「とんでもない事をしてくれたよ。アニエスは」
「そうか? オレは人助けのつもりだったんだが」
オレが日本に帰ってくるなり、シャルロットはオレに詰め寄ってきた。
当然、未来人であることは隠さなければならないので『手助けをしただけ』という事になっている。
それはともかく、自分の父親が自分の事を想っていてくれた事が嬉しかったようで、シャルロットはたまに「えへへ」と笑ってはそれを見ているオレに対して顔を赤くしていた。
「ありがとう。アニエス」
「それは何度も聞いたぞ」
「いくら言ってもも感謝しきれないんだよ」
「オレは約束を果たした。これでお前は正妻から無茶苦茶な要求をされる事なく、父親に甘えられるという訳だ」
するとシャルロットはまた「えへへ」と笑う。
「そろそろ私がいる事を思い出して欲しいのだが?」
ラウラが不満そうに告げてきた。
「すまない」「わ、忘れてた訳じゃないよ? ラウラ」
オレたちは買い物をしに町に出ている。
シャルロットは私服で、オレとラウラはIS学園の制服。
その理由はオレもラウラも私服がないからである。
あるとすればラウラの場合は軍服で、オレは傭兵時代に着ていた服だ。
当然、買い物する時に着て行っていい服装ではない。
しかし制服とはいえ、シャルロットとラウラの容姿は目立つようで、周囲の評価は高い。
「ね、ね、あそこ見て。あの三人」
「うわ、すっごいキレ~」
「ブロンドの子も無茶苦茶可愛いわよね。モデルかしら?」
「そうなのかな? 銀髪と赤髪の子たちが着てるのって……制服? 見たことない形だけど」
「ばかっ。あれ、IS学園の制服よ。カスタム自由の」
「え!? IS学園って、確か倍率が一万超えてるんでしょ!?」
「そ。入れるのは国家を代表するクラスのエリートだけ」
「うわ~。それであのキレイさって、なんかズルイ……」
「まあ、神様は不公平なのよ。いつでも」
オレたちに注目している女子高生のグループが、声のボリュームを抑えることなく騒いでいる。
そんな風に盛り上がっている会話は、当然バスという狭い空間でオレたちの耳にしっかりと届いていた。
「……………」
シャルロットは少し頬を染めて俯き、ラウラはどうでもいいように車窓の外を見ていた。
しばらくしてバスを降り、シャルロットはバッグからなにやら雑誌を取り出して、それを案内図と交互に見ては何かを確認していた。
「最初は服から見ていって、途中でランチ。そのあと、生活雑貨とか小物とか見に行こうって思うんだけど、ふたりともそれでいい?」
「「よくわからん。任せる」」
オレもラウラも一般的な十代女子のことには疎い。
十代女子というのはオレたちも含まれるのだが、本当に分からないのだから仕方がない。
所でラウラは我が強い性格なのだが、シャルロットの言葉には特に抵抗なくすんなりと頷いている。
分からないことであっても行動は自分で決めるのがラウラという人間だと思っていたのだが。
シャルロットには何か言葉では言い表せない不思議な魅力があるのか、オレ自身もラウラと同じく彼女の言葉は優しくオレに届いてくる。
「で、アニエスはどっちがいい?」
「ん、何がだ?」
「私服はスカートとズボン、どっちがいいのって聞いてたんだよ。まったく、ふたりともぼーっとしてるんだから……」
「オレはズボンの方がいい。動きやすい物だと尚いいな」
「確かにそうだ。では私も──」
「ラウラはやっぱりスカートだよね」
ラウラの服装はシャルロットによって強制的に決定された。
「ちょっと待てシャルロット。私も──」
「一夏に見せるならやっぱり可愛い方がいいよね」
「うっ……むぅ」
シャルロットの『一夏に見せる』という言葉に黙り込んでしまうラウラ。
恐らく今のラウラの頭の中では、機能性と一夏に見せる用で悩んでいるのだろう。
「わ、わかった。スカートにする」
照れながらボソッと呟いた。
それを聞いたシャルロットはとても嬉しそうに笑う。
