IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.1

 オレ『アニエス・アロン』はIS学園の一生徒として入学した。

 退院してからすぐIS学園の上層部と面会し、40年後の未来から来たという事を信じてもらい、傭兵で培われたISの操縦技術で卒業後にはIS学園で働くという未来も保証された。

 そして今日は四月一日。既に放課後。

 世界で唯一ISを操縦できる(イレギュラー)『織斑一夏』と同じ教室かつ右隣の席となったはいいものの、その様子を観察したところのオレの評価は『期待はずれ』という物だった。

 授業にはついて行けず、挑発にすぐに乗る。

 一体なぜこんな奴に女は惹かれるのだろうと思わされるほどだった。

 オレは絶対に惹かれないと断言しよう。

 

「あ、えっと……そこの赤毛の女子!」

 

 後方から織斑の声が近付いてくる。

 オレの前方に赤毛はおらず、その赤毛とは確実にオレだ。

 

「オレに何か用か?」

 

「お、オレ? まあ、いいや」

 

 どうやら一人称を不思議に思っている様だが、女が『オレ』を使ってはいけないという事はない筈だ。

 これはオレが傭兵仲間から舐められないように背伸びをした結果、染み付いてしまったものなのだが。

 

「えっと、俺たちって前に何処かで会ったことある?」

 

「何だ? 随分と古典的なナンパじゃないか」

 

「な、ナンパじゃねえよ。そうじゃなくて、授業中とかずっと俺のこと見てただろ? だからどこかで会ったことがあったんじゃないかなって」

 

「いや、初対面だ」

 

 正確に言うと『これから会う』だからな。

 オレが初めて『織斑一夏』にあったのは傭兵仲間と共に日本に滞在した時だったが、今する話でもないので割愛する。

 

「第一、お前のことを見ていたやつはオレだけじゃないだろう? 篠ノ之箒然り、セシリア・オルコット然り、あのクラス全員がお前を見ていた」

 

 自己紹介の時など、特に熱い視線が一夏に向けられていた。

 オレは『織斑一夏』という人間を観察していたに過ぎないのだが。

 

「このIS学園で男が珍しいのはわかるんだけど……」

 

「オレは『織斑一夏』という存在が珍しいから見ていた訳ではないぞ?」

 

「えっ、それってどういうことだ?」

 

「興味以上の対象だということさ」

 

 興味以上だが、それは恋愛感情ではなく尊敬に値するという意味だ。

 面と向かってそう言えないのはきっと、オレの事情のせいだ。きっとそうに違いない。

 

「あ……えっと……?」

 

「ん、どうした?」

 

 織斑が何やら困っているようだ。

 

「ごめん。名前を教えてくれると助かる」

 

 ……何故聞いていない?

 自己紹介が始まって始めにやったというのに。

 

「アニエス・アロンだ。アニエスでいい」

 

「じゃあ、俺も一夏でいいぜ」

 

「いや、織斑と呼ばせてもらおう」

 

「ええ? なんでだよ」

 

「特に深い意味は無い」

 

 今は同じ年齢でも、オレが知っている『織斑一夏』は60近い年齢だった。

 そんな人物を簡単に名前で呼び捨てられる筈がない。

 これでも自然に振る舞っているつもりだが、不意に敬語になってしまわないか心配な部分もある。

 

「ん、どうして笑ってるんだ?」

 

「さあ、何故かな」

 

 昔も今も……いや、未来も今も変わらないのか。

 織斑さん(・・・・)という人は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一年の寮棟。1035号室。

 さて、ここがオレの部屋のようだが……

 

「何故、鍵が閉まっている?」

 

 IS学園は全寮制で、生徒は殆どが相部屋。

 鍵は普通どちらにも渡されるのだが、この部屋の鍵だけは予備すら忘れる生徒が去年まで使っていたらしく鍵がひとつしかないのだとか。

 実はもうひとりの生徒に既に鍵が渡されているらしく、夕食の時間はまだなので部屋にいるはずだが。

 

 コンコン……

 

 扉を叩いてみても返事はない。

 

「シャワーでも浴びているのだろうか……」

 

「あれ、アニりんだー。かんちゃんに何か用?」

 

 時間を開けて出直そうとした時、黄色い着ぐるみのような物を着た女子が現れた。

 

「だ、誰だ……?」

 

「私は、布仏本音だよー」

 

 ゆったりとした雰囲気の女子だ。

 どうやらこの部屋の主のことを知っているらしい。

 そう言えば、本音も一組だったか。

 

「かんちゃん、とは?」

 

「更識簪。だから『かんちゃん』なんだよー」

 

 ふむ、更識家と言われれば聞いた事がある。というより、実際に更識家の者を見たこともあるし、傭兵として更識家から依頼されたこともあった。

 代々の当主は『楯無』という名前を受け継いでいるらしいが、オレの相部屋となる彼女はそうではないのか。

 

「オレはこの部屋に住むことになったんだが、シャワーでも浴びてるのか呼んでも返事が無くてな」

 

「なら、私の部屋に来る? お菓子あるよ~?」

 

「ではしばらくお邪魔させてもらおう」

 

 とてとて、と歩きにくそうな服装のせいか歩行速度が極端に遅い。

 数分かけて漸く本音の部屋の前にたどり着くが、既に簪とやらはシャワーを浴び終えているんじゃないかと思う。

 

「さ、入って入ってー」

 

