2166年
ボロボロの道路を軍用の5tトラックが5台ほどの車列を作っている。
ガタガタと小石や小さな鉄屑を大きなタイヤで踏みつけていき、その小さな振動が長旅で疲れた体へダメージを与えていく。
そんな不快な環境から荷台の外へ目を背ける、所々穴の開いたカバーその隙間から僅かに覗き見れる荒廃した風景を眺めながら私はぼんやりと、これから向う先へと考えを飛ばす。
5号線管理基地センチネル
ノヴァリス旧政府が管轄しており主にその役割は首都である第1管理地区から第10~20管理地区とを結ぶ幹線道路の管理であり、文明崩壊を起こした今でも旧政府が置かれている首都へのバイオメック侵入を防ぐ役割を担う重要な要所である。
まぁ今になってはその意味を失っているのだが。
朽ち果てた町、バイオメックの攻撃は迅速かつ苛烈であった。本格的な侵攻は今から2年前、
2164年今思い返せば皆心のどこかで対岸の火事と思い込んでいた、だが。
たった2年でこの国も、この町も、そこに住む人達の生活も何もかもが根本から破壊された。外の景色に意識を戻す。先程通過したのはこじんまりとした公園だ、2年以上前なら小さな子供たちが砂場で穴を掘ったり不格好な砂の城を作ったり、滑り台で滑っては行儀悪く逆走して登ったり、空いた空き地で駆けずり回って転んだり、そんな風景が目に浮かぶ、
だが今はどうだ、砂場にはバイオメックの大きな足跡、滑り台は上から真っ二つに叩き折られ、空き地至っては中央に周囲の地面を抉りながら大きな鉄の棘が幾本もたっている。
次に見えてきたのは土嚢の積まれた道路、通行の妨げにならぬようにと今乗っているトラック分の広さはどかされているがそれ以外は当時のままに残されていた、土嚢の上は当時この町を守っていた者のが使っていた機関銃がその側には原型がわからぬほどに砕かれた白骨遺骸、
道路には大きくも無残な姿の戦車が何台もあり、中にはひっくり返って空に足を向けているものまで居る、それと、あぁ、あれは。
大きさはおよそ成人男性2.5人分、外見は人型のずんぐりむっくりとした大きな機械が胴体から頭部までを鉄の針で串刺しにされて沈黙している。
Standard Tactical Unit 通称STU、バイオメック由来の感染症を利用し生物と機械とを融合させたまさに人工バイオメック、あの型式はDaggerか、改めて見ると少々不安感を誘うほどに装甲がなく骨格のみのスカスカの腕部、胴体から頭部は潰されているためどの様な姿は分からない、腕部に比べかなりがっしりとしている脚部からあの大きさの機械を直立させるのにどれほどの苦労があったのか、考えたくなくなる。
STUの周囲には激戦の匂いを感じるほどに大量の空薬莢とバレルが焼き溶けたように曲がった大型ライフル、右腕には根元から折れたSTU専用大型ブレード、だが一番気になることがある
バイオメックの死体がないのだ、これほどの激戦を繰り広げているのだ少なくとも死体の1つや2つあってもおかしくはないのだが、そのことに気付き少々不気味に感じる。
周囲に目を配るもそんな悲惨な景色が所構わず続いていく。
この地区は本来40万人以上が住む巨大都市だった、だが。
首都へと逃げ延びたのはたったの8000人以下。9割以上が生き残れなかった。
熱の冷めた今の街を見ていても当時の地獄が脳裏に浮かぶ。
荷台の外から内に視線を向けると左側の奥に山積みの物資、右側の出入り口には私と同じように防護マスクと出来るだけ肌を外気から守るためのコートやジャケットをつけた人々が俯いて座っている。
センチネルへ働きに出る難民だろう、文明が崩壊してからも政府機能は何とか生きながらえていたこの難民たちも政策の一環だろう、守るべき有権者などもうほとんどいないのに。
ガタン
トラックが左へとハンドルを切り歩道の段差を乗り上げる、そこからさらに今度は下り坂へと差し掛かる、やがてコンクリートの建物の中に入っていく。
太陽が遮られ車内は薄暗くそして肌寒くなっていく、1分ほど下り続けトラックが止まる。
