考えた事ぐらいはあるが、そもそも応用どころか使い道すら分からないのだからどうしようもない。
……ナチュラルにカッコつけちゃった。ちょっと恥ずかしい。
「「「……、」」」
「え、なんでみんな黙るのさ」
黙られたら、余計恥ずかしいだろ。
……誰も何一つとして言わないし話を切り替えよう。これ以上、この空気のままは気まずい。
「そろそろ談笑はここまでにして、今回の依頼の詳細を説明しようそうしよう」
「あ、ああ。そうだね」
ちょっと引き気味に同意する咲崎くん。
持ってきていたファイルに挟まれていた紙を取り出す。
「じゃあ、僭越ながら。今回の任務は議員・
政治家・桐生二郎丸重元は俺のお得意様と言うか、毎回謎に指名してくるおっさんだ。
定期的に食事会を開催するらしいが、今回もその流れだろうか。
「場所は、第四学区のホテルを貸し切って行われる。俺たちは当日とその次の日の朝、正確には次の警備部隊到着まで警備する事になってる」
第四学区のホテルはそれなりに高層のビルだ。
大きな広間があるから結婚式やイベント事でよく使われるらしい。
「配属場所は特になし。『史上無敵』に任せる、と。……またか」
この議員はどうも俺を買い被ってるらしく、いつも行動内容は任せてくる。意味わかんね。
まあ、いつもはトイレでスマホ弄ってることが多いのだが流石に今回はパーティメンバーが居る。その手は使えないだろう。
どうしようか、と頭を悩ませる。
「……まあ、適当でいいか」
と早々に思考を打ち切った。
いや、弁明させてほしい。所詮は素人学生だ。巷では『史上無敵』だなんだと過大評価されているが、そんな行動方針を決められるような人間ではないのだ。
第一、警備とか何すればいいのか分からない。廊下に突っ立てればいいのか?
「ほう。あの
「皆頸木さん、そのよくわからない言葉の羅列は辞めてほしい。俺はなんて事はない一般人だよ」
「はんっ!」
「鼻で笑われた!?」
まったくもって酷い人だ。
「いやいや、だってお任せは困るって」
主に他の人が。
大体にして、この任務は半ば急に決まった飛び込み参加のようなものだ。もうすでに決まった陣形に入る訳で、さらにはお任せというぶん投げされているのだ。当日考えないとどうしようもないだろう。下手に割り振られた場所でブッキングでもしたら恥ずかしさで死ぬ。
『なんで「史上無敵」がこんな場所に……?』
『まさか迷子か? こんなにダサかったなんて……』
勝手に期待された挙句、失望されるのは本意ではない。
そんなことになるぐらいなら、適当にぶらぶらとしていた方がマシだ。
「そもそも、そんな大それた事にはならないでしょ」
「「「――ッ!」」」
皆一斉に息を飲んだ。
何か問題発言をしてしまっただろうか。
だって、他にも警備の人がいるのだ。大体のことはその人たちが何とかしてくれるだろう。心配のし過ぎは良くない。
「まあ? かのんちゃんがそう言ってるし、そうなんでしょ」
なんかやたらと信頼されているのだが。過大評価しすぎじゃないか?
「最悪、あんたの胸を借りるつもりでいるから。『史上無敵』の戦いなんて早々見られるものでもないし」
「ん? いや、一応言っておくと戦えないからね俺」
だって身体能力どころか異能も終わってる男に何を求めているのだろうか。
それに武器持ち込もうにも、持ってないし。いや、あるにはあるが『校則憲章』は例外だ。
「……そういう縛りって事? 成程、あたし達の力を見定めようって魂胆かしら」
「ん?」
今なんて?
