ある異能学園の最弱は世界救済の時を待つ   作:l:pさあびす

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8 ビバ、ホテルⅠ

 

 意外にも、俺は忙しい。

 それは『史上無敵』という立場についたが故の面倒事によるものもあるにはあるが、実際は俺の不始末が原因によるものだ。

 有り体にかつ、簡単に言えば宿題や始末書、報告書が山の様に残っているということになる。

 

「たっだいまぁ」

 

 第一学区、学生寮の自室。学校からバスで二〇分程度の場所に位置している。

 寮とは銘打っているものの、造り自体はほぼほぼワンルームマンションで、俺は一人暮らしをしている。

 家賃のほとんどは学校側が負担しているため、かなりお安い。

 

 扉を開けると、俺を出迎えたのは大量の本とグッズ達。

 俺の給料のほとんどはこのコレクションを作るために使われている。

 貯金は無いけどね。まあ、このご時世に貯金している異能力者なんてほとんどいないだろうし、俺は異端じゃないはず。

 

 しかしそれと勝るとも劣らない量の始末書作成を前に辟易してしまうのは仕方ない事だろうか。

 過去のやらかしと言ってしまえばそれまでだが、俺自身無能にもかかわらず仕事を振ってくる他人が悪いと思いたい。

 ぶっちゃけ始末書とか報告書ってどうやって書いたらいいのか、いまいちわからないから先延ばしにしてしまう癖があるのだ。

 

「うーん、それにしても」

 

 それにしても明日は大丈夫かな、と不安が膨らむが考えても仕方のないことだろうか。

 ……まあ大丈夫か。今までだってなるようにしかならなかった訳だし。

 それに楽観視していないと胃痛が。

 

 まあ今回は、前回までと明らかに違う点がある。

 ほとんど皆頸木さんが連れてきたのが、それでも俺のパーティに集った仲間達がいる。

 なんて良い響きの言葉なんだろうか。仲間。

 

 ……まさか、これが青春ってやつなのか?

 

 悶えながら家の中でゴロゴロと転がり回る。

 念願と言うほどではないが、それでも憧れがあったのは確かだ。それのためにイメチェンをしたのだから。

 因みに騒音問題は心配ない。俺が『史上無敵』を拝命してから、少しずつこの寮から人が消えていき今では俺含め数人しか残っていない。なんで?

 

「……、」

 

 ふと目に留まった押し入れの扉。

 何気なく引き戸を動かし、その中で座布団の上に鎮座しているそれを見る。

 そこにあったのは金色の装飾と黒色の高級そうな羽ペンと、それを納めるためのケース。

 

 名を『校則憲章第一条(こうそくけんしょうだいいちじょう)』。五つある校則憲章の内の一つだ。

 これが俺に分配された校則憲章でもある。

 なんでも一番最初に作られた物であり、その総合的な能力値は低い代わりに面白い事ができるとかできないとか。

 

 割れ物を触るようにそっと軽く持ち上げ、じっくりとそれを見る。普通の羽ペンだ。

 説明書を読んでいなければきっと、俺はボールペン代わりに使っていただろう。

 

「ふむ」

 

 他意はないが、それを明日着ていく学生制服の内ポケットにケースごと入れる。

 決して使う予定も、見せびらかす予定もないが念には念を入れて。

 これっぽっちも任務が怖いとか、万が一とか考えてないけどあって損はないと思いたい。

 

 人によっては、著名人が集まる場所に大量破壊兵器を持ち込んだと指摘する人もいるだろうが。

 

「一応ね、一応。会場はうちの学区内のホテルだったし、まあ最悪出さなきゃバレないでしょ」

 

 

 

   1

 

 

 

「ビバ、ホテル!」

「ビバって死語らしいぞ」

「マジ?」

 

 場所は第四学区。太陽は真上に昇っている時間帯。第四学区はオフィスビルが軒を連ねるこの学校の学区内で一番のビル街だ。その結果として、こうしたホテルやイベント用の建物などが多く集まっている。

 そんな場所の一角、そこそこ高級そうなホテルでお馴染みのビハホテル従業員入り口前。

 一般客であれば滅多に見る事のない、所謂裏手ってやつに非日常を感じていた。

 

 いや、指名依頼自体がすでに非日常でもあるが。

 

 少し遠くで咲崎くんと天津さんが話し込んでいる。真剣な顔から察するに何かの相談事だろうか。

 ……別に唇の動きで言葉を予測する特技なんて無いから、何話しているかは全く分からない。

 

『あいつウザくね』

『わかる』

 

 そんな会話ではないはずだ。……はずだよな?

