IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.21

 

「IS学園って本当に羽振りがいいな。しかもこれ、本わさじゃないか!」

 

 少し離れた場所で、織斑が夕食に歓喜の声をあげていた。

 臨海学校ということで、夕食は海鮮が主になっている。

 オレはあまり日本食──特に魚を食べた事がないので、織斑が言っている『本わさ』も知識としてしか知らない。

 

「アニエス。本わさとはなんだ?」

 

 オレの隣で、ラウラが織斑の言葉を聞いて皿の隅に乗っている緑色の物体(本わさだが)をつついていた。

 

「IS学園でも織斑がワサビを使っていただろ? あれはワサビに似せた物で、本物のワサビと味の似た別の物を混ぜて作ったものだ。そして『本わさ』というのは、本物のワサビだけを擦って作った……単純に言うと『100%ワサビ』だ」

 

「ふむ。では、『ワビサビ』とはなんだ?」

 

「は? ワビサビ?」

 

「つい先日、嫁に聞いたのだが、どうもワサビの種類ではないらしい」

 

 それはそうだ。

 

「ワビサビがワサビと響きが似ているのは同意するが、ワビサビとは質素で静かな物のことを表す、日本の美意識のひとつだ」

 

 つまり、決して食べ物の名前ではない。

 

「そ、そうだったのか……」

 

 説明してやると、顔を赤くしてうつ向いてしまった。

 そう恥ずかしいことじゃないぞ、ラウラ。

 誰でもワサビとワビサビが似てると思うはず……多分。

 

「そ、それより。嫁は……一夏はワサビが好きなのだろうか」

 

「ふむ。あの様子を見る限り嫌いではないようだが。下手に食べると──」

 

「じゃあ、これが本物のワサビなんだ?」

 

 ラウラと織斑の方を伺っていると、あろうことか、シャルロットがワサビを山のまま口にした。

 

「っ~~~~~~!!」

 

 案の定、鼻を押さえて涙目になっている。

 

「そのまま食べると、あのようになる」

 

「き、気を付けて食べるとしよう」

 

 そうしてラウラは恐る恐るワサビに手をつけた。

 ひとつまみワサビを取って、刺身と共に食べる。

 

「ちょっと辛い……」

 

「あー! セシリア何してんの!」

 

 突然、女子の一人が声をあげる。

 その声に反応した周囲の者たちが、セシリアの方に視線を向ける。

 するとそこには、織斑に『あーん』をしてもらっているセシリアがいた。

 

「ずるい! セシリアずるい!」

 

「ず、ずるくありませんわ! 隣の席の特権です!」

 

「それがずるいって言ってんの!」

 

 途端に辺りが大騒ぎになっていく。

 こらこら。そんなに五月蝿くしていると、鬼が──

 

「お前たちは静かに食事することができんのか!」

 

 その声に場の全員が凍り付いた。

 

「お、織斑先生……」

 

「どうにも、体力があり余っているようだな。よかろう。それでは今から砂浜をランニングしてこい。距離は……そうだな。50キロもあれば十分だろう」

 

「いえいえいえ! とんでもないです! 大人しく食事をします!」

 

 そう言って各自の席に戻っていく。

 それを確認してから、千冬さんは織斑の方を見た。

 

「織斑、あまり騒動を起こすな。鎮めるのが面倒だ」

 

「は、はい」

 

 そして鬼は去っていく。

 流石の迫力であった。

 

「ん、お帰りだな。ラウラ」

 

「う、うむ。それよりアニエス。この後、時間はあるか?」

 

「あるが……、何だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セシリアめ、どこへ行く気だ?」

 

「部屋では身嗜みを整え、高級な香水をつけていたようだ。そんなおめかしをするのだから、十中八九織斑の所だろう」

 

「しかし、ここより先は教員の部屋しか……」

 

「知らないのか、ラウラ。織斑は織斑先生の部屋に泊まるのだぞ?」

 

「そうなのか!?」

 

 と、そんなやり取りをしながらオレとラウラはセシリアを尾行していた。

 案の定、セシリアは織斑姉弟の部屋に到着する。

 しかし、扉の前に誰かがいた。

 

「な、何をしていますの。あなたたち」

 

「いや……」「これは」「その……」

 

 箒、鈴、であった。

 

「お前たちも来ていたのか」

 

「アニエス、ラウラ!?」

 

「どうしてここにいますの?」

 

 隠れる必要は無いと出ていくと次の瞬間、何か扉の向こうで何かあったのか、先の二人が耳を当て始めた。

 

「いったい何を──」

 

「しっ、静にっ!」

 

 仕方がないので、オレも扉に耳を当ててみた。

 

『千冬姉、久しぶりだからちょっと緊張してる?』

 

『そんな訳あるか、馬鹿者。──んっ! す、少しは加減をしろ……』

 

『はいはい。んじゃあ、ここは……と』

 

『くあっ! そ、そこは……やめっ、つうっ!!』

 

『すぐに良くなるって。だいぶ溜まってたみたいだし、ね』

 

『あぁぁっ!』

 

 …………。

 

「こ、こ、これは、一体、何ですの……?」

 

 何と聞かれれば、まあ。アレに聞こえる訳だが。

 更に言えばこのままここにいると不味いわけで。

 

「………………」「………………」

 

 鈴も箒も、ずーんと沈んだ表情をしている。

 その様子はまるでお通夜さながらだ。

 

『じゃあ次は──』

 

『一夏、少し待て』

 

 ふたりの声が途切れ、オレとラウラは危機感から扉から離れる。

 

 バンッ!!

 

「「「へぶっ!!」」」

 

 思いっきりドアに殴られ、反射的に漏れた箒、鈴、セシリア三人の声は十代女子にあるまじき響きをしていた。

 

「何をしているか、馬鹿者どもが」

 

「は、はは……」

 

「こ、こんばんは、織斑先生……」

 

「さ……さようなら、織斑先生っ!!」

 

 脱兎のごとく逃げ出す三人。

 しかし、鬼の追っ手からは逃げられない。

 箒と鈴は首根っこを捕まれ、セシリアは浴衣の裾を踏まれて降参した。

 

「ちょうどいい。お前たちも入れ」

 

『えっ?』

 

 その場の全員が同じ反応をした。

 

「ああ、そうだ。もうひとり──デュノアも呼んでこい」

 

「は、はいっ!」

 

 首根っこを解放された鈴と箒は駆け足で呼びに行く。

 オレたちはずれた胸元を正すセシリアと一緒に部屋へと入った。

 

「あれ、セシリア。遅かったな──って、お前らも来たのか?」

 

 部屋に入ると、そこには布団がひとつ敷かれていて、その脇に織斑が座っていた。

 この姉弟、何をしていのか?

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