「契、その言い方はあんまりじゃないか?」
「何よ。文句あるの奴隷?」
「そんなつもりはないんだけどね。ただ、語感が強いから」
「喧嘩なら買うわよ」
急にイチャコラしないでほしいなぁ……。
会話に入れないんだけど。コミュ障特有の集団の一歩後ろポジションだよこれ。
1
『史上無敵』
その名前の意味は咲崎カナタにとって他人とは異なった意味がある。
トラウマの象徴。いや、より正確に言うのならば彼を見ていると、己の無力を実感して過去のトラウマが刺激される。と言った方が正しいか。
咲崎は自己申告だが、平凡な一般学生だ。
しかし何の因果か去年の事件で、四文字異名を手に入れた。代わりに、その無力さで失ったものも多かったが。
だからこそ、敵すらも救う彼がたまらなく眩しかった。
その強さも。
その叡智も。
その気高き魂も。
そのいずれも咲崎は持ち合わせていなかった。
それに対して別に劣等感を覚えている訳ではない。別に嫉妬している訳ではない。そもそも土俵が違う相手にどう嫌悪感を向けるというのか。
咲崎はただ何となく『史上無敵』が世界を救うのならば、一体誰が彼を救うのだろうかと考えない日は無かったという事だ。
「思ったよりも普通の人だったわね」
カフェテラスからの帰り道で天津は何気なくそう言った。
「……でもやっぱり彼は『史上無敵』だよ。何を考えているのかまるで分からない深淵が如き知識と、それに基づいた未来予測。そのカリスマ性と圧倒的な存在感を改めて実感したよ」
ふう、と息を付いた咲崎。
咲崎にとって、いやこの学校に通う生徒のほとんどが彼を初等部の頃から知っている。人間離れした手腕を持った天才であると。
昔よりも多く言葉を話すようになっていたが、それでも彼は間違いなく『史上無敵』であった。それを咲崎は先ほどの会話で再確認していた。
そして、「恐らく」と咲崎は言葉を切り出した。
「――この任務、裏がある」
「でしょうね。そうでなければ『史上無敵』がわざわざ一議員のイベントの警備なんて引き受けない」
彼は依頼を選ぶタイプの人間だ。
指名依頼が来るのは咲崎も同じであるが、特に『史上無敵』は比較にならないほどの人気がある。それこそ毎日数件づつ増えているほどに。だが、彼は「気分が乗らない」「面倒くさい」とのらりくらりとかわすことで有名だ。
その態度に「恐れをなした」や「逃げた」と、舐められる事も多いが実態は違う。
彼が参加した任務はその尽くが何かしらの事件が起きている。それこそ、彼が居なければ、必ず破滅していたとも言われているほどの惨事も多い。それ故に「『史上無敵』は未来を予測している」と噂が立つ始末だ。逆に依頼を受けなかった時は、自分が出るまでもないという意味に他ならない。
「その裏を推し量るのは不可能。でもきっと何かしらの事件が起きるわ。それも常人には手が余るような事が」
『史上無敵』が動くという事はそういう事なのだ。
誰一人として彼の内面を伺うことができないが、少なくともこれまでの行動から推測できる事もある。
「……そしてなによりも、彼は戦わないと言った」
あの場では「力を見定める」。と天津はそう解釈したが、おおむね咲崎も同意見であった。
彼の答えから推測するに、そう言う意味として取って
「僕たちのため。といったら烏滸がましいだろうが、少なくとも期待をしているんだろうか」
「上から目線は気に食わないけど、まあいいわ」
ふんっ、と鼻を鳴らした天津。
しかし、恐らくだが別の意味もあると咲崎は睨んでいた。
「……どちらかと言えばこっちの方が真意だろうが。彼が戦わないということは――」
「――
天津ですらその結論にたどり着いていた。
彼は人間を博愛している。だからこそ、与えられたその異名の意味は「そもそも敵対者を敵と見なさず、全ての人を救う高潔な魂」に由来する。
直接戦うと言う事は『史上無敵』からすると不本意なのだろう。故に人員を募集していた。内容からして単独でも行えそうなのに、だ。
「(きっと彼自らが戦うと、相手を救うことができないのだろう。だから僕たちのような他人を頼った)」
今回の敵対者は人間。
その意味が指すところに、咲崎と天津は心当たりがあった。
「あのJ&C’sタワーを占領した連中の件かもしれない。お礼参りのつもりでやるわよ」
「ああ、わかってる」
今回の任務で人員を募集したのはそういう意図だろう。
それもわざわざ、皆頸木という女生徒まで使って勧誘した。
あの日の何もできなかった屈辱を晴らさせるため、おあつらえ向きの舞台を用意してくれている。と考えるものも自然な話だった。
「……恐ろしい男だよ。まったく」
たったあれだけの情報で、いかにこちらの面子を潰さずに挽回できる方法を見つけたのだ。さらに敵すらも救おうとする度量の広さを以て。
咲崎はその手際の良さに戦慄したのだった。
ランキング掠っただけで、倍以上アクセス増えてびっくりした(小並感)。流石はランキングパワー。
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