○月×日。
シャルル・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ転入。
しかし、転入初日──それも朝のHRの時間にその事件は起こった。
ラウラは織斑を嫌っているようで、顔を見た瞬間に織斑の顔をひっぱたいた。
「あれはどういう事だ、ラウラ?」
「どういう事とは?」
一時限目『IS実習』の途中にラウラと先程の行為について話す。
織斑先生に言われたからなのか、そうじゃないのか。
ラウラは一応オレとは普通(?)に話してくれる。
「織斑のことを認めないと言ったことだ」
「言葉通りの意味だ。私は織斑一夏を織斑教官の弟とは認めない」
そうか。織斑先生は以前ドイツ軍に教官として所属していたのだったか。
織斑一夏の誘拐事件。
二連覇目前だった織斑千冬は弟を助けに行って棄権してしまった。
あの時織斑を誘拐したのは傭兵だった。
傭兵は原則としてクライアントの情報を流さない秘匿主義だ。
オレはあの事件の犯人はドイツ軍なんじゃないかと思っている。
ひとつ。織斑千冬の対戦相手がドイツ代表でなかったこと。
ドイツ代表が優勝したら、そのために織斑千冬を棄権させたと疑われるからだ。
ふたつ。ドイツ軍の織斑千冬への情報のリークが早すぎたこと。
傭兵はバカには務まらない。
ドイツ軍が傭兵を雇い、その合流場所を伝えればどの国よりも早く織斑千冬に借りを作らせることができる。
と、オレの推測はこんな感じだが、証拠が無いので証明できない。
それに、たとえそうだったとしても、ラウラたちのような実動部隊には知り得ぬことだったはずだ。
そういう裏でのやり取りは、上層の幹部たちの領分だ。
「ラウラは少し誤解しているようだ」
「なんだと?」
「オレは入学当初から織斑を鍛えているが、筋はいい。流石は織斑千冬の弟と言っていい」
織斑の剣道の腕は、箒だけではなく優秀な姉がいたからこその賜物だろう。
ただ我武者羅に打ち合うたけではああはならない。
姉からの指導。同僚との切磋琢磨が今の織斑を成しているのだ。
「何なら一度アイツと模擬戦をしてみるか?」
「──っ!? 是非頼む!」
「そ、そうか。では予定ができたら伝える」
オレが織斑を鍛えていると言ったところから敵意のようなものを感じられたが、模擬戦を持ちかけるとすぐに消えた。
今のラウラには織斑の味方は皆等しく敵のような認識なのだろう。
「では、その前に授業に集中してもらおうか」
「ここの連中はISに対しての意識が薄すぎる。私が教える事は何もない」
そうしなくては織斑先生に怒られるのだが。
「ぼ、ボーデヴィッヒさん? 何か問題がありましたか?」
山田先生が進みの遅いラウラたちを心配してやってきたが、ラウラは無愛想に答える。
「何もありません」
「え、じゃあ何で……」
「ラウラ。軍人なら任務はきちんと遂行するものだろ?」
「…………」
「織斑先生もそう言うだろうな」
「……貴様ら、早くしろ」
ラウラは渋々と準備を始める。
織斑先生のことに関係させれば、嫌とは言えないようだ。
少しズルいかもしれないが、授業なのでやむを得まい。
「ありがとうございます。アロンさん」
これで、やっと実習が始められる。
「さて、皆はどうなっているかな」
今回の授業は専用機持ちたちが班長になって一般生徒のIS実習の手伝いをするというものだ。
オレはといえば、山田先生のように遅れている班の補佐をすることになっている。
まずは問題のシャルル・デュノアの所を見に行くとしよう。
「あ、君は……」
「アニエスだ。何か問題はあるか、シャルル」
「ううん、何も」
そう言って微笑むシャルルは、男というには可愛げがあった。
何も知らずに男だと言われれば、確かに納得してしまうかもしれん。
「お前が来たときは驚いた。二人目の男性IS操縦者なんて聞いていなかったからな」
「そ、そうだね。何故だか知らないけど、お父さんやその部下の人が隠してたみたいで」
シャルルの父は、デュノア社の社長だったか。
シャルロットを男としてIS学園に転入させて、何ができるというのだろう。
衰退しかけているデュノア社の宣伝としては、男性IS操縦者だけでは物足りない。
どうせなら無理にでも新型ISを開発させ、試作品を持たせて転入させ、更にそこから宣伝をしたほうがインパクトがある。
デュノア社も一応は第三世代型の開発を進めているはずだ。
事実、ラファール・リヴァイヴァルは今から10年後に開発される第三世代型なのだ。
間に合わなかったなら確かに納得もいく。
だからせめて男性IS操縦者の存在をアピールして、会社の存続を図ったとも──
「アニエス、大丈夫?」
「ん、何がだ?」
「いや、今すごく思い詰めた顔してたから」
「シャルルの指導を受けられる女子が羨ましいなと思っていただけだ」
「そんな。アニエスはISの操縦が上手いんでしょ? 無人機をひとりで撃破したって聞いたよ」
「運が良かっただけだ。オレはただの一般生徒さ」
「そう言えば、アニエスは自分のこと『オレ』って言うんだね」
「そうだが、何か変か?」
「アニエスは綺麗なんだし『私』って言った方が似合ってるよ」
「ふっ。なるほど『貴公子』か」
シャルルはその振る舞いから『ブロンドの貴公子』と呼ばれている。
本人や織斑は知らないようで、女子たちの中だけでそう呼ばれているのだ。
織斑の場合は『最強の弟』『キング・オブ・唐変木』などだ。
うむ。そのままだ。
また、このオレにも呼び名があるらしい。
つい最近のこと。簪に教えてもらった。
クラス対抗戦の無人機乱入事件の際、オレが無人機のひとつを撃破した功績から『薔薇色のナイト』と呼ばれるようになったらしい。
呼び名がつくのはこの際どうでもいいとして、何故『薔薇』なのか。
オレの髪はそんなに赤くはないと思うのたが。
「まったく、無人機のせいで色々とかき乱されたな」
周りの人間から期待されることは嫌ではないので、悪い方向に向かわないだけよかったと思っている。
「では、またな」
「うん。がんばってね」
「ふーん。そうなんだ」
織斑の放課後訓練を終え、寮の部屋に戻る前に楯無に今日一日のシャルルのことを話してみた。
わかったことはシャルルが絵に描いたような貴公子であること。
同姓の織斑との接触に、いちいち大袈裟に反応すること。
「やはり確証がほしいな」
「そうね。これだけじゃ推測にしかならないし」
「仕方がない。もう少しこっちから仕掛けてみるか」
「どうやって?」
「オレもフランス人だ。うまく話を合わせるさ」