旅館の屋根の上にオレはいる。
そこから、持ち出したIS用スナイパーライフルのスコープで水平線を見つめていた。
次に山の方を見てみる。……人の気配はない。
「や、アミちゃん♪」
「博士……。会議は終えられたんですか?」
「うん。私の計らいで、箒ちゃんといっくんの二人で作戦を開始するって。計画通りだぜぃ」
確かにISの性能や特性を見れば、適切な選択と言える。
しかし問題は操縦者だ。
織斑に関しては油断さえしなければ、今回の作戦は上手くいくだろう。
しかし、箒はどうだろう。
博士の計画通りなら、この作戦は失敗する。
その理由は知らないが、どうもそんな気がするのだ。
「ふーん。様になっててカッコいいね、アミちゃん」
「弱冠16歳とは言え、傭兵ですから」
次の瞬間、実習の場所から二機のISが飛んでいった。
もちろんのこと、織斑と箒である。
「まったく、世界をかき乱してくれる」
「そうかな? ISを戦争の道具にしようなんて考えてる奴よりはマシだと思うけど」
「それはそうですが……」
そうこうしている内に、紅と白のISは水平線へ向かっている。
スコープ越しに、箒の顔が見えた。
「笑ってる」
「いっくんと肩を並べて戦えるようになって、嬉しいんだね」
「失敗しますよ、あれでは」
「未来の知識ってつまらないね」
「でも知っている以上。そうならないように足掻くことはできます」
「そうだね」
博士と話をしながらも、オレはスコープから目を外さない。
倍率を上げて遠方を見渡すと、高速で空を飛ぶISを発見した。
軍用に作られたIS『
広域に攻撃ができる
「さて、こっちの方は……」
海に背を向け、次は森の方を見渡す。
人の気配はない。
「まだ姿を見せはしないか」
「あの二人が失敗するのが本当なら、その時だと思うよ」
「ごもっとも」
それから誰の気配もなく、しばらくして織斑と箒が作戦に失敗したと旅館の中が騒がしくなってきた。
襲撃者は未だに現れない。
博士はいつの間にかどこかへ姿を消し、オレは織斑の様子を見にその場を離れた。
織斑は意識を失っていているらしい。
寝かされている部屋の方へ向かっていると、目的の部屋からぞろぞろとオリムラヴァーズが出てきた。
彼女たちの目から織斑の敵討ちをしようという気持ちが読み取れた。
「む、アニエスか?」
「ちょっと、アンタは部屋で待機中のはずでしょ?」
「こっちも見逃してやるから構うな。オレはお前たちとは行けないから、せめてこれだけの事はやらせろ」
そう言われてはと、五人はオレを責めようとはしなくなった。
オレの援護は期待していなかったようで、アイコンタクトをしてから五人は去っていった。
「カードはまだ揃っていない」
紅椿は現れた。しかし雪羅はまだ現れない。
部屋に入り、織斑の側に座る。
「織斑、早く目を覚ませ」
そんなにこの場所に立ち寄っていられる訳ではない。
織斑が倒れたという情報を受けて、博士が言っていた組織から派遣された奴等が動いているはずだ。
ふと窓の外を見てみるが、まだいない。
「こんな所で寝てて良いのか? お前を想っている奴等は皆戦いに行ってしまったぞ」
そしてオレもまた戦いに行かなくてはならない。
そういうことなら、専用機の件も考えなくはない。
これからISによる戦争を引き起こす奴を止めなければいけないのだ。
もちろん向こうもISを所持していると考えた方が良い。
「織斑、お前は強い。だがまだ足りない。せめてオレに勝てるくらいを目指せよ」
オレがまだ10歳だった時の出来事を思い出す。
それはオレが織斑一夏が白式を操り、一度に三機のISを倒した時のことだ。
オレはそれを見て、織斑の強さに憧れたんだ。
「織斑さん……。──っ!?」
先程まで誰もいなかった窓の外の風景。
だが動く人影のような物に気が付いた。
「ここまでだ。オレはオレで戦わなくちゃならない。お前はお前の守るべき者たちを守れ」
急いで屋根の上へ戻り、ライフルを構え直す。
敵の総数はざっと15人。ISを装備している奴は見当たらない。
「専用機持ちがいなくなった今がチャンスという訳か。だが……」
サブマシンガン、アサルトライフルなどなど。
そんな武装をした奴らに遠慮をする必要はないよな。
「ここから……」
スコープの中に敵の一人を捉え、トリガーに指をかけ、引く。
「出てけぇっ!」
重い大きな音が響き、足に命中する。
使ったライフルがIS用の物だっただけに、着弾点は見事に吹き飛ぶ。
「威力が強すぎるっ」
撃った反動で激痛が肩を貫いた。
オレは制服の中に隠していた銃を引き抜き、あらかじめ用意しておいたフード付きの黒いコートを羽織る。
これは誰にも素顔を見られないように用意したもので、敵は勿論のこと旅館にいる誰にもオレの姿を見られてはならないのだ。
敵はオレが屋上にいるのを見つけ、発砲してくる。
が、どれも当たらない。
「はっ、素人か」
オレは背の高い木に跳んで、それを伝って地面に降り立つ。
敵は再び発砲してるがオレには当たらない。
「下手くそどもめ。弾の無駄撃ちだ!」
右手に拳銃、左手にナイフを持って走り出す。
掠らせもせずに弾丸の中を掻い潜り、敵がこちらの射程圏内に入る。
「まず、ひとり」
パンッ! と、乾いた音。敵のひとりが倒れる。
「もらった!」
次の瞬間、背後に別の敵が現れる。
サブマシンガンを持った奴だ。
背を低くして地面を蹴り、接近、一閃。
ナイフの刃が敵の腕を切り裂く。
激痛に敵は武器から手を離してしまい、代わりにオレが拾う。
「しま──っ」
その先は聞こえない。
なぜならオレがサブマシンガンの引き金を引いたから。
オレの戦闘能力を警戒してか、一旦攻撃が止む。
「お前たちは何者だ。頭は誰だ!」
パスンッ 小さな音が鳴り、オレの右肩を弾丸が貫いた。
ナイフは既にしまっていたが、奪ったサブマシンガンは落としてしまう。
「くそっ!」
発砲音は聞こえたという事は、あまり遠くにスナイパーがいるわけではないらしい。
とりあえず右肩を使えなくなってしまった。
「一斉掃射だっ」
合図と共に敵全員が姿を現し、銃口をこちらに向ける。
オレは再び背を低くして地面を蹴る。
しかし先程と違うのは、持っていた拳銃を上空高く放り投げていること。
放り投げた物に一瞬とは言え、敵はそれに気を取られる。
その隙に懐に飛び込み、正拳突きで相手を突き飛ばし、放物線を描いて飛んできた拳銃をキャッチ。
引き金を引く。
銃口を別の敵へ向けて引き金を引く。
引く。引く。引く。
…………。
「ハァ……ハァ……。はぁ~」
オレはそれから敵を駆逐するまで、一言もしゃべっていなかった事に気が付き、ようやく終わったと溜め息をついた。
「いっ──。これは、何も無かったじゃ済まないな」
「アロン!」
遠くから、織斑先生の声が聞こえた。
銃撃の音が届いてしまったようだ。
「大丈夫か、アロン!」
やがて織斑先生が青い顔をしてオレに駆け寄ってくる。
オレは安心感と疲労からその場に力無く膝を付いた。
織斑先生が受け止めてくれ、オレはその腕の中で意識を手放した。