IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.12

「……う、ん?」

 

 何があったんだろう。

 俺はラウラに捕まえられて、それから──

 

「織斑……」

 

「あれ、アニエス?」

 

 俺は保健室のベッドに寝かされていたようで、その側にアニエスがいた。

 俺が目覚めて話しかけてきたアニエスは、ひどく申し訳なさそうな顔をしていた。

 恐らく、俺とラウラを戦わせてしまったことに自分の不注意を感じているのだろう。

 

「すまなかったな、織斑」

 

「アニエスが謝ることじゃねえって。俺がこうなったのは俺が弱かったからさ」

 

「お前は弱くはないさ」

 

 そう言いながらアニエスは微笑むが、その微笑みにはいつもの彼女のような毅然とした態度が見て取れない。

 俺は話題を変えるために、前から気になっていたことを訊ねてみる事にした。

 

「なあ、アニエスは何であんなに強いんだ?」

 

 アニエスがセシリアと戦って勝った事も、クラス対抗戦で乱入してきた無人機の一機をひとりで撃破した事も千冬姉から聞いた。

 

「アニエスの実力なら代表候補生になってもおかしくないだろ。でも、アニエスはただの生徒だって言うし……」

 

「それは……」

 

 アニエスは言葉を詰まらせた。

 

「お前たちより苦労してきただけだ」

 

 同じ年の筈だが、どうも数年年上に見えてしまう。

 鈴やセシリアたちが千冬姉に似てきたと言うが、確かにその通りかもしれない。

 

「さて、織斑が目を覚ましたと皆を呼んでくるとしよう。ではな」

 

「お、おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでタッグトーナメントになったんだ」

 

 オレは部屋に戻り、簪のパソコンの画面を見ていた。

 簪は織斑の下りになってからは、やはりどうでもいいという態度で聞いていた。

 

「オレはラウラのストッパーとして強制的に組まされたが、簪はやはりまだ出ないのか?」

 

「まだ完成してないから」

 

 ひとりでISを組み立てるという目標はまだ諦めていないらしい。

 それはそれで良い傾向だ。

 時間は掛かるだろうが、ひとりでそれを成したときにはきっとそれなりの実力が身に付いているだろう。

 

「簪。お前はISの整備士ではなく日本の代表候補生だろ?」

 

「…………」

 

「お前は少し勘違いしている」

 

「勘違い?」

 

「お前の姉は別にすべてひとりでやった訳じゃない」

 

 するとキーボードを叩いていた簪の手が止まった。

 

「お前に本音というメイドがいるように、楯無にも協力してくれる者がいた筈だ。確かにあの霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)モスクワの深い霧(グストーイ・トゥマン・モスクヴェ)の設計データを元に楯無ひとりで作っもの者だ。しかしその仮定で、いったいどれだけの人脈が駆使されたと思う?」

 

「何が言いたいの?」

 

 オレの言っていることは理解できている筈だ。

 それでも訊ねるということは、オレへの威嚇か?

 

「つまり、人の手を借りてもお前の目標に届かないことはないということだ」

 

「でも……」

 

「楯無が主な部分を作って、それを補佐する人物がいた。それを今度はオレたちがやるんだ。向こうにはそれなりに専門の奴がいただろうから、条件的にはこっちの方が不利だ」

 

 簪は少し考え、そして答えた。

 

「……じゃあ、アニエスと本音にだけ頼んでみる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後一度部屋を出ると、楯無と会ったが「それでタッグトーナメントになったんだ」と言われ、その振る舞いが簪とよく似ていた。

 

「結果、簪の楯無に対する評価を下げてしまったのだが。すまないと思っている」

 

「謝ることはないわ。むしろ感謝してる。それにほとんど事実だもの」

 

「そうなのか?」

 

「どんなに頑張った人でも、何かに埋もれてしまえば名前すら残らない。私の場合は虚ちゃんや専門の人の補佐や教えがあっての事だし、もし私が今の簪ちゃんだったら絶対にIS完成させることなんてできないわ」

 

「…………」

 

「ん、どうかした?」

 

「やはり姉妹なのだな、楯無と簪は」

 

 見た目や振る舞いだけでなく、考え方の傾向も二人はよく似ていた。

 少々相手を思いすぎてしまうため、すれ違いを起こしやすい姉妹なのだ。

 

「な、何よいきなり」

 

「なんでもない。それよりも、シャルルの件だが」

 

「ああ。何か分かったかって? いや、こっちはまったく」

 

「オレもだ」

 

 やはりシャルル・デュノアは存在しないのか?

 では本当にシャルルはシャルロットだということになるが。

 

「でも、デュノア社が経営難にあるのは本当みたい」

 

「それは知っている」

 

「もしシャルル君がデュノア社のスパイだとしたら」

 

「狙いは白式のデータだろう」

 

 考えてみれば、織斑に接触して何ができるかと言えば、織斑のDNAの採取か白式のデータの奪取だ。

 DNAについては織斑のルームメイトであるという立場を利用して毛髪でも取ってしまえば事足りる。

 

「そうなるわね」

 

「デュノア社の社長は心優しい人物だったのに……」

 

「未来の情報?」

 

「オレはデュノア社長に一度だけあったことがある。商売としてデュノア社に行ったが、朗らかな笑顔を振り撒く明るい親父さんだったよ」

 

 まだ幼かったオレを心配してくれるくらいだ。

 自分の子供ならそれ以上に可愛がってもおかしくない。

 オレの傭兵人生の中で有数の光だったと言っても良い。

 

「そんな人が貴女にどんな仕事を?」

 

「オレに依頼してきたのはデュノア社長ではない。商売相手はデュノア社長の正妻だったよ。彼女が部屋に入った時、一瞬だけ社長の顔が強ばったのを覚えている」

 

「じゃあ今回も、その正妻が?」

 

「実の子……いや、実の子ではないのかも知れないが、身内をスパイとして送り込むくらいなら彼女はやりそうだ」

 

「何でわかるのか聞いても?」

 

「彼女の依頼の内容が『とあるIS開発社のデータを盗む』という物だったからだ。この時代にはまだそんな傭兵はいないし、だから身内を使って白式のデータを盗もうと企んでいるんじゃないか?」

 

「推測の域を出ないけど、可能性としてはあり得るわね」

 

 その通り。だが、オレの手段はそれしかない。

 未来から来たオレは表舞台にあまり立つわけにはいかないのだ。

 

「かなり大胆だが、シャルルに鎌を掛けるというのは?」

 

「推測が正しければ上手くいけるかもしれないわね。大丈夫なの?」

 

 少々危ない橋ではあるが……

 

「いくらか勝算はある」

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