IS-インフィニット・ストラトス- 欠けた歯車   作:生そば

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Episode.26

 

「ねえ、貴女。アロンって言ったっけ?」

 

「そうだが?」

 

「ふーん」

 

 ルーの戦闘準備が終わり、ようやく模擬戦が始まったという所。

 ミーの方から質問してきたくせに、即効で話を切り上げた。

 ミーのISに名前は無く、彼女曰く分身だそうなので、ISの名前も『ミー』と称されている。

 またシズにも専用機があり、こちらも名前は『シズ』。

 他のカラフル組は全員メカニックらしい。

 

「じゃ、始めましょう……か!」

 

 ミーは主装備の大斧を振り上げ急接近──振り下ろす。

 ワンテンポ遅れたと反射的にスラスターを使い後ろに飛ぼうとすると、オレの予想を遥かに越えるスピードを発揮した。

 

「凄いわね。そのIS」

 

「あぁ。とんでもない暴れ馬だ」

 

 飛んだ勢いで体勢を崩し、膝を付けて10メートルほど地面を滑った所で止まった。

 スラスターに火が付いた瞬間、バランサーがイカれてるのではないかと錯覚する程のスピードが出た。

 本当にイグニッションブーストなど目ではないくらい。

 加速と言うよりは、緊急回避を極限まで切り詰めた代物と言える。

 

「じゃあ、次はこれよっ!」

 

 ミーが斧を振り回す。

 すると次の瞬間、衝撃波がオレの体を襲った。

 

「衝撃砲と同じ技術か」

 

正解(correcto)。本当はこっちが開発した技術なんだけど、ねっ」

 

 二、三と連続で衝撃波を繰り出す。

 威力は甲龍のそれよりも高いが、衝撃波を撃つタイミングと角度は読みやすい。

 

「こっちも武器は……っ」

 

 

 近接ブレード『ルミエール』

 

 

 可変式遠距離装備『ロックキャノン』

 

 

「行くぞ、相棒!」

 

 それぞれ左右に展開して戦闘体勢へ移項。

 腰のスラスターを吹かして、ミーに急迫──一閃した。

 

「ぐっ!?」

 

 間一髪、斧で防ぐミーであっが、その表情に数秒前までの余裕はなかった。

 

「侮るなよ。これでも代表候補生に推薦された身なんでな!」

 

 専用機が与えられるという事は、そういう事だ。

 

「このっ」

 

 現在のオレとミーの距離はほぼゼロ。

 ミーは斧を振り回すが、小回りの効くこちらのルミエールの方が有利である。

 それを理解しているのだろう。ミーはルミエールの軌道をいち早く察知して寸での所でかわす。

 だが、忘れていないか?

 BRSの武器は近接ブレードだけではないということだ。

 

「カートリッジ──ガトリング!」

 

 コールに反応して、ロックキャノンの砲身が変形し、ガトリングへと変わる。

 

「食らえっ!」「しまっ──」

 

 ゼロ距離で放たれる数えきれないほどの弾丸は、ミーの腹部に全て命中する。

 

「きゃあああ!!」

 

 衝撃に耐えきれず、ミーの体が吹っ飛ぶ。

 それでも、オレは撃つ手を止めない。

 そのままルミエールを前方に突き出し、ガトリングを撃ち終わると同時にスラスターで再び急迫する。

 

「これで、終わりだ!」

 

 ブレードを突き出したまま突進し、その切っ先をミーの胸元へ突き立てる。

 ダダリオ・ネクスト社のISには、全てにABCが施されているが、防ぐのはビームであって実弾のダメージはそのまま通るのだ。

 絶対防御が発動し、急速にミーのシールドエネルギーが削られ、やがてゼロになる。

 

「そ、そんな。まさか」

 

 ミーは自分が負けた事に対して呆気に取られているようで、しばらく放心状態だった。

 

「おめでとう。さすがだな」

 

 突如、声が響いた。

 聞こえた方向へ視線を向けると、仮面を付けた白い髪の女性が拍手をしていた。

 

「誰だ?」

 

 オレはルーを待機状態の『星形が彫られた銀色のプレート』に戻して向き直る。

 ちなみにプレートには紐がついていて、首に掛けられている。

 

「私はここの社長……シング・ラブという」

 

「シング・ラブ?」

 

「ダダリオ・ネクスト社の社長の他に、歌手をしている」

 

「ああ、聞いた事はある」

 

 40年後には懐メロとなってしまっていたが、数回しか聞いていないのにオレのお気に入りリストの中に入っていた。

 シング・ラブは謎の歌手ということで有名で、仮面をつけているのが特徴的だった。

 確かISが開発されてすぐ後に人気が急上昇した歌手でもある。

 まさかISの開発を手掛けていたとは。

 

「ルーはどうかね?」

 

「最適化をしても中々なついてくれないな」

 

「習うより慣れろと言うだろう? 頑張りたまえ」

 

「無論、そのつもりだ」

 

「そうだ。フランスにはどのくらい滞在する気なのかな?」

 

 何故そんな事を聞くのか?