少し広めの空間に着くと防護マスクを付けた男が立っていた。
「全車入ったぞ!外部隔壁下ろせ!」
防護マスクをかぶり軍標準装備を身に纏った男が言うと、先程通ってきた通路が大きな扉で閉じられ、辛うじて見えていた太陽の光が完全に遮断される。
「よし、閉鎖確認!空気洗浄器起動!」
更に男が続けると天井と床から勢いよく煙が噴射される。
その状況が5分ほど続き、唐突に途切れる。
「洗浄確認、内壁上げろ!」
その声を合図にトラック前方の壁が中央で別れ上下に開く、
ゴン
重苦しい音を立てながら壁が開き切ると、マスクを着けていない幾人かの作業服の人たちが赤い誘導棒を手に立っている
「電子機器はヘルマン」
「消耗品はコーリー」
「武器弾薬はペテロ」
「はぁ?その他は各班長から指示を受けてるだろ!」
「補給人員は俺が担当する」
「ヘマするなよほら動け!」
作業員たちのリーダー格がそれぞれに指示を出し急かす、それを合図に一斉に誘導作業を行う作業員達が仕事を始める、私が乗るトラックも同様に動き出す。
誘導を受けながら、進んでいく、ハンガーの中には様々な機械が鎮座していた、市街地で見たSTUやその発展型、戦車に車載機銃の付いた装甲車などの戦闘車両のほか、小型のクレーンやダンプカーなどのインフラ整備車んどもあり、そんな機材の中を何十人もの人が往き交う、騒がしい作業音や話し合う声怒鳴り声や歓声を上げる声、地上の朽ちた町では考えられないほどに活発な空気を醸し出している。
そんな光景を眺めているとやがて壁に備え付けられたガレージの中へと入っていく。
「よしここだ、全員降車しろ」
その指示を聞き慌てて降りていく人たちに続く、トラックから降りると横に並ばされる
「…いつまでマスクを着けているさっさと外せ」
その言葉に気付いて、いそいそとマスクを外す、私達がマスクを外すのを見た男は一拍置いて続ける。
「ようこそセンチネル基地へ、早速だがここは常に人手不足だ作業員希望の者は名乗り上げろ」
幾人かが手を挙げる
「よし手を挙げた者はトラックから荷下ろししろ」
「あとの者は俺の後ろにいる奴に従え、、何をちんたらしている!手早く下ろせ!」
それだけ言ったリーダー格の男はさっさと自分の仕事に戻ってしまった、
「ハァ…あの人はいつも…あぁ申し訳ございません」
「私の名前はトーマス・クラウン、どうぞ気軽にトーマスとお呼びください」
「私の主な役目は人事配置、まぁ皆さんの希望に出来るだけ沿いますので遠慮なく要望は言ってください」
軽く言う細身の男、トーマス、彼がここの人事担当のようだ
「それでは私の部下が皆様のご要望を聞いて回りますので少々お待ちください」
そう言うと彼の部下と思わしき人達が残った難民を回る、私も大人しく待とうとするがトーマスが此方によって来る。
「お話はお聞きしています、ついてきてください」
トーマスは部下に目配せをすると扉の方に歩いていく、
慌てて付いていく、扉の内側はガレージやハンガーと違い壁床天井すべてが白く塗られかなり近未来的な雰囲気を出している。
「いやはや、最初に聞いたときは己の耳を疑いましたよ」
しばらく無言で付いていっていたが唐突にトーマスが話しかけてくる、
「ですが上の指示なら従わざるを得ません」
どこか不満げに続ける
「はっきり言って無謀ですあなた方の行動は、死にに行くようなものだ」
「挙句その自殺旅行にこのセンチネルの精鋭部隊を連れて行こうと言うのですから」
トーマスはそれっきり押し黙ってしまった。
更に5分ほど歩き続けるとある扉の前につく、
「つきましたよ」
そう言ってトーマスは扉を開ける、
「…ようこそ、ここは 第1機動遊撃隊 アルゴス 我が基地最高の部隊です」
そう言ったトーマスを他所に部屋の中にいた5人に目が向く、その内の一人壮年の屈強な男が前に出て私の目の前までくると。
「お前か、17管理地区に行きたいってやつは」
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