ある異能学園の最弱は世界救済の時を待つ   作:l:pさあびす

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9 ビバ、ホテルⅡ

 

 世界の八割は消滅している。それこそ、領土が完璧な形で存在している国なんて日本ぐらいのものだろう。

 だが、それは国が滅びたことを意味しない。合併や他国の土地を間借りする形で今も国は生きている。

 それも単に『当代最強』のおかげである。……もうあの人こそ無敵でいいだろ。いくらでも武勇伝出てくるんだけど。

 

 つまり、その系譜が今も尚あり続けるWSST.USAを始めとした他国と言うことになる。もうこの際、国境すらないからほとんど外国って感じは無いけどね。

 

「おお、『史上無敵』だ……」

「彼が……」

「この存在感、――流石」

 

 しょっぱい顔しながらラウンジを進む。

 意図せずとも目立っている。それこそ、今回の招待客よりも目立ってしまっている。

 恥ずかしいんだけどこれ。

 

 ホテル内はまだ開始三時間前だというのに、多くの招待客らしき人達がいた。ほとんどの招待客が出そろっていたのではないかと言うほどに多いのだが、考えてみれば当然か。

 社交界であれば数時間前行動は基本なのだろう。

 ならばこの場違い感もあって然るべきだ。

 

「うーん、どこだ?」

 

 トイレに籠ろうとしていたのだけど、案の定迷ったのだった。

 持っていた地図は皆頸木さんに渡してしまったし、他のメンバーは絶賛自由行動中だ。しかもフロントの人に聞こうにも忙しそうで、話しかけるにかけられなかったという深い訳もあった。

 その結果が、何故かラウンジに入り込んでしまい注目の的になっている。

 

 豪華なシャンデリアと、これまた豪華な装飾品。そこで会話に花を咲かせる人々で、上品な社交界って感じだ。

 それでも、この場に居る人達のほとんどが俺の話をしているのだから余計タチが悪い。

 噂話されているのは慣れてはいるが、あくまでも一クラス単位の話だ。ここまで場違い感は無かった。

 

「何をされているんだ?」

「彼も招待客なのだろうか……」

「……お近づきになれれば」

 

 ああ、胃がキリキリする。

 慣れない場所で、苦手な部類の空間なのだ。無理もないと思いたい。

 

 すると、男性の声が聞こえてくる。

 

「――おや? もしや『史上無敵』殿ではありませんか?」

「……?」

 

 話しかけてきたのは金髪の優男であった。

 身長は二メートルあるだろうかという巨体に、高い鼻とスーツ越しでもわかる鍛え抜かれた肉体。かなりイケメンだ。

 その後ろには、これまた金髪の美女が付き添っている。

 

 見覚えなんてない。もしかしたら覚えてないだけなのかもしれないが、記憶とは思い出せなくなるものである。仕方ないだろう。

 

「す、すいません。どちら様でしょうか……?」

「おっと、これは失礼しました。WSST.USAの外交官をつとめさせていただいております、アルバート・前田・エイブラムスと申します」

「秘書のカレン・ヘイツです」

 

 そう言って礼儀正しく頭を下げてお辞儀をした彼らを前に、俺も拙い会釈を返した。

 外交官?

 あー、そういえば重元さんが、そんなような人が来るとか言っていたような?

 

 WSST.USAと言ったら今では近畿地方周辺に居を構えたアメリカを前身とする都市国家だ。

 

「あーどうも? 広井かのんです」

「貴殿のお噂はかねがね」

「え、あ、はい」

 

 逃げたい。それもかなり。

 俺の残念ボキャブラリーじゃ何言うか分からないから戦々恐々だ。

 これでもしも。

 

『不敬罪。判決、死刑』

 

 とかになったら目も当てられない。

 

「私としてもぜひ一度お会いしたかったので、丁度良い機会に恵まれました」

「は、はぁ」

「素晴らしい方だと、伺っていたもので」

「いえ、俺なんかただの一般人ですよ。異名に踊らされてます」

「そんな、ご謙遜を。恐らくですが、貴殿の功績を知らない者などこの場には居ないでしょう」

 

 こういう会話は苦手だ。今までもなかった訳ではないが、一般学生に慣れろと言う方が無理がある。

 それにこの優男、俺の苦手な部類の人間だ。咲崎くん強化版とでも言おうか、光属性過ぎて目が焼ける。

 

「『史上無敵』殿は、今回ゲストで?」

「あー、いえ、警備の依頼でして……」

「成程、それは心強い」

 

 そうキザに笑った優男。

 

「そのためにラウンジを見回りに?」

「いえ一応、任務自体はこの後からなんですけど、その前に一仕事を……」

 

 トイレに籠るっていう仕事を。

 流石にそんなことは直接言えないからはぐらかすけど。

 

「……、」

 

 何故かじっと見てくる優男。うん、気まずい。

 まさか俺の完璧な作戦を察したのか?