 

「ん?」

 

 暫く皆頸木さんと談笑していると、どたどたと騒がしい音が聞こえる。

 視線を音の鳴る方に向けると、とんでもない速度でスーツを着た男性が走ってくる。

 実に美しいフォームだ。

 

 その彼こそが今回の主役と言っても過言ではないだろう。

 白髪と老け顔が特徴的な小太りの男性、政治家・桐生二郎丸重元である。

 

「はあ、はあ……はあ」

「あ、重元さん。今日はよろしくお願いします」

 

 走ってきたためか、息切れを起こしている。額からも汗が流れている。恐らく、俺を見つけた瞬間に急いで走ってきたと思われる。

 いい歳なんだから体を労わった方が良いのではないだろうか。

 

 ふるふると体を震わせた彼は、ガバッと俺の肩を掴み言った。

 

「――おい『史上無敵』! 今度は何が起きるんだ!? 端的に、はぐらかさずに言ってくれ! あいまいな言葉も禁止だぞ!」

「いやだなぁ、重元さんは。何もないですよ」

「!? じゃあ、なぜ君が居るというのだね!?」

 

 桐生二郎丸重元、もとい重元さんは驚くように言った。

 失礼な。人をなんだと思っているのだろうか。珍獣みたいな扱いをしやがって。

 それともあれか。

 

『指名依頼を金目当てで受けるのは不純』

 

 だとでも言うつもりなのだろうか。

 

「昔から君はそうだ! 反社会的組織の炙り出しに第七学区の一部を吹き飛ばすわ、ビルをミサイル代わりに使うわでもう無茶苦茶。極めつけにはその作戦を私に一切言わない。そんなんだから良い意味で信用ができないんだ! いつも結果的にはプラスで収まっているから良いものの!」

「そんなことありましたっけ……?」

「!?」

 

 くわっと目を開き、怒りと驚きが入り混じった表情をしてらっしゃる。

 だって仕方ないだろ、そんな事した覚え無いんだから。

 

「……ああ、この人も被害者なのね」

「皆頸木さん、その言葉の意味は一体?」

 

 失礼な奴しかこの場にはいないのか?

 もしかして他人からは、俺が化け物にでも見えているとか? もし、そうならば恐るべし『史上無敵』フィルター。

 俺は無辜な一般人だというのに。

 

「今日はくれぐれも頼んだぞ。WSST.USAの外交官も来る予定なのだ。これで何か起きようものなら、私の面子が持たん」

「わかりました?」

「だ、か、ら! 頼むから報連相だけはしっかりしてくれよ?」

 

 汗をまき散らしながら、鬼の形相で問い詰めてくる。表情豊かな人だ。

 

 いや、報連相って……。

 何も知らないし、何もしたくないから報告も連絡も相談のしようも無いのだけど。

 それ自体は前々からよく言われているし、俺自身もする意思はあるのだが無理な物は無理だ。

 

「まあ、頑張ります」

「……私も相手を救おうとする理念を理解しているつもりではある。だから好き勝手に行動する権利もくれてやる。その暗躍も許そう。だからな、頼むからな?」

「あ、はい」

 

 念押しされてしまった。

 そもそも、なにその理念。持ったことも考えたこともないですけど。

 

 すると重元さんは、改めて。

 

「でだ。今回は何が起きる? 何を起こそうとしている?」

「えぇ……。起きるの前提なんですか」

「当然だろう。君がここに居る事がその証左だ」

 

 もう知らねぇ。

 適当言って帰って貰おう。

 再三にわたって言うが、俺は何も知らない。ならば、こういう時は毒にも薬にもならない事を言っておけばいいと相場が決まっている。

 

「あー、じゃあすぐに逃げられる用意しておいてください」

「わかった。共有させよう。他は?」

「危険物持ち込みの取り締まり強化とか? それぐらいですかね」

「手配しておく。……それだけか? 本当だな?」

「あ、はい。それでお願いします」

 

 実に当たり障りのない内容だ。

 これなら、万が一何も起こらなかったとしても問題は起きないだろう。逆に何かあっても、俺は言いましたよねって面ができる。

 これで責任問題はクリアだ。

 

 そして少し落ち着きを取り戻した重元さんは、俺の肩から手を離し向き合った。

 ごほん、と咳払いをして。

 

「それにしても変わったな、『史上無敵』」

「イメチェンですよ。高校デビューの」

「……そうか、もうそんな歳か。遅れてすまないが進学おめでとう。後で秘書に祝いの品を送らせよう」

「別に気を使わなくても良いですよ。一貫校で勝手に進学しただけですし」

「そんな訳にはいかない。『史上無敵』と持て囃されても、まだ子供なのだ。善意は受け取っておきなさい」

 

 この人はこういう性格だ。

 ぱっと見は喚き散らすだけの情けない人に見えるかもしれないが根はすごく良い人だ。無い時間の合間を縫って、ちょくちょく俺の様子を見に来たりしてくれる。面倒見が良いと言うかなんと言うか、ほとんどリアクション芸人というか。

