史上最強の兵器『インフィニット・ストラトス』──略称:IS──が開発されて50年の月日が経った。
当初はパワードスーツとしてスポーツに使用されていたISは、現在では完全に『兵器』へと認識を変えられた。
「こちら、コード
『────────』
戦火の中を必死で逃げながら彼女は通信で呼び掛けるも、電波が届かないのか潰されているのか返事はない。
愛機は既にエネルギーが底をつき、ISによる戦闘になれば彼女の命は一瞬で吹き飛んでしまう。
「見つけたぞ」
背後で声がして、振り返る。
「傭兵風情が、よくも手こずらせてくれたな」
目の前で浮かぶISが彼女へと銃口を向ける。
(ここで死ぬのか……オレは)
思えば短くつまらない人生だったと彼女は嘆いた。
両親共に傭兵だったため、生まれてすぐに傭兵として教育されISにも乗った。
数十年前ならばアスリートになるために頑張るものだが、今の時代では『殺すため』の技術でしかなかった。
彼女は今年で16歳。普通なら高校生として青春を謳歌しても良い年齢だ。
(もし、生まれ変わるなら。せめて戦争のない世界に──)
瞬間、視界が光で埋め尽くされ、彼女の意識は途切れた。
「ん……」
体が重い。でも暖かい。
涅槃とはこんな所なのだろうか。
「いや、これはないな」
しかし目を開けると白い天井があった。
周りを白いカーテンで覆われて外が見えない。
体には包帯がグルグル巻きされており、しっかりと治療されているらしい。
最後に残る記憶は敵のISに銃口を向けられている光景。
あのISはブラジル製の物だった。
通信手段は今の所は無いと踏んでいいだろう。
捕虜を収容するための、ここはその医療区画と言っても内線以外は特殊なパスワードが無くては使えなまい。
「起きたか」
「っ!?」
カーテンが開けられ、身を強張らせる。
抵抗する必要も、抵抗することもできない。
麻酔でも打たれたかのように、オレの体は動かない。
「誰だ?」
「私は織斑千冬。ここはIS学園の保健室だ」
「IS学園だと……?」
いや、その前になんと言った? 織斑千冬?
IS学園は数年前に閉鎖された筈だ。
そして織斑千冬は『初代ブリュンヒルデ』の称号を持つ最強のIS操縦者。
目の前にいる女は確かに織斑千冬に似ている。
確か既に60歳を越えているはずだが、若かりし頃の顔を見たことがある。新聞でだが。
「今日は何年の何月だろうか」
「今日は20XX年の三月だが。それよりも、お前の名前を聞こうか」
「……アニエス・アロンだ。オレはどうしてここに?」
「三日前の夜。大雨の中、お前が校庭内で倒れているのを巡回の職員が発見した。うちの生徒ではないが、重症だったから治療してやったという訳だ」
オレは捕虜になった訳でもなく、そしてオレがいた時代から数十年前の過去に来て、ISに撃たれて死んでもいない。
これが夢だというならそれまでだが、現実と受け止めるのなら……
(願いが叶ったのかもしれないな)
この時代ではまだISがスポーツ扱いされていた筈だ。
今ほど神に感謝したことはない。
と言ってもオレは無信仰者だったな。
「ところで、お前のことについて説明してほしいのだが」
「ああ、そうだったな。と言っても、信じてもらえるとは思えないが」
「言ってみたまえ」
「私は今から40年後、つまりISが開発されてから50年後から来た傭兵。……どうだ、信じられるか?」
「証明できるならな」
「それは……。いや?」
オレが持っていたISがあれば証明できるはず。
「オレの荷物や着ていた服や荷物はあるか?」
「ああ、これだな」
千冬から受け取ったのは、オレが着ていた服とポーチだけだった。
通信機や当時の技術を示せるものはない。
オレの愛機『ラファール・リヴァイヴァル・AAカスタム』の待機状態は腕輪だったが、今は持っていない。
「ん、これでどうだ?」
千冬に向かって10円玉を突きつける。
オレは傭兵として色んな国へ飛ぶことがあったため、少ないながらも数々の国の通貨を持っている。
この10円玉に書かれているのは、この時代から20年先の年号。
「偽物ではないようだ。では、本当に?」
「私は敵に撃たれて死んだ……筈だったんだがな」
「そうか」
「で、これからの私の処遇はどうなる?」
「それについてはこれから決まるだろう。これから私はお前が未来から来たと言わなければならない」
「バカにされないように気を付けるんだな」
「誰のせいだ、馬鹿者め。……まあ、そういうことだ。お前はそれまで治療に専念しているがいい」
「礼を言う。織斑千冬」
「安心するのは早いぞ」
そう言い残して千冬は保健室の外へ出ていく。
オレは荷物を握りしめながら、この先のことを考える。
自分の処遇についてではなく、未来についてだ。
これから起こるであろうISを使った戦争を、未来を知るオレなら止められるかもしれないというこの状況。
オレのすべき事は、もしかしたらそういう事かもしれない。
オレの今後にもよるが、もしこの学園に留まれるなら、まずはイレギュラーである