「うんっ。それがいいよ! アニエスも本当にいいの?」
「ズボンのほうが馴染みがあるし。第一、スカートは履いた事がないのでな」
制服はカスタム自由なので、ズボンにさせてもらったのだ。
あくまで動きやすく。そう考えるのはやはりオレが傭兵だったからだろうか。
未来を変えると決めなければ、オレも今ごろ普通の十代女子のようにキャッキャ……いや、ないな。うん。
「え、じゃあこの機会にスカートに手を出してみるってのも手じゃない?」
「オレには別に見せる男なんて」
「またまた~。素直じゃないんだから、アニエスは」
そう。オレは素直じゃないと思われている。
臨海学校でオリムラヴァーズの目の前で、オレは一夏に恋愛感情を抱いていないと宣言したはずなのに、彼女たちの中では箒や鈴、セシリアのように恥ずかしくて誤魔化そうとしたと思われているらしかった。
「よし。じゃあ三人で『可愛い服』を買いに行こうか!」
シャルロットはオレとラウラの手を取って、やや強引に引っ張っていく。
もしかしたらシャルロットの言葉がすんなり届いているのは、実際はシャルロットが有無を言わさずに行動しているからなのではないだろうか。
「なあ、シャルロット。秋物ならオレはやはりズボンの方がいいぞ」
「え、なんで?」
「少し寒くなってくるからだ」
「じゃあロングスカートの方がいいね」
「いや、スカートは──」
「アニエスの真っ赤な髪が特徴的だから……えっと」
ほら、この通りである。……ん? あそこにあるのは?
呉服店が立ち並ぶ中で、ひとつだけオレの目に止まる店があった。
オレは二人に黙って、こっそりとそれを見に行く。
他の店のように秋物を並べるどころか、季節感が合っていないものばかり。
その店はフロアの隅っこにあり、看板には『コスプレ専門店』と書かれていた。
「コスプレ……って、何だ?」
どこかで聞いた事があるような。
それはそう……。簪や本音に教えてもらったような……。
考えながら店の中を見回っていると、今度は見覚えのある服を見つけた。
黄色い電気鼠のデザインである。
「ああ。あれか」
そうしてようやく『コスプレ』について思い出した。
アニメなどに登場するキャラクターの服装や髪型を模した物だ。
面白そうなので、簪や本音へのプレゼントと自分が着る用を買って、早急に二人の所へ戻る。
すると、シャルロットと店員らしき人物が試着室の前で待機していた。
様子を見ていると試着室のカーテンが開き、その中からラウラが出てきた。
しかしその服装はIS学園の制服ではなく、部分部分フリルをあしらい、肩の出た黒のワンピースだった。
「あっ、アニエス。どこ行ってたの?」
「別の店を見てきた。これから私服を買おうと思っていたんだが……」
オレの視線はまだラウラの方へ向いている。
「凄く似合ってるでしょ? あのラウラが『もっと可愛い方がいい』ってリクエストしたんだよ? あのラウラが!」
「本当か!?」
「そ、そんなに驚かなくてもいいだろう」
シャルロットがすべて見繕った物だと思っていたが、まさか『あのラウラ』が自らリクエストした物だったとは。
しかも『もっと可愛い方がいい』だと?
ふむ。織斑をひっぱたいた時と比べると、まるで別人のようだ。
「靴まで用意したのか……」
「せっかくだもん、ミュール履かないとね」
初めて履くであろうヒールのある靴に、ラウラが姿勢を崩す。
その場にいた全員が「あっ!」と思った瞬間には、シャルロットがその体を支えていた。
「す、すまないな」
「どういたしまして」
体勢を立て直したラウラの手を取り、お辞儀をするシャルロット。
そんな二人はさながら貴公子とプリンセスといった様子で、まるで物語のワンシーンのようでさえあった。
「しゃ、写真とっていいかしら!?」
「わ、私も!」
「握手して!」
「私も私も!」
わあっと一気に囲まれる二人。
オレは隙を見て抜け出したが、店内だけでなく騒ぎに集まってきた店外の人まで輪に入ってきて、あたりはしばし騒然となった。