「傷はもう大丈夫?」
簪が心配そうにオレの体に巻かれた包帯を見つめる。
臨海学校で右肩に受けた傷は、跡は残るものの痛みは無い。
オレが負傷した事は本音から楯無、やがて簪の耳にも入ったらしく、オレが未来人である事も簪たちにバレてしまった。
「もう大丈夫だ」
暴走IS事件は歴史通り解決された。
負傷者はゼロで、オレが殲滅した敵の事は極秘事項に加えられ、表沙汰になる事はないだろうとの事。
そして奇々怪々な事に、白式に乗って戻ってきた一夏の体には、福音に受けた傷がひとつもなくなっていたと聞く。
まさかパイロットの傷を治療するとは。
いやはや、ISの自動進化プログラムとは凄い物だ。
「さて、では行ってくる」
八月、IS学園は遅めの夏休みに入る。
そのせいで、世界中からやだてきた学園生はその半分が帰省する。
オレにはそもそも帰省する場所など無いのだが、先日の負傷により今のオレには力が必要だと判断した。
よって、不本意ながら専用機の件を受けることにしたのだ。
オレに専用機を用意してくれたのは『ダダリオ・ネクスト社』と言う所だった。
楯無に聞いた所によると、どうやら変わった会社らしい。
どう変わっているのかと訪ねると『他の会社とは違った発想を元に開発している』と答えられた。
独特の設計で開発するのは当たり前ではないのか。
そもそも有名な会社なら未来にもその名は届いているはず。
オレが知らなかったという事は、マイナーな会社なのだろう。
と、考えを巡らせながら専用の飛行機でフランスへ飛び立つ。
そしてオレはその中で夢を見たのであった。
「へぇ、こいつがアンタらの娘か」
オレの事をジロジロと見てくる男たちのひとりがそう言った。
「アリエル婆さんの若い頃の写真見たことあるけど、瓜二つじゃねえか」
これはオレが初めて傭兵集団の基地に訪れた時の記憶だ。
そして初めて銃を撃った時の記憶でもある。
当時のオレは6歳。
そんなチビが初めて撃った拳銃で次々と的の中心を撃ち抜いていった時の傭兵仲間たちの驚きの表情と言ったら、それはもう傑作であった。
「射撃の天才って奴だな」
誰かがそう言った。
実際オレはその時点で、基地の射撃レコードを大幅に塗り替えていたのだ。
オレは8歳になり、傭兵仲間と共に初の任に付いた。
スナイパーとしての役割だったが、子供が前線に出れるかと言ってしまえば答えは明確である。
狙撃は基本的に只スコープの中に敵を捉え、引き金を引くだけでいい。
敵が複数なら誰を最初に狙うべきか、それはスナイパーのオレの判断にかかっていた。
だが、オレの初任務はとてもあっけなく終わった。
オレが初っぱなから本丸を撃ち抜いてしまったからだ。
頭を失った敵は浮き足立ち、その隙に仲間たちが攻め込む。
オレも狙撃で援護をする。
やがて任務を果たし、オレは仲間全員から頭をわしゃわしゃと強く撫でられた。
「──……うむ?」
飛行機が地面に着地した振動でオレは目を覚ました。
荷物を持って飛行機から降りると、オレを出迎えてくれた人物が二人。
「ようこそ、フランスへ。私は『シズ』、こちらは兄の『カーリー』」
シズは黄色いポニーテールで眼鏡をかけている。
カーリーはシズと同じ黄色い髪で、かなりの美少年である。
ただし『シャルル』には負ける。
「アニエス・アロンだ。よろしく」
「ええ、よろしく」
そう言って、二人と握手を交わす。
カーリーは無口な性格らしく、一言も喋らない。
代わりにシズがダダリオ・ネクスト社について説明してくれる。
ネクスト社は、万能型のISを目指して開発していて、今までに開発したものは近接格闘型、遠距離狙撃型、全距離対応型などなど、足掛かりを作っていた。
そして今回オレが乗るISは万能型の試作機らしい。
「では行きましょう」
車に乗り込み、30分ほどで駐車場に到着した。
そこから地下へと続く階段を降り、やがて大きな部屋に着く。
配線が床を這っていて、その奥にアルファベット三文字が書かれたコンテナが佇んでいた。
しかし先に『総督』に会うのだと言って先に進むことになる。
「ザハ様、アニエス・アロン様をお連れしました」
「来たか」
事務室と札の付いた部屋の前に、老人が座っていた。
その面影はまるで番人のようで、老人と言うよりは空手家師範と呼んだ方がしっくりくる。
「副社長のザハだ」
「アニエス・アロンだ」
「総督は今いらっしゃらない。よって代わりに私が指示を出す」
ザハはオレの事を品定めするように眺めてくる。
下心は感じられず、寧ろ強いのかそうでないのかを見極められている気分だ。
「時間が惜しいのでな。さっそく始めるとしよう」
ザハの言葉に部屋にいた全員が返事をした。
自己紹介をされたが、その中で印象的だったのはナイスバディな『ミー』、ミーに下心を抱く『リリオ』、映画のワンシーンのような台詞を吐く『マズマ』、オレよりも年下の『ナフェ』であった。
髪の色もカラフルな連中で、ミーは紫、リリオは緑、マズマは赤で、ナフェはピンク。
同じ髪色ということで、マズマとは少し親しくなった。
が、彼は映画が好きらしく、始めに話してきた映画は『ビッグスナイプ』という題名のものだった。
正直、よく分からないのだが。
彼と雑談をしながらISの調整は進んでいく。
ISの名前は『アヴニール・ルー』
和名:未来の歯車
形式:Ac-C
世代:第三世代
国家:フランス
分類:高機動万能型
装備:近接ブレード『ルミエール』
可変式遠距離装備『ロックキャノン』
装甲:アーマメント装甲
仕様:高出力小型ウィングスラスター
アンチビームコーティング(ABC)コート
世界中のISの中で最も小さなISで、特徴的なのはその小ささとABCコートにある。
名前の通り対ビームコーティングを施されていて、印象的なデザインから『布製のIS』と呼ばれるらしい。
最も小さく最も軽い。だからこその瞬発力や素早さが実現できるという訳だ。
また小型化したことにより、パイロットの脳波をより早く機体に送ることができる。
パワードスーツというより、小型飛行ユニットに見えるが、スラスターの瞬発力はイグニッションブースト以上に相当するようだ。
ロックキャノンはガトリング、キャノン砲、ライフルを基本に、カートリッジによって三つずつ様々な組み合わせを持たせることができる。
「なるほど、確かに独特の設計だな」
「一次移項が終わったら模擬戦だ。準備をしておけ、ミー」
「はーい」
どうやら模擬戦の相手はミーらしい。