「失礼する」

 

 部屋に入るが、本音のルームメイトの姿は無かった。

 しかも綺麗好きなのか、きちんと整理整頓もされている。

 

「本音はひとりなのか?」

 

「お姉ちゃんがいるんだけど、今は生徒会の仕事だと思うよ」

 

 では整理されている理由はその姉がいるせいか。

 

「はい、アニりん。たくさんお菓子あるよー」

 

 バスケットごと出されたお菓子にオレは少しだけ唾を飲んだ。

 今までお菓子なんて食べたこと無かったからな。

 

「ん、何だこれは?」

 

 細長くてチョコレートが塗られたお菓子を摘まんでみる。

 

「え、ポッキー知らないのー!?」

 

「ポッキーと言うのか。……頂きます」

 

 ひとくち食べるとチョコの味わいと、スナックの食感が合わさった癖になるお菓子だった。

 

「旨い……」

 

「好評価だねー。やったー!」

 

 本音は更に幾つかのお菓子を紹介してくれた。

 ポッキーから始まり、ポテトチップス、カントリーマーム、じゃがりこetc.……。

 戦争中には中々食べられない代物で、オレは本音とともに食べまくってしまった。

 今更だが、太らないか心配になってきた。

 本音といると傭兵だった自分を忘れるようで、大変心地がいいようだ。

 

「アニりんって自分のこと『オレ』って言うけど、珍しいねー」

 

「『オレ』という一人称は別に男の特権って訳ではなかろう。オレのいた環境では女である故に下に見られることが多かったからな」

 

「アニりんってどこから来た人だっけー?」

 

「オレはフランスから来た。ISが開発される前は男が上に立っていたからな」

 

 未来から来たとは言えないので、嘘と本当を織り混ぜて話しておく。

 すまないな、本音。

 

「でもー、おしとやかなアニりんも見てみたいかもー」

 

「そ、それは遠慮しておく」

 

「えー。似合うと思うんだけどなぁー」

 

 コンコン……。

 

 と、本音とそんなやり取りをしていた時にノックの音がする。

 

『本音。いる?』

 

「あ、かんちゃんだー」

 

「更識簪か」

 

 本音が扉を開ける。

 すると、その向こうにいた簪と目があった。

 

「その人、誰?」

 

「アニりんだよー」

 

「お前が更識簪だな」

 

「う、うん……」

 

 簪はオレを見るなり本音の背後に隠れてしまう。

 人見知りという奴だろうか。

 

「アニりんはかんちゃんのルームメイトなんだけど……」

 

「扉が開かなくてな。シャワーでも浴びているのかと、偶々出会った本音の部屋にお邪魔したという訳さ」

 

「あの扉、立て付けが悪いみたいで。別に鍵をかけてた訳じゃない」

 

「そうだったのか」

 

 それならさっさと修理しないといけないだろう、IS学園よ。

 鍵の数も同様に。

 

「かんちゃんはどうしたのー?」

 

「シャワー浴びてた時に、誰か来たんだけど本音だったのかなって思って」

 

「それがアニりんだったってことかー」

 

「まあ、そういう事なら仕方がないだろう」

 

「そうだねー。あ、かんちゃんもお菓子食べるー?」

 

「ううん、いらない」

 

 簪はお菓子が好きではないのか?

 結構ハマる食べ物だと思うぞ、お菓子というものは。

 特にアレ……えっと、ポッキーとか。

 

「では、オレも戻るとしよう」

 

「うん。じゃあねー、アニりん~。かんちゃん~」

 

「またな、本音」

 

「じゃあね、本音」

 

 本音の部屋を出て、自分たちの部屋へ。

 今度はなんだか早く着いたように感じる、

 やはり本音の歩行速度は遅い。

 

「ふむ、本当に立て付けが悪いな」

 

 少し力を入れなれば開かなくなってしまっている。

 これは早々に付け変えた方がいいな。

 

「明日にでも申請しておくとし──」

 

 ズドン……!

 

「何の音だ?」

 

「さあ……?」

 

 ズドン、ズドン、ズドン、ズドン!

 

 廊下の向こうから突然の物音。

 しかも立て続けに何度も聞こえてくる。

 ただ事ではないと簪と共に音のする方へ行く。

 すると他の女子たちもその音に気がついたようで、瞬く間に謎の音に対する野次馬が集まってきた。

 

「あー、織斑くんだ」

 

 誰かがそう言った。

 

「箒? いや、箒さん? 不味いことになるんでっ。特に俺が!」

 

 織斑が必死に扉を叩いているのだが、何故その扉に穴が幾つも開いているのだろうか。

 先ほどの物音の回数と一致しているから、何か関係があるのだろうが……。

 

「……入れ」

 

 扉が開き、中から出てきた篠ノ之箒が織斑を中へ連れていった。

 どうやら織斑は箒と相部屋らしい。

 若い男女が同じ部屋というのはどうかとは思うが、あの二人なら大丈夫だろう。

 二人は幼馴染みらしいし、その上男の方はあの『織斑一夏(キング・オブ・唐変木)』なのだから。

 

「帰る」

 

「そうだな」

 

 ところで、簪は音の原因が織斑だと知ってから不機嫌になった。

 気になって訪ねてみたのだが……、

 

「貴女には関係無いから」

 

 と言って、理由を教えてくれなかった。

 深くは追求しないでおこう。今はまだ。

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