 

『コイツ、依頼をすっぽかしてサボろうとしているのか?』

 

 い、いやそんなはずはない。

 

「あ、えっと、エイブラムスさんはこんなお早い時間から? まだあと三時間以上ありますけど」

「ええ、少しばかり早くついてしまいましてね。……それで、先ほどまでそれをしていました」

 

 彼が先ほどまでいたであろう席を指さす。

 一般的なテーブル席だが、机の上には他の卓には無いものがあった。

 

「チェス盤、ですか?」

「ええ、手持ち無沙汰だったもので」

 

 まあ、実際まだ開始の三時間も前だ。

 中々おしゃれな暇つぶしの方法だ。俺だったら間違いなくスマホ弄ってる。

 

「――そうだ、『史上無敵』殿。チェスは嗜んでおられますかな?」

「え、あ、はい」

 

 つい反射的に答えてしまったが、チェスなんてネットのフリーソフトで遊んでいたレベルだ。

 はっきり言って、ルールをかろうじて知っているとか段階ではある。

 急に話題を振られたということは。

 

「それは重畳。せっかくですし、一局どうでしょうか?」

「い、いやあ、素人ですし……」

 

 ですよね。誘ってくるよね。

 流石に拒否しようと思ったその時だった。

 

 ――なんか、後ろの秘書の人がすごい形相で睨んでるんだけど。

 

 ああ、これさては、逃げたら殺されるな?

 鬼の形相で綺麗なお姉さんがこちらを睨んでいた。

 

 それが指す意味を、一瞬で理解した。

 俺は詳しいんだ、こういうタイプの人間。きっと、この優男に心酔してるんだろう。

 すごい見覚えがある。俺自身、過去何度も他人に執着するタイプの人間を多く見てきたのだ。きっとそうだろう。

 

『私のエイブラムスの誘いを断るなんて言わないよね』

 

 みたいな表情だ。まさかこの人、俺の『史上無敵』フィルターを貫通しているのか? 初めてをこんな形で貫通して欲しくなかった。

 

「? どうかしましたか?」

「え、ええ何でも無いです。喜んで対戦相手になります……」

 

 拒否れる訳ねぇだろうが!?

 こちとら一般学生だ。怖いお姉さんにトラウマを植え付けられるのは勘弁だ。

 

「……折角ですし、何か賭けをしませんか?」

「賭け?」

「そうですね。勝った方が三問だけなんでも質問できる、と言うのはどうでしょう。……ああ、もちろん答えたくない質問であれば答えずとも」

 

 さすがに鈍感の俺でもわかることはある。

 きっと彼は俺に対して気を使っているのだろう。さっきから緊張で固まっているコミュ障に会話の切り口を提供してくれているに違いない。

 まあ正直そんなことはどうでもいいから、後ろの人どうかしてくれないかな。

 

「じゃあそれで……、お願いします……」

 

 誰か助けて。

 

 

 

   1

 

 

 

 結果として。

 彼は恐ろしいほどチェスが弱かった。それも初心者でも、もう少しはできるというほどに。

 それが、エイブラムスが『史上無敵』と対局した感想だった。

 

「(ふむ。普通に考えればかの『史上無敵』であろうとゲームが苦手だった、と言う話にはなるが)」

 

 と冷静な判断を下したが、反面違うと考える自分もいた。

 史上無敵と言う少年の話はUSA政府内でも話題に事欠かない。それは良い意味でも悪い意味でも、その両方だ。

 

 曰く、日本が送りだした最も新しい救世主。

 曰く、異名通りの無敵。

 曰く、歩く災害。

 

 しかし共通するのが、人ならば無条件で助けようとするお人よしであることだ。

 そのために彼は策を巡らせる。いかに着地点をハッピーエンドで終わらせられるように。

 少なくとも、そう他人からは見えている。もしかしたら違う可能性もあるが、そんな馬鹿な事は無いだろう。

 

 彼の策は見事な、いや奇跡の領域だ。

 その計略によって起きた被害総額は天文学的な数字になるが、必ず裏にある悪意を全て潰して結果的に良い方向に事件を収束させる。

 計算高い。と言ってしまうのは簡単だが、為してしまう規模と内容が人間離れしている。

 

 ここまでの情報で統括すると、エイブラムスの前提が崩れることになる。

 つまり、チェスで負けたことも計算の内。と言うことになる。

 

