IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.20

 

 セシリアは織斑を殴った後、顔を真っ赤に染めたまま逃げていって鈴を追いかけて行ってしまった。

 パラソルやシートを置いていって。

 

「いてて……」

 

「大丈夫か、織斑」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 確かに大丈夫そうだ。

 セシリアの荷物は後で本人が取りに来るだろう。

 

「さて、戻るとするか」

 

「え、アニエスは遊ばないのか?」

 

「あまり素肌を晒すのは好きじゃないんだ」

 

「せっかく似合ってるのにな」

 

「その言葉だけで十分だ」

 

 と言いつつ、本心はセシリアと鈴、そしてどこかにいる箒に見つからないように逃げるためだ。

 遊ぶならもっとゆっくりできる時間がほしいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら誰もいないかな……」

 

 織斑と別れ、制服に着替えてからオレは中庭に来た。

 

「監視ならもっと上手く出来るだろう。篠ノ之博士?」

 

「ふ~ん。気付いてたんだ?」

 

 ひょこんと木の陰からウサミミが生えた。

 

「もちろん。水着に着替えてる時もな」

 

 そして稀代の天才が姿を表した。

 服装はまるで不思議の国のアリスの様だが、頭にはウサミミと小さめの王冠。

 アリスとウサギと女王が混ざった、メルヘンかつカオスな容貌だった。

 

「君が未来人か~。案外普通だね」

 

「その普通の未来人に、ご自慢の無人機をひとつ撃墜させられているのは何処の天才だったかな」

 

 オレの挑発に篠ノ之束の眉が小さく動いたのがわかった。

 

「まあ、君が倒したのは援護型だった訳だし、あの程度を倒した所でこの束さんの計画に狂いなんて生じないよ」

 

 オレは自然と身構えていた。

 目の前で悠々と語る天才からは、かつての戦場で感じた事のある敵意──殺気を感じていた。

 全身の血が遡るような感覚が、忘れかけていた戦闘の日々を思い出させてくれる。

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

「まさか。私は君に忠告をしようと来たんだよ」

 

「忠告?」

 

 次の瞬間、目の前に握り拳が迫る。

 

「──っ!?」

 

 それを受け流し、寸での所で直撃を避ける。

 

「『あまり邪魔をすると痛い目に会うぞ』ってね」

 

 ドスの効いた声がオレの耳に届く。

 先程まで聞いていた束の陽気で掴み所の無い声ではなく、明確なものが籠っていた。

 

「オレなんかが博士の計画の障害になるとは光栄だ」

 

 今日この期間に態々忠告しに来たということは、今回の件も博士の計画ということだろう。

 IS学園の臨海学校期間中と数日後。

 この間で四つの大きな事態が引き起こった。

 

 ひとつ、篠ノ之箒が第四世代型の専用機を手に入れたこと。

 

 ふたつ、アメリカの軍用ISが何者かの手によって暴走させられたこと。

 

 みっつ、織斑一夏の白式が第二形態移項を果たしたこと。

 

 よっつ数日後にとあるテロ組織が壊滅したこと。

 

 二つ目までは博士の計画の一部だと考えて間違いない。

 どちらも博士でなければできないことだからだ。

 四つ目に関しては誰かがその光景を見ていたと伝えられていたから。

 

「しかし解せないな。何故、博士は戦争を起こそうとする?」

 

「戦争?」

 

「知らないのか? オレがいた未来ではISによる戦争が勃発していたんだぞ?」

 

「……………………知らない」

 

 長い『間』だった。

 もしかして──いや、もしかしなくても戦争を起こす気はないのか?

 博士は今の一言から何も話さなくなってしまった。

 もし博士では無いとしたら、ISによる戦争の原因を作り出した着火点は誰だ?

 そして博士は何故無人機を作ったのか。

 無人機で事件を起こし、全世界に向けて登録されていない新しいコアがある、もしくはそれを作ったということを知らせるためではないのか?

 

「──えろ……」

 

「ん?」

 

「教えろ。そんな事を起こした奴を。その名をっ!」

 

 突如、博士の表情が豹変。

 オレですらたじろぐ程のものだった。

 

「残念だが、オレも知らない。だからオレは戦争を未然に防ぐためにそいつを探してたんだが……」

 

 まさかそれが篠ノ之束ではなかったとは。

 博士を出し抜く程の情報統制と改竄能力を有しているとすると、その人物はある程度──いや、かなり有名なはずだ。

 この時代、最近有名になり始めたという可能性もある。

 最近、織斑を強くするだけでは戦争は免れないということがわかってきた。

 初めの頃と比べると、その成長には目を見張る物があるが、歴史はそれほど変わっていない。

 博士がここに来たのも、箒に専用機を譲渡するためというのが目的なのだろう。

 オレに忠告というのはあくまでついででしかないはずだ。

 

「博士がISの戦争を望んでいないと言うなら、協力を頼みたい」

 

「ん~? 何でこの私が君に協力しなきゃいけないのかね?」

 

「しなきゃならないのではなく、これは頼みだ。博士が嫌だと言うなら、それは仕方の無いことだ」

 

 しかし博士が協力してくれるのなら、オレの目標にぐんと近付く事ができる。

 今のオレの立場では裏社会の情報を得るのは難しい。

 楯無に頼むという手もあるが、手の届かないところもあるだろう。

 そもそも楯無がオレの言うことを信じても更識全体が信じるとは限らない。

 

「まーいいかなー。束さんはとても忙しい身だから、面倒な事は君に任せればいいし」

 

「それを本人の前で言うのか?」

 

「え、嫌なの?」

 

「協力してくれるなら喜んで」

 

「そっか、そっか。じゃーよろしく『ミーちゃん』」

 

「ミーちゃん?」

 

「未来人ってことだよ」

 

「アニエスという名前があるんだ」

 

「じゃあアミちゃんていいよ」

 

「アニエスで頼む」

 

「頼むってことは断ってもいいんだよね?」

 

「はっ、しまった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博士のオレに対するあだ名は『アミちゃん』になった。

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