IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.15

 

「何が起こったの?」

 

「異常事態だ。シャルル、試合は中止だ」

 

 目の前ではラウラが……そのISの装甲がすべてぐにゃりと溶け、どろどろのものになって、ラウラの全身を包み込んでいく。

 

「ヴァルキリー・トレース・システム……。そうか今日は!」

 

 ISは原則として変形ができない。

 ISがその形状を変えるのは『初期操縦者適応』と『形態移行』の二つだけだ。

 パッケージ装備による多少の部分変化はあっても、基礎の形状が変化することはまずない。

 しかし目の前で起こっている現象は変形というよりも、一度ぐちゃぐちゃに溶かしてから再度作り直す粘土人形に見えた。

 ヴァルキリー・トレース・システムは、過去のモンド・グロッソの部門受章者の動きをトレースするシステムで、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。

 

「ヴァルキリーという名にしては、禍々しいものだな」

 

 シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むと、その表面を流動させながらまるで心臓の鼓動のように脈動を繰り返し、ゆっくりと地面へ降りていく。

 それが大地にたどり着くと、まるで倍速再生を見ているかのようにいきなり高速で全身を変化、成形させていく。

 そしてそこに立っていたのは、黒い全身装甲のISに似た『何か』。

 しかしその形状は先月の襲撃者とは似ても似つかない。

 ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれであり、最小限のアーマーが腕と足につけられている。

 そして頭部はフルフェイスのアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。

 その姿は織斑千冬のIS『暮桜』に酷似しているが、問題はその手の武器である。

 それは見間違う筈がない。

 

「雪片……?」

 

 かつてブリュンヒルデと呼ばれた織斑千冬の操るISが振るっていた剣。

 そして一夏の《雪片弍型》の前行型。

 

「そういえば、今日だったな。この事件は……」

 

 まさかこのオレが平和惚けしていたとは。

 ここ数日の自分を思いっきり殴り飛ばしてやりたい。

 

「くっ……、お前。よくも千冬姉の!」

 

 織斑が弾かれたように千冬擬きに突っ込む。

 

「待て、織斑!」

 

 オレの制止も聞かずに、織斑は加速。

 そして雪片を構える。

 

「この──」

 

 織斑の怒涛の斬撃。

 それを千冬擬きが雪片で弾き返した。

 更に横に一閃。織斑を吹き飛ばす。

 

「くそっ」

 

 ラウラと戦った時ののダメージと千冬擬きの攻撃を受けて、白式がエネルギー切れで強制解除される。

 しかし織斑はそれをお構いなしに千冬擬きに掴みかかろうとする。

 オレは慌てて織斑の肩を掴んだ。

 

「織斑、IS無しで戦うつもりかっ!」

 

「放せよ、アニエス! 邪魔するならお前も!」

 

「殴りたいなら殴ればいい。だがまず説明をしろ!」

 

 オレがそう言うと、織斑は頭に血が上っているのにやっと気付いたのか、抵抗をやめた。

 

「あいつ……あれは、千冬姉のデータなんだ。それは千冬姉の……千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

 

 千冬擬きはアリーナの中央から微動だにしない。

 どうやら武器か攻撃に反応して行動するのだろう。

 

「織斑、まずは冷静になれ」

 

《非常事態発生! トーナメントの全試合は中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!》

 

「聞いての通り、お前がやらなくても状況は収拾される」

 

「だから、無理に危ない場所へ飛び込む必要はない、か?」

 

「違う。今のお前が飛び込んだ所で、何ができると言うんだ?」

 

 白式は動かず、織斑は先程の戦闘で疲労が溜まっているはず。

 千冬擬きは、そのまま織斑千冬の動きをする。

 それが織斑を怒らせているのだが、たとえ白式が動いても今の織斑では千冬の動きをするアレには勝てない。

 幸い、千冬擬きの持つ雪片にはシールド無効化の能力は付加されていないようだが、踏み込みと重さで振り抜かれる刃は織斑を吹き飛ばすほどの威力を持っている。

 

「エネルギーが切れたのなら、はやく避難して──」

 

「無いなら他から持ってくればいいんだよ。一夏、アニエス」

 

 オレの言葉を遮って、シャルロットがふわりと降りてくる。

 

「そんなことができるのか?」

 

「普通のISなら無理だけど、僕のリヴァイヴならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 

「本当か!? だったら頼む! 早速やってくれ!」

 

「けど!」

 

 びしっとシャルロットが織斑に指を指す。

 いつも控えめな彼女にしてはその言葉は強く、有無を言わせぬものだった。

 

「約束して。絶対に負けないって」

 

「もちろんだ。ここで負けたら男じゃねえよ」

 

「じゃあ、負けたら明日から一夏は女子の制服で通ってね」

 

「うっ……! い、いいぜ? なにけ負けないからな!」

 

 シャルロットの軽いジョークを交えた会話に緊張がいい意味でほぐれたのか、織斑の肩から力が抜けていた。

 

「じゃあ、始めるよ。……リヴァイヴのコア・バイパスを解放。エネルギー流出を許可。──一夏、白式のモードを一極限定にしね。それで零落白夜が使えるようになるはずだから」

 

「おう、わかった」

 

 暫くして、シャルロットは息をつく。

 

「完了。リヴァイヴのエネルギーは残量全部渡したよ」

 

 言葉の通り、シャルロットの体からリヴァイヴが光の粒子となって消える。

 それに合わせて、白式は再度織斑の体に一極限定モードで再構成を始めた。

 

「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」

 

 右腕だけでは確かに心許ない。

 

「では、こっちのも持っていけ。織斑」

 

「え、でも普通のリヴァイヴじゃ……」

 

「用はエネルギーバイパスのコードを白式に繋げられればいいのだろう」

 

 オレは話しながらリヴァイヴを弄り、コードを白式に突き刺す。

 シャルロットの見よう見まねでエネルギーを流出させると、それが終わると同時に白式の装甲が次々と形成されていった。

 

「勝てよ、織斑。オレはお前の女装など見たくないからな」

 

「ありがとう。ふたりとも」

 

 織斑は胃を決して千冬擬きに望んでいった。

 

「さて、コードを戻さなくては」

 

「え、一夏を見なくていいの?」

 

「今の織斑はいい目をしていた。あれなら勝てる」

 

 それよりもリヴァイヴを弄ったまま放置してしまっては、後で鬼教官に怒られる。

 

「そっか、信用してるんだね。アニエスは」

 

「経験から来る自信ってヤツだ」

 

「行くぜ、この偽物野郎!」

 

 今、織斑が千冬擬きを切り裂いた。

 真っ二つに割れた千冬擬きの中からラウラが倒れてきて、織斑がそれを受け止める。

 オレの頭には事件のことなど既に消えていて、寧ろまた織斑に図らず攻略された女子が増えたのだと呆れていた。

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