「(まさか、彼はWSST.USAに何か伝えようとしているのか……?)」

 

 だとするならば筋が通る。

 こんな賭けに乗ったことも、素人同然の手でわざと負けようとしていたことも。

 あえて、自分に質問させることで情報を渡そうとしていたならば。

 

 エイブラムスは目の前の少年を見る。

 

「えっと? ここが、あれ?」

 

 引き攣った笑みを浮かべながら次の一手を考えている。表情や態度は演技にしては上手いが、途中まではノータイムで駒を動かしていた。まずもって演技と見て間違いないだろう。

 

「(……だとするならば)」

 

 しかしだ。

 これが指すところはすなわち。

 彼はWSST.USAに対していかに借りを作らずに、情報を提供しようとしていた事になる。

 

「(私が勝手に気が付いて、勝手に動いたことになれば話が変わると言う事か)」

 

 現在、USAは国家の体裁こそ何とか保っているものの、実際は領土を失い日本に間借りさせてもらう形で存続している。

 はっきり言って、大昔に結んだ協定が無ければ日本に吸収されていたか、滅んでいた事だろう。

 

 これでもしも日本の国営異能者養成学校所属の『史上無敵』から情報提供によって問題を解決したとなれば、間違いなくUSAは吸収とまではいかないが外交上不利になる。

 彼はそんな状況を見抜いたのだ。その上で、内部で誰にも知られずに事を終わらせられるように気を使っているのではないか。

 だが、こちらを助けようとするメリットは? と考えたところまでで、思考を打ち切った。なぜならば彼は噂に名高き『史上無敵』だ。恐らく、そんなことは考えていないだろう。と、エイブラムスは結論を出した。

 

「(恐ろしい男だ。あのままでは彼に借りを作るどころか――)」

 

 そうだ。借りを作るどころかその真意に気が付かず、ただの世間話として消費していたに違いない。

 ならばこそ、彼はエイブラムスがその情報を受け取るに足りる存在か見極めていたのだ。

 そして、この場には多くの著名人が居る。そんな場所で内密な話をできない以上、言葉を濁すことによって伝えようとしていたのだろう。WSST.USAの外交官であればこれぐらいはわかるはずだ、と。

 

「(試されていた。私が本当に外交官に、情報を渡すに相応しいかどうかを……!)」

 

 エイブラムスは戦慄した。

 その叡智の一端に触れたような気がしたからだ。

 まるで格が違う。そう思わせるような何かがあった。

 

「(これは『史上無敵』からの挑戦状だ。三問、たった三問で自分から情報を持ち帰るという挑戦)」

 

 ごくり、と喉を鳴らす。

 冷や汗が止まらなかった。

 それこそ、エイブラムスが前線で戦っていた元軍人でなければ、そのプレッシャーに吐いていたほどだ。

 

 点と点がつながり、真相が見えた今の彼の瞳に映る『史上無敵』の姿は、気を抜けばこちらを飲み込んでくる悪魔に見えた。

 

「(……質問の内容を精査する必要がある)」

 

 次第に、エイブラムスの顔に張り付いていた笑顔という薄い膜が剥がれる。

 未来予測ができるとまで言われる男から情報を得るのだ。手加減はしてくるだろうが無理難題とでも言いたい気分であった。

 この時ばかりは『史上無敵』から放たれる存在感が、こちらを値踏みしてくる威圧感として感じられた。

 

「どうかしましたか?」

「いえ、失敬。なんでもありませんよ」

「あ、はい」

 

 そんなエイブラムスの感情を察したのか、心配する『史上無敵』。

 それから約五分ほどで投了。エイブラムスの勝利となった。

 

「じゃあ、負けちゃったので質問をお願いします」

「(……、)」

 

 そのチャンスを前にして、口が開くことはなかった。

 いや、どういった質問をすれば最も情報を持ち帰ることができるのかと考えてしまい、足踏みしてしまっていた。

 

「(WSST.USAに得がある情報か。或いは危機が迫っているのか。一体何を伝えようとしているのだ?)」

 

 当然の話だった。彼が何を伝えようとしているのか、それが分からない以上偽装した質問を考えるのは困難を極める。

 そもそも、何を知っているのか。そこからだろう。

 

「……すまない。水を飲んでもいいだろうか」

「どうぞ?」

「おっとカレン、……水を貰ってきてくれないか?」

「はい」

 

 空になったコップを持って歩いていく後ろ姿を見送る。

 彼女の表情が硬いのはこの空気のせいだろうか。若いのだから気を楽にした方がいいのでは。と、自分のことは棚に上げて思うエイブラムスであった。

 

 




そうはならんやろ。

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