「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」
はーい、と一同が返事をする。
一学年全員がと並んでいるだけあって、かなりの人数になっている。
今いるのはIS試験用のビーチで、四方を切り立った崖に囲まれていて秘密のビーチのようだが、ドーム状の設計のためか学園のアリーナを連想させた。
ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的で、当然ISの稼働を行うので全員がISスーツ着用姿だ。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
打鉄用の装備を運んでいた箒は、千冬さんに呼ばれてそちらへと向かう。
理由は大体想像がつく。何せこの場所には篠ノ之博士がいるのだから。
「オレたちはさっさと試験を始めよう。まずは……」
リストの中から打鉄専用装備『荷電粒子砲』を見つける。
「これから始めようか」
『はーい』
いつの間にかオレが実行委員のようになっているが、それも当然と言えば当然かもしれん。
しかし、荷電粒子砲とはまた打鉄のデザインには似合わない武装を送り付けてきたものだ。
しかも打鉄専用装備ときている。
そういえば簪の『打鉄弐式』にも荷電粒子砲が搭載されていたが関係があるのだろうか。
「他はスナイパーライフル、パイルバンカー、ガトリングとあるな。これは──」
「ちーちゃ~~~~~~~ん!!!」
ずどどどどど……! と砂煙を上げながら人影が走ってくる。
その声はオレがつい昨日聞いたものだった、
「……束」
立ち入り禁止という看板をも無視して、篠ノ之博士は堂々と臨海学校に乱入してきた。
「やあやあ! 会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしよう! 愛を確かめ──ぶへっ」
飛びかかってきた束さんを片手で掴む。
しかも顔面に思いっきり指が食い込んでいた。
骨が軋む音がしてるのは気のせいではない。
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」
そしてその拘束から抜け出す博士。
よっ、と着地をした束さんは、今度は箒の方を向く。
「やあ!」
「……どうも」
「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」
がんっ!
「殴りますよ」
「な、殴ってから言ったぁ…。し、しかも日本刀の鞘で叩いた! ひどい! 箒ちゃんひどい!」
博士は頭を押さえながら涙目になって訴える。
それより箒、どこから日本刀を出した?
「ねえ、あれって……」
「篠ノ之束博士、だよね?」
「うそ……本物?」
女子たちが乱入者を見て騒ぎ始める。
それを見かねた織斑先生が、博士の頭を叩く。
「束、自己紹介くらいしろ。生徒たちが混乱してるではないか」
「えー、もう。面倒臭いな~」
渋々と博士が皆の方へ向き直る。
「やっほー。私が天才の篠ノ之束さんだよー。はい終わり~」
──早っ!
全員がそう思ったことだろう。
そして直ぐに背を向けようとした時、博士と目があった。
(やあ、アミちゃん。昨日ぶり)
声を出さずに口を動かして、博士は背を向けた。
オレとの関係は他言無用という事だろう。
オレとしても博士が味方についたということは秘密にしておいた方が色々と都合がいい。
「ではでは、久しぶりの箒ちゃんに束お姉ちゃんからのサプライズプレゼント!」
嬉しそうに顔を歪めて博士がリモコンを取り出して操作する。
すると上空から、ニンジンの形をした物が降ってきた。
地響きを上げて地面に突き刺さったそれは真っ二つに割れて中からコンテナが出てくる。
さらにコンテナは自動で口を開けて、中にあった物を吐き出した。
「(紅椿……)」
オレは誰にも聞こえないくらいの小ささで呟いた。
実物を見るのは初めてだ。
紅椿は完成した第四世代型ISの一号機で、この機体には白式の雪片弐型と同じ『展開装甲』の技術が使われており、この時代のISの性能を凌駕していた。
この後は福音の暴走と白式の第二形態移行が待っている。
教師陣、及び専用機持ちたちは暴走事件に駆り出される。
極秘とされていたこの件は、織斑一夏と篠ノ之箒の手によって無事処理されたと記録に記されているが、実際は一度失敗していたらしいのだ。
詳しくは知らないが、作戦行動中に何かあったに違いない。
そしてオレが成長の針を進めた織斑が作戦を無事成功させることができるのか。
心配なのは他勢力の動きだ。
臨海学校前日の事。楯無から厳重注意されていた。
織斑一夏の出現により生まれた『ISは女の物だ』と主張する勢力の中で過激派の者たちが動いているとのこと。
オレが何故そうなったのかと訊ねると、どうやら織斑の実力が彼女たちの予想を上回っていたらしい。
はじめは監視するだけに留めていたが、武器を調達し始めていたとか。
おそらくと言うまでもなく、オレのせいだ。
「たっ、た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」
山田先生が顔を青ざめながら走ってきた。
いつも慌てている山田先生だが、今回はその様子が尋常じゃない。
きっと福音の暴走事件の件だろう。
「どうした?」
「こ、こっ、これをっ!」
渡された小型端末の、その画面を見て織斑先生の表情が曇る。
「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし……」
「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていた──」
「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」
「す、すみませんっ……」
「専用機持ちは?」
「ひ、ひとり欠席していますが、それ以外は」
なにやら、織斑先生と山田先生は小さな声でやりとりをしている。
しかも、数人の生徒の視線に気がついて、会話ではなく日本の軍部の手話で話し始めた。
「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」
「了解した。──全員、注目!」
山田先生が走り去った後、織斑先生はパンパンと手を叩いて生徒全員を振り向かせる。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること。以上だ!」
「え……?」
「ちゅ、中止? なんで? 特殊任務行動って……」
「状況が全然わかんないんだけど……」
不測の事態に、一同はざわざわと騒がしくなる。
しかしそれを、織斑先生の声が一喝した。
「とっとと戻れ! 以後、許可無く室外に出たものは我々で身柄を拘束する! いいな!!」
「「「はっ、はいっ!」」」
全員が慌てて動き始める。
接続していたテスト装備を解除、ISを起動終了させてカートに乗せる。
その姿は今までに見たことのない怒号に怯えているかのようでもあった。
「専用機持ちは全員集合しろ! 織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰! ──それと、篠ノ之も来い」
オレは当然部屋で待っているつもりはない。
と、皆と別れて単独行動をしようとした気付かれないように離れた矢先、オレは強く腕を引かれた。
「昨日の今日だけど、頼まれてくれないかな?」
「何をですか?」
「旅館の守護」
「では、やはり?」
「私やちーちゃんは下手に手を出せないから、過去を調べられない君に任せるよ。だから、はい」
博士はそう言ってオレの手にナイフと拳銃を持たせてきた。
「よくもまあ、こんな物を」
「私にとってはただの脅しの道具にしかならないよ。でも弾丸は入ってるからね」
と、オマケとばかりに予備のマガジンと弾丸を渡してくる。
つまり敵はある程度の数がいるということだ。
あまり少なくはないらしい。