 

「まあ一応、一週間の予定だ。だが、よかったら一日だけ自由行動をさせてもらいたい」

 

「構わんよ。では次にシズと戦ってもらおうか」

 

 パチン! とシング・ラブが指を鳴らすとゴゴゴという重い音が響き、ISを纏ったシズが現れた。

 

「では、始めるとしましょう」

 

 これからオレの訓練の日々が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランス滞在期間のある日。

 オレはダダリオ・ネクスト社のロビーで思わぬ人物に出会った。

 

「すまない、ここの副社長に用があるのだが。君はここの社員かね?」

 

「いや、アニエス・アロンという。ルイ・シャルル・デュノアさん」

 

「アニエス……。そうか、君が」

 

 ルイ・シャルル・デュノア。

 デュノア社の社長にして、シャルロットの父親である。

 オレが知っている彼は、とても家族想いの優しい男だったはずだ。

 

「こんな所でシャルロットの父親に会えるとは思っていなかった。ちょうど明日アポを取りに行こうかと思っていた所だったんだ」

 

「君がかい? 何か用かね?」

 

「IS学園卒業後のシャルロットの処遇についてだ」

 

 シャルロットが本来の性別と名前で再入学した事で、フランスの男子IS操縦者はいなかったことになる。

 それはつまり政府を騙していた事に繋がるので、シャルロットは勿論の事デュノア社にも責任がある。

 

「シャルロットが本来の性別と名前で再入学した事を聞いた妻はカンカンだよ。IS学園を卒業したらどうしてくれようか、ってね」

 

「社長婦人は怖いな」

 

 シャルロットは父親からの命令だと言ったが、それもそのはず。

 いくら社長婦人が夫に命令しても、下の者に上の者が命令を下すという形は変わらない。

 シャルルとしての入学は正妻の提案だったのだろう。

 

「僕にできる事は、なるべく妻の目が届かない所に避難させることしかないんだ」

 

 ほら。ルイはシャルロットの事を考えている。

 シャルロットは父親を冷たい人間のように言っていたが、現実はこうだ。

 よかったな、シャルロット。

 

「そうでもないさ」

 

「どういう事だい?」

 

「部外者のオレは口出しできない。だが、ルイさん。アンタならできる。夫として。そして何よりシャルロットの父親として」

 

「アロン君……」

 

「未来で会ったアンタは家族思いだが、どこか寂しげな顔をしていた」

 

「だろうね」

 

「しかし、オレとアンタなら救ってやれるかもしれない」

 

 そうしてオレはキーボードを叩く手を止め、使っていたパソコンの画面をルイに見せる。

 

「これは、ラファール……り、リヴァイヴァル?」

 

 画面に写し出されているのはラファール・リヴァイヴァルの設計図だ。

 

「未来でデュノア社が作る第三世代型ISだ。疾風の復活。良い名前じゃないか」

 

 一度別のISの傘下に収まったデュノア社はこのISを作って復活した。

 別の会社の技術がまったく使われて言えば嘘になるが、八割以上はデュノア社の技術で作られている。

 ラファール・リヴァイヴァルはまさにデュノア社の復活の象徴なのだ。

 今すぐには作れないだろうが、シャルロットが学園を卒業するまでには余裕で間に合うだろう。

 

「何で君がこれを?」

 

「オレが未来で使っていたISだ。オレは今も未来でも、デュノア社のお得意さんだという事さ。どうだ、言い値で売るぞ?」

 

「ああ。買うよ。今の妻は社の保身と発展にしか興味がないんだ。これを餌に、シャルロットを救えるかもしれない──いや、救えるよ。きっと」

 

 ルイはオレの手を取り、泣きながら感謝の言葉を並べていく。

 やっぱりルイはオレの知った通りの人だった。

 この涙は本物で、子供の事で本気で泣ける親が悪党な訳がない。

 それにルイはシャルロットという名前を子供につけたのだ。

 正妻との子供にではなく、愛人との子供に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、シャルロットからメールが届いた。

 いったいフランスで何をしたのか。と。

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