 ともかく、良くして貰っているという事だ。

 

「私はこの後から打合せがある。また様子を聞きに来るから頼んだぞ」

「あ、はい」

 

 そうしてまた、せわしなくフロント方面に歩いて行った。

 自分主催のイベントなんて忙しくて大変そうだ。数年前から見ていた景色ではあるが、改めて思うところがない訳じゃない。

 

 ……俺も主催しようとすればできるのだろうが絶対しないと思う。やっても誕生日会とか? 誘う相手いなかったわ。

 

「……へぇ、あれが今代の桐生二郎丸」

「? どう言う意味」

「いや、桐生二郎丸と言ったら有名だよ。政治に詳しくない人でも知ってる」

 

 俺はその詳しくない人よりも詳しくないということになるのだが。まあ、間違いじゃ無いけど。

 

「襲名制の名前でね。なんでもウチの校則憲章を作った初代校長の名前から来てるらしいよ」

「へぇ。初代校長ねぇ……」

「六代目まで血縁だったらしいけど、あの人で初めて部外者が名乗るらしい。……後は、この国営異能者養成学校の校長の座を狙ってるとかいないとか。まあ噂だけど」

 

 割とどうでもいい情報を聞かされた。多分明日には忘れているだろう。

 

「まったく興味ないって顔に書いてあるけど」

「うん」

「オブラートって言葉知ってる?」

「知らないって事にしておいて」

 

 

 

   2

 

 

 

 すると思い出したかのように、皆頸木さんが言った。

 

「そういえば、結局どこを警備するのさ」

「うーん、どうするか」

 

 確かに言われてみれば。

 

 前回、考えるのを先延ばしにしていたが、流石に当日だし考えざるおえない。

 現状、向こうのオーダーは完全に丸投げ。一応は館内の地図は貰っているが、どこが手薄とかまったく分からない。

 つまり何一つとして思い浮かばないのだ。

 

 予定では食事会の二時間前までは待機時間になっているらしいが、恐らく俺達には適応されないだろう。

 

「……どこが良いと思う?」

「さあ? そういうのはリーダーが決めるんじゃないの?」

「ですよね」

 

 助けを求めてもきっぱりと切られてしまった。

 なんて薄情な奴。

 でも正論だから言い返せない。

 

 依頼でこうしたパーティを作る際は基本的には指揮系統を統一させるのが鉄則だ。

 ただ、その指揮系統を持っている依頼主が丸投げしてきたから、必然的に俺が全権を持っていることになる。

 

「さてと、どうしたものかな」

 

 先日言った通り、俺は『史上無敵』なんて大層な異名を持ってはいるが一般的な学生だ。

 この手の知識はまるでない。強いて上げるとすれば漫画知識ぐらいならあるが、あてにするには根拠不足だ。

 まずは取れる手を考えよう。

 

 食事会を行う広間でぐるぐると放浪。

 ――もしかして不審者じゃないかそれ? これで間違ってゲストから話しかけられたとしたら、何言うか自分でもわからない。

 

 ホテルの前で棒立ち。

 ――ホテルから叩き出されたみたいになってるし。周りからどんな目で見られるか分かったもんじゃない。

 

 事情を説明して警備隊に加えてもらう。

 ――それが嫌だから今こうして考えている訳で。

 

 うん、碌な案が浮かばない。

 あー腹が痛い。いつもの胃痛が俺を襲う。トイレ行きたい。

 

 ……いや、待てよ。

 

 その瞬間、俺の灰色の脳がフル回転して答えを叩き出した。

 各自自由行動にして、俺一人でトイレに籠れば良いんじゃないか?

 

 これだ。

 

 こんな名案を即座に思い浮かぶなんて、さては俺天才か? 凡才以下だったわ。

 どうせ咲崎くんと天津さんが居るのだ。俺一人トイレに籠っていても大丈夫だろう。

 何なら俺が居ないから事がスムーズに進む可能性もあるし。

 

「……別行動にしてもいいか?」

「やっぱり何か知ってるんじゃん。私たちには言えない事なのさ?」

「うん。秘密って事で」

 

 言える訳ねぇだろうが。

 トイレ籠ってやり過ごしたいので、君達は自由行動で。とか言ったらどんな顔されるか分かったもんじゃない。

 

「ほほう。『史上無敵』としては何処まで情報を掴んでいるのかな?」

「だから秘密だって」

 

 情報って何?

 あるわけ無いだろ。トイレに引き籠るための方便なんだから。

 

「噂にたがわず秘密主義だねぇ」

「だからその噂ってなんやねん」

 




毎日投稿ってやっぱり疲れる。筆が遅い自分が恨めしい。

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